優良企業の財務諸表から見る関西経済

 優良企業の財務諸表から見る関西経済
前節における産業の特化係数から、関西産業には「強み」と言い張れるリーディング産業が少なく、また規模が小さいという考察を得ることができた。そこでミクロの視点、つまり関西に本社を構える企業を見ることによって中長期的にリーディング産業になりうる分野を検証してゆく。

当節では、現状分析として関西本社の企業の財務諸表を見ることにより関西企業の優位性を見出してゆく。財務状況が健全であることから株主への配当増配や、新規事業の創設や既存事業の強化のための設備投資、研究開発費の多くを捻出することができる。近年の大企業における内部留保、余裕資金が年々増加するのを反映してかは断定できないが、関西に本社を構えるシャープやパナソニックは大阪湾岸に大型な設備投資を行っている。ならば、関西企業は他地域の企業に対して財務体質が優れているのではないかという疑問が生まれたので、以下では関西、関東、中部に本社を置く企業群を比較して検証してゆく。
当分析を行うに至って、「日経優良企業ランキング2008」の上位300社を使用した。企業の順位付けは、日本経済新聞社が上場企業の財務データベースなどを基にした「NEEDS―CASMA」(多変量解析法による企業評価システム)を使うことにより行われた。新興市場や金融などを除く上場企業を対象とし、08年度(07年4月期―08年3月期)の財務データに基づいて「規模」「収益性」「安全性」「成長力」の4項目から評価し、今回のランキングは前年より安全性を重視している。
上位300社を本社所在地域別に区分けすると、関東186社、関西53社、中部37社、その他24社となる。そこでこれら3つの地域別企業群をPER、PBR、ROE、自己資本比率(図)という4つの指標から関西企業の優位性を見てゆく。

①    PER
株価収益率とも呼ばれ、株価と企業の収益力を比較することによって株式の投資価値を判断する際に利用される指標である。株価を1株当たりの当期純利益で除して算出される。
一般的に、PERが低ければ低いほど、企業価値に対して株価が割安であると考えられる。一方、PERは企業の成長力や、安定性が反映され、IT関連企業など成長の見込める企業のPERは高くなる傾向がある。そうしたことから、PERは企業の在命期間の長さとも捉えることが出来、本稿ではPERの高い企業群に焦点を当てる。全国平均は12.61倍である。

関東では、平均値は13.22倍であり、最高値はカカクコム(サービス業)の74.07倍と非常に高い。またPER20倍以上の業種には、サービス業、情報・通信業、小売業、医薬品などの多くが集中し、利益率の高い産業構造となっている。
中部では、平均値は9.75倍であり、最高値はサンゲツ(卸売業)の50.00倍と突出して高い企業はあるが、全体で見ると低い。理由として、固定費用が多く掛かる輸送用機器、電気機器中心の製造業が多いことが挙げられる。
関西では、平均値は12.14倍であり、最高値は日清食品HD(食料品)の31.7倍と、全体で見ると関東比べて低く、突出して高い企業もない。PER20倍以上の業種には、医薬品、電気機器が挙げられる。大阪府道修町に本社を構えた国内の業界大手の製薬会社4社が関西地域の利益率向上に貢献していると言える。

②PBR
株価純資産倍率とも呼ばれ、企業の資産面から株価の状態を判断する指標である。株価を1株あたり純資産で除して算出される。一般的に、1倍を基準として低ければ低いほど株価が割安である。PBRが1倍を下回るような場合には、企業の生み出す利益がほとんど評価されていないと考えられ、その資産そのものの価値が評価されていると考えられる。全国平均は1.32倍である。

関東では、平均値は1.47倍であり、最高値はカカクコム(サービス業)の20.56倍と高く、業種としてはサービス業、情報・通信業、小売業が中心となる。平均して高いRBRとなっており、IT関連産業を中心に将来性が高く評価されているのが分かる。
中部では、平均値は0.81倍であり、最高値は東海旅客鉄道(陸運業)の2.00倍となり、実際の資産にたいしてあまり評価されてないのが分かる。
関西では、平均値は1.12倍であり、最高値はイオンディライト(サービス業)の4.7倍であり、関東に比べ収益率があまり高く評価されていないと考えられる。
とやはり関東に比べて低い傾向にある。

③ ROE
自己資本利益率とも呼ばれ、株主の投資額に比してどれだけ効率的に利益を獲得したかを判断するのに用いられる指標である。当期純利益を、前期及び当期の自己資本の平均値で除して算出される。ROEが高いほど株主資本を効率よく使い、利益を上げて能力の高い経営がなされていることがわかる。昨今の株式市場において企業価値をはかる指標の一つとされ、主に製造業では低く、ソフトウェアや、情報通信業等の工場棟の資産が必要でない企業が高くなる傾向がある。財務レバレッジをかけることで、ROEを高める事も出来るので、自己資本比率を参照しながら経営を判断する必要がある。全国平均は12.53%である。

関東では、平均値は13.26%となり、最高値は第一中央汽船(海運業)の49.19%と非常に高い。またROE20%以上の突出して高い企業も多く、業種としては海運業、サービス業、情報・通信業が中心となり、関東の産業構造がここでもよくわかる。
中部では、平均値は10.86%となり、最高値はトヨタ紡績の23.46%となる。ROE10-15%の企業群が多く、業種としては輸送用機器、電気機器といった製造業が中心である。
関西では、平均値は11.08%となり、最高値は伊藤忠商事(卸売業)の23.32%となる。ROEが全国平均以上の企業数を見ると、関東企業は約半数以上が上回っているのに対し、関西企業は約3分の1しか上回っていない。これは産業構造の違いで、関西にはが特化した産業がないことが原因に挙げられる。

④自己資本比率
自己資本比率とは総資本に対する自己資本の比率である。一般に自己資本比率が高いほど負債が少ないことになり、結果として借入金利の負担がないこと、資金の返済期限がないため資金繰りが楽である等の理由から健全な経営であるといわれる。日系企業は借金を避ける傾向が強く海外の企業に比べると、自己資本比率が高い場合が多い。しかしながら、本来株主資本は多くのリターンを要求される資本であり、財務面での効率性から考えると、財務レバレッジをかけ、倒産リスクを加味しながら、なるべく負債によって資金調達する方が財務効率は良い。全国平均は58.94%である。

関東では、平均値は57.25%となり、最高値はツツミ(宝飾品・貴金属小売り)の95.84%となる。80%以上の企業群の業種としては、情報・通信業、医薬品が中心となり、一方30%以下の企業群の業種としては卸売業、陸・海・空運業、電気機器が中心となる。
中部では、平均値は59.80%となり、最高値はニッセイ(機械)の90.57%となる。電器機器の企業群が高く、輸送用機器の企業群が低い傾向にある。
関西では、平均値は62.78%となり、最高値はキーエンス(電気機器)の91.85%と、関東・中部の比べて高い。電器機器、医薬品の企業群が総じて全国平均を上回っている。そのことから、製薬会社の武田薬品工業が2008年4月に米国のバイオベンチャーであるミレニアム・ファーマシューティカルズを業界過去最高額の約88億ドルで買収したり、塩野義製薬が同年9月に米国の医薬品会社、サイエル・ファーマを約14億ドルで買収したりと、貯め込んだ内部留保を有効活用し、世界最大の医薬品市場である米国で攻勢を仕掛けている。

以上、4つの指標(PER、PBR,ROE,自己資本比率)より関西企業の優位性を見出そうとしてきたが、自己資本比率で他地域と比較して高いことがわかった。しかし総じて見ると、関西に突出して高い部門はなく、関東と比較すると産業構造の違いから利益率の低い企業群が多いことがわかった。これは関西企業が関東企業のように利益率の高い情報・通信業、サービス業などの産業構造に依存しておらず、利益率の低い製造業に強く依存していることを示している。そして、マクロ的にみた際に特出した産業が関西に存在しないことが関西の脆弱性の原因となっている。そこで、次の節では関西を牽引しているリーディング産業となっている産業を具体的にあげ、関西産業の今後の可能性を検証しようと思う。





 

リーディング産業分析

太陽光発電
<現状分析>
 昨今、エネルギー供給の不足や、高コスト化が経済の停滞を引き起こしており、石油等の化石燃料に依存した社会構造からの脱却が必要とされている。また地球規模での温暖化が進んでおり、京都議定書等の制限により、CO2排出量の少ない再生可能なエネルギーへの需要が増加している。
 自然エネルギーへの投融資額は年々大幅な増加を示しており、世界各国で再生可能エネルギーへの需要が拡大しているのが見て取れる。この中でも太陽光発電は他の再生可能エネルギーより技術開発が進んでおり、設置や補修が用意であり、最も注目を集めている再生可能エネルギーとなっている。また水力発電や風力発電に比べ周辺環境への悪影響が少なく、またバイオ燃料等のように廃棄物を出さないので、低炭素社会の成長産業として、将来性が見込まれている。またシリコン系太陽パネルの原材料となるシリコンの資源量はほぼ無尽蔵と言われている。市場の急激な拡大により一時期シリコンの供給量が間に合わかったが、年々シリコン生産量も増大してきており、今後コストも低下していくと考えられる。
 日本は化石燃料等の天然資源をほとんど持たないにも関わらず、世界でもトップレベルの資源消費国であり、将来的な枯渇が予想される化石燃料はその希少性から投機の対象となりやすく価格の乱高下が起きやすく、このような不安定なエネルギーに依存する経済構造は不安定であり、これからの日本経済の発展に不可欠な産業である。
 みずほ証券のアナリストの観測では世界の太陽電池市場は、「モジュールベースの推定実績で、2006年に6000億~8000億円くらいのマーケットになった。順調に推移すれば、2009年には世界全体で2兆円を超える」と推測されており、今後も大きなマーケットの拡大が見込める産業である。
 制度面で太陽電池産業を見てみると、2003年から施行されている新エネルギー利用特別措置法(Renewables Portfolio Standard法)に基づくRPS制度により電力会社に再生可能エネルギーを一定割合導入する事を義務づけている。しかしながらこの法律は、外諸国で採用が進んでいる固定価格買い取り制度(フィードインタリフ制度)と比較して、再生可能エネルギーの売り渡し価格が法律により長期間固定される事により、投資リスクを大幅に低減しているのに対して、投資リスクが高く、固定価格買い取り制度と比べて費用対効果が低い等の指摘がされており、日本国内での太陽電池需要を阻害している一因となっている。
<関西の現状分析> 
 関西における太陽光発電産業を見てみると、2007年時点での太陽光パネル総生産量50%を占める上位7社は、Qセルズ(ドイツ)10.4%、シャープ(大阪)9.7%、サンテックパワー(中国)8.8%、京セラ(京都)5.5%、ファーストソーラー(アメリカ)5.5%、モーテック(台湾)5.3%、三洋電機(大阪)4.4%である。2005年の太陽光パネル総生産量50%を占める上位5社がシャープ24.8%、Qセルズ9.3%、京セラ8.2%、三洋電機7.2%、三菱電機5.8%であった事を考えると中国やドイツの等にシェアを奪われているものの、いまだ一国あたり生産割合は日本が世界トップであり、中でも関西は日本国内における太陽パネルの生産高の79.6%を占めており、これは関西だけで世界総生産数の19.6%を占めていることであり、関西企業の太陽電池産業での強さを見て取る事が出来る。しかしながら世界の地域別で見た場合には、欧州が全世界の28.5%の太陽パネルを生産しており、固定価格買い取り制度等の製作により数年で市場規模を大きく拡大したことからも、国内での市場規模拡大のためには政策面での充実が必要であると考えられる。
 太陽光パネルの発電量を左右する変換効率で見ても、京セラは多結晶シリコン系太陽光パネルにおいて、セルの変換効率を世界最高の18.5%に引き上げる等、関西企業の太陽光パネルの開発能力は世界最高水準のものとなっている。また近年需要の増大から希少性の高まっていた太陽電池専用シリコン原料(solar-grade silicon, SOG-Si)だが、多くのSOG-Siを消費する多結晶型シリコン系の100分の1のSOG-Si消費量で済む、低コストの薄膜型太陽光パネルの開発でもシャープがセルの変換効率を11%から13%へと引き上げ、更なる低コスト、低資源化を実現している。世界的な太陽光パネルの市場拡大が予想される中、SOG-Si消費量を大幅に削減出来るシャープの薄膜型太陽光パネルへは期待は大きい。また2008年にパナソニックと資本業務提携をした三洋電機も、「HIT太陽電池」という温度特性に優れた太陽電池を開発、電気変換効率も12.7%から16.5%への大幅な効率化に成功している。同社は2010年度までに追加で400億円の投資を予定しており、太陽電池事業を2005年度の3倍まで拡大する事を目標としており、また量産品の変換効率を研究室で実証されているレベルの22%まで引き上げることを目標としており、全世界の気候に対応出来る太陽電池の生産に意欲的である。本社をおくカネカも2015年をめどに100万kWの年産能力をめざしており、関西圏の太陽光発電への投資が増えてきている。
 技術開発において世界の先端を走る日本の太陽電池産業だが、導入の遅れから、国内での市場規模をのばす事が出来ず、苦境にあったが、昨今のエネルギー需要問題により、大規模な太陽光発電の導入が検討されてきている。ともに関西圏に本社をおく関西電力と、シャープは2008年大阪湾沿岸地域に28MWの発電量を誇る世界最大規模の太陽光発電所と、18MWの発電量を誇る発電施設を建設する事で合意し、2011年からの稼働を目指す事となった。このような国内需要の増大により、市場規模は広がりを見せ、さらなる太陽電池産業の隆盛が期待出来る。
 またアメリカの新政権も大規模な太陽電池への投資を発表しており、国内のみならず海外においても大規模な市場の拡大が予想されている。
<未来像>
 このように太陽電池産業において関西企業は生産能力、技術開発の両面において大きな優位性を持っており、また大規模な工業品である太陽電池を輸送するための港湾施設も隣接しており、今後関西圏の更なる発展が期待出来る。
 環境に配慮した再生可能エネルギーである太陽電池産業をさらに発展させるべく、政府はドイツが取り入れたような電力の固定価格買い取り制度等の国内需要を喚起するような政策を実行する事で、国内での太陽電池産業の発展と、先進の低炭素社会を作る事が出来ると考えられる。

家庭用薄型テレビ
<現状分析>
 市場の大型画面への需要増大を受け、大型化が難しいブラウン管からプラズマ、液晶テレビの移行が進んでいる。また2011年に現行のアナログ放送が終わる事から、薄型テレビへの移行が急速に進んでいる。2008年度第二四半期の世界でのテレビ市場の表示方法別のシェアは液晶テレビ49.8%、プラズマテレビ7.1%、有機ELテレビ0.0%、CRT(ブラウン管)テレビ42.9%、リアプロジェクションテレビ0.2%となっており、既に半数以上が液晶、プラズマテレビ等の薄型テレビとなっている。薄型テレビは屋内空間が狭い日本の家屋の大型の画面に対する需要を満たす形で登場し、現在では年間売り上げがブラウン管テレビを上回っており、市場の規模は大きくなっている。2008年度の薄型テレビの年間売り上げ台数は96,280,000台であり2007年度の74,063,000台と比べても大きな伸びを示している。野村総合研究所の調査によると、薄型テレビの2012年度の市場予測は1億台を超える148,748,000台と予想されており、市場規模は年々増大している。
<関西の現状分析>
 薄型テレビには大きく分けて2種類、液晶テレビとプラズマテレビがある。液晶テレビの国内シェアを見てみると、シャープ46.1%、ソニー15.9%、パナソニック15%、東芝13.2%、日本ビクター3.1%となっており、関西圏の企業だけで61%以上のシェアを占めている。プラズマテレビにおいてもパナソニックが68.8%のシェアを握っており、国内市場における関西勢の優位は明らかである。大阪沿岸の埋め立てによる大規模な敷地と、大型パネルの製造出荷に重要な港湾施設に隣接している等、パネル工場を建設するにあたっての優位性が大きく、地方自治体からの援助もあって、大阪沿岸部は国内での一大パネル生産地となっている。また大阪湾沿岸にパネル産業関連企業が集積しており、更なる発展が見込まれる。しかしながら国内市場では圧倒的なシェアを誇る関西も、海外のシェアと比較すると、ソニーや韓国企業にひけを取っている。2008年第二四半期の世界でのテレビシェアを見てみると、サムスン電子22.8%、ソニー12.5%、LG電子11.5%、パナソニック8.4%、シャープ6.8%となっており、国内市場での活況にも関わらず、苦戦を強いられている。国内市場においては圧倒的なシェアを誇るシャープやパナソニックも、市場拡大の速度に生産能力が追いつかず、生産能力の遅れから海外での市場拡大が遅れてきたが、大阪湾での大規模設備投資により、その生産規模を大きく拡大しており、今後の海外進出に大きく寄与するものと考えられる。
<未来像>
 関西圏における薄型テレビにおける優位性は明らかであり、大阪湾においてシャープが新規液晶パネル工場の建設に3800億円の設備投資を計画しており、このようなパネル産業の更なる集積により更なる大型の設備投資をよび、今後の発展が期待される。

 炭素繊維
<現状分析>
太陽光発電と同様に、環境に配慮した製品・素材として、鉄鋼の4分の1の重さで強度が10倍と軽くて丈夫である炭素繊維が注目されている。炭素繊維には、原料別の分類としてPAN系、ピッチ系およびレーヨン系があり、ここでは航空宇宙や産業分野の構造材料向け、スポーツ・レジャー分野など広範囲に使用されており、炭素繊維市場の90%程度を占めるPAN系レギュラートウ炭素繊維に焦点を当てる。
炭素繊維の使用による効用として、①温室効果ガス排出の原因とされる化石燃料を使用する自動車や航空機等の軽量化による燃料効率の向上、②風車、太陽光パネル、CNG(圧縮天然ガス)タンクの材料として使用することによる石油代替エネルギー拡大、③炭素繊維の特性(耐腐食性、高剛性、X線透過性)を備えることによる電子機器、医療機器の高性能化など、主に環境への貢献が挙げられる。また、炭素繊維協会によると、2010年に年間1000トン規模の炭素繊維リサイクルを実用化するとの報告もあり、炭素繊維の需要は今後より拡大すると考えられる。
炭素繊維の世界需要は年々増加の傾向にあり、2005年の東邦テナックスの調査(図)によると、2010年までの炭素繊維市場の年成長率は平均して約13%に達する見通しとなっている。最大の成長地域は北米及び欧州で年率14-15%増,日本及びアジアの成長率は6-9%増である。2010年欧州は世界市場の35%を消費し,北米が31%,アジアが19%,日本が15%と推測される。
図で示したように、炭素繊維用途の推移を見てみると、1990年代後半まではスポーツ向け製品が全体の3割弱を占めていた。しかし近年ではスポーツ分野での用途が相対的に減少し、ボーイング787・エアバスA380などの大型プロジェクト受注による航空機用途や、自動車関連・風力発電用プロペラ・燃料電池用水素タンク・深海油田開発用パイプといった産業用途が急拡大している。

<関西の現状分析>
JEC Composites社によると、2008年の世界のPAN系炭素繊維(スモールトウ、レギュラートウ)の総生産量は48550トンとなっており、この内訳を各社のシェアで表すと、東レグループ(大阪)36.9%、東邦テナックスグループ(東京)24.3%、三菱レーヨングループ(東京)16.3%、フォルモサ・プラスチック(台湾)10.6%、ヘクセル(米国)8.0%、サイテック(米国)3.9%であり、一国当たり生産割合は日本が77.4%を占め世界トップとなっている。また、大阪・東京二本社制である東レが世界シェア1位で、37年間も炭素繊維のトップサプライヤーとして君臨している。
東レは自社炭素繊維「トレカ」の高い機能性、東レは1971年に世界で初めてPAN系炭素繊維の商品化に成功して以来、原糸であるアクリル長繊維(プリカーサ)から中間製品であるプリプレグ、さらに加工品であるコンポジットにいたるまで、全てを内部で生産している。そうして完成した高い技術力、機能性をもった東レ独自製品「トレカ」を武器に、特に航空機用途では世界生産高50%を超える圧倒的なシェアを維持している。その結果、2004年からボーイング社と18年間の長期供給計画を締結しており、B777やB787などへの一次構造材の独占供給と次期航空機への継続採用を確立している。

<未来像>
前述したが、炭素繊維市場は寡占化しており、航空機用途など厳格な品質管理が要求される先端分野には新規メーカーは参入し難く、製品価格が現在の水準から急激に崩れるといった可能性は低い。よって、よほど新たな繊維や市場の変化がない限り、安定した収益を得ることができる。その反面、価格が鉄の数十倍と高いことから、自動車用途に関しては高級自動車にしか採用されていないようにコスト削減にはまだ十分の余地があるといえる。
炭素繊維自体は化石燃料代替・クリーンエネルギー、省エネ、高性能製品といった時代のニーズに合致していることからより一層の事業拡大に関西企業は貢献できるだろう。

リチウムイオン電池
<現状分析>
 現在電池市場の8割が二次電池と言われる充電電池により占められている。充電する事により何度でも使えコスト面での効率がよく、携帯機器、ノートPC、デジカメなどあらゆる用途に使われている。さらに資源消費量を抑制する事ができ、自動車向け等の新たな用途も出てきており、さらなる市場拡大が見込まれている。経済産業省の統計によると、2007年の二次電池国内販売は数量ベースで前年比2.2%増の17億9800万個、金額ベースで同16.5%増の6668億3800万円となっている。世界市場全体で見ると、40億1000万個規模となっている。数量で見る電池別の比率は,リチウムイオン電池63.2%、ニッケル水素電池19.6%、ニッカド電池15.1%となっている。リチウムイオン電池は現在、実用化されている充電池の中では容積比でもっともエネルギー密度が高く、また他の二次電池と比べ、自己放電が極端に少なく、またメモリー効果がほとんど存在しない等、他の二次電池よりも多くの利点がある。またエネルギー量に対して電池が軽量で小さく、車載や携帯電話などに欠かせない物となっている。

<関西の現状>
 2006年のリチウムイオン電池のシェアは、三洋電機28%、ソニー20%、パナソニック15%、サムスン10%、LG電子5%、中国BYD3%であり、日本がLi-on電池の約六割を占め、その中でも関西に本社を構える三洋電機、パナソニックが43%を占めている。またGSユアサも積極的にリチウムイオン電池に設備投資している。日産自動車、本田技研工業、豊田自動車、フォルクス・ワーゲン、三菱自動車、PSAなどの主な自動車会社も電気自動車へと乗り出しており、GSユアサ、三洋電機、パナソニック等の関西企業と提携を結んでおり今後の躍進が期待される。
<未来像>
  リチウムイオン二次電池においては、電池メーカー各社が増産計画を発表しており、多くの材料メーカーも生産能力の増強を発表。富士経済によると2008年以降の同材料市場は、年率約11%で拡大し、2012年には6,187億円(2007年比89.0%増)になると予測される。2013年度におけるハイブリッド車用向け2次電池の市場規模は対2007年度比234.4%増の2234億円,ハイブリッド車の国内生産台数は105万台となる見通しであり、これからの関西経済の発展に大きく寄与する物と考えられる。

 

 

第2節まとめ
 
まず、関西地方における製造業企業の数の多さに着目してみよう。製造業の特化係数が1.5を超えている中部地方よりも多いその割合は、つまりは関西における製造業の豊富さを示している。bでのべたように、企業数の豊富さは中小企業の割合の高さを示し、その安定性の脆弱さを示しているように思えるかもしれないが、むしろいろいろなニーズに対応できるベースを持っていると解釈する。国内においてはそのニーズも限定され、それほど柔軟な産業ベースは必要ないかもしれないが、海外に目を向けたとき、そのニーズの幅は大きく広がることとなる。そしてその市場は、中国やインドを対象とした場合、日本の十数倍ほど大きいのである。中国の目覚ましい発展により、中国での商品製造の有利さが減少してきている。そこで各企業の日本回帰が起こってきており、さらに対中国への輸出が増加されると予想される。これからは、中国を「世界の工場」ではなく、「世界の市場」として認識する必要がありそうだ。

こういった対外の観点において、関西は非常に優れているといえる。まず、水運における大阪港の存在、そして空運における関西国際空港の存在である。両方とも日本国内において、輸出・輸入の重要拠点である。そして、何よりも関東に比べて中国に近いという利点を備えている。空港の機能においても、関東の成田空港はアメリカやEUへの結びつき、関空はアジア圏、特に中国への結びつきが強いという住み分けが存在している。これを裏付けするのが、関西における対アジア圏の貿易規模のデータである。2007年5月10日の産経新聞で、関西地方におけるアジアへの貿易額の多さが取り上げられていた。平成18年度において、全国の貿易額の20%強を占める関西の対アジア貿易比率はほぼ60%であり、全国でみた47.5%よりも高いことがわかる。内容は家電や一般機械などの製造業が多い。このことからまだまだ需要拡大するアジアを重要視した場合、関西の産業は有利な位置にあるといえる。これが1つ目の強みであり、希望である。

もう1つの強みは、関西が日本のほぼ中心に位置しているという土地的条件の良さである。その土地的条件から運搬面においては非常に便利であり、それが江戸時代に「天下の台所」と呼ばれる所以ともなった。歴史的には、こういった流通面で強いという背景から多くの起業家が関西に集い、新しいビジネスにチャレンジをした。その結果が関西に優良企業が多いという現状につながっていると考えられる。任天堂や松下電器、シャープなど、一般家庭向けの製造業、また国際的な企業競争力ランキングで上位に位置する、関西電力や武田薬品は過去の土地的な有利さで関西に集結し、そしてこういった優良企業は持続的な成長を続けるため、下請け企業などの安定をもたらすと考えられる。そしてdでのべたように、関西には太陽光発電などの先端技術を駆使した、企業と都市ぐるみの一大プロジェクトが実行されていたり、それ以外でも他地方に負けないような先進技術を採用した産業分野が多くみられる。

 また環境関連産業において関西企業は突出した強みを持っている。先に述べたような太陽光発電における関西企業の強みに代表されるように、環境産業に関しては技術力、生産能力ともに世界のリーディングカンパニーとしての地位を確かなものとしている。このことは環境融資における全国に対する関西の投融資額の割合からも見て取る事が出来る。日本政策投資銀行の環境格付けを利用した融資で、関西は2008年度分で300億円を超え、これは全投資額の95%を占めている。このように環境関連産業への投資は、民間大手銀行でも始まっており、三井住友銀行の環境配慮企業向けローンや、三菱東京UFJ銀行のエコ認証サポートローン等、銀行側も積極的に環境関連企業への投資を増やしており、関西への環境融資は40%〜70%超となっており、関西への投資額が突出している。このような動きは関西圏での環境関連産業への更なる設備投資や新規事業への後押しとなり、環境産業の更なる集積と発展が見込まれる。しかしながらこのような状況にも関わらず、関西における企業の倒産件数は已然全国平均に比べ高いという現状が存在する。

以上第2節を通し主要産業別にみる関西の特色を考察してきたが、関西産業における「強み」の少なさ、また已然規模の小さいことがその衰退を招いていることがわかった。これを改善するためにはより強力な「強み」、すなわち「特化」するものを見つける必要がある。その解決方法として公共政策があるが、現在のそれを第3節で検証したいと思う。
最終更新:2009年01月09日 11:07