※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

葵春


■よみ
あおい はる

■性別
女性

■学年
1年

■武器
増える女神さま

■体型
筋肉質

■部活
ワンダーフォーゲル部

■委員
所属なし

■ステータス
攻撃力:0/防御力:15/体力:7/精神力:4/FS(努力):4

青春とは理不尽への無理解である

■特殊能力効果
効果:陣営変更 敵⇒味方 30
範囲:同マス敵1人 0.7
時間:永続 2
時間付属:撃破非解除 1.2
制約なし 10
FS:4 1.4
GK調整:+6 ※
※:この能力を受けた対象が敵陣営のキャラに撃破された場合、敵陣営にDPが入ってしまうため、
永続+術者撃破非解除がデメリットになりうる点を加味して調整を加えています。

青春ボーナス:8

発動率:97% 成功率:100%

能力原理

葵春が遡れる最古の記憶の景色からずっと一緒にいる、ファンキーな女神を操る能力。
操るというか、葵春が女神に頼んで協力してもらうだけであるが。

葵春の背後を飛ぶ女神が分身し、タッチした相手にまとわりつく。
女神にまとわりつかれた者は身動きに支障をきたし、敵の進攻の妨害ができなくなる。
また、分身した女神が取り憑いた者の周囲にいる人間の行動も阻害する。

「コレにまとわりつかれたら味方が邪魔になってしかたないのだけれど」
「この女神にくっつかれたら追い払えないしズルくないか」

等、紅白大合戦の前にゲームバランス調整会議が開かれた結果、
女神に取り憑かれた者はルール上、葵春と同陣営になった扱いとしてDP管理される事となった。

なお、取り憑かれた者が撃破された際、女神は「ギエーっ☆ この恨みはらさで~……」と、
気の抜けた声で断末魔をあげて消え去り、葵春側陣営の人間のやる気を削っていく。

葵春自身の魔人能力は、おそらくこの『ヘンテコ女神の具現化』であると思われるが、
いかんせん、葵春本人に自分がいつ魔人に覚醒したかの記憶がないため、はっきりとはしない。

妙に堅苦しい能力名は女神による自己申告であるが、女神の性格と全くあわない上、
葵春自身も能力名にピンときていないため、本人は自分の能力を『ユースティティア』と呼ぶ。

キャラクター説明

●葵春(あおい・はる) 希望崎学園一年生。女子。
希望崎学園近くを流れる川辺にテントを張って生活している少女。
細身のシルエットに躍動感溢れる筋肉を全身にまとったスポーツ系風貌。
普段着も学生服かジャージかランニングシャツ&短パンと、いかにもスポーツ系。

元々は孤児であり、施設で育っていたところを高校生になってから自活するようになった。
物心ついたころから、頭のゆるい“自称女神さま”ユースティティアが、いつも一緒にいる。

翼の生えた女神を従えているなどという、自分が魔人である事を隠しようもない境遇のため、
施設では引き取り手が現れないまま15才を迎え、自ら施設を出る道を選んだ過去を持つ。

身体はきわめて頑丈で、野草を適当に食べてもお腹を壊さない鋼鉄の内臓の持ち主。
運動能力も優れているが、勉強や時間を守っての行動等の社会生活能力はやや低め。
寝坊や宿題忘れの常習犯である。ただし本人は生真面目な性格のため、その克服を望んでいる。

趣味は山登りや渓流下り。
好物は蜂蜜入りホットミルク。

「葵春です。よろしくお願いします」
「紅白大合戦ももうすぐだね。私はすごく楽しみだなぁ」
「えっ!? お菓子、こんなに沢山!? これ、私にくれるの!? ありがと~!」

●ユースティティア 自称女神さま。年齢不詳。
「朝……目をさましてテントの外に出て、橋から頭を出すおひさまの位置を確認してびっくり☆」
「いっけな~い遅刻遅刻~☆ 私、葵春15才。希望崎学園に通うごく普通の女の子☆」
「今日の一限目は数学で、小テストがあるって先生が言ってたのに私のバカったらバカ☆」
「慌ててテント脇の水桶を逆さまに、ザバッと頭から水をかぶってシャワーの代わり☆」
「携帯コンロに火をいれて、小鍋で牛乳をわかしながらタオルで全身をガッシガシ☆」
「蜂蜜たっぷりのホットミルクで胃と頭をしゃっきりさせたら、とにかく急いで早着替え☆」
「テントから飛び出す前に、鏡を覗くのは最低限の女の子のたしなみ☆」
「じっと鏡とにらめっこして、まつげが乱れてないか、髪が崩れてないか、ちゃんとチェック☆」
「どうせこの後大急ぎで走ったら崩れちゃうんだけどね☆」
「さあ葵春選手、スタートダッシュを切りましたっ☆ ゴールは遠き希望崎っ☆」
「数学の先生は私が施設出だって知っていて、将来のことを真剣に気にしてくれてる人☆」
「部活動や委員会を、進学とか就職とか内申とか、役立つものを選ぶよう助言してくれた☆」
「でも、私は将来なんて“いつか”じゃない、今を楽しみたいんだもの☆」
「ワガママ言って、趣味のワンダーフォーゲル部に入って、楽しくやっちゃってるから☆」
「だから、せめて先生の誠意に応えるためにも、遅刻だけはまずいんだから~っ☆」
「がんばれ私の両足☆ いま走れなくってどうするのっ☆ 学園はすぐそこまで迫ってるっ☆」

「ユースティティア! ハァッ! ハッ!」

「はぁ~い☆ 春ちゃんの女神さま、ユースティティアで~すっ☆ 何かしら~っ☆」

「うる! さい! 勝手に! モノローグ! 喋んないで!」

プロローグ

暗殺者の事務所は、排気ガスに汚され黒ずんだコンクリート壁の、小さなビルの二階にあった。
一見、どこにでもある街角の古い建物だが、考えてみれば表立って看板を掲げられない商売である。
特異な仕事であるがゆえに、むしろ変哲もない場所に事務所を構えるものなのかもしれない。

事務所の応接室では、今、二人の男が向かいあっている。
来客用のソファにはスーツを着込み、クシの跡も綺麗になでつけられた短髪の男が浅く腰かけ、
ガラステーブルと、その上に広げられた封筒と紙束とをはさみ、反対側のソファにもう一人。

「どうでしょう。引き受けていただけますか」

歳の頃は30半ばであろう、スーツ姿の男が言葉を発した。
その視線の先――ソファにふんぞり返るジャンパーにジーンズ姿の男は組んだ足先を揺らし、
ああ、とも、おお、ともつかない曖昧なうめき声をあげ、終いにボサボサの髪を乱暴にかいた。

「気が乗らねぇなァ。コレは」

あごでテーブルを指しながら、スーツ姿の男より一回り若いその男は、ようやく口を開いた。
二人の視線が、テーブルに広げられた封筒の上に落とされる。

「なあアオイちゃん、この中身は読んだか」
「いえ、私は運搬役ですから。私も佐藤さんくらいの化物なら、詮索も吝かではないですが」
「だよなァ」

おい次郎――ジャンパー姿の男が、ソファの背もたれにのけぞり、部屋の隅へ声をかける。
タブレット端末を操作していた痩せぎすの男が振り返り、了解したと立ち上がった。

「ほらよ兄貴、春さん」
「これを見てみな」
「衛星地図ですか」

次郎と呼ばれた男が持ってきたタブレットの画面には、住宅街の衛星写真が映っていた。
細かい家々の屋根が並ぶ中心に、のっぺりと白く広がる区画がある。
街の数区画分はあるその空間は、どこかの城跡か、緑化公園に思われた。

「ここが目的の場所だ」
「広いですね。これは空き地ですか」
「イヤ、いやいや。ここにゃァちゃんと家が建ってる。写ってねぇがな。わかンだろ」
「それは」

衛星写真により、世界中の街並みを空から覗けるようになった近頃のご時世。
だが、軍事基地など、重要機密の塊である施設は、正確な内部構造がわからないよう、
一般に出回る画像はすべて加工されている――それもまた周知の事実である。

「国の施設ですか」
「んん、イヤ。空手だか柔道だか知らねぇが、そういうのをやってる家だ。表向きはな」
「道場経営。それにしては贅沢な土地の使い方をしている」
「道場の関係者だ、親戚だ、そういうのばかり集めて家を建ててンだってよ、ここに」
「ははぁ。なるほど、江戸時代の組屋敷みたいなものですか。あくまで、表向きは」

スーツ姿の男、春葵(はる・あおい)は頷いた。
つまり今回の仕事は、国か、あるいは国の上層部に近しい関係者が絡むものであり、
ゆえに何処かの一個人を標的とした仕事よりも難易度は格段に高く、だからこそ――

「そんな美味しい相手だってぇのに、やるのが空き巣の真似事たァ拍子抜けもイイとこだよ」
「兄貴はまたそう無茶を言う。いつも後始末してる俺の身にもなれよ」
「まあなんだ。こんだけ貰えりゃ当分南国でバカンスできんだろ。そこで休め、ハハ」

神経質そうに口を尖らせる、眉間に深いシワを刻んだ痩せ男と、
無精ヒゲと土気色の肌の不健康な男のやり取りを眼前に、春は咳払いをひとつした。
そして、二人の視線が自分に集まった頃合いを見計らい、口を開く。

だからこそ――この、佐藤太郎という“化物”にとって、今回の依頼は最高の玩具なのだと。

「それは引き受けていただける意思表示と捉えても良いですか」
「ああ。“清掃”が要望に入ってねぇのは癪だが、依頼料が高ぇのはバンザーイ、だ」
「春さん、いつも儲け話をありがとうな」
「いえ、こちらも仕事ですから。佐藤さんが遊んだりしないよう見張りを頼みますよ」
「バカ言うなアオイちゃん。俺ァ、仕事はキッチリやるぜ」
「仕事、だけ、だがな。兄貴の場合」
「つうかよォ、今回はアオイちゃんも俺達の仕事を見る訳だろ。見てろよ俺の真面目っぷり」
「ええ、楽しみにしていますよ」

商談が成立し、荷物をまとめた春が応接室を出ようと立ち上がった時であった。
部屋の奥のドアから坊主頭の巨漢がもそもそと身体をゆすりながら現れた。
坊主頭は交互に太郎と春の顔とを見やり、手に持つ湯呑みの乗った盆へ視線を落とした。

「三郎ォ、鈍くせぇなァお前はいつも。アオイちゃんもう帰るってよォ」
「あ、あ、あの、どうも、おつかれさま。へへ」

太郎の茶々に背中を丸める巨漢の愛想へ会釈を返し、春は事務所を後にした。



 * * *



『この世界は越えられない壁が乱立する迷路のようだ』とは、誰の言葉であったか。
街角の喫煙所で紫煙をくゆらせながら、春はぼんやりとそんなことを考えていた。

この世界には絶対的な格差がある。才能を持つ者は脚光を浴び、持たざる者は地べたを這う。
覆そうにも覆せぬ人生の閉塞感をもって、過去の誰かはそれを迷路と称したのだろう。

だが、春は思う。
自らの人生経験から導き出した答えとして、持たざる者は決して壁の外へは出られない。
出口のない迷路など、それは正しくは監獄と呼ぶべきではないか――と。

『持たざる者は産まれながらに越えられぬ監獄の終身刑』

子供の頃は、春も怪獣を倒すヒーローに憧れ、あるいは警察や軍隊を倒すダークヒーローに憧れ、
とにかく自分も格好良い大人になりたいと、人並みにそう願っていた、ように思う。
いつから自分は、憧れの自分になれないことに納得してしまったのか――春は遠く視線を投げた。

春の視線の先には、ガソリンスタンドで客に笑顔をふりまく少女の姿があった。
そこに停まっている車は最新モデルの外国車で、確か、受注生産のみの高級品である。
あのアルバイトの少女が、あと何回あの笑顔をふりまけば買えるだろうか。

一時間の笑顔で、このタバコ一箱分。春は空いた手で指折り数えた。腕時計がカチャリと鳴る。
一年、十年、二十年。あの純真な笑顔がシワの波に埋もれ、こぼれる歯が全て抜け落ちて――
それでも届かない金の塊が、滑るようにスタンドを走り去る。少女は笑顔でそれを見送った。

いつから自分は、金勘定しか出来ない人間になってしまったのか。
貯めた金で格好つけようと、良い部屋を借り、腕時計を身につけ、高い肉を食べる。
気取った身だしなみと言動だけは一人前になったと思う。だが、それが望みだったのか。

タバコを灰皿に押しつけ、春は家路へと向かった。何度目かもわからない溜息がもれる。
自分は、あの少女から、格好良い大人として見られるような人間だろうか。

自分はそれでも、幾らか金を稼げる人間であると、春は自覚している。
あの少女が一日かけて稼ぐ金額を、自分は茶封筒一枚を鞄にしまう程度の時間で稼いでいる。
しかしそれも、道を踏み外した人間の、ある種のバクチみたいなものである。

本当に優れた者は、そんな崖際を歩かない。
才能を持つ者は、自分とは違う。

春は先程の事務所にいた三人の男達を思い出す。あれは仕事で初めて顔をあわせた時であった。
三郎の鈍重さに不審の目を向けた春に、男達は笑いながら“芸”を披露した。

「引っ込むナイフ」と宣言するや、本物のナイフをペシャリと潰した巨漢。
机に置いたビンを物音ひとつたてずに砕いて見せた痩躯の男。
その二人を両手でつまみ上げ、重力を無視するように天井まで跳びあがる土気色の肌の男。

ヘラヘラと笑う男達を前に、あの日、春の背筋も心も、凍りついた。
自分の求めていたモノを、「お前は得られない」との宣言と共に、眼前に置かれた気分であった。

その日の夜に見た夢の中で、男達は見覚えのある雪山を登っていた。
春が高校生の時に、「自分では登れない」と諦めた岸壁を、男達は軽やかに進んでいた。
己の限界を初めて自覚し、それを納得させた雪原の新雪に、足跡だけがくっきりと残されていた。

――それから幾度、あの男達と会っただろう。

有名な俳優が自宅で階段を踏み外し、転落死をした。
どこかの社長が、会社の社長室で首を吊った事件もあった。
格闘家が盛り場で素人と喧嘩をして殺されるなんてスキャンダルが世間を賑わせた。

いずれも春が封筒を事務所に届けてしばらく経つと起こった事件であった。
そのたびに、男達は軽トラックの荷台一杯の肉でバーベキューをしていたと聞いている。

片や、生焼けの肉と焦げて炭になった肉とを乱暴に混ぜて、汚れも気にせずそれを喰らう者。
片や、予約したステーキハウスで、職人の手で焼かれた最高級の霜降り肉を喰らう者。
なぜ、私は前者にこそ憧れの感情を抱いているのだろうか。

この世には化物がいる。そして、それは自分とは違う生き物である。
春は、このような仕事をするがゆえに、誰よりもその事実を噛みしめ生きていた。
事務所で春が佐藤に語った「自分も化物であったなら」とは、春の偽らざる本音であった。



 * * *



二週間後。バーカウンターに置かれた時計の針が丑三つ刻を指す頃。

ロックアイス入りのグラスにウィスキーを注ぎ、春は自室の革張りのソファへ身を沈めた。
そのままリモコンを操作すると、低い駆動音と共に大画面のテレビが青白く光を放つ。
画面は四分割され、右下だけは何も映らず、残りはそれぞれ三つのカメラ映像が映されている。

「さて、時間だ」

広いリビングルームに、春の独り言が響く。
テレビに映る映像は、佐藤太郎達のヘッドカメラから送られているライブ映像である。
太郎、次郎、三郎が静まり返った住宅街の闇の中、漆喰の壁が続く建物の前へと立った。

『時間だ。ああ、それじゃァ仕事を始める。依頼内容はこのでけぇ敷地内の映像送信』

太郎の囁き声をマイクが拾い、春の部屋へと音声を届ける。

『話によりゃ、世に出回ってない警備ロボットで固めてるそうだ。ま、暴れさせてもらうわ』

次の瞬間、カメラに映る風景が高速で流れる。風を切る音がスピーカーを震わせる。
カメラがゆっくりと止まった時、そこに映る風景は、既に建物の敷地内であった。
月明かりで薄っすらと陰影ができているそこは、おそらく広い日本庭園である。

次郎のカメラが振り返り、飛び越えてきた塀の上を確認する。
反射板らしきものが二枚、そこに立てられている。『よし』と次郎の呟きが聞こえた。

『センサーを突破。敷地内に潜入。仕事を続行する』

太郎の先導のもと、三つのカメラが注意深く周囲を探り、移動を始める。
春はウィスキーをあおり、口の中に火を灯したかのようなその食感を味わい、目を細める。
化物達の人知を超えた活躍を肴に酒を呑むのも、せめてもの慰めになると、春は思った。

「先方の敷地内に潜入し、内部の映像を送信する」――これが、今回の佐藤達の仕事である。
本来ならば暗殺者に依頼する内容ではないと思うのだが、今、映像に映されている家は、
どうやらその必要性があると判断される部類の人間が住んでいる場所なのだろう。

さしずめ、春は決闘の立会人といったところだ。

カメラは目まぐるしく流れる景色を映す。
左上のカメラが暗がりに猫ほどのサイズの何かを見つけ、動きを止める。
指示があったのだろう、右上のカメラが素早く銃を構え、引鉄を引く。無音である。

『ほい小型警備ロボットを発見。一台制圧』

太郎の声が粛々と告げる。そのままカメラは庭木を避け、雨戸の閉まった建物へと近づく。
映像を観ている春には、この建物にどのようなセキュリティが備わっているのか分からない。
太郎達がそのセキュリティをどう破ったのか、今の一連の行動がどれだけ高等かも分からない。

だが、まるでそこいらの公園を散歩するように、衛星写真にも秘された場所を歩いている、
ただその事実だけで、酒肴にするには充分であった。

『見つけたぞ。あれが大型だ』

三つのカメラが同時に静止し、一点を映す。
建物の玄関前とおぼしき広い空間に黒々と巨大な影が佇んでいる。
月光を反射するそれは、3mはあるだろう鉄の鎧じみた姿の警備ロボットであった。

『ここの一番でけぇ警備ロボットを補足。制圧を開始する』

太郎の声がやや弾んで聞こえるのは、付き合いの長い春が聞くゆえの思い込みかどうか。
左下のカメラ視点がすっと高くなる。他の二つに比べ頭一つ高いこれが三郎の視界だろう。

カメラ映像が軽く上下動する。太郎達に頷いてみせたらしい。
そう思うや、三郎のカメラに映る景色が全て光の筋に変わった。三郎が駆け出したのだ。

あの三郎という男、鈍重に見えるがその実は全くの正反対である。
あまりに瞬発力に優れ、日常を過ごすには何事も動作が速すぎる、そんな肉体を持つ男。
普段は太郎達に迷惑をかけぬようことさらゆっくりと身体を動かしている最速の男。

その全力疾走である。
そこからの出来事は、全て、息つく暇もない刹那、太郎達のカメラによって映し出された。

それは弾丸さながらの黒い疾風が警備ロボットへ襲いかかる瞬間と。
次いで、紙くずを丸めるかのようにわけもなくクシャリと丸められた三郎。

巨大な鉄の鎧が、三郎よりも速く精確に両腕を振るった――ただそれだけの、だが信じ難い光景。
春はカメラに映された光景の意味に理解が及ばず、ぽかんと口を開けて画面に見入った。

『撤収』

ほんの一瞬、息を呑む音に続き、太郎が発した言葉は撤退宣言であった。
しかしその時既に、右上のカメラからの受信映像は途絶え、砂嵐となっていた。

『ヤロウ』

残されたカメラが振り返れば、地面に転がる次郎と、その身体を覆う網が映り込む。
網の端々から青白い火花がチリチリと空気を震わせている。おそらく電流。スタンガンの類か。
網を放ったのは小型の警備ロボットらしい。いつの間にか、太郎達の背後に二台、迫っていた。

乾いた発砲音が連続で響く。太郎が抱えた自動小銃の引鉄に指をかけたのだ。
カメラではその姿も定かに見えない小型ロボットは、どうやら銃弾の雨を躱している。
カシャンカシャンと金属の駆動音が闇を震わせる。

『チィ』

舌打ち。銃声。土煙。先程までの静けさが嘘のように、テレビのスピーカーが鳴き続ける。
乱れる映像の端に広がる網が一瞬映る。太郎は小型ロボット達を飛び越え、網を躱したらしい。

左上の映像が激しく乱れる一方、左下のカメラは夜空を映したまま、ゆっくり上下動している。
大型ロボットが潰れた三郎を担いだまま歩いているのか。

太郎はどうするのか――視線を左上のカメラに戻せば、そこには深夜の住宅街が映っていた。
潜入した時と同様、いつの間にか、太郎は塀から脱出を果たしたようだ。

『ハイ、仕事は終了だ。この敷地の中はあんな感じでしたよっと。クソッタレ』

溜息混じりの太郎の声に、春ははっと我に返った。この事態に、息すら止めていた。
知らず浮かせていた腰をソファに乗せなおし、春もまた溜息を吐き出した。
なんだろう、なにも考えられない――それが今の春の心境であった。まさか、と。

『アレ、情報とスペックが全然違うじゃねぇか。書類偽造にも程があらァな』

ヘッドカメラが外され、正面に太郎の土気色の顔が映される。
春は呆然と、その映像を見るしかなかった。

『敷地に入って、映像撮って、出てくるまでが俺の仕事だったなァ』

長い付き合いの、見慣れた不健康な顔。

『仕事はやったぜ。じゃあな』

まさか、それが――

『俺は南国行き飛行機の出発に間に合わなそうな鈍臭ぇ弟分の迎えに行ってくらァ』

こんなにも血を通わせた、不敵な笑顔を最期に遺すとは。
そう春が思った時には、左上のカメラ映像が向こうから切られ、砂嵐となった。

それからしばらく、最後まで映り続けた左下のカメラから銃声と男の叫び声が聞こえ、
やがてまた、深夜の住宅街特有の静けさに包まれた。

――電源を落としたテレビを前に、春はウィスキーに手もつけず、座り続けていた。
その時、リビングの窓からカツンと硬質な音が聞こえ、春は両肩を震わせた。
細かく震える指先でカーテンをめくると、窓に虫がとまっていた。

ほっと息を吐きながらも、春は目の前の小さな生物から目を離せなかった。
不気味な虫の腹と蠢く六本脚とを見つめ、湧きあがる嫌な予感に、春は身震いをした。



 * * *



「犯人は三人組の男で、現在は警察が余罪を追求しているところだそうですが」
「よりによって格闘家の家に盗みに入るなんて、バカな泥棒もいたもんですねぇ」

テレビからは朝のニュース番組のキャスターが軽妙なトークを続ける様子が放送されていた。
テーブルには焼いたトーストと、トマトケチャップ乗せスクランブルエッグが湯気をたてている。
それは普段通りの朝食風景であったが、しかしスプーンを握る春の表情は暗く沈んでいた。

昨晩の衝撃が、未だに抜けずにいる。いや、それだけじゃない――春は鬱々とうなだれた。

あの、異常なセキュリティを保持する施設ならば、ここの所在も割れているかもしれない。
もしここがバレているならば、とうに手遅れであろうと、腹をくくって昨晩は床についたのに。

テレビ画面に並ぶ見慣れた三つの顔写真を眺め、春は唸り声と共にソファに身を沈めた。
バクチのような自分の人生だったが、ついに負けてしまったか。
明日には自分も、彼らのようにお茶の間を賑わせる存在に成り果てているだろうか。

ワイドショーのネタ係では格好もつかないな――。

春は、諦観混じりのうつろな瞳でリビングの天井を見上げた。
その視界に、見たことのない女の顔が映り込んでいた。音もなく。施錠は抜かりなかったはず。

「うおおおおおおおおおおお」

春の、腹の底からの叫び声が、リビングの空気を震わせた。

テーブルを蹴倒し、朝食が床に散らばる。
危うく転げそうになるほどの勢いで後ずさり、キッチン横の壁に背中をぶつける。
棒立ちのままこちらを目だけで追う女を必死に睨みながら、春は後ろ手で戸棚を探った。

「おじさん、大人しくして」

ナイフでも包丁でも良い、何か武器をとさまよわせていた手を、その言葉を聞いて春は止めた。
自分はこの結末を覚悟していたはずだろう、と、状況に理性がようやく追いついた。
悪人は悪人らしく、せめて最期くらい格好をつけたいと、この部屋に居続けたのではなかったか。

存外に若い声を発した女は、落ち着いて見れば、背こそ高いものの、高校生程度の少女であった。
大柄だが、瑞々しい肌艶と快活そうな顔立ちの印象もあって、実に健康的な女の子といった風だ。
裏返ったヤモリのように壁に貼りついていた春は、ゆっくりと両手を上げ――苦笑した。

どんな見た目であろうと、現状から考えて自分がどうにかできる範疇の相手ではない。
運命の女神様は、思ったより早起きだったらしい。

「すまない。今のはナシでお願いするよ」

せめて、最期は格好つけて。
背筋を伸ばし、朝食をぶちまけた自分の衣服を確認しながら、春は笑う。

「みっともないところを見せちゃったね」

その精一杯の虚勢に対し、少女からは、特に返事もない。
君はあの家の子かな、と聞けば、そう、と短い返事だけが返ってきた。
私は警察に突き出されるのか、と聞けば、そう、とやはり短い返事だけが返ってきた。

「着替える時間をくれないかな。ズボンにケチャップをつけたままじゃ格好つかないだろう」

そこで初めて、少女は明確に不機嫌そうに、眉根を寄せた。

「駄目かい」
「早くしてね。ドラマが始まる前に帰りたいんだから」
「ああ、それは――いや、ありがとう」

しかし、少女は特に止めることもなく、春に最期の一時を与えた。
礼を述べた春は、少女を残し、リビングを後にした。

――衣裳部屋へ向かう廊下の途中、春は足を止めた。

春の脳裏に浮かぶのは、先程の少女の言葉と、表情。
テレビドラマを観たいから――自分を歯牙にもかけない、超越者の視点からの言葉であった。

せめて不敵に笑って言ってくれたならば格好つけのポーズだと思えたが。私と同じなのだと。
あの時の太郎のように。最期の瞬間、太郎は紛れもなく、人間であった。
化物。人間。自分は何を考えているのか――頭の中に渦巻く思考に、春は目眩を覚えた。

だらりと身体の脇にぶら下げていた右手を持ち上げ、ゆっくりと握り拳を作る。
そして思い切り、廊下の壁を殴りつけた。
鉄の鎧が容易く叩き潰した巨漢、三郎の拳ならば容易く粉々であろう壁は、びくともしない。

結局のところ、自分は最期まで本当に何も持たざる者であった。春は薄っすらと笑った。

囚人は窓の外を見ていた。鉄格子の向こうに浮かぶ月を見ていた。
それが、監獄の壁に描かれた絵であるとも知らず。

「ああ――痛ってぇ」

右手をぷらぷらと振りながら、男は衣裳部屋の扉を開け、部屋の中へと姿を消した。



 * * *



「ハァーイ☆ 女神さまのキャラクターメイキング講座へようこそ~っ☆」
「本日のお相手は春葵さん36才独身男性☆ お仕事は職業斡旋所勤務~☆」
「うっふふ☆ とうとう呼び出してくれましたね~☆ 女神さま張り切っちゃう☆」

……さすが女神様だよ。運命の女神様か勝利の女神様か知らないが、ネジが飛んでる。

「あらぁ☆ もっと褒めていいのよ~☆」
「それじゃさっそく始めるわね☆ まず、名前はどうしようかしら~☆」

名前か。うん……駄目だな。私はそういうのがとことん苦手らしい。
何も思い浮かばないな。

「じゃあじゃあ、貴方のお名前そのまんまで作っちゃうわよっ☆」

いや、ちょっと待ってくれ。
私と同じ人生など送ってもらっちゃ困る。
……そうだな。苗字と名前を逆に、葵春(あおい・はる)にしてくれ。

「は~い☆ 性別は男の子と女の子、どっちかしら~☆ どっちでもイケそうよね☆」

男……いや、待ってくれ。
ガソリンスタンドのバイトの子がこんな時に思い浮かぶとはね。
そうだな。ああいう子が楽しく生きる光景こそ私の観たいものかもしれない。
女の子にしておこう。夢で尻を追いかけるなら、野郎より可愛い子のほうが気分も良い。

「それじゃあ女の子で決定~☆ それから次は――」

――
――
――

「はいっ☆ だいたい決まったわね~☆」
「あとは~最後の一個っ☆」
「この子には女神さまが俯瞰カメラよろしく一緒にいることになるけど~☆」
「まわりには女神さまがこの子の魔人能力って思われるでしょ~絶対☆」
「訊かれたとき用の能力名っ☆ どうしましょっ☆」

……。
『青春とは理不尽への無理解である』にしておこう。

「あらあら☆ 能力名は春葵さん36才独身の能力名ねっ☆」

そこ、復唱しないでくれよ。
ああ、それでいい。

「これから青春を送ろうって子の能力には合わなくないかしら~☆」
「大丈夫なのかなっ☆」

そうだね。そうかもしれないが。
理不尽を理解して、納得してしまったら確かに駄目だがね。
だが、理不尽が世界に存在する事を知らなかったら、それも生きてはいけないだろう。
だから、この世に理不尽があることだけは常に身近に知っておかなければならない。
けれど、それを理解することも、それに納得することも、しないで生きてほしい。
そんな思いでね。あえて、この名前を贈りたいんだ。

「う~んっ☆ 親心ね~☆」

独身だけどね。

「最終確認っ☆」
「能力名は『青春とは理不尽への無理解である』だけでいいのかしらっ☆」
「貴方の能力名の前半部分だけっ☆ 後半はいらないってことでいいのねっ☆」

ああ、それでいい。
後半はね……この子には関わりのないことさ。

「は~いっ☆ ではでは~☆ 出来上がりましたるは葵春ちゃん女の子っ☆」
「それじゃあ女神さまもあっちの世界に行ってきま~すっ☆」
「若さあふれる青春模様の一ページ☆ 夢でお届けしちゃいま~すっ☆」
「お楽しみにねっ☆」
「以上っ☆ 女神さまのキャラクターメイキング講座でした~☆」



【了】



■キャラクター紹介
佐藤太郎:能力名『アイウィッシュ』
高く飛ぶ能力。重いものを持っていても高く飛ぶという結果をもたらす。

鈴木次郎:能力名『スニーク』
物音をたてない能力。

田中三郎:能力名『スタンプ』
叩いたものを勢いよく弾き飛ばす能力。地面を蹴って高速移動も可能。

春葵:能力名
『青春とは理不尽への無理解である。より正しくは、
 若者のそれを観た時に大人が抱く嫉妬・羨望・救いの感情に冠される名である』
並行世界のどこかに青春を謳歌する若者を生み出す能力。ほぼ本人の役に立たない。
カメラ役の女神を通じて、その若者の青春模様を夢の中でときどき眺められる。
制約:娑婆世界からの永続戦線離脱。