――私たちの学園は呪われてる。
どうか、みんなを助けてください――。
そう少女は言い残して力尽きた。
校門まで続く流血の跡が、少女の傷の深さをうかがわせる。
「いったいどうするよ?」
一人が皆の顔を見る。
少女の身なりを見るに、他校の生徒であろう。だが、少女の着ている制服は、羅漢のものとも違う。彼ら希望崎の生徒とは縁があるとは思えない。
少女は突然、この希望崎学園へと現れた。それも全身ぼろぼろで、大量の血を垂れ流しながら、どこからか現れた。
希望崎学園は騒然となった。ハルマゲドンの幕開けだと大騒ぎするバカも現れるほど、学園はそのとき平和だった。平和すぎた。
校門の前にどっと人が押し寄せ、少女の最期の言葉を聞いた。しかし、それはあまりにも短く、集まった生徒たちは途方に暮れていた。みなが立ち尽くす中、一人がぼそりと呟いた。
「その校章……たぶん、妃芽薗の子だと思う」
その言葉を聞き、校門に集まった者たちは互いに顔を見せ合う。妃芽薗、その名はあまりにも彼らにとって、聞きなれぬ名称であった。
「えっとね。妃芽薗って言うのは、まだ卒業生も出てない新設の女子校で、あんまり有名じゃないから知らなくても無理ないと思う」
途方に暮れていた彼らが、新しい情報が出たことで、とたんに活気付く。特に男子たちは、「女子校」という言葉の響きに目の色が変わった。
「ここで、一肌脱がなきゃ男じゃねえっしょ!」
「ふっ、女子校か……となるとイケメンの代名詞たる、この僕の出番じゃないかな?」
「女の子……喰う。俺、女の子、好き」
盛り上がる男子を尻目に、女の子たちは話を進める。
「じゃあ、妃芽薗に行って直接話を聞きに行く?」
「無理だよ……、あそこ監獄みたいになってて、一度入ったら出入りはおろか、連絡すら取らせてもらえないって噂だもん」
「そうだよ! うちのにぃも、『世界を掴んでくる』って言って、向かったっきり帰って来ない!」
「てかさ、なら、その子はどうやってここまで来れたのよ」
「思うに、あの傷で妃芽薗からここまで来れるのかなって。血の跡もずっと向こうで途絶えてるし、たぶんテレポーテーションのような能力を使ったんじゃないかなー?」
「へー。てれぽーてーしょんねー。まぁ、何かあったのは事実だろうけどさー、ぶっちゃっけ、うちらにできることって無いよねー」
「だよねー。男子は乗り気みたいだけど」
女子は女子で盛り下がっていく中、男子たちも話はそれぞれの性癖についてへと話が脱線していく。
最早、妃芽薗を助けるという雰囲気でもなくなってきたころ、突如として影が現れる。
「話は聞かせてもらった!」
彼らの話合いに割って入り、声が飛び込む。
「明日、俺たち番長グループは妃芽薗に遠征に行く」
突然の発表に周囲が騒然とする中、その場に居合わせた
生徒会らは、ぎらりと目を光らせる。
「あなたたち、戦争にでも行くつもりですか?」
「言わずもがな! 助けを請われてその手を拒むとは、魔人の風上にも置けん」
「あなたたちからそのような言葉を聞けるとは……。いいでしょう、我々生徒会も全面的に協力しましょう!」
生徒会と番長グループの代表は互いに固く手を握り合う。
その場に居合わせた一同が、その場のノリで拍手をする中、生徒会と番長グループは内心ほっとしていた。体面的には格好をつけては見たものの、生徒会と番長グループには共通した別の思惑がある。
――生徒会長と番長が、妃芽薗に行ったっきり帰ってこない。
両リーダーの面目を立てるためには、どう秘密裏に救出するべきかを互いに思案していた中で、今回の出来事は絶好の機会でもあった。
だが、彼らはまだ想像すらしていない。この先、彼らを待ち受けている争いの戦火を。
今はただ笑顔の裏で、互いに相手をどう出し抜くかを考えている。やがてはその余裕もなくなるだろう。
妃芽薗に一歩足を踏み入れた瞬間から――。
最終更新:2011年07月26日 00:24