「月底人:第一章」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
月底人:第一章 - (2007/10/26 (金) 15:55:52) のソース
<p><font size="4"><strong>第一章:双子惑星</strong></font></p> <p><font size="4"><strong><a href="#section1">第一節:目覚め</a><br> <a href="#section2">第二節:双惑人</a><br> 第三節:捕獲</strong></font></p> <hr width="100%" size="2"> <p><font size="4"><br> <a name="section1"></a>第一節:目覚め<br> <br> 「おとうさん!怖いよ!」<br> <br> 子供の泣き叫ぶ声と、全身を揺さぶる振動で目を覚ますした。忘れていた光の洪水に気が遠くなりながら目を細め、身体にくくりつけられた無数のチューブを外し、怯える我が子を抱きしめた。暖かい肌のぬくもりに、永遠とも思える深い眠りから覚めたことを、今、ようやく実感した。<br> <br> 2003年9月3日。数千万年の静けさを破り、大きな衝撃に襲われた。けたたましく鳴り叫ぶ緊急サイレンと、長い期間目にすることのなかったまぶしい照明。とうとう時が来たのだ。<br> <br> 息子の手を引きながら、まだぼんやりする頭の中で記憶を呼び戻し、壁伝いにモニター室に入る。すでに数人の部下が慌ただしく動き回り、事態の収拾に当たっていた。<br> <br> 「お目覚めになりましたか」<br> <br> 凛とした、しかい柔らかなその声に振り向くと、そこには懐かしい妻の顔があった。またこうして彼女に生きて会えることができた嬉しさで、猛烈な振動に青ざめる恐怖を一瞬忘れることができたようにさえ感じた。しかし、すぐにしなければならないことがある。<br> <br> 「障害状況を知らせてくれ」<br> <br> 忙しく分析に当たっている部下たちに指示を送り、モニターを見つめる。月面に何かが衝突したようだ。大きな損傷は見当たらないようだが、中空の内部では振動が反響し、しばらく揺れが収まらないらしい。このままでは危険な状況に直面する可能性もある。<br> <br> 「振動吸収帯に避難しよう」<br> <br> そう部下に声をかけ、妻と息子の手を取り、揺れつづける通路を慎重に歩いていった。<br> <br> とうとう、この時が来たのだ。心の準備はできていたはずだが、イザその瞬間になると動揺は隠せない。恐らく妻も息子も、うすうすとその様子を感じていることだろう。ここでしっかりしなくては、部下の士気にも影響する。気を引き締めなくては。<br> <br> そんなことを考えていると、少し振動にも慣れて来たのか、息子が不思議そうな顔をして尋ねてきた。<br> <br> 「ねえ、どうしてここは空洞なの?」<br> <br> ここは月の中心部を見渡す広い通路。そこから見えるものは、空虚な暗闇だけだ。息子が不思議に思うのも無理はない。貴重な居住空間をここに築けば、どれだけの民を救うことができたであろうか。<br> <br> しかし、それには訳がある。我々の科学力を持ってしても、ここに空洞を作らなければならなかった訳が。<br> <br> 「いいかい、ここにあるのは、ただの空洞ではないんだよ」<br> <br> その言葉に、息子も妻も不思議そうな顔をして足を止めた。<br> <br> 「ここには、確かに何もないように見えるが、それが本当に何もないことだとは限らないのだよ。ここにはね、見ることのできない物が詰まっているんだ」<br> <br> ますます不思議そうな顔をする二人に向かって、一呼吸置いてから、ゆっくりとその答えを口にした。<br> <br> 「暗黒物質が詰まっているんだよ」</font></p> <hr width="100%" size="2"> <p><a name="section2"></a><font size="4">第二節:双惑人<br> <br> 今から46億年ほど前、円盤形の原始太陽系星雲が収縮して原始太陽と原始惑星が形成された頃、現在見られる9つの主要惑星の他に、火星と木星の間にある小惑星帯の軌道近くには2つの惑星が存在していた。<br> <br> 2つの小さな惑星は似通った軌道半径を持っていたが、数百万年におよぶ太陽周回の中で互いを引き寄せ、偶然の重なりに恵まれて、双方が共通の重心を回る双子惑星となった。<br> <br> 外側を回る木星の影響で2つの惑星は大きくはなれなかったものの、双子ゆえに特殊な環境をつくるには十分な存在であった。<br> <br> 大気は双方の重力の影響を受けるため、それぞれの重力は小さくとも完全になくなることはなく、両星を循環する特殊な構造となった。<br> <br> この循環は地表に大きな気象現象を起こし、複雑な地形を作り、原始地球や原始金星と同様に気象現象を複雑にしていた。激しい雷が発生し、太古の海ができ、やがて生命が誕生したのだ。<br> <br> 地球に比べて太陽からの距離が遠いために太陽光の恩恵は少なかったが、猛烈な大気の循環が惑星の外殻を揺り動かして内部組成との摩擦を引き起こしたり、木星の重力を受けて変形されることで、火山活動が活発となり、生命の進化には適した環境を提供していた。<br> <br> どちらの惑星で生まれたのかは、今となっては定かではないが、双方を循環する大気の流れで他方にも生命が宿り、2つの惑星は豊かな生態系を形成するようになっていった。<br> <br> 地球の生命誕生と、この双子惑星での生命誕生は、ほぼ時を同じくしていたが、個体同士が出会う確立が高いためか、進化のスピードは双子惑星の方が速かった。彼らは、地球が恐竜時代に入った頃には、すでに現在の人類が持つ科学技術を獲得していたのだった。後の月底人となる、双惑人である。<br> <br> 彼らの惑星は小さいため、資源は限られていた。エコ環境を維持するためには、様々な手段を用いる必要がある。同様に生命が進化を遂げている地球や、当時はまだ液体の水が豊富に得られる無人の火星に移住する計画も出ていたが、大気組成の違いや、移住手段の確立が難しいことから、資源の調達だけを行う案が有力となっていた。そして彼らは、生命を育み、豊かな天然資源を持つ地球でのエネルギーと食料の調達を目指して、観測を開始した。<br> <br> 地球に向けた観測の第一弾は、無人の探査衛星を飛ばすことだった。双子惑星は複雑な軌道を持ち、強い風が吹き荒れているため、そうした衛星を飛ばすことは至難の業だ。双惑人たちは、科学の粋を集めて建造した大型宇宙船を、まず惑星を吹き荒れる風に乗せ、その勢いを利用して宇宙空間に放出する方式を考えた。だが、風の向きは予測不可能なため、宇宙空間に出てからの正確な姿勢制御技術が必要になる。<br> <br> 幾度か実験を繰り返し、宇宙空間への放出までは技術を確立したものの、その後の姿勢制御には困難が伴なった。やがて諦めの声も出る中、勇敢な若者が有人飛行を買って出た。さらに数人の同士が集まり、最終的に5人の命知らずの双惑人が地球を目指すことになった。</font></p> <hr width="100%" size="2"> <p> <font size="4">第三節:捕獲</font></p> <p> </p> <p><font size="4"> </font></p> <p> </p>