ダイ小ネタ

七万人の軍勢に特攻し、紆余曲折はあったがどうにか生き延びた才人は命の恩人であるティファニアの生い立ちを聞くために居間に向かった。

森の中に隠れるように存在するこの村へ今日、傭兵崩れが現れた。
それを止めようとしたサイトだったが、特攻した際に一度心臓が止まってしまったせいで使い魔としての能力を失い、手も足も出なかった。
情けなさに身を焼かれる思いを味わう才人の前で、ティファニアは虚無の魔法を使い、傭兵達を追い払った。
同じ虚無の系統のメイジを知る才人には、彼女の生い立ちがどうしても気になり、尋ねたのだった。
しかもティファニアはエルフだ。才人は、わけがわからなかった。

ティファニアの家には、5つ部屋があった。
才人が寝かされていた部屋、彼女達の寝室が3つ、そしてこの居間。
子供たちは三人ずつで一軒を与えられ、そこで暮らしているが、食事はティファニアの家で取っていた。
子供達は今はいない。夕飯をすませた子供たちは家に帰されていた。
子供達と食事をしている時は狭くて仕方がなかったテーブルは今はとても大きく感じられる。
ティファニアは納屋からワインを取り出してきて、そこにグラスと共に並べた。
暖炉には薪がくべられ、その上では鳥が炙られている。

「待たせてしまってごめんね。夜にならないと、話す気になれないものだから」

いいよ、と才人は言った。
ティファニアは、暖炉の中で炙られる鳥を見つめながら、ゆっくりと語り始めた。

「母はね、アルビオン王の弟の……、この辺りは、サウスゴータっていう土地なんだけど、ここを含むさらに広い土地を治めていた大公さまの、お妾さんだったの。
大公だった父は、王家の財宝の管理を任されるほどの偉い地位にいたみたい。母は財務監督官さまって呼んでたわ」
「お妾さん?」

才人が尋ねた。才人の質問にデルフリンガーが柄を鳴らして返事をする。

「愛人ってこったよ。奥さんとは別の、女の人ってことさ」
「なるほど…」

奥さん以外にも女を作るなんて…才人も少しは羨ましかったが、実際にその結果を見てみるとなんともいえない奇妙な気持になって、声のトーンが勝手に下がってしまった。

「なんでエルフが、その大公の妾なんかやってたんだ?」
「そのあたりのことは知らないわ。エルフの母が、どんな理由があって、このアルビオンにやってきて、父の愛人になったのか、わたしは知らない。母も決して話そうとはしなかったし……。
でも、このハルケギニアで、エルフのことを快く思ってる人はいないから、何か複雑な事情があったことは間違いないと思う」
「エルフから聖地を取り返すって言ってるぐらいだからなあ」

しみじみと言う才人にテファは頷いた。

「ええ。そんなわけで、母はほんとの意味で日陰者だったの。公の場はもちろん、めったに外に出ることさえできなかった。
屋敷の中で、ずっと父の帰りを待つ、そんな暮らしを続けてた。今でも思い出すわ。
ぼんやりと、ドアを見つめる母の背中……母譲りの耳を持つわたしも、外に出してはもらえなかった」

才人はしんみりしてしまい、ワインを一口飲んだ。
ティファニアが、『年頃の男の子と余り話したことが無い』のは、そういう理由があったのだ。
男の子はもちろん、女の子の友達もいなかったに違いない。

「でも、母とのそんな生活は、それほどつらくはなかった。
たまに来る父も優しかったし、母はわたしにいろんな話をしてくれたから。母はね、楽器や、本の読み方も教えてくれたのよ」
「そっか」
「そんな生活が終わる日がやってきた。四年前よ。父が血相を変えてわたしたちのところにやってきたの。
そして、『ここは危ない』と言って、父の家来だった方の家に、わたしたちを連れて行った」
「どうして?」
「母の存在は、王家にも秘密だったらしいの。でも、ある日それがバレちゃったらしいのね。
王族であり、財務監督官である父がエルフを愛人にしていた、なんて、これ以上ないスキャンダルだわ。それでも父は、母とわたしを追放することを拒んだのよ。
厳格な王さまは父を投獄して、あらゆる手を使ってわたしたちの行方を調べた。そしてとうとう、わたしたちは見つかってしまったの」

才人は息を呑んだ。
「今でもよく覚えてる。降臨祭が始まる日だったわ。わたしたちが隠れた家に、大勢の騎士や兵隊がやってきた。
父の家来だった貴族は、必死に抵抗してくれたけど……、王さまの軍隊には敵わない。すぐに廊下を、騎士たちがどかどかと歩く足音が聞こえてきた。
母はわたしをクローゼットに隠すと、その前に立ちふさがった。わたしは、父から貰った杖を握って、ずっと震えてた。部屋に兵隊たちが入ってきたとき、母はこう言ったわ」

その後の残酷な展開が頭に浮かんでしまい、思わず才人は目をつむった。

「『なんの抵抗もしません。わたしたちエルフは、争いを望みません』。でも、返事は魔法だった。
恐ろしい呪文が次々母を襲う音が、聞こえてきた。でもその次に聞こえてきたのは母じゃなくて王様の軍隊の人が上げた悲鳴だったわ」

「へ?」

才人は拍子抜けして間抜けな声をあげた。
普通、というか今の話の流れから言って不謹慎だが…テファの母が殺されてしまうんじゃあないのか?
そう才人は思ったが、間抜けな顔をする才人に話を続けるテファは気づいていないようだった。

「さっき出て行ったダイが、怒って軍隊を追い返したの。そのお陰で私達はここまで逃げ延びる事が出来たのよ」
「…ちょ、ちょっと待ってくれ。ダイさんって、戦うのが怖いとか何とか言ってたって」

才人はこの場にいない男の事を思い出しながら尋ねた。
森に倒れ死にかけていたサイトを見つけてくれ、今はトリスティン軍がどうなったか気にする才人の為に村を空けている青年は、戦うことを怖がっていた。
背は才人より高く、体にも筋肉が付いていたがその裏表の無い優しい気性の男で、とても戦えるようには見えなかった。
だがテファは悲しそうにサイトに説明する。何か後ろめたい事でもあるような表情だった。

「うん。でもあんな所を見てそうも言ってられなかったから、無我夢中だったって…
それからもダイはずっと私達を守ってくれてるの。何かに追われてるみたいに得意な事だけじゃなく、紋章の力を使わなくても戦えるようにって、いっぱい勉強してるのを私は見て育ったわ」
「じゃ、じゃあ今日もダイさんがいりゃなんとかなったのか?」
「今まではダイが倒した後に私が記憶を消していたの。誰かが村に近づいてきただけで気付いて、あっという間に倒しちゃうから」

頷いて返されたその言葉を聴いて、才人はテファの表情のわけに気付いた。
テファは戦う事を怖がっているダイが、テファ達を守る為に戦いに備え、その時が着たら戦わなければならないことに罪悪感を覚えているのだ。
そう察したが、いい言葉が思いつかずに口ごもる才人の代わりにデルフリンガーが口を挟む。

「紋章って使い魔ルーンのことか。お前さんの使い魔はどこにあるんだ?」

デルフリンガーらしくない強い口調だった。
テファは不思議そうに、甲を向けた片手を挙げてデルフリンガーに見せる。

「右手よ。ダイが本当に怒ると、ドラゴンを象ったような紋章が右手に現れるの」
「右手か…とりあえず一安心だな…ったく、胸だったらどうしようかと心配だったぜ」
「あ、でも…時々左手に出ている時もあるわ」
「左手にも?」

才人とデルフリンガーは揃って首を捻ったが、「ま、胸じゃなきゃいいんじゃねぇ?」とデルフリンガーが言ってその話は打ち切りとなった。
才人は気分を変えようとワインを飲む。

テファ達が静に暮らしたいのなら虚無の事をきつく注意しておかなければいけないと思い、今度は才人が語り始める。
だけど虚無の話をしようとした才人は、テファが出してくれたワインが思いのほか強く酔い潰れすぐに眠ってしまった。


その後、ミョズニトニルンに攻め込まれたり、ヨルムンガンドに攻め込まれたりもするのだが…彼女の使い魔があっさり制圧し、そのまま彼らは姿を消してしまった。
そうしてテファが歴史の表舞台に立つことはついになかったと言う。



バーン敗北後逃亡ダイを召喚

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最終更新:2008年07月11日 06:54
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