雷切―口舌院言切による菅原道子攻略―前編


その日の希望崎学園は大きな雨雲に包まれていた…
「うおおおお、こんな機会滅多に無いんだ!急げぇ!」
撮影機材を手に手に校庭を目指しひた走る20の人集団は映研部の部長、荒巻映二と彼を支えるスタッフ達だ。
皆必死の形相で機材を抱え、目的の場所へ向かっている。
「何だってこんな時にギャラリーが沢山居るんだか…皆ちゃんと付いて来てるかぁ!?」
「ハイ!大丈夫です。監督!」
彼らが目指す校庭には学園の行事がある訳でもないのに大勢の人だかり…一体何が始まろうというのか?
「すいませぇん!映研部です!ほらほら、退いた退いた!」
その答えは人ごみを掻き分けた彼らの視線の先―校庭の中心にあった。
校庭の中心には二人。一人は身の丈程の長さを持つ大太刀を背負い仁王立ち、一人は居合いの構えだ。
大太刀を背負う剣士は菅原道子である。学園内の抗争において無敗を誇るのじゃロリ電撃剣士だ。『一撃必殺』とは彼女と戦う者は一撃のもとに葬られるための仇名である。
ド派手な金のモールドがあしらわれたファー付きの改造制服(注1)を着ているため、その姿は遠目からでも非常に目立つ。
もう一方は口舌院言切である。詐術を操る口舌院家の子でありながら、剣術を極めた異才の持ち主である。
お互い、得物は玩具の安っぽい刀ではあるがそれに疑問を持つ者や茶化そうとする者は誰も居ない。
両者を取り巻く空気は既に真剣同士による決闘と全く変わらぬものであったからだ。
何故この決闘が行われることとなったのか?それは先日の事であった―
(注1:道子が戦闘用にわざわざ着る制服…制服?)
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昼休みも中頃、来るハルマゲドンに向け口舌院はそれなりに集まっていたメンバーと作戦会議を行っていた。
「失礼するぞ。あー…くーちゃん(注1)、頼みたいことがあるんじゃが、いいかの?」
生徒会室のドアが開き、何やら真剣な面持ちの道子が入ってきた。
口舌院と道子の二人に幾人かのメンバーの視線が集まる。
「如何したの、みっちゃん。そんな顔して―」
口舌院が言い終わるが早いか、道子はドゲザ(注2)をした。
「くーちゃん…頼むっ!わしと…わしと決闘してくれぇっ!!」
額を床に付ける道子の脇には肌身離さず持ち歩いている大太刀は無く、代わりに2本の玩具の刀があった。
この得物を用いて勝負しようということらしいが…
「みっちゃん?これは一体どういうつもりで」
突然のドゲザ&決闘の申し出、面食らうのも無理はない…その言葉に道子は顔を上げた。
「気付いたんじゃよ…!わしは、今のわしでははるまげどんを生き抜くことなどできぬとっ…!」
道子のただならぬ様子を見て、テーブルに置かれていたバブルアキカンは口(飲み口ではない)を開いた。
「何やら訳ありみたいメカね…口舌院が納得できるようにちゃんと話してみるメカ」
バブルアキカンの言葉を受け道子は一度、深呼吸をした。
「…少々、時間をもらおうかの。なに、昼休みが終わる程長くはないでな」
(注2:道子の口舌院に対する愛称)(注3:ドゲザは、母親とのファックを強いられ記憶素子に保存されるのと同程度の、凄まじい屈辱である)
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「幼少の折、天満宮にて賜った力でわしは長い年月(注3)の間勝利し続ける人生を歩んでおった…
魔人の力"えれきてるぱわー"…それはわしを常に導いてくれた。敗北や迷走等といった事とは全くの無縁じゃった。
じゃから、な?生徒会の面々と相手方の一部の能力を把握しただけでこう、思ってしまったんじゃよ…」
道子は頭を垂れた…作戦会議を行っていた生徒会室はしん、と静まり返っている
「この戦は余裕で勝てる。わしらが適当に動くだけで一人の死者も出さず終わりそうじゃ、とな…お笑いじゃよ、まったく。
今までのようにわし一人ならばまだしも此度のはるまげどんは集団による戦。
なればこそ、そのような心構えで戦っていてはわしの死を招くだけでなく、陣営全体の敗北にすら繋がりかねんというのに…
そして今になって漸く気付いた…わしは戦いの中で戦いを忘れておったのじゃとな。
『一撃必殺』あまりにもあっけなく終わる戦いを繰り返した事でわしは驕り高ぶり自らの剣を錆び付かせてしまったんじゃよ…
惨めな…ものよの…ほんっと、う…に…っ」
道子の涙が、生徒会室の床を静かに濡らし始めた…
「じゃからくーちゃんよ…決闘にて、一撃必殺の技に酔いしれ…龍門を登る事すらせぬただの鯉を討っておくれ…
そうすることで…わしはまた剣の道と言う名の龍門を昇り始める事ができるんじゃ…頼むっ!」
懇願する道子に、口舌院が手を差し伸べた
「承知しました。その決闘、受けて立ちましょう」
そして、現在に至る―
(注4:道子の主観。正式な年数は不明)
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雨が降ってきた。
「ねえ、動きが無いんだけど。どーなってるの?」
映二達が撮影を始めて数分が経過しても尚沈黙を保っていた両者であったが、ここで初めて道子を口を開いた
「では、始めるかの」
言うや否や道子は両の手で背負った大太刀の鯉口を切りその場で軽く跳躍―
*ぶおん!*玩具の大太刀がいい音を立てて振り下ろされ抜刀が完了する。流れるように脇構えに移行し…次の瞬間!
*ぴしゃあ!*途轍もない雷鳴を立てて道子は弾かれるように駆け出した!
稲妻の如く地を駆け荒々しい跳躍も交え…時にはランダムにフェイントを交えたステップを踏みつつ口舌院の周囲を回る。
「(これが彼女の…!)」
普段の彼女とはまるで違う様を間近で見せ付けられた口舌院は玩具の刀をきつく握り直した。
道子の眼が怪しい輝きを放ち、彼女の動きに合わせて赤い残光が走る―
そう、既に道子の能力"えれきてるぱわー"は発動しているのだ!
戦闘行動を始めた雷の魔人は今や曇天の下において観客達からでもはっきりと確認できるほどに強烈な雷光を纏っている!
…スパイのスの字も無い!やがて雷の魔人は己の能力を十全の状態になったと判断し、砂煙を上げながら速度を落とし口舌院の前方で停止した。
おお、見よ!彼女の禍々しい姿を!特徴的な美しい白髪は幽鬼の如く妖しくゆらめき、緋色の眼は鮮烈な輝きを放ち、制服の毛は能力の影響を受け逆立っている!
「ゆくぞくーちゃんっ!この雷の一撃…受けてみよっ!はあああああああっ!!」
雷の魔人は何時も通り…一撃で勝負を決めるべく、大太刀を上段に構え口舌院に突進した!
「………その雷、斬らせてもらう!」
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最終更新:2014年07月01日 06:25