ヒュンケル召喚小ネタ

「あのね、わたし…、あんたを死なせたくないの」


シティオブサウスゴータの街外れ。廃れた寺院の中で少女は語った。
ステンドグラス越しの夕日が中央にある始祖の像と、そしてその前に立つ2人の男女を淡く照らし出している。

自分の身長の半分も無い小さな少女の、小さな唇から絞り出される震えるその言葉を、男―――ヒュンケルはじっと目を閉じて聞いていた。


「あんた、いつも無茶ばっかりしてたじゃない。
 ヴェストリの広場でギーシュの決闘に付き合った時だって、フーケをやっつけた時だって、……ワルド様が、…裏切った時だって……体中ボロボロなのに、いつもわたしを助けてくれたじゃない…」


高価な水の秘薬を使った水の魔法でも治せない身体で、でもいつも自分を助けてくれた、平民の使い魔ヒュンケル。

『あんたは戦えないじゃない!!下がってなさいよ!』

そう言っても聞く男じゃなかった。
『大丈夫だ』と、いつもその一言で自分の命令を簡単に反故にして。
ボロボロの体の癖にいつも…、いつも、紙一重の勝利をその手に提げて戻ってきてくれた。

ルイズは常にハラハラさせられ通しだった。
そして戦地に笑って赴く彼を助けることができない自分を―――帰って来た彼を癒してあげられない、「ゼロ」である自分を歯がゆく思っていた。


『わたしは結局『ゼロ』のままなのね…』

そう落ち込んだときもあった。

―――でも、今は違う。


「わたし、あんたのおかげでこの力を手に入れることができたわ。『虚無』の力…。あんたがいなかったら、わたしはずっと『ゼロ』のままだったかもしれない。
 ……だから恩返しをしたいの。あんたを助けたい、死なせたくないの……ヒュンケル…」


絞り出すように言って、ルイズはマントを握り締めた。
連合軍撤退のための時間稼ぎとして、ルイズには『虚無』の力を使っての街道の死守命令が下っていた。
死と同義のその命令に殉ずるのはやはり怖かった。

でも、ここはたった一人で行かなくてはいけない。

相手は7万の軍勢なのだ。
今度この使い魔に力を振るわせたら、そのときは間違いなく死んでしまう。
それは絶対に嫌だった。

いつも助けられてきたんだから。
だから今度は自分が守らなくてはいけないのだと、ルイズは堅く決心していた。

マントを握り締め、恐怖を打ち消した。

「今度ばかりはあんたを行かせないから。あんたは早くロサイスに戻って…」
「ルイズ。」

心地いい低音の声にさえぎられて、うつむいていた顔を上げたルイズ。
その瞬間、首の後ろあたりに衝撃を受けた。何?と思う間もなく、一気に意識が遠のいていく。

「ヒュン、ケル…?」
「気持ちだけで十分さルイズ。心配するな。…俺は不死身だ」

薄れ行く意識の中、ルイズはそんないつもの言葉を聞いた気がした。


小高い丘の上。
デルフリンガーを携えてヒュンケルはたった一人、眼下に見えるアルビオン軍7万の軍勢を見下ろしその場所に立っていた。

「いやぁ!かっけーなぁ相棒!『俺は不死身だ。』なんて、かーっ!普通の男じゃ言えないぜ!」

場に似つかわしくないような陽気な声が風に流されていく。ヒュンケルはフッとそれに冷笑を返した。

「少し口を閉じたらどうだ、デルフ」
「いつものことさね!気にしたら負けだぜ、相棒?」
「…そうだな、いつものことだ」

少し楽しげにつぶやいてヒュンケルはデルフリンガーを地面に刺し、そして構えた。
左手に刻まれたガンダールヴのルーンが光る。

「でもよう。いくら相棒でも今度ばかりはヤバイと思うわけだよ」
「そうかもしれんな」
「…なあ相棒」
「なんだ?」
「相棒からはいまひとつ危機感みたいなもんが感じられないんだけど」
「俺にとっては命すら武器の一つに過ぎないだけだ」
「わからんねぇ。なんであんな娘っこなんかのために命を懸けられるのか」

デルフリンガーに言われ、ヒュンケルはスッと目を閉じて考えた。
思い出す、亡き父の顔。思い出した後はゆっくりと目を開いて、それからヒュンケルは手元の剣に向かって笑った。

「あんな小さな女を見殺しにして生き残ったら、俺がいつかあの世に逝ったときに武人だった父に叱られてしまう」
「ははッ、そうかい。じゃあ俺もそんな相棒に応えるためにがんばるとするか。俺だってブチ折られた後、あの世でブリミルに叱られるのはカンベンだ」

左手に光るルーンが輝きを増した。ヒュンケルの心にある熱い闘志に呼応するかのようだった。

「ぬううっ…!!」

体中が悲鳴を上げている。腕の先から砕け散っていくような激しい痛みだった。
それでもなおヒュンケルの闘志は萎えない。

「すげえ!すげぇぜ、相棒!たとえお前の命が燃え尽きようと、俺はお前に会えたこと一生の誇りにするぜ!?」

ルーンの輝きが剣へと伝わり、逆さに構えられたデルフリンガーが聖なる十字架を築きあげる。

「いくぞデルフ!」
「まかせろや相棒!!」


「 グランドクルス!! 」


まばゆいばかりの十字の閃光がハルケギニアの空に輝いた。

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最終更新:2008年06月27日 15:28
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