雷切―口舌院言切による菅原道子攻略―後編
目撃者はこう言った。
「いや、口舌院が雷を切ったんだよ!
すげえでっかい音がしたと思ったらさ、菅原が倒れていたんだ!!」
映像部の監督はこう語った。
「ああ、あれはスゴイシーンだったよ。
といっても、雷の光と衝撃で動画としちゃあ全然駄目だった」
後にこの事件は『雷切』と呼ばれる。
口舌院の手におもちゃの剣。おもちゃといっても魔人同士が打ち合うためのおもちゃの剣である。
それは子供がヒーローの真似事をするためのプラスチックの剣ではない。その程度の強度では振るだけで自壊する。
魔人の用いるおもちゃの剣とは世間では模造刀、十分殺傷力をもった危険物なのだ!
菅原道子と口舌院言切の体は雨により艶やかに濡れている。二人とも自分が濡れることに全く頓着していない。
着衣は二人の肌に張り付き体のラインを強調する。これが決闘の場でなければ欲情を誘うであろう。
二人とそれらを取り巻く見物人の熱気も手伝い、湿気が決闘場を覆う。
「では、始めるかの」
と道子が言うとその場で跳躍、大太刀の鯉口を切り抜刀。
そして、脇構えに移行しこちらに突撃してくる。ときにはランダムにフェイントを交え、口舌院の周囲を駆け巡る。
(これが彼女の・・・!)
普段の彼女からは考えられない動きに口舌院は己の刀を強く握りなおす。その手には汗が溢れていたが、その汗も雨と混じって流れていった。
道子の双眸は妖しい輝きに溢れ、その軌道上に紅い光がゆらゆらと残る。
見るがいい。雨とその湿気の中、校庭の真ん中を雷光で満たすその姿を。
これこそ道子の魔人能力『えれきてるぱわー』。
雷とは「神鳴り」とも呼ばれ、古来より神の力の顕現として恐れられてきた。タケミカヅチ、トール、ゼウス、インドラ。
雷を司る神は主神やそれに順ずるものとして崇められて来た、その力を持つ道子に対して見物人が抱いた感情もまた畏れである。
体に纏った雷により、その白髪は宙に浮き上がりゆらゆらと揺れている。瞳の輝きは明るさを増すばかりだ。
「ゆくぞくーちゃんっ!この雷の一撃・・・受けてみよっ!はああああああっ!!」
もはやその小柄な体の幾周りも巨大な雷を背負い、口舌院に道子は突進した。
「・・・・・・・・・その雷、切らせてもらう!」
光、光、光。
その瞬間に何があったかを決闘の当人の菅原道子ですら把握できなかった。
ただ、口舌院が抜刀した瞬間が見えただけだ。
こ
激しい運動を行 の うことにより発動する超自然的発電現象。
能力により体内 湿 に溜め込まれた電気は雷の如く強烈で加減が利かないため
専ら攻撃に 度 用いられる。
な
ら
何かが己の妄想を、魔人能力を切り裂く。
それは心の中に深く深く切り込んでいく。
帯 故
激し 電 運 に より発動する超自然 現
力に は 雷 に溜め込まれた 気は雷の く強烈 加減 効かな
ためら 発は 用いら 。
拡生
散 し
す な
る い
「きゃああああああ!!!!」
絶叫。それが道子自身の声だと気付いたときには彼女は倒れていた。彼女だけでなく、周りの見物人も半数くらい倒れていて、もう半数もふらふらとようやく立っているというていだった。
「勝負ありですね」
と、口舌院は道子に刀を突きつけていた。その服のあちらこちらに黒い焦げが付いていた。
「・・・そのようじゃの」
その言葉を聞くと、口舌院は刀を納めにっこりと笑った。道子も笑った。決闘前の慢心はもはやなかった。
「いやあ、これでわしの慢心も晴れた」
「それならよかった。あなたの剣術なら、ハルマゲドンに勝てると思うのも仕方ないことですよ」
そうして、二人は固く握手をした。
「・・・ぐぅ」
決闘が終わり、1人になったところで口舌院は膝をついた。
口説院はたしかにえれきてるぱわーを破った。しかし、無傷ですんだわけではない。
道子の能力を切り裂いたときに、その身に纏った雷が開放され発生した側雷撃。それが口舌院を襲ったのだ。
むろん、えれきてるぱわーと戦うことを想定していた口舌院は、全身に金属を隠し持っていた。これにより電撃の刀から地面への逃げ道を作りだしたのだ。それでも、体のあちらこちらが焼かれていた。
「これが・・・殺し合いなら、こちらが死んでいたかもしれませんね」
彼女が味方で良かった。そう口舌院は心の底から思ったのだった。
最終更新:2014年07月01日 06:27