鏡の国のアヤちゃん

■キャラクター名:鏡の国のアヤちゃん
■性別:女
■所持品:鏡の国

特殊能力【鏡の国のアヤちゃん】


 アヤちゃんは鏡の国の女王。
 アヤちゃんは鏡の国で一人。

 アヤちゃんは寂しいから友達を呼ぶ。
 アヤちゃんは鏡の中から友達を呼ぶ。

 いちど、にど、さんど。
 答えてくれたら、鏡の国に友達が一人。

 鏡の国の友達は、表の国に双子が一人。
 鏡の国の友達は、表の国の双子が嫌い。

 だから友達は、鏡の国から双子の所へ。
 ざくり、ぐさぐさ、ぽーい。

 アヤちゃんの鏡の中は友達がいっぱい。
 アヤちゃんの鏡の中は死体もいっぱい。

 アヤちゃんは鏡の国で|孤高《ひとり》
 アヤちゃんは鏡の国の女王

プロフィール

『鏡の国のアヤちゃん』は姫代学園在校生徒の間で噂される都市伝説[1]。また、その都市伝説の主要登場人物の一人[1]。
その発祥は不明だが、2022年7月現在ですでに多くの在校生に浸透しており[要出典]、生徒の中にはすでに事実、常識の類として扱っている者もいる[誰?]。
伝承の内容には出典によってブレがあるが、共通する内容は以下の通り[1]。

『姫代学園の鏡の中にはアヤちゃんという少女の姿をした“何者か”が住んでいる』
『アヤちゃんは寂しがりやで、鏡の中から生徒に呼び掛ける事がある』
『もしアヤちゃんに呼び掛けられても、決して答えてはいけない。一定の回数[注1]答えると、答えた者はこの世から消えてしまう[注2]』

この都市伝説との関連は不明だが、2022年7月頃から姫代学園では在校生が原因不明の失踪を遂げる事が多くなっており[要出典]、『鏡の国のアヤちゃん』の関連を疑う者もいる[誰?]。

注1:最も少ない口伝では2回、多い例では7回という物もあり、はっきりしない[1]。
注2:具体的には「アヤちゃんに殺される」「鏡の国に連れていかれる」などとされる[1]。

[1]:久遠寺綾乃『姫代学園の噂・伝承・怪談大全202X年版』(姫代学園自主出版部)




アヤちゃんはいるよ


プロローグSS

ファイル1:2022年6月4日
 ええと、記録できているかな。新規に思考記録を始める時はいつも緊張するな。
 いくら名高き姫代学園の結界といえど、このぐらいのささやかな能力発動は見逃してくれる……と思うのだが自信はないな。
 後で直接確認するしかないか。やれやれ。

 まずは自己紹介から行こう。ボクは|綾乃《あやの》。フルネームは|久遠寺《くおんじ》|綾乃《あやの》という。
 ファイルを先頭からごらんの諸君は察してくれている通り、魔人だ。
 とはいえ、能力はまったく微弱かつくだらないものでね。『|万年掲示板中毒《エブリデイ・オートマティック》』という、自分の思考を直接ネット上のファイルに書き込むだけの能力。 
 それを使って、今はこのブログに思考を垂れ流しているという訳だ。
 自分でスマホ開いて書きこんだ方が早いって? まったくだ、ボクもそう思う。
 とはいえ、使えるものは使うのがボクの主義なので、奇特な読者の皆々様には今後もボクとこの能力に付き合ってもらう事にしよう。
 ……何の話だったかな。そう、自己紹介。
 ボクは今年で14歳になる。誰はばかる事のない中二という奴だ。魔人としては実に一般的な年齢だと自負している。
 そしてボクは、いわゆる中学二年生とはまた違った別の顔をいくつか持っている。

 その一つが、怪異研究家。

 ああキミ、引かないでくれたまえ。そもそも怪異とは何だという顔をするのもやめてくれると助かる。
 いちからか? いちから説明しないとダメか? ダメか。
 あー、怪異というのは、単なる魔人能力では説明しきれないが、しかし確かに現実世界に存在している、人外の何者かで……。
 まあ、大半は単なる魔人能力の発露なのだが。
 ようするにあれだ、学校の七不思議! 怪談! 都市伝説! 幽霊話! といったなんだかんだの原因になる奴だ。
 ボクはそういった話が好みでね。そのような話を蒐集し、首を突っ込み、時には正体を明かしたりしている。原稿もたっぷり書いてあるんだぜ。出してくれる出版社は絶賛募集中。いまだに見つからねえ。何故だ。

 ま、それはともかく。今回もまた、そう言った話に事欠かないとある学校に転校してきたのさ。
 そう、冒頭にも名前が出た姫代学園。中高一貫の全寮制のお嬢様学校という『いかにも』なコンディションの学校。
 こういう所だからこそ発生する数々の噂話。部外者だったころにもいくつか小耳に挟んではいたが、やはりその神髄は中にいてこそ味わえるものだと思ってね。
 という訳で、両親に少々無理を言って転校させてもらい、ついでにこの思考ブログも新しい物をレンタルさせてもらった。
 昨日、転校の諸々の手続きが済んで今日からやっと寮暮らし、という訳だ。これからどんな学園生活が待っているか、ワクワクするね。
 それじゃ、今日はこのぐらいにしておこう。同室の|彩志井《あやしい》さんがさっきから怪訝な目でボクを見ているからね。そろそろごまかさなければ。
 命があったらまた会おう。チャオ!


ファイル2:2022年6月18日
 やあ、諸君。二週間ぶりだね。
 やはりこの姫代学園には驚くべき伝承が大量に(そう、大量にだ)存在している。ボクはそれを記録するだけでも大わらわさ。
 あまりに伝承が大量すぎて、それを記録するだけで立派な本になってしまいそうなくらいさ。驚くべきことに出版の当てもつきそうだ!(自主出版部のある学園って素晴らしいね!)
 ボクとしたことが舞い上がってしまいそうだが、こういう時こそ冷静に、クールに行動しなければならない。
 そのクールな心をもって、今日は数多ある姫代学園の伝承の中から、ある一つを君たちにご紹介しよう。
 タイトルはこうだ。

 『鏡の国のアヤちゃん』

 ああ君たち、帰らないでくれたまえ。ルイス・キャロルのあれかよ、という顔をするのもやめてくれ。あれとは恐らくあまり関係がない。
 これは、ボクと寮で同室の|彩志井《あやしい》さんから最初に聞いた話だが、生徒たちにはある程度知られている話のようでね。概要はざっくり言うとこういう感じになる。

 姫代学園の鏡の中にはアヤちゃんという少女が住んでいる。いつから住んでいるのか、アヤちゃんが誰なのか、誰も知らない。
 アヤちゃんは寂しがりやで、鏡の中から生徒に呼び掛ける事がある。だが、もし呼び掛けられても決して答えてはいけない。
 呼びかけに5回答えると、答えた者はアヤちゃんに連れられて鏡の国に行ってしまう。

 こういう感じだ。ありがちだと思ったかい? ありがとう。
 だが、ボクの勘では、こういうありがちな話にこそ、何らかの真実が隠されているのさ。
 実際――あまり大きな声では言えないのだが、実は校内で行方不明者が出ているのは事実のようでね。
 アヤちゃんの仕業かそうでないかは分からないが、怪異の気配を感じるなという方が無理な話だ。
 ボクはこういった勘は信じる方でね。この話、少し深掘りしてみようと思う。うまい事続報が入手出来たら報告するよ。
 では、今日はここまでだ。|彩志井《あやしい》さんが何やら呼んでいるからね。何の用だろう?
 命があったらまた会おう。チャオ!


ファイル3:2022年6月24日
 やあ、諸君。六日ほどのご無沙汰だったね。
 実は、ついにボクの本の出版の目処が付いたんだ! イヤッホー! 金で頬を叩けば出版してくれるタイプの自主出版部最高!
 ……いや、流石にボクだって自主出版部が出版社で無い事ぐらいは知っているとも。だが、これは偉大な一歩の前の小さな一歩という奴だ。これを足掛かりに、いずれ商業出版の高みにも登って見せるとも。うおおやるぞやるぞ。

 そんな事はどうでもいいという読者の皆様の温かいご声援が聞こえるね。ありがとうこんちくしょう。
 では、先日お話しした伝承、『鏡の国のアヤちゃん』の続報をお伝えするとしよう。君達も少しぐらいは興味があるだろう? 無くても聞いていきたまえ。
 六日前に報告をしてから、ボクも学内学外を含め色々なところで話を聞いてみたんだ。すると、興味深いことが分かった。
 実は、この『鏡の国のアヤちゃん』、明確にこの話の類例だと考えられる伝承は姫代学園内でしか伝わっていないんだ。ありがちな話ではあったが、意外とローカルな話だったらしい。
 また、話によってブレも大きかった。例えば、アヤちゃんに呼びかけられて答える回数は、最小で2回、最大で7回まであった。伝言ゲームがあったとしてもかなりブレが大きい方だと言っていいだろう。
 最終的な末路についても、ボクが最初に聞いた『鏡の国に連れていかれる』の他にも『魂が抜かれる』『アヤちゃんに殺される』――パターンが大変に多かった。

 |不自然なほどに《・・・・・・・》だ。

 こういう時、何を疑うかわかるかい?
 ボクならまず……。
 おっと、すまない。|彩志井《あやしい》さんがまたボクを呼んでいる。
 続きは後で追記するよ。チャオ!


ファイル4:2022年6月25日
 やれやれ、|彩志井《あやしい》さんの野暮用に付き合っていたら真夜中になってしまった。もう日付も変わっているんじゃないかい?
 ええと、眠いから手短に行こう。
 こういう時何を疑うか、だったね。
 ボクならまず、|噂が意図的に複数パターン作られている《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》事を考える。
 つまり、人為的な流言だ、ということだ。
 こんな噂を流して誰が得をするのか知らないが、誰かが得をするんだろう。
 その流した主が何のためにこういった改変をしているのか……。
 手がかりは少ないが、突き止めて見せるさ。
 それじゃ、命があったらまた会おう。チャオ!


ファイル5:2022年7月9日
 ……大体の事は分かった。
 ボクはなかなかどうして、結構な悪だくみの根っこを掴んでしまったらしいね。
 なぜか、は分からない。
 だが、どうやって、そして誰が、については概ね分かった。
 あとは、今度出版される本にどうやってこれを……。
 ……。
 なんだい、|彩志井《あやしい》さ……。

 ……しまった。
 |正解は3回か《・・・・・・》。
 鏡の中のボクがヤバい顔をしてる。
 クソ。


最終更新:2022年10月05日 22:33