東大青春ガッツ! 反吐太郎


『東大青春ガッツ! 反吐太郎』

「ぎへぇ! なんだこのドブのようなくせぇ臭いは!? これは俺の口臭だ~」

 肥溜反吐太郎は目を覚ますなり、げぇげぇ言いながらゴミが散乱する部屋の中をのたうちまわった。

「た、たまらん! 能力発動! エアクリーナー!」

 彼の全身から青い光の粒子が発せられ、たちどころに腐敗した部屋の空気が浄化されてゆく。
 肥溜反吐太郎は自身の事を「周囲の穢れを自身の汚れに変換する浄化体質」と謳っているが、全くの出鱈目である。彼の能力は「空気の浄化」ただそれのみだった。彼の不潔さは100%自前のもので、能力なしでは自分自身の口臭にすら1分と耐えられない。
 いつもは能力効果が切れる前に目を覚まして、能力の重ねがけを行うのだが、今朝はつい寝過ごしてしまった。そのため彼はドブのような口臭による最悪の目ざめ方をする羽目となった。

「ちくしょう、最悪だぜぇ」

 カビの生えた食パンをかじりながら、反吐太郎は一人悪態をつく。こんなものを食べて生きている彼の体はあちらこちら不健康だ。運動もろくにしないので体力もない。唯一勉強だけは非常によく出来る。
 粗悪な朝食で口臭にみがきを掛けた後、反吐太郎はクモの巣のようなヒビの入った鏡の前に立った。いろんな角度でキメ顔をする。イケメンだ。何の疑いもなく、自分の事をそう思っている。彼以外誰もそうは思っていない。

「ちょいと小綺麗にすりゃあマジで女に貢がせて食ってける素材だな、こりゃあ」

 正体不明の虫が大量にわいた学ランを羽織り、水虫菌そのものといって差し支えないスリッパを履いて玄関を出た反吐太郎。なんという清々しい朝か。大きく尻穴で深呼吸する。

「よぉーし、今日もいっちょ勉学に励むかな!」

 かつて、反吐太郎は凡庸な子供だった。ひたすら素直で、両親の言う事を何でも良く聞いた。
 そんな彼を彼の両親は愛し、肯定し、そして大きな期待を寄せて育ててきた。

――反吐太郎、なんて愛らしい子。反吐太郎は真に受けた。
――反吐太郎よ、東大を目指すのだ。反吐太郎はその気になった。

 凡庸な彼には到底無理な両親の期待にこたえるため、彼は全てを捨てて勉強し、結果こうなった。
 もはや過ちに気付いた彼の両親ですら反吐太郎を止められない。
 学べ、反吐太郎! 東京大学に合格するその日まで!

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最終更新:2014年12月10日 07:35