希望崎学園、
生徒会室。
そこには生徒会長
蒼木 龍健(あおき りゅうけん)とその膝に座る
イナカ幼女がいた。
壁には蒼木の憧れの象徴である勇壮な龍の絵が飾られている。蒼木は時折イナカ幼女の頭を撫でながら業務にいそしんでいた。
そんな蒼木の元へケバい化粧をした色黒の女、真字出 佳代が寄ってくる。
「会長ォ!マジでやばいんですよぉ!マジでデカいネズミが番長グループをやっちゃってマジやばいんすよぉ!」
「すまん、どういうことだ?もう少しよく説明して」
蒼木会長が困惑しながら聞く。
「だからぁ!マジでヤバいデカいネズミが希望崎学園の校舎にマジでやってきててマジでみんな食べちゃいそうでマジでヤバいんですよぉ!」
真字出 佳代が唾を吐きながらまくしたてるが、蒼木にはどうにも意味が伝わらない。そこへ生徒会役員の
姦崎錆(かんざき さびる)がやってくる。
「僕から説明するから佳代ちゃんは下がってて」
「姦崎君、何が起こったというんだ?」
「落ち着いて聞いてください。番長グループが壊滅しました」
「なんだと・・・?」
「僕の第六感の触手がそれを察知しました。生存者は、ゼロです」
蒼木は驚愕する。番長グループには矢塚・ロバート・万里などの実力派魔人がいたはずだ。やわなことでは決して瓦解する組織ではない。
「いったいどこの何者が壊滅させたというんだ?」
「それが・・・一匹の巨大人食いネズミによって壊滅させられたんです」
「なんだと!?」
そのあまりに非現実的なワードに蒼木はまたも驚愕する。巨大な人食いネズミ?B級映画でももう少しまともなモンスターを出してくるだろう。
「間違いはありません、こちらが写真です」
その写真にはまさに巨大なネズミが写っていた。ネズミの後ろにはぐちゃぐちゃに潰された番長小屋も写っている。
「私は奴を知っている!」
生徒会長のもとにまたも役員がやってくる。
「神である私は知っている!奴の名はドガジャガス!終わりの日にすべてを食らい尽くさんとする人食いネズミだ!」
彼は自分のことを神だと名乗っていた。それだけなら皆が狂人扱いすることだろうが、彼の言うことは何故か未来に実現することが多かった。それゆえ生徒会は彼をいわゆる予言者という形で受け入れている。
「どうすればいい?」
「戦士を送るのだ!勇猛な戦士たちを!」
「それなら大丈夫です。すでに精鋭を何人か送っています」
希望崎学園から番長小屋の方角へいくらか行ったところ、そこに生徒会の精鋭たちがいた。
山崎フジ、鎌倉 大、
宮澤 志弦、照葉樹林 春夏秋冬(しょうようじゅりん しき)、“相撲力士”チヨ、J、
王蓮寺 錬司の七人である。山崎フジは手に持ったパンにお気に入りのジャムを塗り、チヨはひたすら「蹲踞(そんきょ)の姿勢で揉み手をしてから拍手を打ち、両手を広げた後、掌をかえす」という相撲の作法を繰り返している。宮澤 志弦は手作りのお守りを皆に渡している。
『近づいてきてるぞ・・・』
無線から、もっと先でリムジンに乗りながら待機している
雪椿 菊水の声が聞こえた。
「よし、みんな準備はいいな?」
鎌倉大がニコニコしながら言う。皆が頷くと、鎌倉は自分の能力、『ニコニコフィールド』を発生させた。
ドガジャガスが地響きを立てながら姿を見せる。でかい!小太りの鎌倉大など比べ物にならない大きさだ!
ドガジャガスが鎌倉を認識するとそのデカい足で踏みつぶそうとする。
だが、できない。何故だ。
鎌倉大の魔人能力『ニコニコフィールド』は鎌倉自身のニコニコを辺りに広める能力だ。敵は思わずニコニコして、なんか気分的に鎌倉と鎌倉自身が味方だと認識する者に手を出せなくなってしまう。
ドガジャガスが攻撃を躊躇している間に精鋭たちが攻撃を仕掛ける。山崎フジがドガジャガスの顔に向かってパンを投げつけ『パンイーター』を発動!山崎フジは瞬間的にパンの元へ移動してパンを口でくわえ、ついでにドガジャガスを攻撃!ドガジャガスの頭が揺れる!
照葉樹林 春夏秋冬はドガジャガスの体に寄生植物を植え付ける!
“相撲力士”チヨもまた強い張り手をドガジャガスに打ち付ける!チヨの能力『発揮揚々・塵手水(はっきようよう・ちりちょうず)』を重ね掛けしたためその破壊力は大きい!
Jはナイフでドガジャガスに切りかかる!その瞬間Jの魔人能力『クレイジーカッター』を発動!ナイフは巨大な刀と化しドガジャガスの足を深く切りつける!
四人の攻撃を一気に受けドガジャガスはよろめく。だが、『ニコニコフィールド』が切れると同時に鞭のような尻尾を振り回し、魔人たちを攻撃!だが、尻尾が当たる瞬間盾のようなものが展開し、魔人たちを守る。その盾はお守りの形をしていた。
宮澤 志弦の魔人能力『D/A』はお守り「しずるアミュレット」を作る能力である。そのお守りは文字通り所有者を一度だけあらゆる攻撃から守ってくれる。宮澤 志弦はあらかじめ全員にお守りを渡していた。
ドガジャガスは鎌倉大に向かって尻尾を振るう。だが、鎌倉の前にお守りが展開し、鎌倉を守った。鎌倉はもう一度『ニコニコフィールド』を発動!
ドガジャガスが手出しをできないのを山崎フジが殴り、チヨが打ち、Jが切りつける!照葉樹林 春夏秋冬の植え付けた寄生植物もドガジャガスの体力を奪う!
『ニコニコフィールド』が切れるとドガジャガスが再び暴れだす。Jは尻尾で頭を飛ばされ死亡!山崎フジとチヨは隙をついてドガジャガスを攻撃する。照葉樹林 春夏秋冬も寄生植物を植え付けようとドガジャガスに近寄ったところでドガジャガスの足で蹴り飛ばされ、全身の骨が砕けて死亡!宿主を失った寄生植物も枯れ果てる。
鎌倉 大が『ニコニコフィールド』を発動させようとするとドガジャガスは拳を作って鎌倉に向かって振り下ろす!鎌倉はつぶれて辺りに血と肉を飛び散らせて死亡!
山崎フジはパンをドガジャガスの後頭部に投げつけて『パンイーター』によって瞬間移動する。だがドガジャガスは機敏な動きで後ろを向きパンを口の中に入れる!山崎フジはドガジャガスの口内へ移動!山崎フジは上に上がろうと手当たり次第に掴めるものを探すが、口内にそんなものなど無い。ドガジャガスの呑み込みの運動に逆らえず、あえなくドガジャガスの喉の奥へ消えてゆく。
チヨは繰り返し繰り返し張り手をドガジャガスに打ち付けていた。チヨは相撲取りとしては一流である。ライトセイバーを突き落としナウマンゾウを寄り切り全裸中年男性を不浄負けに追い込む彼女の実力はまさに折り紙つきと言える。
そんな彼女が今、巨大ネズミに圧倒されていた。ドガジャガスはいくら打っても、いくら突いても倒れそうになかった。
「いやぁ、あきらめたらそこで終わりじゃあ!」
チヨは自らを鼓舞する言葉を放つ。そしてさらなる張り手を打とうとしたところで、大きな手にまわしを掴まれ持ち上げられる。
「うわあああ!なんじゃあ!放せええええ!!!」
チヨがじたばたともがく。ドガジャガスはチヨを両掌で握る。
「放せ・・・!放せぇえ・・・・・!!」
ドガジャガスはぎりぎりと手の力を強める。チヨはそのうちもがくのをやめる。ドガジャガスの掌からはねっとりとした血がぼたりぼたりと地面に向かって落ちていった。
「クソッ俺の出番ってわけかよ!」
王蓮寺 錬司が言う。彼の魔人能力は『Park Rose』。敵の能力をコピーする能力である。
一度コピーしてしまえば一生その能力が自分の能力となってしまうため、王蓮寺はなにかいい能力が見つかるまで使わないつもりでいた。
だが、今は自分の命のかかった状態である。王蓮寺は『Park Rose』を発動、ドガジャガスの能力をコピーした!
「『キルキルヒューマン』か・・・えぇと能力の内容は・・・」
王蓮寺は能力の解読をする。能力内容はテキストのような形で頭の中に浮かぶのだ。
そこでドガジャガスが王蓮寺を見つけ、彼に迫る。
「うわ!?うわわわうわ!?」
ドガジャガスの目は殺意に満ちている。王蓮寺は失禁。そして思わず魔人能力を使ってしまう。
「き・・・き・・『キルキルヒューマン』!」
王蓮寺はミスをした。彼は能力についてもっと理解を深めるべきだった。
ドガジャガスの能力『キルキルヒューマン』は辺りにペストをばらまく能力であった。
王蓮寺の体がペストにより黒く染まる。彼は体をかきむしり身悶える。そのうちぼろ屑のように崩れ去った。物陰に隠れていた宮澤 志弦も同じく、ぼろ屑のように崩れた。
希望崎学園生徒会の誇る精鋭は今ここに、敗れ去った。
「生徒会の精鋭たちが皆、敗れました・・・!」
姦崎錆が第六感の触手によって得た情報を伝える。
「な・・・なんだと!?何故だ!?」
そこへ無線による連絡が入る。
「雪椿 菊水・・・!状況を報告しろ!」
『はい、山崎フジ、鎌倉 大、照葉樹林 春夏秋冬、“相撲力士”チヨ、Jはドガジャガスの攻撃によって死亡。宮澤 志弦、王蓮寺 錬司は王蓮寺自身の能力によって死亡しました・・・!』
「自らの能力でだと!?」
『恐らく王蓮寺がコピーしたネズミの能力だと思います。僕はリムジンの中にいたので影響を受けずに済みました』
「どんな能力か予想はできるか?」
『双眼鏡で観察していたところ、二人とも体が黒く染まった後ぼろぼろに崩れました。二人の距離が離れていたことから考えると細菌系ではないかと』
「細菌系・・・」
蒼木が半ば絶望しながらつぶやく。そんなものを使われたらお終いではないか。なんとしても校舎に近づかせるわけにはいかない。ましてや学園の外に出すことなど・・・。
「俺たちは、終わるか?」
蒼木は神を名乗る役員に聞く。
「それはわからん!ただ、すべてはお前の手にあるとしか言えんなぁ!」
「俺の手に・・・?」
「どうやら困ってるようね!」
少女の声が生徒会室に響く。蒼木たちが声のした方向を見るとそこにはミス・ダンゲロスにして希望崎学園治安維持隊隊長山之端一人が立っていた。
「山之端一人・・・!?」
「私がその、ドガジャガス退治に加わってあげるわ」
「おい待て、アンタがわざわざ出る必要は無いんだぞ!」
「なに言ってるの!」
山之端一人が叫ぶ。
「私の学園の生徒が命を散らしていっているのよ!私が出ないわけにはいかないじゃない!」
「だが・・・!」
「だがも糞もないわ!」
山之端一人は机に手を叩きつける。
「私は出る。私が出ると言っているから出るのよ」
「・・・・・・」
「・・・私が死んだら、学園を頼むわよ」
山之端一人の目は真剣そのものだ。その眼差しに蒼木は折れる。
「・・・わかった、アンタをドガジャガス討伐隊に加える」
山之端一人は頷く。
「生徒会からはまず姦崎錆、お前を出す」
「はい」
「その他にアタッカーとして
フリスクネオ、雪降やしま。ブロッカーとして風楽祇 凪、藍園愛華を出す」
「蒼木ぃ、わっちも出るん」
イナカ幼女がそう言う。
「お前はいいんだ、生徒会室にいてくれ」
蒼木はイナカ幼女の頭を撫でながらそう言う。
「それと俺は念のために玄関先にいる。それでいいな?」
「ええ」
山之端一人が返事をする。
「何か言いたいことはあるか?」
「いや!無い!俺は戦闘力が無いしとりあえずガンバだぜ!」
神を名乗る役員はそう言うとフハハハハッ!と笑った。
校舎から少し離れたところにドガジャガス討伐隊が揃っていた。
目前には刻一刻と校舎に迫りつつあるドガジャガス。
まずは風楽祇 凪が前に出る!ドガジャガスが尻尾を振ると彼女はそれを受け止める!その瞬間風楽祇 凪は魔人能力『メロウノイズ』を発動!『メロウノイズ』は体に受けたダメージを精神に、精神に受けたダメージを体に受ける能力である。今の場合体に受けたダメージを精神に受けることになる。この攻撃によって風楽祇 凪の精神はメンヘラ女とか最終回付近のアスカくらいのレベルになったが体は健康そのものだ!
隙をついて山之端一人達がドガジャガスの元へ迫ってゆく!フリスクネオと雪降やしまと姦崎錆、そして山之端一人が跳躍し、ドガジャガスのどてっ腹に一斉に攻撃!ドガジャガスがよろめく!
ドガジャガスが怒って四人に攻撃しようとする!その時藍園愛華が『愛と正義の熱血大応援団』を発動!この能力は藍園愛華が身を粉にして応援を行い近くにいる味方への敵の攻撃を無効にする!気合によりドガジャガスの攻撃が跳ね返される!藍園愛華は力尽きる!
更に攻撃!ドガジャガスの長い歯が折れる!
「ヂュゥウウウウウウウ!!!!!!」
ドガジャガスが叫ぶ!まるでペニスを切られたヤリチンのようだ!
ドガジャガスが爪を出し空を裂く!それは誰にも当たらず、山之端一人は腕に飛び乗りドガジャガスの頭を目指した。他のアタッカー三人も同じ行動をとる。そしてドガジャガスの頭を殴る!殴る!殴る!
「ヂュゥウウウウアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
ドガジャガスが苦悶!手で払おうとするが、狙いが定まらない!
ドガジャガスはくらくらし、意識も飛びそうになっていた。
「いけるわ!あと少しよ!」
山之端一人が叫ぶ。だが、その瞬間ドガジャガスが頭を激しく振って四人を振るい落とした。
「キャアアアアアアアア!?」
四人は地面に叩きつけられる!その衝撃でフリスクネオと姦崎錆は死亡!
ドガジャガスが大きく息を吸い込んでいる。口の辺りからは光が漏れている。
「まずい・・・あれは・・・!」
山之端一人が焦る。あれは能力を使うつもりだ。逃げないと死ぬ。
「雪降やしまさん!風楽祇 凪さん!藍園愛華さん!逃げましょう!」
叫ぶ。だが、雪降やしまもまた落下の衝撃でダメージを受けており、藍園愛華は応援による疲労で動けず、風楽祇 凪はメンヘラ状態だ。
「そんな・・・!」
そんなことをしている間に、ドガジャガスは口から光線を放つ。ペスト光線だ。
山之端一人は死を覚悟した。思わず目をつぶった。
目をつぶって数秒か、数分か。山之端一人には一時間以上にも感じられた。
山之端一人が目を開けるとそこには男の背中があった。
学ランを着た男が、手を前に突き出し光線をどこかの空間へ飛ばすことで防いでいた。
山之端一人は直感的に悟った。男が何者であるか、何と呼ばれる者であるかを。
その男は、『
転校生』だった。