神星翠
■キャラクター名:神星 翠(かむほし みどり)
■性別:女
■所持品:特筆すべきものは無い。
特殊能力【元気ハツラツ☆さわやかパワー】
『元気ハツラツ☆さわやかパワー』通称さわパワ。翠の体内から無尽蔵に湧き出てくる謎のパワー。このパワーにより翠はいつでも元気ハツラツ、スタミナ無尽蔵、病気知らず、お肌つやつや、爽やかな香りがする、食欲旺盛、五感明瞭、運動神経抜群の健康優良児である。さらに気合を入れて出力を上げると体から翡翠色の炎のようなオーラとして噴き出してジェットエンジンのように物理的推進力としても働き、非常にアクロバティックな三次元機動を可能とする。また、人にエネルギーを分け与えることも可能であり、分け与えられた人間も一時的に上のような効能の恩恵にあずかることが可能になる。分け与えられた人曰く「世界が全く違って見える」とのこと。
翠が性格的にも非常に元気であるためよく勘違いされるが、精神に直接的な影響は及ぼさない。(肉体の賦活が間接的に影響を及ぼすことはある)
プロフィール
この世の全てが毎日楽しくて楽しくて仕方がない姫代学園高等部一年生。丸顔。童顔。小柄。口と声がでかい。感覚志向。無邪気。髪は淡褐色の癖毛を雑にくくっている。灰色の瞳の瞳孔が常にかっ開いていてちょっと怖い。能力の高出力使用時は瞳が翡翠色に光る。童顔で小柄な上に着痩せなので見過ごされがちだが、高校一年生とは思えないプロポーションの持ち主。私服はゆったりしたパーカーや柄物を好む。
非常に旺盛な好奇心と行動力によりこの世の趣味と呼ばれるものを大体なんでも好む。しかし歌だけは音痴。アホの子っぽく見えるが成績は悪くない。
ちょっと電波っぽいが明るくてかわいく、初対面の人ともすぐ馴染んでしまう感じの楽しいやつなので周囲からはけっこう人気者。
- 鎌瀬いずこ 翠のルームメイト。非魔人。翠とはそれなりに長い付き合い。翠とは対照的なダウナー。
プロローグSS
「おはようございます!」
神星翠の目覚めはやたらと爽やかだ。物理的に光っているのではないかと錯覚するほどの爽やかスマイルと共に錯覚ではない爽やかな香りが姫代学園寮の2人部屋に広がる。
「おはようございまーす!いずこさーん!朝ですよー!」
再びの爽やかスマイル&爽やかフレグランスがまだ人の入っている布団に叩きつけられる。
「んああ…あとごふん…」
もぞもぞで布団の中で蠢くのは翠のルームメイト、鎌瀬いずこである。
「朝ですよー!」「のわー!」
いずこの訴えも空しく、憐れいずこの布団は魔人腕力による強制引っぺがしの憂き目にあった。すかさず襲い来る大音量挨拶。
「おはようございまーす!朝ですよー!」
「わかったわかった、お前はもうちょい声量に気を使え!うるさいから!まーじで昔から声デカいんだから」
「そういういずこさんがわたしと会ってから一日も欠かさずお寝坊なので声が大きくなるのはしょうがないのです!」
「一日も欠かさずはねえだろ…それなりに長い付き合いなんだから」
「いえ、それなりに長い付き合いでマジで一日も欠かさずです!」
「マジで?」
「マジです!」
そんなとぼけた会話を交わしつつ、二人は朝の支度を整える。
「いずこさんいずこさんいずこさーん!手が止まってますよー!」
「わーってらい、こっちゃあお前と違って朝は眠いんだよ…」
「いずこさんは朝じゃなくても大体ダウナーですよね!」
「お前が人並外れてアッパーなだけだよ…」
この二人はなんだかんだ言いつつもいつもこの調子だ。エネルギッシュにあちこち動き回る翠とぶつくさ言いつつもそれについてゆくいずこ。なんだかんだ言いつつもこの凸凹コンビの付き合いはそれなりに長いのであった。
しかしその日の放課後、二人の会話は今までにない方向に転がったのであった。
放課後の教室にて、二人は駄弁っていた。
「あああああああ~…や~っと放課後だァ…」
「今日はどうしましょういずこさん!カラオケでも行きますか!?」
「おめーのド音痴っぷりは一昨日思い知ったからもういいよ…」
「じゃあ夏らしく海へ泳ぎに!」
「もう思いっきり秋だよ!」
「ブレス〇ブザワイルドの100%RTA!」
「せめてany%にしろ!」
ちなみにブレスオ〇ザワイルドの100%RTAは24時間では足りない。
「はぁはぁ…おまえのその無尽蔵の体力はどこから出てくるんだ…こちとらツッコミだけで息切れしてんだぞ…」
「それはもちろん!『さわパワ』です!」
そう言うや否や翠の全身から湧き上がる涼気。あまりのエネルギッシュなオーラに、思わずのけぞるいずこ。
「そういやおまえ魔人だったな…」
「そうですよう!本気出せばばびゅーんですからね!」
「ばびゅーんとは…?」
「明星ギャラクティカ的な?」
「よくわからん…」
『さわパワ』もとい魔人能力『元気ハツラツ☆さわやかパワー』。ネーミングはとぼけているが、その身体活性化効果は劇的だ。いずこは翠が疲労に類する反応をしたところを見たことがない。
「全くうらやましいこったなァ、私にもおまえの1割でもそのエネルギーがあればなあ…」
「分けたげましょうか?」
「え?他の人に分けられんの?」
「はい!ほんのちょっとですけど」
「初耳ィ…」
それなりに長い付き合いのはずなんだけどなァ、とちょっとショックのいずこ。
「ほんじゃあ頼むよ、お前の奴を分けてもらえりゃあちょっとは私のダウナーも何とかなるってもんだ」
こそこそと翠に耳打ちするいずこ。学内での魔人能力使用はご法度だ。実際のところ隠れて使用するものが後を絶たないとはいえ、大っぴらにやるわけにはいかない。
「じゃあ屋上行きましょうか!」
「声がでかいよ!」
教室棟、屋上。
物理的には学園でもっとも開けた場所であるが、その反面人の視線が欠如した場所でもある。
転落防止用のフェンスの隙間から眼下のグラウンドでわちゃわちゃと動くサッカー部の学生がよく見えた。
そこにやって来たのはもちろん神星翠と鎌瀬いずこだ。
「さて…と、さっそく頼めるか?」
「はいはーい!ちょっと熱いですよ~」
そう言うと翠はいずこの腹に手を当てて―
「えい」
「あっちィ!」
いきなり腹に熱い懐炉を押しあてられたような衝撃にいずこが驚く。驚いているうちに熱い衝撃はいずこの腹の中に浸透してくるような感覚へと変わる。
「お…おおお?」
「すぐに全身にぶわーっと広がって馴染みますよ~」
そうなのか、といずこが反応するよりも前に、ぶわーっと来た。
「お、おおおおおお!?」
その瞬間を境に、いずこの世界は変貌した。
腹から全身に巡る、圧倒的活力。自分でも意識していなかった体の不調が片端から正されていくのがわかる。背が伸びたように錯覚したのは、曲がっていた背骨が真っ直ぐになったからだ。体が異様に軽い。これまでがまるで幽閉されていたようにすら感じる解放感。いずこは世界が凄まじく美しい色で満ちていることに初めて気が付いた。
「スッゲ…スッゲぇ!翠お前いっつもこんな世界に暮らしてたのかよ!そりゃあ毎日楽しいはずだわ!ずるいぞおまえ!もうそこらじゅうのなにもかもが気持ち良すぎだろ!」
これまで見えなかった色が、聞こえなかった音が、嗅いだことの無かった香りが、圧倒的な存在感を以ていずこの世界に広がる。今ならば水道水すら天上の甘露に思えよう。
グラウンドを見下ろすと、そこには見たことの無い世界が広がっていた。
木々の緑が宝石の如く輝く。
土の一粒一粒が、見ていてまるで飽きない。
コンクリートの灰色すら、一万の書に匹敵する学びを感じさせた。
今まで確かにそこにいたのに気づかなかった巨大なナニカが、無数に町中を泳いでいる様子がいずこの心胆を一気に冷やした。
「………………なに、あれ?」
なんだあれは。生き物なのだろうか。不定形の、うねうねとした、人間など一呑みにしてしまうようにしてしまうような大きさのナニカが、あちらこちらで、宙を泳いだり、道路を這ったり、ビルの上に溜まっていたり、地面から湧き出て来たり、我が物顔で振舞っている。
そして誰もそれに気が付いていない。気付いて顔を青くしているのはいずこだけだ。
今までも確かに見えていたはずなのに、その存在を意識したことすらなかった。
なによりもその事実が、いずこを一気に心細くした。
「…み、翠。あれ、アレ、見えてるか?わたし、いきなり元気になったから、反動でなんかまぼろしかなんか見えてるのかな?」
「あれってどれです?」
「あ、あっちこっちに、ほ、ホラ、今グラウンドに入って来た…」
「ああ、あれですか?いつもいますよ?」
「そういう、ものなの…か…?」
翠はそこらの樹でも見るような目でソレを見ている。そのあまりにもいつも通りな様子の翠を見て、いずこは僅かに落ち着きを取り戻した。
「そ、そう、か。そういうものだと思えば、まあ、うん、まあ、まあ、慣れれば、ちょっと、キモい感じのマスコット的な、そんな感じに、見えなくも、なきにしもあらず、的な…?」
慣れだ、慣れ。翠が平然としてるんだから、どうってことはない。すぐに慣れる。そのはずだ…と、いずこは自分に言い聞かせた。今まさにグラウンドにぬるりと這入ってきたソレも、まあ、チョット大きい虫か何かだと思えば―
と、必死に思い込んでいたいずこの前で、ソレはグラウンド上の野球部員を呑んだ。
ぺろりと。
「あっ…あっ…………あ、あああああああああああ!?」
驚愕と恐怖の悲鳴を上げたのは、いずこだけ。ぺたん、と腰を抜かすとグラウンドの野球部員は視界から外れる。どうなっているのか確認する勇気はない。
「どうしたんですかいずこさん?」
翠は平然としたままだ。まったくもっていつも通りの、日常の顔。いずこにはそれがなおのこと恐ろしく見えた。
「いっ、い、いま、くわっ、くわ、人が、食われっ…………」
「そのくらい、いつものことですよ」
翠は平然としたままだ。いずこはもはや恐怖することすら満足にできなかった。
「えっ…?ええ?な、なんだよう、なんだよそれぇ…!?」
いずこは麻痺した頭を抱えてふらふらと立ち上がり、ついさっき野球部員が食われたグラウンドを見下ろした。
そうだ、いまごろ野球部員たちが大騒ぎになっているはず、そうでなければおかしい、そのはずだ―!
グラウンド上では何事も無かったかのようにサッカーをやっていた。野球部員の姿はない。
「…………??……………………?…?…???」
もはや言葉もない。許容量を超えた怪奇現象に、いずこは放心している。
「いずこさーん?おーい、いずこさ~ん」
「………………」
「起きてますかー?」
「………………」
「こちょこちょこちょ~!」
「うひゃあ!」
この期に及んでも全くいつも通りの態度を崩さない翠の無遠慮なボディタッチでいずこの意識は引き戻された。
「……み、翠ぃ…」
「なんですかいずこさん、酷い顔色ですよ」
涙目ですがりつくいずこに対しても、翠はいつも通りのままだ。
「私が見たのは、幻か…?」
「何が見えたんです?」
いずこは必死になって翠にすがりつく。自分と翠しか見えていない―否、気付いていない、他の誰もアレに反応しないというのは、何よりの異常だった。
「でっかいなんかが…来て」
「でっかいのがいましたね」
「ひ、人を…食べて」
「食べちゃいましたね」
「や、野球やってたのが、いつの間にかサッカーに」
「いずこさんが腰を抜かしてた間ですね」
「……………」
「……………」
少しの間の、沈黙。あるいは溜め。
「おかしいよぉっ!どう考えてもおかしいよぉ!なにがおごっでるんだよぉ!なんであんなのがいるのにだれもきづがないんだよぉ!なんでひとがだべられでるのにだれもきづがないんだよぉ!なんでなにもなかっだようになっでるんだよぉ!おがじいよぉ…なんで…なんでぇ…」
「どうどう、おちついてくださいいずこさん」
「おまえもおがじいよぉっ!なんでそんなにいつもどおりなんだよぉっ!おがじいよぉっ!」
「なんでって、いつも通りのことだからですよ。ね。いずこさん。おちついて、思いだしてみてくださいよ。ね?おちついて。ね?」
翠は、異常なほどに平常だ。その異常が、一周回っていずこを僅かに冷静にさせた。
「うう…う゛う゛う゛……………」
ぽつぽつと、いずこは言われたとおりに思い出し始める。
そういえば、姫代学園にサッカー部は無かった。
そういえば、クラスメイトでいつの間にか見なくなった奴らがいる。
そういえば、転校してきたわけでもないのにクラスに見覚えのない顔があった。
そういえば、先生もいつの間にか変わったような…
そういえば、目の前で人がぺろりとやられたのもみた。
そういえば、目の前でさっきまでいなかった人が『出現』したのも見た。
そういえば。そういえば。そういえば。思い当たるふしがいくらでもあった。姫代学園では…いや、姫代学園だけにとどまらないかもしれない。とにかくこの『捕食』が日常的に行われている。そしてそれでも人が減っていないのは、いつの間にか人が『出現』しているからだ。
そして今まで堂々と公衆の面前で起きていたことであるにもかかわらず、翠の他は誰も気付かなかった。それが最大の異常だ。
そして、思い返してみれば―
(いや、だめだ。それを聞いちゃダメだ)
「な、なあ翠…」「なんですか?」
(やめろ!忘れろ!聞いちゃダメだ私!)
「私と翠、それなりに長い付き合いだよな」「そうですね!」
(やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ)
その問いは、鎌瀬いずこにとって致命的だった。
「具体的に、どのくらい長い付き合いだっけ?」
「今日でいずこさんがわたしのルームメイトとして『出現』してから、ちょうど一週間ですね!ルームメイトとしては最長です!」
それきり、鎌瀬いずこは意識を失った。
鎌瀬いずこという生徒が姫代学園に在籍していた記録は発見できない。
…
……
………
ある晩 幽世 旧校舎にて
蓮柄まどかがそこにたどり着いたとき、ちょうど最後の一撃が放たれたところだった。
「そいりゃー!」
翡翠色の流星が縦横無尽に壁を蹴って跳ね飛び、その速さについていけていないなにかをしたたかに打ち据え、撥ね飛ばした。
撥ね飛ばされたなにかは木造の廊下の上で水切りする小石のように二、三度跳ねると、壁に叩きつけられてべぎょり、という鈍い音を立てて止まった。そしてぐぎぃ、ともぎぎぃ、ともつかぬ呻きを上げると、空気に溶けるように雲散霧消した。
「あ、蓮柄先輩、こんばんは!」
旧校舎に巣食うなにかを物理で調伏せしめた神星翠は、ただ道で出会ったかのようにまどかに挨拶した。
翠とまどかは知り合いだ。翠の言葉を借りれば「そこそこ長い付き合い」である。その付き合いは週二くらいのペースで翠が幽世に迷い込み、まどかがそれを現世に送り返すというものであった。
「はいこんばんは、まったくいつも何故にそう幽世に迷い込むんだい君は…」
いつもは肝心な時に手遅れになることが多いまどかだったが、翠に関しては正直あまり心配していない。生半可な魑魅魍魎は翠に返り討ちにされてしまうからだ。翠は『さわパワ』による身体強化、戦闘魔人としての力を持っているのみならず、怪異に対する恐怖が異様なまでにない。
「まったく君は霊感があるのかないのか。こういう場所に危険を感じたりしないのかい?」
「ここってなにか変な場所なんですか?」
「君ねえ…私と君が会うのはいつも幽世だよ?普通は生者がいちゃいけないの」
「え?そういう蓮柄先輩も来てるじゃないですか」
「私は幽霊だよ」
「そういえばそうでした!うっかり!」
「全く君はいつでも『普段通り過ぎる』。もうちょっと恐怖心を持ちなさい」
まどかが見るに翠は、あまりにも日常の閾値が高かった。怪異に襲われて返り討ちにしたことも、怪奇現象に遭遇したことも、彼女にとっては学校で授業を受けたり友人とカラオケに行ったりするのと同じような日常の一部でしかない。幽世に至っては現世との境目を認識していない。境目が見えてはいるのだろう。それを全く特別なものと思っていないだけだ。
神星翠は、毎日を明るく楽しく過ごしている。
友人が目の前で消えても、自分が超常のものに襲われても、彼女の毎日は明るく楽しいままだ。
「ほら、現世だよ。気を付けて帰りなさい」
「そんじゃあ先輩、また今度―!」
「私に会おうとするもんじゃないよ~……、はあ、また来るなこれは」
世話焼きの亡霊に見送られて、翠は小走りで寮に帰る。2人部屋の自室に帰ると、ルームメイト―見たことの無い顔だ―から翠に声がかけられた。
「遅いっスよ翠ちゃん!門限破ったら同質の自分まで連帯責任は免れないんだからしっかりして欲しいっス!」
「ごっめーん!先輩との話が盛り上がっちゃて!あしたアイスおごるから許して!」
「なら良いっス!サー〇ィーワンで二段重ねっス!」
「セブン〇ィーンの自販機で我慢してぇ~!」
完全に初対面のルームメイトと、気心の知れた会話。何気ない、日常の景色。
超常のものが無数に蠢き、それに誰も気づかない、日常の夜は更けてゆく。
最終更新:2022年10月05日 22:35