櫛故救世SS(第一回戦)

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dangerousss

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第一回戦第五試合 櫛故救世

名前 魔人能力
医死仮面 サナティック・アスクレピオス
一∞ 眼鏡の王(Lord Of Glasses)
櫛故救世 鈴具輪久

採用する幕間SS
なし

試合内容

「できればこういう列車には、仕事じゃなくてみんなと遊びに来た時に乗りたかったなー」
客室の椅子に腰かけ、窓の外の風景を眺めながらぼやいた。
今回の試合会場である特急列車は、中々豪華な造りになっているようで列車の席は個室になっていて廊下も広く、戦うには十分な広さが確保されていた。
「個室にはベットやタンスが用意されてるし、食堂車もあるみたいだし長旅にはぴったりなんだろうな」
ぼやいてから立ち上がる。この試合会場に送られてから少しの間待っていたのだが、どうやら待っているだけでは相手は来てくれないようだ。
「さて、本当なら二人が潰しあってくれたあとに動きたかったのだけど……仕方ない、私から動くか」
そう言って――チリン。と音を鳴らしながら部屋から出るのだった。
―――――
――――
―――
「……待っていたら全然来てくれなかったのに、こっちから動いてみると意外とすぐに会えるものですね」
部屋を出てから三つほど車両を移動すると、鳥の嘴のような仮面をつけた派手な格好の男がこちらに歩いてきているところだった。
男と言ったが見た目から性別は判断がつかない。背格好からおそらく男だと推測されるが、その推測があたっている保証はない。
杖を持っているが、しっかりとした足どりで歩いていたため歩行補助のための器具ではなく武器なのだろう。
事前に対戦相手の名前は聞いていたが、格好からおそらくこの男が医死仮面だろう。
「ふん」
医死仮面は救世の呼びかけに鼻を鳴らした。その音は、機械でいじったように甲高い耳に付くものだった。
そして、無造作に杖の先端を救世のほうにむけてくる。と先端に空いた穴から針が飛び出してきた。
「せっかちですね。そんなに焦らなくてもいいのに」
――チリン。と音を鳴らしながら針を避ける。
距離があるのに杖を向けてきた時点で隠し武器は予想がついた。一直線に飛んでくるだけなら射出口と発射タイミングを読むだけで避けることはできる。
「あいにく、敵と話す趣味は持ち合わせていないのでな。さっさと死んでくれ」
針はただの牽制のつもりだったのか、救世が避ける間に距離を詰めてきてメスで切りかかってきた。
「おっと。同感ですけど折角の列車の旅で格闘大会なんですから少しは楽しみましょうよ……そう思って開き直りでもしないとやっていられませんよ?」
そのメスを小太刀で受 け止め二度三度と切り結び合う。メスと小太刀では武器としての差があるはずなのに互角の打ち合いだった。
(うーん、接近戦は相手のほうが上かな。というより身体能力の差が結構大きい。
 まだ武器を隠してそうだし、このまま正面からやり合うのはこっちが不利かも)
切り結びながら救世は考える。相手はメスだけでなく杖も使い始めており、このまま切り結ぶと自分が負ける可能性が高いだろう。
(よし、一旦逃げよう)
元々正面からの戦闘ではなく、暗殺や奇襲など隠れての戦闘が多い救世は相手から逃げることに躊躇がなかった。
大きく小太刀を振り払い間合いを取って、互いに仕切り直すように向き合うと、背を向けて走り出した。
「なっ!?」
切り結んでいた敵に背を向ける というのは隙だらけになるので普通ならありえない行動――それゆえに一瞬医死仮面の反応は遅れてしまった。
「待て、貴様」
慌てて追うが救世はすぐそばにあった客室に入ってしまっていた。
(誘いのつもりか……面白い乗ってやろう)
扉を開けた時に奇襲を受けることを警戒して一気に扉を開く―――部屋の中には誰もいなかった。
(いない?……いや、確実にこの部屋に入ったはず。ということは隠れて奇襲でも狙っているのか?)
医死仮面も先ほどの切り合いで自分のほうが接近戦において優れていることは把握していた。それゆえに相手が逃げ出したことも。
そして逃げだしたからには次に行う攻撃が、必殺狙いの奇襲だろうということも理解していた。
(なら、それを誘えばいい 。下手に探すよりもわざと隙を見せて……隙のようなものを見せて返り討ちにしてやろう)
部屋の中で隠れられそうなところは三か所。入口横のタンスと奥の壁にあるベッド、そして窓際の椅子。
医死仮面はとりあえず一番近くのタンスを開けたが中には何もなかった。
(となると、机の影かベッド……一応能力で隠れている可能性もあるが、どちらかにいる可能性が高いか)
考えた結果、とりあえず机を調べてみることにした。これで部屋の中には背を向けることになる……奇襲を仕掛けてくるつもりならばこの隙を狙ってくるだろう。
(そこを返り討ちにすればいい。さっき見た速さならばどこに隠れていてもこちらが先に反応できる)
背後を警戒しながら、机の側に近寄った――チリン
室内 に背を向けたことで、予想通り背後から攻撃をしかけてきたらしい。さっきの打ち合いの際にも聞こえた鈴の音が聞こえた。
(予想通りだ。これで――)
反撃のために振り向き仕込み針を飛ばしメスを振るう。だが……そこには誰もいなかった。
「な、に?」
すぐ後ろに近付いていたはずなのに誰もいない。能力で姿を隠しているのかとも思ったが毒針にも、振るったメスも虚空を薙いだ。
完全に、誰もいない。
そしてその驚愕は大きな隙となった。
――バリン
突然窓ガラスが割れて、破片が医死仮面めがけて大量に降り注く。
「くっ……!?」
思考停止していた医死仮面はつい反射のままに振り向いてしまい、反射のままに――本来仮面をつけているので庇う必要はないのに、目を庇っ てしまった。
そして目を庇ってしまい視界を塞いだことが、最大の隙となる。
「――これで、さよならです」
仮面と服の間、唯一露出していた喉を小太刀が貫く。
小太刀が引き抜かれると、喉から鮮血が迸り医死仮面の体が崩れ落ちていく。
「言い残すことは……あったとしても言えませんよね。一人寂しく死ぬのもあれでしょうから、せめて死ぬまでは見ていてあげますよ。
 ……生死の確認は一応しないといけませんしね」
そう言って倒れた医死仮面に近寄ろうとした時、猛烈に嫌な予感が背中を走った。
「……っ!?」
急いで離れようとしたが、少し遅かった。医死仮面の仮面に封印されていた能力が、彼が死んだことで解放され――爆発した。
「――がはっ!?」チリン
凄ま じい勢いでタンスに叩きつけられて一瞬息が詰まる。本物の爆弾のように金属片が飛んでくることこそ無かったので致命傷では無かったが――十分なダメージだった。
「げほっ、げほっ……まさか殺してからダメージを受けるなんて……油断しちゃったかな」
医死仮面の遺体は、完全に吹き飛んでいた。道具も全て吹き飛んでいて、どうやら使えそうなものはない。
「とりあえず、移動したほうがいいよね。今の爆発を聞きつけてもう一人が来るだろうから」
痛む体を無理矢理に起こすと、引きずるように扉に向かった。
急いで離れようと扉を開けると――そこに眼鏡っ子がいた。
「おや。あの爆発の直後に動けるのかい、きみは中々凄いね」
セーラー服を着ているのでコスプレでなければ女子高 生だろう。余裕からか自信からか、クールな微笑を浮かべていた。
「しかし残念だ。それだけの実力がありながら眼鏡をしていないとは……それが君の敗因だよ」
「そうかな……さっきの仮面の人と違って、喋りすぎなのが貴女の敗因だと思うよ」
そう救世が言い返した時には、すでに眼鏡っ子の体を小太刀が貫いていた。
目の前で語っている相手の隙を見逃せるほどに、今の救世には余裕がない……だが。
「……っ!感触が、ない!?」
「やれやれ、せっかちだね。少しくらいは話に付き合ってくれてもいいじゃないか」
声のしたほうに振り向くと、眼鏡っ子が平然としたまま立っていた。
「せめて自己紹介くらいはし合おうじゃないか。ぼくの名前は一∞。名字で分かると思うが一家の人 間だ」
「一家……聞いたことはある。一族のほとんどが魔人の家系だったかな?もっとも∞という名前は聞いたことがないけど」
「その通りだよ。まぁぼくが無名なのも仕方ないよ、一族に魔人が多すぎてあまり目立たないからね。
 それで、きみも自己紹介してくれないかな?戦う前に相手の名前くらい聞いておきたいからね」
あくまでもクールな微笑を浮かべたままで∞は告げる。不意打ちも失敗した今、あまり相手のペースに乗るのも本意では無いのだが。
「……私は櫛故救世。何でも屋「封鈴花惨」の一員だよ」
「なるほど。じゃあきみがさっきまで戦っていたほうが医死仮面か……変わった名前だけど本名はなんだったんだろうね」
「さぁ。死体も吹き飛んじゃったし、彼の知り合いにでも聞かないと分からないんじゃないかな」
「それもそうだね。じゃあ戦おうか」
瞬間、二人の間の空気が固まる。お互いに警戒し合っていたのが、本気の戦闘体制に入った証拠だった。
二人の間には結構な距離がある。救世の足がいくら早くても負傷した現在の状態では一瞬で詰められるような距離では無い。
ならば、相手が間合いを詰めてくれるのを待つか、相手の遠距離攻撃をかわしながら近寄るしかなかった。
「そちらからは来ないみたいだから、ぼくから行かせてもらおうか。喰らえ、眼鏡レーザー!!」
∞が叫ぶと、彼女が掛けていた眼鏡に光が集まり――レーザー光線が救世めがけて一直線に飛んできた。
「なっ!?まさか、そんなふざけた攻撃ありなの!?」
いくら高速できても、仕込み針と交わす要領は同じ。眼鏡が光を集めだした瞬間には射線上から救世は外れていた。
「ほう。この一撃をかわせるなんて、本当にきみは実力があるね。けど、もう一度かわせるかな?」
言ってもう一度眼鏡に光を集め始める。
「そんなに何度も射たせないよ!」
それを見て、救世は∞に向かって駆け出す。
「眼鏡レーザー!!」
間合いを詰めながら、射線を予測して身をかわす。光を集めるという性質上、連射ができないだろうことはさっきの一撃で分かった。
この調子ならもう一撃打たれる前に間合いを詰められる。
「もらった!」
眼鏡に光が集まる前に、小太刀が∞の心臓に近付いていき――
「いい攻撃だけど、眼鏡には通じない。眼鏡バリアー!!」
突然発生し た光の壁によって小太刀の攻撃は受け止められてしまった。
「レーザーだけじゃなくてバリアまで!?」
「レーザーのような遠距離攻撃が主体なら、接近戦は穴だと思ったかい?甘いよ、眼鏡に死角はない!眼(ガン)=カタの真髄を見せてあげよう」
バリアが解除されると同時に、∞の拳や手刀、足刀が襲ってくる。
医死仮面に比べて速度は遅いが、正確さと鋭さが段違いだった。救世は防ぐので手一杯で反撃さえできない。
「というか、小太刀で防いでいるのになんで傷も付かないの!?」
「それこそが眼鏡の力、眼鏡の真髄。眼鏡に傷がついたら使い物にならないじゃないか」
ふざけたことを言いながらも、∞の実力は圧倒的だった。徐々に押されて救世はじりじりと後退していた。
「眼鏡をかけない者にしてはきみはよくやったよ。だがそろそろ終わりにしよう。眼鏡チェンジ!!」
叫ぶと、戦闘の流れの中で眼鏡を掛け替えた。
その一切の淀みのない動きには、今までの攻撃にはない美しささえ感じられた。
そして、一瞬混ざった今までとテンポの違う動作によって救世に小さな隙ができた。
眼鏡を変えたことによって大幅に威力の上がったパンチが、小太刀を破壊し救世を吹き飛ばす。
「がはっ!?」
「隙を見せたね。ダメだよ、眼鏡はあらゆる隙を見逃さないんだから」
吹き飛ばされた救世は、それでもなんとか立ち上がり、とどめのレーザーがこないかと身構える。
「……ぜぇ、ぜぇ……はぁ、はぁ……」
「そろそろ限界かな、終わりにしてあげるよ。今までで最大出力の眼鏡レーザー!!!」
最大出力と言っていたが、救世の目には今までのレーザーとの違いが分からなかった(ノリで言っただけかもしれない)。
そもそもレーザーを見ていなかったから、違いがあったとしても気がつかなかっただろうが。
レーザーの最大の弱点は、連射ができないことではなく、眼鏡が強烈に発光すること、つまり視界が塞がれることだ。
それに気が付いていた救世は、∞がレーザーを撃とうと身構えた時にはすでに近くのたまたま扉の開いていた部屋に飛び込んでいた。
「おや?まだあそこまで動けたのか……本当に優秀だね。いっそ眼鏡をプレゼントしてあげようかな」
そう言いながらも部屋に近付いていき、無造作に侵入した。
「さて、タンスの中に隠れているの は分かっているよ。出ておいで、さもないとレーザーを撃ち込むよ」
タンスに向かって警告すると、内側から扉が開き、救世が出てきた。
「……なんで分かったの?気配は完全に消していたつもりだったのに」
「当たり前のことを聞かないで欲しいな。眼鏡に見通せないものはないという簡単な話だよ」
クールな微笑を浮かべながら勝利宣言のように言い放つ。
「それで、降参する気はあるかな?さっきのように窓から外の天井に出なかったということは、もう体力がないんだろう?」
「……本当にお見通しみたいだね。索敵能力でもあるの?」
「おや、質問を質問で返すとは礼儀がなっていないね」
「それは失礼しちゃったね。じゃあ答えてあげるよ……降参する気はない、奥の手があるか らね!」
ここで、救世の能力『鈴具輪久』について少しだけ補足を入れたい。
この能力は任意の場所で鈴を鳴らすだけ、という至極単純な能力だが、それゆえにほとんど制限がなかった。
視界内ならほとんどの場所で鳴らすことができるし、天井の上にいながら見えない室内で鳴らすこともできる。
回数制限もなく、∞のレーザーと違って連続使用もできた。
ゆえに、こんな使い方もできる。
「貴女にならって、必殺技を叫んであげるよ――『鈴具輪久唄流(リングリングベル)』!!」
その叫ぶような声に∞が身構えると、どこからか音が聞こえ始めた。
――チリン、チリン
それは耳の奥、鼓膜のすぐそばから聞こえるようで
――チリンチリンリンリン
どんどんと聞こえる感覚が短くなり
――リンリンリンリンリリリリリリリリリリ!!!!
ついには頭が割れんばかりに耳元でうるさく鳴り響き始めた。
「な、なんだこれは!??」
あまりのうるささに集中力は乱れ、とっさに耳を手で覆ってしまう。
その大きな大きな隙を救世が見逃すことは無かった。
∞にタックルのように突進をすると、彼女ごと、壁に開いた穴へ――医死仮面の自爆によってできた穴に向かって突っ込んでいった。
「なっ!?きみは、このままリングアウトで引き分けを狙う気かい!?」
「まさか、そんなことはしないよ。私が、勝つ!」
言うと、自分と∞の体の間に足を入れて、∞を蹴飛ばすように跳んだ。
そして列車に近寄ったが――タックルの勢いのほうが強く、列車に届くことはなかっ た。
二人はそれぞれ線路際に落下して、その横を列車が走り去って行ってしまった。
「……あー。きみとぼくが同時にリングアウトで引き分けってことは、この場合判定はどうなるんだ?」
「同時リングアウトの時のルールは知らない。この大会、ルールの穴多いよね」
二人で寝転がったまま話す。救世は強かに体を打ちつけたせいで動けそうにないが、∞はとっさにバリアーを展開したため無傷だった。
「そうか、じゃあこの試合はどうなるんだろうな」
「同時リングアウトの場合はどうなるか知らないけど。この勝負に限って言えば私の勝ちだよ」
その言葉を聞いて∞が起き上がる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。同時リングアウトの場合が分からないのにきみの勝ち?何を言っているん だ?」
「だって、同時リングアウトじゃないからね。貴女のほうが早くリングアウトしたじゃないか」
「いや、きみと重なるようにして車外にでたんだ。あれはほとんど同時だったよ!?」
慌てた様子の∞に、体を起して見ることさえできずに救世は話す。
「……確かに車外に出たのはほとんど同時。だけど、車外にでただけじゃリングアウトじゃないんだよ?」
「…………あっ!?」
その言葉で∞も気がついた。今回の試合、そのステージは車両から30m以内。
そして二人の位置は線路からの距離はほとんど同じだが――救世のほうが進行方向に近かった。
「列車が横を通っている間は、お互いにリング内にいたんだよ。けど、列車が横を通って行ってしまったときに――先にリングアウトした のは貴女だよ。一∞さん」
そう言って、なんとか動いた左手を∞に突きつけると、
「今の状態を比べると勝負としては私の負けかもしれないけど、この試合は、私の勝ちだよ!」
救世は勝利宣言をした。


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