真野風火水土SS(第一回戦)

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dangerousss

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第一回戦第六試合 真野風火水土

名前 魔人能力
小宅麗智奈 リアライズフォトグラフ
真野風火水土 イデアの金貨
性懲りも無く蘇りし矢塚一夜 インスタント・テング・ポータル・ジツ

採用する幕間SS
なし

試合内容

「懐かしいねぇ、私もすっかりおじさんになってしまったよ」
まるで夏祭りにはしゃいでいた少年時代を振り返るように、真野はりんご飴の屋台の前に立っていた。首からは射的の景品であるメダルを下げている。
「あ、できればお釣りは全部100円玉でください」
一応、真野は3人制のバトルロイヤルに参加しており、この夏祭りの神社はその舞台という事になっている。小銭をじゃらじゃら鳴らしながら飴をなめている場合ではないのだが、どうせ敵は自分で探すか見つけてもらわなくてはならないのだ。こそこそしても意味はなく、花火を見るなら社のある高台が一番良い。そう考えて真野は、歩調を早めた。
高台と呼ぶには些か高い標高にある社は神社の広大な敷地を考えれば質素で小さく、石垣だけが不似合いに大きい。敷地の大半を占める森は少し奥に進めばあっという間に獣の領分である。
はたして花火の開始に間には合わなかったが、良い場所は確保できた。なにせ、周りにはアキカンしかいないものだから視界を遮るものが何もないのだ。
「ふむ、動いたかな」
対戦者のうちの一人を捕捉した真野は、もう一人の対戦者も彼女を捕捉したであろうことを予測した。こちらも動く頃合いだ。真野はすぅーと大きく息を吸い込んだ。

バトルロイヤルの参加者の一人である小宅麗智奈は花火の閃光を背に空中を漂っていた。自ら敢えて目立つような行為は好ましくないのかもしれないが、彼女も真野とはまた別の理由で逃げ隠れする気が無い。
小宅は花火が始まるや騒ぎ立ち始めた高台に気づいた。カメラのズーム倍率をあげるとメカメカと騒ぐアキカンに混じって花火に喝采をあげている男がいた。実際には真野の号令にアキカン達が次々と従ったのが正しい。二人の対戦者に呼びかけているのだ。
「いつでも来いって事ね」
上等!とばかりに小宅はフライトユニットを高台へと走らせた。
「呆れた。自分から場所を知らせておいて銃も構えてないなんて!」
「ははは、女子にそんな物騒なものは向けないね」
真野は石垣から飛び降りると、二、三歩姿勢を崩しながら大きな藪の前に移動した。
「カンけりでもするつもりかしら?」
「カンけりは得意だけど、あまり好きじゃないかな」
「なら銃を向けてもらわないと困るんだけど?正々堂々戦いましょう」
「仕方ないね」
真野はポケットから一枚の硬貨を取り出し、ほぼ垂直に近い角度で弾いた。不意打ちの類を嫌う小宅は当然その勝負を受けて立った。が、硬貨はまだ地面と1mは離れているのに真野はさっと藪に飛び込むと森の中に消えた。あからさまなフライングである。
「な、卑怯な!!」
小宅はフライトユニットを解除し、写真に戻すと真野に続いた。既に20mは離されている。
「切り札のコイントスじゃなかったの!?」
「いやぁ、何も思いつかんときは逃げるに限る」
真野は細い体を器用にひねり木の間にねじり込ませるようにして森の中を駈け抜けていく。冒険家としての経験値は伊達ではないらしく、体力的に優位な小宅ではあるがなかなか距離を詰められない。何より、森の中ではフライトユニットが使えないのだ。
「もしかして、これが狙い?」
「決め手に弱い。もう一枚だ」
後ろを確認すると同時に下手から放られた硬貨は放物線を描き空しく地面に落ちた。土の上では音も冴えない。
「お祭りに浮かれすぎてバカになってしまったんだろうか。そーれ、もう一枚だ」
「いったい何枚持ってるの!?」
「つり銭を沢山もらっておいて助かったなぁ」
ポケットから次々と硬貨を取り出しては投げながら逃げる真野に追う小宅。しかし如何に巧く森の中を走り抜けようと、やはり体力が違う。二人の距離は徐々に詰まり始めていた。
真野が首から下げていたメダルを外して投げるのを見て、いよいよ硬貨が尽きたのだと判断した小宅は最後の追い込み体制に入った。もちろん、距離が狭まるほど真野の銃撃に対する警戒は忘れていない。小宅は写真からナイフを一本取出す。回避に自信のある彼女はより近くで仕留める武器を好んだ。真野が振り返ると、既に両者の距離は3mもない。が、小宅の鳩尾と真野が投げたナイフとの距離は更にその1/100も無かった。

振り返った時にコインを投げるのと同じ動作で投げられたナイフである。銃に注意を払っていた小宅はその思い込みにより反応を遅らされていた。自然に距離を詰めさせた上での一投は申し分なく鋭かったが、しかし、小宅の反応が更に優りナイフは音もなく森の闇に消えた。
小宅がナイフを躱す間に間合いを稼いで真野は立ち止まると、やや大げさに息を整え始めた。
「鬼ごっこはここまでね。最後だけ楽しかったわ」
「ブルペン通りの調子なら仕留められたんだがね」
いつの間にか真野の左手には一枚の金貨が握られていた。
「まだ持ってたの?」
「正真正銘、最後の一枚さ。この世界のどこの国のものでもない。これはアイデアの語源でもあるイデアの世界の金貨だ」
「そう。でも、錬金術なら私も得意よ」
写真から銃を取り出すと小宅は続けた。
「ミスター。あなたのお話は面白いけど、ここまでよ。それが最後の一枚と言うならそれで決着にしよう?」
「……そうだね。しかし私はまだタイミングを計っているのだ」
「タイミング?」
金貨の模様を見せびらかすように真野はつぶやく。
「なかなか良い目印だと思わんかね?」
「―!!」
次の瞬間二つの銃声が響き、小宅は地面に倒れていた。息はありそうだが、戦闘不能には違いない。小宅の立っていた場所には、ぽっかりと水色の縁の穴が開いていた。
真野の仕込みの一投ですら躱して見せた小宅の迅さを、矢塚の「♪ TIME」は見事に出し抜いた。
真野は地面に倒れる少女ではなく、森の中の一点に目を向けた。
真野が逃げながら撒いていた硬貨はすべてここからほぼ等しい距離にある。それぞれ1枚を見つければその近くに強く残した足跡などからこの場所を追跡できて、また追跡の途中で二枚目の目印は発見しないように配置されていた。
「弾が当たる音は二つ聞こえた。君も無事ではないのだろう」
「……こんなかすり傷で騒いでたら病院が儲かってしゃあないわ」
相討ちのタイミングを狙って小宅に気づかせたつもりだったが、なかなかどうして矢塚も素早く一筋縄ではなかったらしい。
「そのかすり傷を差し引いてもまだ君のほうに分があるかもしれんね。だが、森の中で私はリスより素早い。やがて君の流す血の臭いには犬どもが群がり、そうなれば私の銃弾と二つの詰みを同時に逃れる術はないぞ」
矢塚は面倒は他人にはかけても決して自分では被りたがらない男である。1000万円は惜しいが、これ以上苦労する代償としてはあまりに安く釣り合わない。
「今日はもう……やめとくわ」
「そうしよう」
繁みの奥から白旗の代わりに立ちのぼる白い煙を見て真野も自分の煙草に火をつけた。


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