藍園愛華プロローグSS

■藍園愛華プロローグSS
「ごきげんよう皆様、今日もいい朝ですね」

丁寧なお辞儀とともに教室へ入る黒髪の少女、藍園愛華。
普段は非常に大人しく、物腰や口調も丁寧。本を読むのが好きな、静かで落ち着いているお嬢様タイプだ。
しかし、それは彼女の一側面にしか過ぎない。

……時は放課後、周りは部活動をしている生徒が多く、その場で愛華は少々浮いていた。それは、彼女の線が細めでいかにも大人しそうだからというだけではない。
今の彼女は学生帽に、黒いズボン、そして学ランという姿であった為だ。
特筆すべきはそのデザインで、帽子の紋章には「正義」。学ランの背中には大きな文字で「友情」と描かれている。
その姿はまるで一昔前の番長である。生徒会所属なのに。

次いで愛華は荷物の中から大きな組み立て式の旗を取り出し、その場で組み立てる。
旗には「努力」の文字、そして大太鼓(やや小さめである)まで持ち出した。
これらは全て自前で用意されたものであり、ほとんどが手作りの品である。
旗を持ち、太鼓を脇に置き、しっかりとその足で姿勢よく立つと、彼女はその輝く目をかっと見開いて叫ぶ。

「押忍!でございます!皆様の愛!努力!友情!それらの象徴である部活動!本日もこの藍園愛華!全力で応援させていただきます!!」

彼女は大きく旗を振りまわしながらさらに叫ぶ!

「フレーッ!!フレーッ!!希望崎ッ!!」

そう言い終わると彼女は今まで振っていた旗を上空に放る!旗は空中で分離し四本のスティックと一本の大きな旗となる!
それらを器用に受け止め、旗部分の持ち手をまるでトウモロコシを咥えるかの如く口で咥える!
そのまま四本のスティックで華麗にチアリーダーのバトン演技!
次にその二本を宙に放って、残りの二本を手に持ちながら太鼓へと向き直る!

「さぁんさぁんななびょぉーしッ!!」

旗を口に咥えているせいでややくぐもっているが、十分すぎるほどの声量!
ドン!ドン!ドン!手にしていたスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める!
ドン!ドン!ドン!手にしていたスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める!
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!くるりと一回転した後再びスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める!その動きによって自然と旗がはためく!
ドン!ドン!ドン!手にしていたスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める!
ドン!ドン!ドン!手にしていたスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める!
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!スティックを受け止め四本のスティックを使用した華麗なバトン捌き!
頬、いや、体全体を伝う汗!しかしその応援の動きは決して衰えない!何故か!そう、これこそが彼女の魔人能力、愛と正義の熱血大応援団!
彼女の熱い心がこの無茶とも言える応援を可能としているのだ!

「フレーッ!!フレーッ!!希望崎ッ!!」

誤解のないように記しておくが、彼女は応援団やチアリーダー部などに属する者ではない。
この応援は完全に彼女が一人で勝手にやっている事である。
何故こんなことが出来るのか、それは藍園愛華が誰よりも人を応援したいと思っているからに他ならない!

「フレーッ!!フレーッ!!希望崎ッ!!」

その後もしばらくの間続いた応援であったが、やがてドドンッ!と太鼓を打ち鳴らし、愛華は礼をする。
本日の応援プログラムが全て終了したのだ。

「皆様、今日もお疲れ様です!!」

愛華は旗や太鼓を片付けると、キリッとした姿勢のまま校庭を後にする。

「……ふう……わたくしの応援は、誰かの力になっているでしょうか……」

汗をぬぐいながら愛華は再び校庭を見た。今日も自分の大好きな、部活に一生懸命な人たちの姿がそこにあった。

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最終更新:2014年12月10日 08:01