【チャペル】その1「許されざる者」
ゾッとするほどに青白い三日月の夜だった。
暗闇と静寂に支配された校舎。
屋上にほど近い三年生教室前の廊下にて、
種付豚男とイオマンテが邂逅した。
何故両者は出会ったのか。
『まどか』のメールに誘われたのか
獲物の気配を嗅ぎ取ったのか
真夜中の旧宿直室で女生徒との一戦を終えた後だったのか
互いに逸脱した者の気配を感じたのか
結局のところそんな理由はどうでもいい。
種付豚男とイオマンテは出会った。
ただそれだけが重要だった。
突然の熊。
思わず硬直した豚男に向かい、イオマンテは一つ咆えた。
そうして、躊躇いもせずに横薙ぎに爪を振るった。
辛うじて躱した豚男の眼前を、豪、と猛烈な音を立てて爪が通り過ぎる。
豚男の弛んだ全身から、ぶわりと冷や汗が浮かび上がった。
それだけであった。
戦いは、たったそれだけで終わりを告げた。
豚男は踵を返し、全力で逃げだしたのだ。
恥も外聞もなく。
戦おうという意思の欠片も見せずに。
──種付おじさんが、一人で熊に勝てるわけがない。
ましてや相手はただの熊に非ず。
【拳闘界のバグ】 ウンタラ・カンタラーを打破せしめた【復讐の獣】イオマンテである。
これから繰り広げられるのは、ウンタラ・カンタラーとイオマンテが見せたような闘争ではない。
種付豚男による逃走劇。
そして、イオマンテによる蹂躙劇である。
■■■
許されざる者
■■■
種付豚男が転がるように逃げる。
全身から脂汗と冷や汗を同時に垂れ流す。
豚男は非常に焦っていた。
彼の能力『チンポラー・タイム』は催眠・時間停止・認識誤認・世界改変すら可能な非常に強力なものである。
しかし、その発動には性的な動機と、ペニスの怒張が必須である。
早い話が、イオマンテを性的なものと見て勃起させなくてはイオマンテに対し能力を使えない。
豚男の守備範囲は非常に広い。
それこそ幼女から老婆までいただいてきた。
男だっていけないこともない。
獣姦だってしたことがあるし、させたこともある。
『チンポラー・タイム』を用いて女生徒を獣化させてメスケモを楽しんだこともある。
しかし、ごく当たり前の話だが全てを平等に好んでいるわけではない。
種付豚男にも当然性嗜好の偏りがある。
種付豚男の性癖は────女子高生の蹂躙にあった。
それは彼の暮らしぶりを見れば明らかだ。
催眠・隷属・認識誤認を行える『チンポラー・タイム』を用いれば、金持ち家族の妻娘を寝取り、周囲に認識誤認させ我が物顔で財産を食いつぶすなど朝飯前。
それこそ王侯貴族のような生活だって夢ではない。
跪く性奴隷に囲まれ、自身は何一つ苦労せず遊んで暮らすことが出来る。
高級外車を乗り回し高級スーツに身を包み良い女を抱き倒す生活が出来る。
その彼が、全寮制の女子高の用務員という地位に甘んじている。
生徒たちからクズ、ゴミ、デブ、ハゲ、豚などと呼ばれるに任せている。
それはひとえに、自身の性欲を十全に満たすため。
自分を汚物扱いしていた、若く美しく未来ある女生徒がペニス一つで半狂乱となり男根様、神様、ご主人様などと崇め奉る無様な姿を見下ろすという麻薬のような快感。これを味わうためならば、財産も地位もどうでもよかったのだ。
…かような性癖の豚男にとって、暴れ狂う雄のエゾヒグマであるイオマンテを性的な目で見るというのはいささか時間のかかる作業であった。もしかしたら出来るかもしれない。しかしそれは、好みではないアダルトコンテンツを渡されて、しょうがなく使うような感覚。
自身のペニスのことは自身が一番理解している。
種付豚男は、ペニスが勃起するより先にイオマンテに殺されると確信をした。
故に豚男は、さっさと逃げる道を選んだ。
イオマンテ相手に命がけで勃起を維持し挑む必要なんてどこにもない。
「ヴォオオオオオオァァアアアアアア!!!!」
豚男の背後で、校舎全体をぶるぶると震わせるような獣の咆哮が轟いた。
背を向けて逃げたのがいけなかったのか、イオマンテは豚男を明確に獲物と見定めた。
野性の熊は最大で時速60キロ近く出すという。
狂獣イオマンテは当然それ以上の速度で地を駆ける。
重戦車のような突貫に肝を冷やした豚男は、窓ガラスを破り校舎の外へ飛び出た。
そして、落下しながら素早くスマホを操作し、現在肉便器としてキープしている女生徒たちにLINEを送った。
(すぐにチャペルに来い!)
姫代学園は全寮制である。
よって豚男が呼ぼうと思えばいつでも女生徒たちを呼べるし、ご主人様である自分が呼べばすぐに来るように調教を施してある。実際、深夜の雑な命令にも関わらず、またたくまに既読と返信が付いていく。
イオマンテの『亡キ心』は助けを呼ぶことを忘却させる。
しかし豚男は調教した女生徒たちを自分が自在に使って構わない道具だと本心から思っていた。
女生徒を自由に使うのは、今まさに操作しているスマホを好き勝手に使うのと同等の、当然の権利と自認しているので、躊躇なく女生徒を招聘できたのだ。豚男の中では、これは独力でやっている行為である。
誰の助けも借りていない。持っている道具を使っているだけである。
女生徒をチャペルに呼んだ理由は三つ。
一つ。全寮制で広大な土地を持つ姫代学園に施設は数多あるが、女生徒と自分が今から向かって落ちあうには距離的に丁度良かった。
二つ。イオマンテをただの熊ではなく超常の存在と捉えた豚男は、イオマンテがチャペルの聖域に入れない僅かな可能性に賭けた。
そして三つ。聖域であるチャペルに、言いなりの女生徒を並べるのは“そそる”。
この化け物熊を何とかやり過ごしたら、チャペルで女生徒たちをバチボコにハメ潰そう。
とりあえず剣道部の神崎からひぃひぃ鳴かせて、子宮を赤ちゃんミルクで埋め尽くしてやろう。
神学科の丸田に十字架の前でペニスに誓いのキスをさせてやるのもいいだろう。
その未来に思いを馳せることで、脳髄を獣欲に染め上げる。
今まさに化け物熊に襲われているにもかかわらず、
種付豚男のペニスは隆起した。
『チンポラー・タイム』発動。
赤黒いペニスが瞬時に伸び、裂け、八股の触手となった。
キリノゾミ相手にも用いた、八岐大蛇ンポである。
触手を用いた高速移動。
単純な速度ではイオマンテに劣るが、その立体的軌道と学園の地理を知り尽くしていることによりイオマンテを突き放していく。
猛烈な速さで夜の学園を飛翔すること数分。
豚男は女生徒たちが待機しているチャペルに飛び込んだ。
────神の御許である神聖なるチャペルで、これから血と精と命がはじけ飛ぶ。
無残な最期を迎える豚男の未来を知ってか知らずか、ステンドグラスの聖マリアの瞳は埃で濁っていた。
■■■
息を荒げてチャペルに飛び込んだ豚男。
彼を十数名の女生徒が恭しく頭を下げて出迎える。
「ご主人様!」
「男根様!」「神様!」
「「「お呼びいただきありがとうございます!」」」
どいつもこいつも、肉欲にまみれ知性を感じさせない瞳をしている。
実に豚男好みに仕上がっている女生徒たちを前に、ペニスにさらに血が走る。
「やぁ…みんな、突然呼んだのによく来てくれたねぇ」
豚男はねっとりと笑った。
先ほどまでの、イオマンテに襲われ狼狽していた姿とはまるで別人である。
『チンポラー・タイム』を問題なく扱えるこの状況が豚男の心を和らげた。
女生徒たちを気遣って見せる余裕が生まれ、大物ぶった動きが出来た。
「ちんぽは、心だよ」とは
キリノゾミに対してかけた言葉であるが、
まさにその通りであると豚男は自らの言葉を反芻した。
ちんぽが心ならば、心はちんぽ。
ちんぽが縮んでいるときは心も縮む。
ちんぽが大きくなっているときは心も大きくなる。
肉欲と精神性が直結した酷く浅ましい思考なのだが、豚男は何ら恥じることなく自論の悦に浸った。
とはいえ、イオマンテが豚男を追ってくるというならば、時間は限られている。
豚男は女生徒たちに状況を語った。
学園に謎の化け物熊が現れたこと。
何故か自分は目をつけられてしまったこと。
「そういうわけだからねぇ…奴が来たらちょっと手伝ってねぇ。追い返すだけで十分だから」
ちょっとで済むような簡単な問題ではないのだが、道具を使う感覚の豚男にはどうでもよかった。
何人かの女生徒は「なんで警察を呼ばないんだろう?」と疑問に思ったが、豚男が『亡キ心』の影響を受けているなど予想できるはずもなかった。
そして何より、愛しい男根様の所業に文句を言うつもりなど一切なかった。
「お任せください…ご主人様ぁ…♡」
蕩けた桃色の瞳で真っ先に同意したのは剣道部主将、神崎凛子。
正確に言えば“元”主将である。
凛とした涼やかな目、美しく流れる黒い髪がまとめられたポニーテール、スラリとした長い足と長身。
彼女は剣道部の主将としてその実力を期待されていたが、豚男の毒牙にかかり堕落した。
薄手の白Tシャツ、透けて見える黒ブラジャーに際どいホットパンツという、剣道部時代からはとても考えられない露出度。男を挑発するような上目遣い。日焼けにピアス。むっちり育った尻と胸。
その尻と胸をばるんと揺らし、木刀をピタリと構えた。
凛子は発動時に相手との間合いを半分に詰める『シュクシュク縮地』の魔人能力者だ。
「私がそいつを打ち倒して見せます♡」
「ありがとうねぇ…無事終わったら【ご褒美】をあげるからね」
「~~~♡♡♡!!!」
豚男は粘ついた視線を凛子に送った。
凛子も期待を隠そうともしない淫蕩な笑みを返した。
(アタッカーは凛子に任せるとして…)
豚男は他の集まった生徒を眺める。
神学科の丸田ジャンヌ。
学級委員長の月宮明子。
バレー部の夏川歩美…他多数。
皆美しく才能に溢れていた至高のコレクションだ。
男を悦ばせる術を身につけた淫靡なる集団。
しかし戦闘能力という点では欠けていると言わざるを得ない。
(面倒が多いから魔人能力者の生徒にはあまり手を出していないのがよくなかったな)
多少反省しながら豚男は『チンポラー・タイム』を発動させた。
「ほーら…皆…こっちを見てごらん…」
催眠アプリ発動。
集まった女生徒たちに強烈な催眠をかける。
イオマンテの圧倒的な暴威を目にした豚男は、その恐怖により女生徒たちにかけた肉欲の束縛と催眠が解けてしまう事を懸念し、催眠を強固に上書きした。
「さぁ皆!俺の言う事は?」
「「「絶対♡!!」」」
「はいよろしい。俺の命令以外のことをしないように。逃げるなんて絶対だめだよぉ。お前たちは凛子を中心に援護。そして常に俺を守るよう動くこと!」
「「「はい♡!ご主人様♡!!」」」
これでよし。
自身を守る盾と、『チンポラー・タイム』発動のための材料は完全に確保できた。
豚男はこれでイオマンテの襲撃にもある程度以上対応ができるだろうと胸をなでおろした。
そうして安堵した瞬間、何者かがチャペルの扉を叩く巨大な音が響いた。
■■■
ガン ガン
ガン ガン
神聖なるチャペルに血と獣の匂いが充満する。
ガリガリと扉に爪を立てる音が響く。
べちゃりと、涎が垂れる液体音が奇妙に響き渡った。
チャペルの扉がギシリと軋む。
扉の向こう側に、圧倒的な重量を持った何かが迫っているのが容易に感じられた。
一瞬の静寂のあと、一際強烈な衝撃と破壊音が響いた。
扉がバキリと派手な音を立て破られた。
破壊の先には、血に濡れたかのような赤黒い毛並み。
【復讐の獣】イオマンテの巨体が揺らめいていた。
漆黒の瞳は、増えた獲物たちを前に愉悦に歪んだ。
そのイオマンテを真正面からキッと睨みつけ、剣道部元主将、神崎凛子が木刀を構えた。
ご主人様に良いところを見せようと、朗々と語りかける。
「さぁ!かかってきなさい化け物!ご主人様に手を出す奴はこのわた…ギャブエ!」
汚い悲鳴が響く。豪腕一閃。イオマンテの爪が朱に染まる。
木刀ごと、凛子の両腕が天高く打ち上げられた。
凛子は女子高生としては確かに高い実力を持って【いた】。
しかし、肉欲とマインドコントロールで脳みそをピンク色にした状態で挑むにはイオマンテは荷が重すぎた。
全身全霊、全てを捨てるつもりで挑んだとして時間を稼げるかどうかの巨獣を相手に、全盛期と程遠い弛んだ体のまま、ペニス欲しさで挑んだアバズレには当然の末路であった。
もっとも、将来を期待された女剣士をそんなアバズレに堕としたのは豚男自身であったが。
両の腕が失われたことに呆けている凛子の首筋に牙が突き立てられる。
主戦力であった凛子があっさりと宙に放り投げられる。
まるで踊り食いのように空中で美しかった体が喰い散らからされる。
「や…やめ…痛い痛い痛い…!ぎゃああああああ!!!!食べ・食べ食べ食べないどぉうえぇぇぇェェ…」
集められた女生徒たちに衝撃が走る。
集団に恐怖が走り、混乱に満ちる直前に、豚男が指示を出した。
優先度の低い10名を指名し、高らかに叫ぶ。
「全員で奴に組み付きなさい!」
『チンポラー・タイム』発動。
凶悪な精神汚染は生存本能すら凌駕する。
「「「分かりました♡ご主人様♡!」」」
10名の女生徒が無謀にも凛子を踊り食いにするイオマンテに無手で組み付いていく。
イオマンテは野生動物特有の勘で、組み付きに来た女生徒たちは脆弱で危険のない存在と理解した。
だからこそ、自分を害しうる凛子にとどめを刺すことを優先し、女生徒たちが組み付くままに任せた。
こんな脆弱な存在はすぐに振り払う事が出来る。
そう思いながらイオマンテは命乞いをする凛子の頭蓋を嚙み潰した。
「組み付いたねぇ…君たちの犠牲は無駄にしないよぉ!」
『チンポラー・タイム』発動。
今日の性癖:ブロンズ化。
イオマンテにしっかりと組み付いた女生徒の柔らかな肉体が、冷たい青銅へと変化していく。
美しい女性をそのまま像としてしまいたい、生気ある存在が“物”となる絶望感を味わいたい…
古くはミダス王の時代から存在するマイナーながらも根強い性癖である。
イオマンテの毛皮にしがみついた10名の女生徒全員が物言わぬブロンズ像と化した。
等身大のブロンズ像は150キロを超える重量となる。
総重量1トン以上の負荷をかける檻にイオマンテは囚われた。
「ハハハハ!これで動けないだろ化け物!動けたとしても、こっちに追いつけやしないだろ!」
豚男は高らかに笑う。
「じゃ、俺はこいつらと帰るよ。お前がこのままここにいるのかどうかは知らんが…ここでお別れだ。勿体ないけどお前みたいな化け物のいる学園はやりにくい…別の学校でまた楽しくやるよ。二度と姫代学園には来ないようにするさ」
残った珠玉の雌奴隷、
神学科の丸田ジャンヌ。
学級委員長の月宮明子。
バレー部の夏川歩美。
三人を両脇に抱えながら悠々とチャペルを去ろうとする豚男。
イオマンテを背にし歩んだ瞬間、ガチャリと嫌な金属音が響いた。
「は?」
金属音に振り返ると、そこにイオマンテはおらず、哀れ檻と化した女生徒たちの残骸だけが残っていた。
「??!!は??」
驚愕に喉を震わせる豚男の頭上に、はらりと羽毛が落ちた。
豚男を見下ろすかのように、美しいシマフクロウが悠然と飛んでいた。
シマフクロウはアイヌではコタンコロカムイ、“集落の守り神”と称された。
熊送りとは別に、カムイ・ホプニレと呼ばれる梟送りの儀式もかつては存在したという。
ミネルヴァを例に出すまでもなく、世界各地で神の使い、知恵の象徴として扱われるフクロウ。
フクロウはチャペル内で肉欲にまみれた豚男を冷たい瞳で見下ろすと、ホゥ、と一つ鳴いた。
その瞬間、シマフクロウは元のエゾヒグマの姿に戻り、頭上から豚男に襲い掛かった。
■■■
「ひぃ!?」
とっさに触手化させたペニスで身を守る豚男。
しかしその程度の障壁、イオマンテの爪の前には気休めにしかならなかった。
ブチリと嫌な音がチャペルに響き、八岐大蛇ンポの亀頭がねじ切られた。
さながら斬首刑により頭を飛ばされた遺体のように、亀頭が飛ばされたペニスから血が迸る。
「うぎゃあああああ!!」
痛みと恐怖で豚男のペニスが縮みあがり、『チンポラー・タイム』が解除される。
豚男はイオマンテの前に無防備な体を晒した。
「ご主人様!」
神学科の丸田ジャンヌが飛び出るが、一瞬の時間稼ぎにしかならない。
獣の爪と牙により、哀れ神の御許へ連れて行かれた。
能力が解除されたことで元のペニスに戻ったが、八岐大蛇ンポへのダメージはフィードバックされていた。
種付豚男の自慢のペニスはズタズタにひび割れていた。
とてもではないが勃起など望める状態のペニスではない。
しかしここで何かしなくては無残に死ぬだけ。
豚男は丸田ジャンヌの必死の時間稼ぎの隙に、学級委員長の月宮明子を抱き寄せた。
そうして無理矢理に唇を奪い、胸を揉み、秘所を無遠慮にまさぐった。
眼前で丸田ジャンヌが喰い散らかされる恐怖から必死で目を逸らし、委員長の女体に耽溺する。
無理矢理の形ではあるが、なんとか豚男のペニスは元気を取り戻した。
傷ついたペニスが怒張することで刺すような痛みが走るが、そんなことはどうでもよかった。
『チンポラー・タイム』発動。
今日の性癖:時間停止。
「時間よ、止まれぇええええ!!」
紙一重の停止。
豚男の目前に、自身に狙いをつけた巨獣が目を光らせたまま停止していた。
イオマンテの口からは丸太ジャンヌと神崎凛子の破片がだらりとぶら下がっていた。
「あ・・・アヒ…!!ひひ!ひぃぃぃ!!」
能力が解除された瞬間、豚男は無残に死ぬと確信の持てる迫力と殺気。
横たわる死の気配に豚男は吐き気を催した。
時間を停止したはいいが、停止中にイオマンテを打破する手段が思いつかない。
というよりも存在しない。
そうなれば逃げるしかないのだが。
豚男のペニスに鋭い痛みが走る。
すぐにでもペニスが痛みに負けて萎えそうになる。
「な、なんで!!なんで?なんでぇぇぇええええ???」
時間の止まった世界。
豚男は必死に腰を振り勃起を維持することにした。
時間の止まった委員長にペニスをねじ込み、その強烈な性的刺激で無理矢理勃起を保つ。
能力が解けてしまったが最後、豚男がどのような羽目になるか。
それは周囲に散らばる女生徒の肉片が雄弁に語っていた。
完全なる捕食者が目前に在り、自身は餌である。
そんな状況に、心と同様にペニスが縮みこもうとする。
その萎縮を食い止めるために必死で腰を振り、時間が停止した委員長の穴を貪る。
しかし萎縮に負けないよう腰を振れば、当然ペニスを強い性的刺激が襲う。
豚男が調教を施した委員長は、皮肉にも大した名器であった。
「嫌!待って、ま…あ。あ、あぁぁぁ~~~」
絶望の吐精。
いかな
種付豚男といえど、射精直後にペニスをいささかも萎えさせないなど出来るはずもなく。
時間停止解除。
当然襲い来るイオマンテの爪。
「ひゃ…ひぃぃ!!」
豚男は先ほどまで使っていた委員長をイオマンテに投げつけた。
イオマンテの爪により委員長は両断され腸と命を中空に散らせた。
ほんの一瞬の時間稼ぎ。
「ひぃ…ヒィ…ひぃぃぃ~~!!」
その僅かに生まれた時間で、豚男は必死に床を這って僅かながら距離を取った。
豚男は必死に自身のペニスをしごきあげ、最後に残ったバレー部の夏川歩美に、反勃起状態という事も構わず強引にねじ込んだ。強い刺激で無理矢理勃起状態にする。
「ひ…ひ!じ、じか…時間停止ぃぃいいい!」
それはただの繰り返し。
先ほどよりも近い位置でイオマンテが止まる。
大きく開けられた口からは鋭い牙がのぞき、今にも豚男を噛み潰さんという姿勢で停止している。
無残に切り裂かれた委員長の生首が空中で停止しているのと目が合った。
「アヒヒヒ!ひぃ…ひぃ!!」
当然そのあとの展開も同じだ。
ズタズタで萎えそうになるペニスを維持するために腰を振る。
そしてそれは射精を、能力解除を促す。
声にならない呻きが豚男の口から零れる。
「なんで…なんでぇぇえええ???」
還暦近い豚男が、顔面を蒼白にし、汗と涙と何もかもで顔面をぐちゃぐちゃに歪ませた。
少しずつ、少しずつ歩み寄ってくる死の具現に対し、ただ延命を続けるしかできない。
ただでさえ薄かった頭髪は恐怖であっという間に白くなり、ボロボロと零れていく。
「ひぃ、俺、俺、なんにも悪いことしてないのにぃぃぃぃいいい!!」
今まさに罪なき女生徒を犯しながら、豚男は慟哭した。
豚男は本気で自分に罪はないと思っていた。
イオマンテが豚男の触手ペニスを抉り飛ばした時、『亡キ心』が発動し、豚男は大切なものを忘れ去った。
豚男が忘却したのは────
【魔人能力で楽しみ尽くした、肉欲と悦楽の日々の記憶】
自分が何もしていない哀れな被害者だと本気で信じている。
何もしていない自身に不条理な暴力が降ってわいたことに心の底から絶望し、恐怖し、歯をガチガチと鳴らしている。幼子のように震え、泣きわめきながら腰を振っている。
もしも、豚男に自身の今迄の悦楽の記憶、即ち女生徒を蹂躙し続けてきた記憶があったならば。
この惨事にも、「今までやってきたことの報いだろう」と覚悟を決めるか、
「散々楽しんできたしもういいかな」と満足の中で散ることが出来たかもしれない。
しかし全ての罪を忘れた豚男は、何故、どうして、とうわ言のように呟きながら必死に腰を振るしかできない。
「どうして?どうして俺がこんな目にぃぃぃぃいいいい???」
その叫びは、豚男に犯された数多の少女たちも溢したものであった。
「神様!神様ぁ!俺が・・・俺が何をしたっていうのですか!!かみ…神様!ああぁぁぁあああああ」
時間の停止した世界で豚男の慟哭が響く。
チャペル内で女生徒を犯しながら叫ぶ神の名。
あまりにも悪趣味なブラックジョークであったが、それを笑うことの出来る存在はこの場にはいなかった。
豚男の必死のピストン運動。
時間の停止した世界で、濡らされもせず剛直を突っ込まれたバレー部の夏川は下半身を血まみれにしている。間もなく夏川もほんのわずかの時間稼ぎのための生贄にされるのだろう。
自身のペニスのことは自身が一番理解している。
豚男は、間もなく射精が近いこと、すなわち能力が解除されるであろうことを感じ始めた。
「あ…あ…嫌だ!待って!お願い!」
時間の止まっているイオマンテに何か言ったとしても通じるはずもなく。
豚男は泣きわめきながら一つのことを思った。
(せめて、この熊が視界にいなければ!)
自らを殺そうという獣が目前にいることを理解して、なお勃起を維持できるものが存在するだろうか。
せめてイオマンテの圧力さえなければ。
恐怖にペニスが縮みあがることも無く、勃起を維持し、時間停止した世界を女生徒と繋がったまま逃走出来たかもしれない。
イオマンテの恐怖がペニスを縮め、それに抗うためにこの場で腰を振る羽目に陥っているのだ。
そうだ。せめてコイツがいなければ。
そうでなくても、コイツを認識さえしなければ。
認識さえしなければ!
射精の直前、
種付豚男は天に叫んだ。
そしてその願いは、今まで誰も願う事のないものであった。
「コイツを忘れたい!…忘れ…忘れさせてよぉぉぉおおお!!!」
神の庭たるチャペルに鳴り響く哀れで身勝手な慟哭。
ステンドグラスの聖マリアは、何も言ってはくれない。
クチャリ
終
最終更新:2022年10月30日 21:50