(仮題)人食いネズミドガジャガスプロローグ
希望崎学園の森、そこにドガジャガスがいた。彼は腹が減ってきたので歩いて餌を探していた。ドガジャガスが歩くのに従って木がめきめきと折れていった。
ドガジャガスは何かに気付いて前方を見た。そこには巨大な猫がいた。ドガジャガスよりも一回り大きい猫が。
「ニャァァアアアアア!!!」
猫が叫んだ。猫の名前はペルタニア。かつて中東の貴族の娘に飼われていたが、娘に捨てられ各都市を巡って香港タワーだとかブルジュドバイだとかを壊しまくってるうちに希望崎に辿りついたのだ。
ペルタニアが迫りくる!ドガジャガスは手をクロスさせその突進を受ける。衝撃によってドガジャガスがワイヤーアクションめいて吹っ飛んでいく。そのまま希望崎学園の校舎に激突!
「な、なんだ!?」
体育でグラウンドにいた生徒たちが校舎を見やる。校舎は半壊し、人食いネズミドガジャガスが半分がれきと化した校舎にもたれかかっていた。おっと、安心せよ。この世界を支配するジュブナイル効果によって死人は出てはいない。
ペルタニアがサディスティックな表情を浮かべながらドガジャガスへと近づいていく。その牙は猛獣の王、ライオンにも匹敵する鋭さである。
ドガジャガスは立ち上がり、ペルタニアの元へと向かう。その眼は闘志に満ちている。
「ヂュゥゥウウウウウウ!!!」
ドガジャガスが走り、拳を繰り出す!ペルタニアはガード!かまわず殴る!
「ニ“ャァァアアアアア!?」
ペルタニアが叫び声を上げる!腕には切り傷。ドガジャガスが隠していた爪でペルタニアの腕を切り裂いたのだ。
隙をついてドガジャガスが尻尾の鞭を繰り出す!だがペルタニアはこれを見破り爪攻撃!
「ヂュゥゥウウウウウウ!!?」
尻尾が千切れドガジャガスが叫ぶ!勢いでペルタニアが爪攻撃!ドガジャガスは後ずさってグラウンドへ向かう。
『みなさん、ドガジャガスと謎の巨大猫がグラウンドへ向かっています。落ち着いてシェルターへ避難してください』
非常用アナウンスが流れる。生徒たちがグラウンドから逃げていく。
そこでペルタニアが猫パンチ!ドガジャガスが飛んでグラウンドに叩きつけられる!
「ヂュゥゥウウウ・・・」
ドガジャガスが立ちながらうめき声を出す。ボディーにまともに食らったのでダメージが大きい。
「た…助けて・・・」
声に気付いてドガジャガスが下を見やる。そこには逃げ遅れた男子高校生。前を見るとペルタニアが迫ってくる。いくらジュブナイルの恩恵があったとしても、そんなところにいられてはさすがに戦いに巻き込んでしまいかねない。
「ニャァアアアアアアア!!!!!!」
ペルタニアが重い一発!レバーに響く!さらに猫キック!
「ヂュゥゥウ!」
ドガジャガスは動かない!動けない!彼は人間が大好きなのだ!
「ニャアアアアアアアアア!!!!!!!!」
ペルタニアが口を大きく開く!捕食するつもりだ!やばい!
「ドガジャガスー!」
男子高校生が叫ぶ!その声は天に届くのか!?
「とおりゃぁああああああ!!!!」
その時、はるか上空から女子高生が現れた!彼女はペルタニアの顔に激突した!
「ニャアアアアアアアアア!!!!!!!」
ペルタニアが吹っ飛ぶ!女子高生はひらりと猫のように着地!
「君!私についてきて!」
「あなたは・・・山之端一人さん!?」
男子高校生がそう言う。そう、彼女こそミス・ダンゲロスにして希望崎学園治安維持隊隊長山之端一人その人である!彼女は希望崎の番長グループ、
生徒会を取りまとめる凄腕の女子高生だった!
「そうよ!早く避難しましょ!」
山之端一人が男子高校生の手を取り走る。向かう先はシェルターだ。
その時ペルタニアが立ち上がり、口を開く。そして火炎弾を放つ!
「ヂュウウウウウウウ!!!」
ドガジャガスが二人の盾になる!
「ドガジャガス!」
「早く!」
山之端一人と男子高校生がシェルターに辿りつく。だが、二人が聞いたのは残酷な言葉だった。
「すまねえ!ここにはあと一人しか入れねえんだ!」
「ええ!?そんな!」
なんという北斗の拳めいたご都合展開!
「・・・君が入りなさい」
「そんな!それじゃあ山之端さんが・・・」
「私は大丈夫だから!」
確かに彼女なら大丈夫だろうが、男子高校生の良心が彼女を置いていくのを拒む。
山之端一人は男子高校生をむりやりシェルターに放り込んだ。シェルターが閉まる。
「ふふ・・・生徒は避難させたわよ」
山之端一人がつぶやく。
「さあドガジャガス!アレをやりなさい!」
「ヂュゥウウウウウウウウ!」
ドガジャガスが叫ぶ!
「なにぃ!?山之端一人の姉御、アレをやるってのか!?」
「知ってるのか兄者!?」
シェルターの中の兄弟が言う。
「山之端一人の姉御はドガジャガスにペストを撒かせるつもりだ!「人体に害のない」ペストを!」
「え?人体に害がないなら大丈夫じゃないのか?」
「それは言葉のあやだ!ある確率でそのペストは人間に死を与える!小さな確率だが0じゃない!」
「な、なんだってー!?」
「そんな・・・」
男子高校生が言う。やはり彼女を置いていくべきではなかったのだ。
「ドガジャガスを止めなきゃ!」
「だめだ!シェルターからじゃ声が届かねえしもう遅い!」
「そんな・・・!」
山之端一人は覚悟のまなざしをドガジャガスへ向けていた。ドガジャガスは大きく息を吸い込んでいる。腹が風船のように膨らんでいる。あの中で毒の空気を作っているのだ。ペルタニアはその動作を警戒しながら見ている。
「チュウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!」
ドガジャガスが天に向かって叫ぶ。その口からは中世、ヨーロッパの実に半分以上の人口を殺しつくした細菌を含んだ空気が拝出されている。その空気は少し黒ずんでいた。
やがてあたりが少しずつ、暗黒に染まっていく。
「ニ“ャッ!?ニャァア・・・」
ペルタニアが呻く。体には黒い斑点ができていた。斑点は少しずつ広がり、全身を覆ってゆく。
「ニャア・・・ニャ・・」
やがて体は襤褸切れのように崩れた。「人体に害のない」ペストは人間ではない者に必ず効く。
山之端一人の周りも徐々に、徐々に暗黒に包まれていった。その光景は、まさに死の世界である。
「山之端一人さん・・・僕は・・・」
「いいんだ少年。生徒を守って死ぬなら、私は」
山之端一人がシェルターのガラスに手をついて言う。少しずつ、だが確実に外は闇に覆われてゆく。
やがて、外は暗闇だけになった。
朝日が昇り、希望崎学園を照らした。闇はとうに消え失せている。
山之端一人はドガジャガスの掌の中で目を覚ました。
「心配してくれたのか」
ドガジャガスはチュウと鳴く。
山之端一人はドガジャガスの胸のやけど跡を見る。
「お前も酷いけがを負っているというのに・・・ありがとうな」
ペストが完全に消え失せたのでシェルターが開き、中から生徒が出てきた。男子高校生はドガジャガスの掌の山之端一人が無事であることを知ってほっとする。
朝日が希望崎学園を、山之端一人を、生徒たちを、希望崎の広大な森を、そしてドガジャガスを照らす。
青春と冒険が、その学園にはあった。
最終更新:2014年12月06日 21:41