恋の横槍


『恋の横槍』

はじまり その1

良く晴れた日の昼休み、他愛の無い雑談をしている生徒達、その中に彼を含めた三人の男子学生の姿があった。
彼らは今年入学した一年生でこの学園で知り合った間柄だが今ではすっかり意気投合している。
当初はとても仲良く、などとなるような出会いではなかった。
入学式の日、メガネを掛けた背の高い生徒と大雑把に制服を羽織った体格の良い生徒が廊下でぶつかり、言い争いになっていた。
そこに突然、飛び込んできたのがもう一人のとても背の小さな生徒だった。
言い争っている二人の話も聞かず、喧嘩をしているならジャンケンで勝負を付けたら?と勝手に提案、
調子を狂わせながらもこの場をさっさと済ませようと両者の意見が一致し、ジャンケンをする。

じゃんけん ぽん

二人の出した手は互いにパー、引き分けだ。
しかしそこにはもう一つの手があった、チョキを出した小さな手。
勝った勝ったと無邪気な笑顔で喜ぶ姿に二人は唖然としている。
少しの間、ぴょんぴょんと跳ね回るとくるりと振り返り二人に近寄る。

「ぼくが勝ったから喧嘩はもうおしまい」

二人の開いたままの手を取るとそのまま自分の手を重ねて握手をさせる。
場の空気は完全に壊され、言い争いのことなどどうでもよくなっていた。
それからというもの、この三人で一緒に居ることが当たり前のようになっていた。

はじまり その2

屋上で昼食を食べる三人の耳に大声が入ってきた。どこかで揉め事があったらしい

「しっかし、近頃はどこも賑やかだな」「あぁ、学園祭が終ってから特にな」

二人の会話を聞いているのかいないのか、小さな生徒は自分のお弁当をぱくぱくと頬張っている。
メガネを掛けた生徒は学級委員という立場上、生徒会から、体格の良い生徒は校舎の裏手にある溜まり場で噂を聞いていた。
なんでも生徒会と番長グループと言われているこの学園の二大勢力が一人の女生徒を巡って争っているという。
正確にはいつ起こってもおかしくない状況、だそうだ。それほどまでに両勢力の間にはピリピリとした空気が漂っている。
応援はしたいのだが争いの原因は人の恋路、下手に気をかけるのも如何なものか。
それに片方に加担しようものならもう片方に目を付けられてしまう。
それぞれの勢力に通じているこの三人にとっては面倒なことになりかねない。
そんな話をしているとお弁当を食べ終わった彼が口を挟む。

「じゃあさ、ぼくがその人に告白したらどうなるかな」

は? 間髪居れず同時に声が出る。
当然の反応だ、片方に肩入れするだけでも問題になると話しているのに両方に喧嘩を売ろうというのだから。
だが二人はやれやれというように溜め息しか出なかった、彼の突拍子も無い行動は二人にとってもいつものことだからだ。
どうにか思い直させようと説得を試みるが彼は二人の話も聞かずに屋上から駆け足で立ち去ってしまう。
どうする?どうしようもない。まぁわんこだしな。いつものことだろう。
苦笑しながら弁当をしまい、ゴミをまとめながら自分達も教室に戻ろうと立ち上がる。
するとついさっき勢い良く走って行ったはずの彼の姿があった。
辺りをきょろきょろしてから二人に気づくと階段を上がり駆け寄ってくる。

「さっきの話の人、教室どこ?」

またも苦笑いする二人。体格の良い生徒が彼の後ろ首を掴み持ち上げる。
気が向いたら教えてやるよ。首輪を付けて繋いでおくしかないな。
そんな談笑をしながら自分達の教室へ戻っていく三人。

犬も歩けば棒に当る、ということわざがある。
これは自ら棒にぶつかりに行く一匹の子犬の話、さて、どんな物語になるのか。

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最終更新:2014年12月09日 02:26