鬱蒼とした森の中を、緑の髪を靡かせたちょっとキツ目の美女が息を喘がせながら全力疾走していた。
すらりと伸びた脚を勢いよく繰り出し美しいフォームで大地を蹴るたび、布地越しにもはっきりと分かる豊かな胸の膨らみが“ばるん!”と揺れる。
額に珠の汗を浮かべ、喘ぎながら酸素を貪る様がなんとも艶っぽい。
淫靡な曲線も露わなぴっちりボディスーツの上に外套を羽織り、膝上丈の黒革のブーツ&ロンググローブという盗賊スタイルで決めた“土くれ”こと我らがマチルダ姐さんである。
その後から、小山のような巨体が木々を押し倒して現れる。
身の丈約4メイル、頭のてっぺんに一本角を生やし、ゴワゴワした獣毛に覆われた下半身とつま先が蹄になった脚を持つ一つ目巨人(サイクロプス)だった。
“も゛ぁ――――――――――ッ!”
サイクロプスは人形アニメ独特のカクカクした動きで逞しい両腕を振り回し、鋭い乱杭歯の生えた口を開けて野太い叫び声をあげると、マチルダを追って猛然と走り出した。
「なんでこうなるのよ――――――――――っ!」
五日前
「金がない」
開口一番マチルダは言った。
クロコダインがティファニアに召喚されてから一年と九ヶ月、森の中の一軒家で慎ましく暮らしてきた二人と一匹だったが、さすがに無収入のままではいられない。
最初は逞しすぎる鰐男を助っ人に盗賊稼業を再開しようかと考えたマチルダだったが、相談を受けたクロコダイン曰く-
「俺も魔王軍に居た身だから過去のことについてはとやかく言えんが、悪人相手とはいえ義姉が盗賊と知ったらティファニアが悲しむぞ?」
そう言われてはマチルダも考えざるをえない。
そこで考えたのがトレジャーハンターへの転身であった。
実際ひとりで盗賊稼業を続けるよりも、モンスターの徘徊する遺跡で高価なアイテムを探すほうが、クロコダインという頼もしい相棒のアシストが期待できる点で危険度は低いと言えるかもしれない。
ティファニアに留守を任せて冒険の旅に出発したマチルダとクロコダインは、イチオツの街で船を雇った。
マチルダが裏稼業の伝手で探し出した船は、空賊くずれのヤルオ船長が指揮する密輸船ニゲト号で、見るからに胡散臭そうな乗組員の姿に苦虫を噛み潰したような顔をするクロコダインだったが、マチルダは笑って言ったものだった。
「ヌルポガの森へ船を出してくれなんて言ったって、堅気の連中じゃあ幾ら積んでも絶対に首を縦に振らないからね、せいぜい寝首を掻かれないようにするさ」
はたして出発して二日目の晩、マチルダとクロコダインは船の乗組員に寝込みを襲われた。
もともと息をするように嘘をついたり裏切ったりする彼らは、誰一人生きて帰ったものはいないと言われる魔の森で宝探しをするよりも、より確実な稼ぎ-土く
れのフーケに掛けられた懸賞金-を採ったのだ。
もちろん密輸船の乗組員程度にあっさり出し抜かれるマチルダとクロコダインではなく、大立ち回りのすえ誰かが不用意に放ったファイヤーボールが硝石の樽を
直撃、ニゲト号は空中で大爆発を起こし、マチルダはレビテーションで脱出、クロコダインは燃える船とともに真っ逆様に落ちていった。
「あのくらいでワニの大将がくたばるなんてことはないだろうけどね」
全く心配していないマチルダ、というよりクロコダインの心配をする暇などなかった。
森に降り立って五分もしないうちに襲ってきたディアトリマを土のゴーレムでどつき倒す。
その後もアンドリューサルクスやエンテロドン、カリコテリウムに鈴木綾一といったケダモノ達に息つく暇なく襲撃され、魔法の源である精神力がガス欠になっ
たところで現れたのがサイクロプスである。
そして-
「ご覧の有様だよ!」
結局南極サイクロプスに捕まったマチルダは荒縄でもって一抱えもある丸太に手足を縛り付けられ、木彫りの熊が鮭を担ぐように肩に担がれて一つ目巨人のねぐらへと運ばれた。
巨大な岩を箱型に組み上げたマイホームについたサイクロプスは、マチルダを縛り付けた丸太を地面に突き刺すと囲炉裏に乾燥した小枝を敷き、火打石で火を起こす。
火が勢い良く燃え上がると、サイクロプスはいよいよマチルダの料理に取り掛かった。
左手で丸太の端を持ち、ギョロリと見開いた単眼の前にマチルダを持ってくると、右手の指を器用に操って鋭い鉤爪を襟口に引っ掛ける。
ビッ!
巨人が無造作に指を動かすと、マチルダの着衣が胸元から臍下まで一気に引き裂かれ、艶かしい大人の女の白く輝く柔肌が外気に晒される。
必死になって身を捩り、少しでも縄が緩まないものかと暴れるマチルダだったが、固く結ばれた縛めはビクともせず、少しずつ服を剥ぎ取られながらポールダンスもどきを演じるだけに終わった。
無骨な外見に似合わず慎重かつ丁寧な作業で、マチルダの珠の肌に傷一つ負わせることなく危険な美女を下着姿に剥いたサイクロプスは、マチルダのあられもない姿をひとしきり鑑賞すると、丸
太を赤々と燃え盛る囲炉裏の上に翳し、舌なめずりしながら女盗賊の炙り焼きを作り始めるのだった。
続く?
最終更新:2010年05月12日 01:25