1.関西経済を支える政策
この節では政策面から、現在の関西産業、及び関西経済について分析していく。産業発展には政策的な支援はつきものであり、特に現代社会においては必須である。そこからアプローチし、他の地域と比較検証をしていくことにより、関西経済の強み・弱みを考察する。
1)関西における政策の方向性
(1) 予算から見る関西各府県の政策方向性
関西経済を政策面から分析するにあたり、まず関西の各府県における政策の方向性を調べる。方法としては、各府県の政策を「経済活性化」という観点から7つのカテゴリに抽出・分類し、その予算を指標として7つのカテゴリがどのような割合になっているのかを導く。データは各府県の平成20年度の当初予算を用いた。分母は抽出した政策の予算の合計であり、各府県で行われている全ての政策の予算合計を100パーセントとしたものではない。それぞれのカテゴリは以下のように設定した。
[ベンチャー支援]
主に成長産業分野のベンチャー企業、中小企業を支援することを目的とした政策を分類する。資金支援、施設整備、人材育成・派遣など。
[企業誘致]
企業に対する誘致活動を目的とした政策を分類する。ただし、基盤整備(土地整備)は予算額が極端に高くなるので除外した。
[産学官連携]
産学官連携を支援することを目的とした政策を分類する。先端技術の開発促進、施設整備など。
[観光政策]
観光事業を活性化させることを目的とした政策を分類する。既存の観光地を利用した事業だけではなく、過疎地への来訪を促す事業も含む。
[農林水産業]
農業、林業、水産業、畜産業などの活性化を支援することを目的とした政策を分類する。ただし、基盤整備(山林整備、河川整備)は予算額が極端に高くなるので除外した。
[産業活性化]
観光産業、農林水産業を除く、既存の産業を支援することを目的とした政策を分類する。地場産業の活性化事業、人材育成、商店街活性化、消費拡大推進事業など。
[雇用就業支援]
雇用機会創出や就業支援を目的とした政策を分類する。
また、全ての項目において、融資制度に関する政策は予算額が極端に大きく なること、貸付という性質上、他の政策予算と意味合いが異なると判断したことから除外している。
図表Ⅰ- 、Ⅰ- がその結果である。順に検証していく。
まず、ベンチャー支援である。前節までで述べてきたように(関東には劣るものの)関西には中小企業が多く、全国のベンチャー企業にのうち約20%が分布している。それを示すように、ベンチャー支援はどの府県でも20~30%ほどの割合を占めている。やはりベンチャー・中小企業に対する支援が重要視されていることがうかがえる。
次に企業誘致である。こちらもベンチャー支援と同じく、高い割合を占めているところが多い。特に大阪・福井・兵庫が顕著である。大阪に至っては割合だけでなく、実際金額も最も高い。もともと製造業の中小企業が集積している大阪でこれだけ企業誘致に対する予算額が大きいということは、政策として相当力を入れている分野であることがわかる。
3つ目は産学官連携である。これはどの府県でも割合が小さい。意味合いも近いので、ベンチャー支援に含めてしまってもよかったかもしれない。しかし、バイオやIT分野などの成長産業における先端技術推進にどれだけ力を入れているかを表す、ということで意味がある。
4つ目の観光政策は少々意外な結果が出た。観光地として有名な、京都における割合がかなり小さい。他の政策の割合が大きいというわけではなく、実際金額も低い(和歌山・滋賀・福井と比べれば大差はないが)。観光面は「支援」がなくとも十分に強い、ということだとも考えられる。
5つ目の農林水産業はどの府県もそれなりの割合を占めている。和歌山は特に多く、政策の中身は農業技術支援や人材育成よりも、農業経営支援事業に傾倒していた。
6つ目の産業活性化は全体的には少ない。関西全体として、既存の地場産業の活性化よりも成長産業・先端産業への支援へ力を入れていることがわかる。
最後に雇用就業支援である。直接、経済振興につながる性質ではないものの、長期的に考えれば必要になる政策分野である。特に昨今社会情勢を鑑みるに、むしろ重要になってくるかもしれない。やはり人口の多い、大阪、京都ではその予算額、割合も大きい。しかし、大阪に次ぐ人口の兵庫はかなり低い値になっている。
(1) 他地域との比較
関西の政策の方向性を簡単にまとめたところで、他地域とも比較してみる。関東、中部の代表として東京、愛知のデータを同様にして作成した(図表)。
まず、それぞれの特徴を示す。東京はほとんどの項目がバランスよく展開されている。割合のバランスが良いだけでなく、やはり実際金額でも高額の予算が捻出されている。ただし、企業誘致の項目のみ極端に低い。しかしこれは、大企業の本社、中小企業ともに圧倒的に多い東京にとって、誘致する必要がないと考えるのが妥当だろう。愛知はベンチャー支援と農林水産業の割合が多く、その構成は滋賀県に近い。しかしながら、各項目の予算額はずっと大きく、合計額は大阪よりも大きい。
これらを関西と比較すると、気になるのは産学官連携と観光政策である。産学官連携に関しては、軒並み低い値の関西に比べ、東京、愛知はどちらも高い。前述の通り、この項目はベンチャー関連でも特に、成長産業・先端産業への支援額を示している。これからの産業発展には重要な分野であるが、これらへの政策支援について、関西は大きく劣っているということになる。そしてもう1つ、大きな問題は観光政策である。関東(東京)の観光客数は関西よりもはるかに多い。しかし、関西の観光政策は全て、東京のそれを下回るのである。特に大阪、京都、奈良は観光資源が豊富であるにもかかわらず、観光政策に力を入れているのは奈良のみである。この点が関西の政策の大きな弱みと言えるだろう。観光政策については、後の節で詳しく言及する。
最終更新:2009年01月09日 08:59