「……なあ」
鳥人間と呼べる外見の魔物が、傍らの図体の大きな魔物を肘でつついた。両方とも愛嬌のある顔だ。
「何だ」
「ここ、どこだ?」
彼らは魔王軍に所属し、魔軍司令ハドラーの親衛隊として働いてきたはずだった。
しかし、彼が超魔生物へと変貌したため「お前たちではハドラーの親衛隊は務まらん」と大魔王から宣告され、閑職へと追いやられた。
仕事の量こそ減ったものの虚しさを感じていた彼らの前に光り輝く鏡が現れ、好奇心に任せて触ってしまったら見たこともない世界に来たのである。
「すごい、二匹も召喚するなんて!」
「やったわね!」
桃色の髪の少女が勢いよく背や肩を叩かれ、まるで凱旋した勇者のようにもみくちゃにされている。
今までゼロのルイズと呼ばれ散々バカにされてきたが、呼び出したのは強そうな魔物、それも二匹である。嬉しくないはずがない。
滝のごとく涙を流しながら事情を呑みこめないでいる使い魔二匹に状況を説明した。
「……ということでよろしくね。わたしはルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
「おれはハドラー様の親衛隊の一員アークデーモンだ。元、だけどな」
「オレはガーゴイルH」
アークデーモンが面白くないように呟くが、ガーゴイルHはこの状況をあっさり受け入れているようだ。
「何で人間の使い魔などにならなければならんのだ」
「いいじゃないか、どうせ魔王軍の中にいたって出世は望めなかったんだ。上昇志向より安定志向でいこうぜ」
ガーゴイルHは牙を剥くつもりはないらしい。苦労する日々の中で覇気が錆びついてしまったのだろう。
魔王軍の一員としてそれでいいのかと言いたくなったアークデーモンだが、ここで暴れては実力者たるメイジの反撃を呼ぶことになる。
しばらくは人間への敵意を棚上げするつもりだった。
「アークデーモンよお、魔王軍は給料はよかったけど仕事はむちゃくちゃキツかっただろ? こっちの世界じゃ給料は出ない代わりに残業もゼロだぜ!」
「そういう問題じゃないだろう……」
使い魔として二十四時間働くことになるのだから残業も何もないのだが、ガーゴイルHはそこまで考えていないようだ。
アークデーモンは溜息を吐いたが、ここでめざましい働きを見せるというのも憧れる。
元の世界では出番も活躍もなくなったただの魔物だが、こちらではそれなりに目立つことができそうだ。
それに、上司の魔軍司令ハドラーは心配して駆け寄った部下を八つ当たりで殴ったりもしていた。おそらくルイズはそんなことはしない――と思いたい。
地球から召喚された某少年が苦笑いするようなことを考え、アークデーモンは意気込みつつ己に刻まれたルーンを眺めた。
~完~
最終更新:2008年08月25日 19:36