逆転 勝利プロローグ
目の前の男が、ニヤリと笑って眼鏡を持ち上げた。
「ククク、実に計算通りの展開じゃあないですか……! これだからビートダウンは御しやすい」
「なんだと……!?」
俺の場にはブレイズキャットが2体に、レッドエッグプラントが1体。対する相手の場には極楽島亀が1体いるだけ。
完全に場が決まったというわけでもないが、見た感じでは俺が優勢だ。
だが相手は余裕の笑みを崩さないまま極楽島亀に手を伸ばす。
「極楽島亀の効果発動! このカードをコストとして墓地に送ることで好きな色のコストを3つ追加ァ!」
「なにっ、まさか……!」
「そう、そのまさかだよ! 手札より魔法(マジック)『破滅のこだま』発動!」
破滅のこだま! 現環境トップメタのレア魔法カード!
効果がとてつもなく強い代わりにカラー制限、コスト制限が重い……!
だが、やつはその制限を、
「極楽島亀でクリアした……!」
「こいつを出す為に序盤の展開は貴様に譲ったが、その快進撃もそこまでよォ! さぁ、カットインはありますか?」
「ないです」
「では効果解決します」
そして破滅のこだまの効果は――
「相手の場に存在する好きなユニットのコストを宣言! 私が宣言するのは当然『1』!」
「くっ、そのコストが該当するのはブレイズキャットとレッドエッグプラン……つまり俺の場の全てのユニット!」
「そう! そのコストを持つユニットを全て破壊! 更に更にィ!」
「破壊されたカードの数だけ手札を無作為に墓地へ送る……!」
「それじゃあ3枚……おっと、全て捨ててもらうことになるねェ」
「くっ、だがまだ効果は終わらない……!」
「そう! 更に同じ数だけ、貴様のライフを減らしてもらおうか!!」
「グアァー!!?」
なんてこった! これで俺の残りライフは……1!
「では私はアイスマザーベアーを召喚してターンエンドだ。くくっ、これが速攻ユニットでなくて助かったな……?」
「へっ、元より速攻ユニットなんて入れてないくせに良く言うぜ……!」
「バレたか。しかし、この状況……私の勝ちは揺るがないさ」
くっ、アイスマザーベアーは3体以上のユニットでないとブロックできない青のフィニッシャー……!
俺がユニットを1体出したところでチャンプブロックで凌ぐことはできない!
「フフ、投了してもいいんだぞ?」
相手の笑みは、余裕から悦楽のそれへと変わっていく。
だが、
「へっ……分かってねぇな」
俺だって負けてないとばかりに口角をニヤリと上げる。
「ここから逆転するのが――楽しいんだろォ!」
「なっ、場にはユニットは無く、手札もゼロでどうやって!?」
「デッキを……信じるのさ! 俺のターン!」
スタンバイフェイズ! そして!
「ドローフェイズはいります」
「どぞー」
「ドロォー!!」
目を閉じて引いたカードをそのまま自分の顔の前へと持っていく。
……いや、見なくても分かる。この感じ――!
「きた!!」
デスティニードロー!!
目を開けた俺の視界に入ってきたのは、逆転の切り札!!
「俺は装備(アームズ)『陽龍剣』を発動するぜ!」
「陽龍剣だと……そんな、馬鹿なッ!?」
装備カードは場のユニットに装着するカード。だが俺の場にはユニットはいない。
勿論そんなことは相手にもわかっている。相手が驚愕しているのはそんなことではない。
「そのカードは墓地にいるドラゴンを蘇生して装備させるカード! だがお前の墓地にドラゴンは――」
「そう、居なかった」
ブレイズキャットはビースト、レッドエッグプラントは植物だ。
だが、
「さっきお前が捨てさせてくれたよな?」
「はっ、まさかあの時……!」
そう!
前のターン、破滅のこだまで捨てられた手札! あの中にドラゴンは居たのだ!
「勝利を齎す赤き太陽よ! 闇を切り裂き世界を照らせッ!!」
そうだ、これが俺の真の切り札!!
「ブレイブドラゴン・エヴォルト!!」
「なっ、何ィ!? そんなコスト激重カードを実際に使う奴が……いるっていうのかよォ!?」
「あぁ! ぶっちゃけぶっ壊れカードの陽龍剣が制限か禁止に入るまで暴れさせてもらうぜ!!」
俺はブレイブドラゴン・エヴォルトでのアタックを宣言する!
勿論相手に対策手段は無し! アイスマザーベアーを粉砕し、そのまま相手のライフを全て砕く!
「あじゃぱー!?」
「俺の勝ちだ! いいバトルでした、ありがとうございました」
「ありがとござっしたー」
「やー、トップデック陽龍剣でマジ助かりましたよ」
「あれはどうにもなんないっすわ。次の制限改定まで大暴れですかねぇ……」
「こだまコントロールのメタとして作ったんでしょうけど、これはやりすぎっすよねー」
「むしろ、こだコンなら大ボラで対処できるけど、他のデッキの方が対応厳しくないっすか?」
「あー、大ボラありますもんね……。こだコンと陽龍ビートが暴れる環境かぁ……」
「うわ、きっつ」
そんなこんなで、今日のショップ大会は、この俺「
逆転 勝利」の逆転勝利となったのだった。
その後、帰り道に変なおっさんに「ハルマゲドンTCG」とかいうのを渡されて、そのカードから湧き出る闇の力で幼馴染がアビスエンジェルに変身しちゃうし、白髪の美少年がそれを電柱の影から見つめてるし、気づいたら俺はハルマゲドンに参加することになってるし。
これから俺、どーなっちゃうの!?
最終更新:2014年12月06日 18:03