他の班が部ではなく節であることに気づいたので改訂し、脚注を入れた感じのを作りました。このページにアップしているので見といてください。
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第1章  関西の産業構造分析

 

第1部             関西産業の“今”
 
 この第1部では、関西の産業構造を調べるにあたっての土台部分を明らかにしていこうと思う。関西産業の歴史、人口や労働者などの産業構造の構成要素、そしてインフラや土地的な制限の3つの観点を調べていくことから始めようと考える。
 
1-1関西産業の移り変わり
 
 まず現在の関西産業を研究するために、その発展の系譜を明らかにしていこうと思う。第2次世界大戦終戦が日本の経済に大きな変化をもたらしたと考え、大きく戦前、戦後に分けて歴史を見ていこうと思う。
まず江戸時代まで、関西は軽工業を中心に栄えてきた。また、特に大阪は全国的な商品流通の終節典、中心都市として栄えてきた。しかし江戸時代に時代が変わり、日米修好通商条約によって兵庫、長崎、神奈川、新潟、北海道(函館)が開港され、流通の中心都市としての大阪の地位は揺るぎ始めた。そして明治時代に入ると欧米の介入により日本の近代化が急速に進み、東京に政府機関の整備がされることで関東に産業の中心も移り始めた。ここから関西の経済の地盤沈下が始まったといっても過言ではない。神戸は開港により貿易量が急拡大し、造船、海運の発展とともに貿易都市となっていった。貿易の中心地であることから日露戦争の物資供給の重要拠点ともなり、その結果神戸周辺には重工業が集まることとなった。こういった発展の中、大正デモクラシーの自由主義的な風潮は関西の経済界にも大きな影響を与え、松下電器、江崎グリコ、サントリー、百貨店などの住民に向けた生活密着型の産業が発展した。明治時代からの関西衰退傾向に、一時歯止めをかけたのは皮肉にも関東大震災だった。シャープ、レンゴーなどの大企業が相次いで大阪に本社を移したのはこの時である。第2次世界大戦がはじまり、国策に従い鉄鋼、石炭、軽金属、船舶、航空機が5大重要産業に指定され、この分野が関西でも発展した。のちに鉄鋼業が関西において特化したのは、この時代背景が関係している。軍事態勢下で、統制・経済が東京に集中し、関西の地盤は一気に低下した。そのため、融資先が少なくなった銀行は融資先を求め大阪から東京に移転し、結果関西の金融業の衰退が見られた。

そして終戦後、関西産業は大きく揺れ動いた。終戦後に起こった朝鮮戦争の軍需は大きく、この頃の関西産業は関東と肩を並べるほどであった。その理由ははじめに述べたように、軽工業が発達していたことで朝鮮戦争に必要であった衣類等を多く生産することができたためである。一方、関東圏では重化学工業が発展しており、この差が将来の2つの地域の命運を分けたといえるだろう。この頃から、政府主導で重工業化が進んだ。関西も政府の指令通り重工業化が発展したが、軽工業化からの移転に時間がかかり、相対的地位の低下をもたらしていた。挽回しようとして、重工業化を進めた結果が今の堺・泉北臨海工業地域体である。高度経済成長期に突入して、全国展開していた関西系大手企業の本社機能の東京移転がこのころ盛んに行われた。そして昭和40年代、戦後最大の不況に見舞われた。関西では企業の倒産件数が5割増加した。一方、家電業界は発展し、関西経済の新しい主役として発展したのである。さらに消費革命が進展し、ダイエーやジャスコなどのスーパーが急成長した。次に起こる石油ショックにより関西の経済は大きなダメージを受け、素材企業を中心に国際競争力を大きく低下させることとなった。この頃から現在も日本の産業をけん引する自動車などの加工組立型産業、エレクトロニクス、情報・通信産業が発展してきたのだが、どの分野も関西にその土台が存在しなかった。そしてバブル景気によって体力を根こそぎ取られた関西産業は、阪神・淡路大震災によって致命的な損害をこうむってしまったのである。現在では対アジア貿易を中心に発展してきているが、時代の変遷に追随できなかったという過去が大きく影響し、現在も衰退に歯止めがかからない状態である。

 

1-2関西における産業構造要因
 次に関西産業の今を考えるにあたって、その構成要素を明らかにしてみようと考える。この場合の構成要素とは、産業が成り立つために必要な企業、労働、人口、売上、そしてインフラなどである。要素を個別に分けて、その内容を明確にしていく。
 
a.   企業
 まず企業という要素から考えてみる。関西における産業の特化等は、続く第2部で明らかにするとして、ここでは表面的にみた関西の企業を述べてみたい。最近では、日清食品の本社東京移転を筆頭に多くの企業が東京に移転するという傾向がある。大阪府内に本社を置いており資本金が100億円以上の大企業の数は、2000年の181社をピークに2004年には150社に減少している。1-1でも述べたように、過去何回か大阪企業の東京移転の流れは存在しており、1960年代には総合商社や金融商社が、そして1985年からはサービス業や製造業などで多くの企業が東京に移転している。移転が進む原因としては、東京における「市場と販売先との近接性」、「.官庁との接近性」、そして「メディアとの接近性」のそれぞれの優位性があげられる。さらに、企業業績が低迷する中で企業再編成が進み、企業合併、経営統合がすすんだことにも原因があるだろう。また東京に本社を移転しなくとも、武田薬品の神奈川への研究所設置、ダイセル化学工業の向上広島移転など機能を関西以外に分散させるという流れも存在する。過去に関西ベースの銀行が、さまざまな企業が関東に移転することで融資先を失い、結果関西ベースの銀行も関東に移転したように、企業の関西離れは新たなる企業の関西離れを生み出し、非常に悪い循環を作り出している。
 企業の倒産という面を考察してみる。平成19年度の全国における企業倒産件数は14,091件であった。その内関東圏では4,573件、中部地方では1,804件、関西地方では3,885件であった。これを比較すると、やはり自動車産業の持続的発展によりそれを核とする中部地方における倒産件数は非常に少なく、その安定性をうかがうことができる。一方で、関東地方と関西地方の企業倒産件数の分布を比較すると、域内総生産(2部の図2-aを参照)で倍ほど関東地方のほうが、規模が大きいのにもかかわらず、関西地方における倒産件数とそれほど大きな差は存在しない。大阪と東京を比べても、東京における会社企業数は25万1788社、大阪11万1397社と2倍以上の開きがあるのにもかかわらず、倒産件数では30%ほどしか差がない。このことから、関西地方における倒産率がいかに高いかがわかる。こういった倒産率の高さ、それによる失業率の高水準、そしてそれによる景気の悪化という悪い流れもまた、関西地方の産業を衰退させる1つの原因だと考える。
 
b.   労働
次に労働を見てみる。関西における労働需要は、関東や中部におけるそれよりも少ないといえる。それは第2次産業から第3次産業への移行、つまり製造業からサービス業への構造転換の遅れが産業の発展を鈍化させ、サービス業の伸び悩みが労働需要の伸びを停滞させている。特に主要産業である卸売・小売・飲食業の労働需要減少傾向が日本で一番大きい地域が関西である。この需要の低さから影響されるのが失業率である。平成19年度の失業率統計データでは完全失業率の全国平均が3.9%であったのに対し、関西では4.4%とされている。関東地方の3.6%、東海地方では3.9%(北関東・甲信越3.2%)と比較すると、産業の重要拠点として非常に高い失業率を記録しているといえる。失業率はその地域における景気、産業の活発性を図る材料となるので、いかに関西の産業が衰退しているかがわかるだろう。労働供給では、関西では労働移動が活発な就業構造ができあがっている。それにより、離職率、転職率、パート・アルバイト比率が全国に比べ高水準にある。一方、女性の有業率では、平成14年の総務省統計局の「就業構造基本調査」によれば、福井を除いた関西の全体の傾向として、25~54歳の女性の有業率が主要都県と比べて低いことが明らかになっている。女性の有業率の低さは、労働の効率的活動という面からみると関西にとってマイナスであるが、裏を返せば潜在的有業率がほかの地域よりも高いということを示すので、この要素をうまく改善すれば関西経済にとって大きなプラスと変わるだろう。
こうした労働に関する問題に対する政策が行われている。「12万人緊急雇用創出プラン」がその1つである。その内容としては、①中小企業の新事業展開による雇用創出、②産業構造の転換による雇用創出、③雇用のミスマッチ解消、④公的セクターを中心とした雇用創出、雇用セーフティーネットの整備、の5点が挙げられる。これらの政策に関する研究は、第3部で詳しく行うとして第1部ではその存在だけをあげておく。
 
c.    人口
 続いて、地域における重要な要素である人口をピックアップしてみる。まず関西における人口の集約地である大阪では、その人口が800万人を超える大規模な都市となっている。その中でも65歳以上の人口が全体に占める割合は、1980(昭和55)年には7.2%(61万人)であったが、2005(平成7)年には全体の18.7(163万人)を占めるまで高まった。また2030年には31.0(240万人)になると見込まれている。全国と比べると大阪府の65歳以上人口の比率は低いという特徴をもっている。また、15歳未満人口は1980(昭和55)年では全体の24.4(207万人)を占めていたが、2005(平成7)年には13.8%(121万人)まで減少している。2030年にはさらに少子化が進み、9.8(74万人)に減少すると見込まれている。2005年から2030年にかけて全国の15歳未満人口は36.4%減少する見通しであるが、大阪府は38.9%減と全国水準よりも減少率が高くなっている。このこと2つのデータから、大阪の労働人口はこれからますます減少していくことがわかる。一方、現在東京では都内に住む人口の87%1564歳の労働力と計算される階級で、全国平均に対して非常に高くなっている。高齢化が進んだ2030年でもその割合は79.1%と予想され、大阪よりも格段に労働人口を確保することができるだろう。関西の労働人口が減り、産業が衰えるとなると、より良い安定した生活を求め人々は今後も安定した発展を望める関東に移るだろう。そういった現象が生まれたとき、移動しやすい労働者層は関東に移動してしまい、関西には高齢者しか残らないということになるかもしれない。よって人口面においても対策を設けることが急務なのである。
 
d.   インフラクチャー
 関西は歴史的に「天下の台所」とよばれ、特に流通面で強みを持っていた。その結果今でも、インフラ面では整った状況があるといえるだろう。
 まず空の足、関西国際空港をあげてみる。日本で唯一の24時間営業空港として活動している関西国際空港は、関西における流通、移動の中心である。国際線では特に中国を主とするアジア圏への就航数が多く、これが関西とアジアの貿易の結びつきを強くしている。さらに関西国際空港を補助するように、伊丹空港、神戸空港などが存在しており、関西における航空に関する便利さは関東に負けずとも劣らない。航空輸送量をみると、関西圏のシェアは21,0%である。国際旅客者数5297万人に対し羽田空港2.4%、成田空港は57%、関空は21%、中部空港は9.6%、その他の空港で10%である。国内旅客者数では9,449万人に対し羽田空港は54,1%、成田空港0,6%、伊丹空港11,6%、伊丹空港18,8%、関空5,2%、中部空港7,5%、その他の空港が138%である。そして国際貨物3188万トンに対しては成田空港66,5%、関空235%、中部空港21,9%残りはその他で、国内貨物89万トンに対しては羽田空港64,4%、伊丹空港16,7%、関空4,8%、中部4,5%で残りはその他の空港である。やはり、日本の中心地としての機能からか、成田空港、羽田空港に並ぶことは難しいが、それでもシェア日本2位の地位を確立している
 次に海運を見てみる。関西の最大の港である大阪湾は、東京湾に続く日本で2番目の港である。古くから日本の海運の拠点として発展してきており、特に最近では中国との貿易の大きな拠点となっている。阪湾は海岸線延長422km、水域面積1400k㎡、流域人口は19,340人、湾口取扱貨物量245百万トン、交通量は982隻、就業者人口は約800万人、輸出額は9億2千万、輸入額は7億9千万である。しかしいくら立地が対アジアとの立地が良く、貿易額が黒字であったとしても、その規模は東京湾の輸出29億円、輸入30億円の3分の1にも満たない。
 このように優れていると考えられるインフラ面でも、東京と比較するとその規模は非常に小さいことが分かる。

1-1    関西産業の希望
 
 ここまでいろいろな産業構造における要因を研究してきてみたところ、このままでは関西産業の衰退に歯止めをかけることは不可能ではないかという疑問さえ生まれてきた。それほど、現状のままでは関西の産業は回復不能なのである。しかし、そんな中で関西の生み出す新たな産業は国際的競争力を持ち、将来関西を救う可能性さえ持ち合わせている。それはバイオ産業である。さらに既存の企業も新たな設備を関西に設け、それが関西復興の兆しとなっている。それがシャープを中心とするパネルベイである。この2つを検証し、関西の今後の希望を見つけていきたい。
 
a.バイオ産業
 新興産業として非常に期待をされており、関西、特に大阪においてその強い競争力をもっているのがバイオ産業である。「大阪のバイオ」といえば日本でトップクラスであるといえる。現在、大阪には道修町を中心に、製薬企業国内一位の武田薬品工業、アステラス製薬への合併前の藤沢薬品工業、三菱ウェルフォーマ、塩野義製薬、田辺製薬など大手製薬企業が数多く集積しており、また多くの企業が研究部門を大阪に設置している。都道府県別にみると、大阪は製薬業生産額が全国第一位、全国シェアは約12.9%であり、第二位の静岡、第三位の埼玉と大きな差を広げている。また江戸時代後期に蘭学者緒方洪庵が蘭学・医学を教えるために適塾を開き、それが現在にいたる大阪大学医学部となっている。大阪大学のバイオは世界でも5本の指に入るとされる程優れており、バイオベンチャー創設者の6割が大阪大学出身といわれている。よって大阪にはバイオに特化できる潜在的能力がある土壌が存在する。これを成長させ関西の強みにするには、今後さらに創造性や独創性を引き出すための政策が必要であるといえる。
 
 b.パネルベイ
 日本国内における家庭向け、特に液晶部門での製造業が世界的に強い競争力を持っていることは周知の事実だろう。特に関西に本社を置くシャープのシェアは世界で見てもトップクラスである。そんな薄型テレビ向けパネル工場の集積が進む大阪湾岸部の大型プロジェクトが現在推進されている。その大阪湾岸は「パネルベイ」と言われており、関西経済復活の希望である。その内の主な大型設備投資4件の経済波及効果を関西社会経済研究所が試算していたので引用、要約した。
 「その4件と初期投資額は、シャープ堺工場(大阪府)で4,520億円(土地代込み。太陽電池工場含む)、IPSアルファテクノロジ姫路工場(兵庫県)で3,000億円(土地代込み)、松下電器産業尼崎第3・4・5工場(兵庫県)で計5,500億円(同上)、住友金属和歌山製鉄所の新高炉(和歌山県)で2,500億円(土地代抜き)となる。これらの初期投資による効果として、関西2府5県の生産額は1.4兆円増加し、その内訳は、大阪府6,000億円、兵庫県5,300億円、和歌山県1,700億円など(10億円の位を四捨五入。以下同じ)となっている。付加価値額(GRPベース)では、関西全体で7,500億円増加(関西の名目GRPの0.9%に相当)が見込まれる。また、これらの設備稼働(製品出荷)によって、関西の生産額は3兆7,700億円増加し、内訳は大阪府1兆4,800億円、兵庫県1兆8,700億円、和歌山県2,300億円などとなる。付加価値額(GRPベース)では、関西全体で1兆5,300億円(関西の名目GRPの1.8%に相当)が見込まれる。」
 以上のように、パネルベイのもたらす効果は大きく、その波及効果を含めると上で表れた数字よりもさらに大きくなるだろう。関西には、中部地方での自動車産業といったような得意分野がない中で、パネル産業の活性化が関西経済の得意分野になることができれば、中部地方のような発展も望めるのではないか。その点から、パネルベイは関西の希望の星なのである。
   
2部 関西産業の強みと弱みから現在の関西経済を斬る


 
1章では関西地方と関東地方、中部地方の産業構造の相違点という表面的な事柄から関西経済の衰退を検証してみた。産業構造に含まれる各産業のシェアの変動や、労働人口、地域の人口推移などの要素が密接に関係しており、それが関西産業の衰退につながっているのではないかという考えを持つことができた。そしてこの部では、具体的な数値を用いて関西産業の強みと弱みを導き出し、衰退していると言われている関西産業を分析してみようと思う。今回は平成16年度の県民経済データをベースに用いた。
 
a.   特化係数からみる関西の産業
 
 まず図1のように、特化係数という(各地域における各業種が全国に占める割合)÷(各地域の県内総生産が全国に占める割合)で算出したデータをもとに現在の関西経済の特徴を述べてみる。算出したデータは図1-2-1に載せてある。
 特化係数の1つの例をあげてみる。関西25県の製造業の中の金属製品が全国に占める割合は、1,381,508100万円:関西における金属製品の域内総生産)÷6,070,164100万円:金属製品の国内総生産)=0.228(関西の製造業の金属製品が全国に占める割合)。 一方、関西地域の関西域内総生産が全国に占める割合は、88,770,868100万円:関西の域内総生産)÷539,864,821100万円:GDP)=0.164。さらにこうやって算出したデータをこのように以下のように計算することで特化係数を求めることができる。

(関西地方における金属製品が全国に占める割合:0.228÷(関西地方の域内総生産が全国に占める割合:0.164=1.384(関西の金属製品における特化係数)

 域内におけるその産業の割合が、全国のそれにおける割合と一致した場合、特化係数は1となるため、この関西における製造業の金属製品の特化係数(1.384)は全国の平均に比べ高く、つまり特化しているといえる。このように関西における各産業の特化係数を参照した場合、関西地方で特化しているといえるのは特化係数が1.10を超える業種と考えると、製造業でいえば繊維(2.245)、化学(1.297)、金属製品(1.384)、一般機械(1.373)、あと電気・ガス・水道業(1.167)が挙げられる。主に製造業で大きな強みを持っているように見える。特にこれらの産業では、関西に本社を置いている企業が多く存在し、関西を地盤としていることが分かる。しかし、関西が特化しているとあげられるこれら分野は規模が小さいのである。繊維は全国の規模が1兆円程度、化学は9兆円、金属製品6兆円、一般機械117兆円、電気・ガス・水道業157兆円である。この産業の規模が小さいという主張を、他の地域の特化している産業と比較することで証明してみる。関東圏で特化している卸売業(特化係数1.129)はその規模が73兆円、金融保険業(1.346)は337兆円、不動産業(1.111)は657兆円、サービス業(1.128)は118兆円という非常に大きい規模の分野で特化している。中部では、そもそも製造業全体に対する特化係数が1.522で、その規模は118兆円である。このように特化係数で比較することで明らかにできたのが、関西地方で特化している産業は規模が小さいということだ。つまり、どれだけ現状において特化している産業を強めていこうとしてもその拡張性は限られているということである。
 
b.  各地域における産業の成長から見る関西産業
 
 上に述べたように中部地方における製造業の特化率は非常に高いものであり、さらに最近中部地方の産業は急に発展しており、現在では関西地方を抜き去ろうとしている。よって中部地方の県民総生産の移り変わりを調べれば、産業の強化の仕方が分かるかもしれない。そこで今回使用した県民経済のデータ(平成16年度版)を10年前のデータである平成6年のデータと比較することで、その変化を検証してみたいと思う。
1-2-2を参照するとわかるように、まず中部地方において大きく変わったのが製造業の特化係数である。平成6年度においても、製造業の特化係数が1.359と全国と比べ非常に高水準に位置していたが、さらにその分野を強化して平成16年には上で述べたように1.522まで特化係数を上昇させた。産出額でいえば平成6年度の112兆円から6兆円もの規模を拡大し、118兆円となった。また、同じく規模の大きい金融保険業でも、その特化係数を10%上昇させている。このことから中部地方の産業が大きく発展したのは、もともと強みを持っていた製造業を大きく伸ばし、他の規模の大きい分野でのシェアを拡大したためであると読み取れそうである。
 関西地方では、製造業の特化係数は1%未満の上昇しかしていない。それにも関わらず、古くから商業の大阪と比喩されるほど得意分野であったはずの規模の大きい卸売業では微減、金融・保険業は10%以上の大幅減少、不動産業(規模:65.7兆円)もうやや減少、サービス業も減少と、自らの得意分野を伸ばすことなく、規模の大きい産業におけるシェアも落とすことで衰退したと推測できる。
 
 
c.   各産業における企業数の比率で見る関西産業
 
ここまでは特化係数という、どれだけその産業が特化していかという面だけで関西の産業を考察してきた。今度は平成18年度のデータにおける各業種の企業数の比率から関西産業を切ってみようと思う。1-2-3のグラフの通り、関東圏と関西圏における各業種の配分比率は似たようなものとなっている。このデータから、建設業、製造業、卸売業の3つの業種が関西における企業の大部分を占めるということである。大企業の数が全企業に対して1%程度であると仮定すると、この3つの業種における中小企業の数がいかに多いかということが分かるだろう。つまりこれらの業種における中小企業の集約が、関西企業の強みであり、同時に弱みでもある。そしてこれらの産業の今後が、関西経済を左右する大きなカギなのである。
一方中部地方では、各業種が同じような割合で存在している。非常に強い分野だと考えられる製造業においても、その数は5万社程度と関西地方のそれよりも大幅に少ない。このことは中部地方における製造業は、大企業が単独で多くの施設、工場、機能を維持しているということを表していると考えることができる。そうすると、トヨタ自動車1社を中心とした中部地方の急速な発展という事柄を説明することができる。企業比率で考えると、関西は中部ではなく関東地方によく似ている。企業比率は産業構造の重要な要素であり、根づいた風習や、企業の制度、集合、シェアなどの基礎的な条件を考えてみると、その構造改革は企業単位では難しく、中部地方の製造業特化を関西地方でも同様に行おうと思っても難しいのではないかと考える。このことを踏まえると、現在存在する産業構造の中で得意な分野を伸ばすこと、関東でいえばサービス業、金融・保険業、製造業に特化している中部地方のように、なにか1つ特化している分野をさらに伸ばす必要性がありそうだ。
 さてここまで関西産業の弱点とこれからの発展の難しさを述べてきたが、これでは関西の強みは何もなく、お先真っ暗と考えてしまいそうだ。そこで、関西産業の強みとこれから期待できる分野を明らかにしてみようと思う。
 
d.  関西産業の現在もっている強み

 
まず、関西地方における製造業企業の数の多さに着目してみよう。1-2-3の図に示されるとおり、製造業の特化係数が1.5を超えている中部地方よりも多いその割合は、つまりは関西における製造業の豊富さを示している。Cでのべたように、企業数の豊富さは中小企業の割合の高さを示し、その安定性の脆弱さを示しているように思えるかもしれないが、むしろいろいろなニーズに対応できるベースを持っていると解釈する。国内においてはそのニーズも限定され、それほど柔軟な産業ベースは必要ないかもしれないが、海外に目を向けたとき、そのニーズの幅は大きく広がることとなる。そしてその市場は、中国やインドを対象とした場合、日本の十数倍ほど大きいのである。中国の目覚ましい発展により、中国での商品製造の有利さが減少してきている。そこで各企業の日本回帰が起こってきており、さらに対中国への輸出が増加されると予想される。これからは、中国を「世界の工場」ではなく、「世界の市場」として認識する必要がありそうだ。
 こういった対外の観点において、関西は非常に優れているといえる。まず、水運における大阪港の存在、そして空運における関西国際空港の存在である。両方とも日本国内において、輸出・輸入の重要拠点である。そして、何よりも関東に比べて中国に近いという利点を備えている。空港の機能においても、関東の成田空港はアメリカやEUへの結びつき、関空はアジア圏、特に中国への結びつきが強いという住み分けが存在している。これを裏付けするのが、関西における対アジア圏の貿易規模のデータである。2007510日の産経新聞で、関西地方におけるアジアへの貿易額の多さが取り上げられていた。平成18年度において、全国の貿易額の20%強を占める関西の対アジア貿易比率はほぼ60%であり、全国でみた47.5%よりも高いことがわかる。内容は家電や一般機械などの製造業が多い。このことからまだまだ需要拡大するアジアを重要視した場合、関西の産業は有利な位置にあるといえる。これが1つ目の強みであり、希望である。
 もう1つの強みは、関西が日本のほぼ中心に位置しているという土地的条件の良さである。その土地的条件から運搬面においては非常に便利であり、それが江戸時代に「天下の台所」と呼ばれる所以ともなった。歴史的には、こういった流通面で強いという背景から多くの起業家が関西に集い、新しいビジネスにチャレンジをした。その結果が関西に優良企業が多いという現状につながっていると考えられる。任天堂や松下電器、シャープなど、一般家庭向けの製造業、また国際的な企業競争力ランキングで上位に位置する、関西電力や武田薬品は過去の土地的な有利さで関西に集結し、そしてこういった優良企業は持続的な成長を続けるため、下請け企業などの安定をもたらすと考えられる。そして現在でも、関西には独創性あふれる商品やサービスを提供している企業が多数存在しており、さらに先進技術を採用した産業分野にも新規創業が多くみられる
 しかし上で述べたように、現在の関西産業は突出して特化しているものがなく、産業は平均的な数値をとる存在でしかない。強みとして挙げた優良企業が多いことも、その持続的安定性から関西産業にとって大きなプラスかもしれないが、多勢に無勢で、こういった優良企業が存在するにもかかわらず関西における企業の倒産件数は全国平均に比べ高いという現状が存在する。
 以上第2部で関西産業の強みと弱みを考察してきたが、結局関西産業における「強み」の少なさ、また規模の小ささがその衰退を招いていることがわかった。これを改善するためにはより強力な「強み」、すなわち「特化」するものを見つける必要がある。その解決方法として公共政策があるが、現在のそれを第3部で検証したいと思う。
最終更新:2008年07月27日 23:35