洋裁室の紅子さん

■キャラクター名:洋裁室の紅子さん
■読み方:ようさいしつのべにこさん
■性別:女性

特殊能力『ミサンドリーのミサンガ』

ねぇねぇ、この学校に伝わる七不思議って知ってる?
えっ、知ってるって? そいつは驚いたー。
……なーんてね、それって『何番目』の七不思議さー?
『四番目』だって!? 姫代学園に七つある『七不思議』の中でも一番危険な奴じゃないか!? うわー、怖い怖い、でもでも、足は付いてるよね?

なら、安心だ―。
じゃ、四番目を知っちゃったあなたにはちょうどいいかもね。
それじゃあ、五番目の七不思議の何人目かは忘れちゃったけど、『洋裁室の紅子さん』の話を教えてあげよう。

五番目の七不思議の一人に選ばれている「紅子さん」は男嫌い。
男の子の前には絶対に姿を現さないし、なら女の子が好きかといえばそうと限らないんだ。紅子さんは約束破りが大嫌いなんだからさ。

だからね……紅子さんは約束を守れる女の子しか相手にしてくれないんだ。
彼女を呼び出す儀式は簡単、放課後にもう使われていない洋裁室に入って、まずは後ろ手に鍵を閉めること。この時、部屋の中にまだ自分以外の誰かが残っていたら失敗ね。

あと、体のどこか見えるところに布を巻きつけておくことを忘れないこと。
ミサンガはもちろん、タオルでも、スカーフでもなんでもいいよ。
ま、後々のことを考えたらゆったりとして息苦しくないものの方がいいと思うよ!

でね、巻きつけるのは赤い布か白い布か、あなたならどっちを選ぶ?
そっかー、白い布かー、ま、聞くまでもなかったね。
白い布を選んだあなたの前にはきれいな女の子が現れるの。

現れるって言っても急にパっと出てくるんじゃないよ。
いつのまにかね、あなたの死角に立ってるの。

それが紅子さん、たぶんこの学校の昔の生徒さんだったんだろうね。
だって、制服が旧いデザインなんだもの、それなのにたった今卸し立ての新品みたいにピカピカなのね、紅子さんの肩まであるウェービーな髪型がさらさらとかかってるの。

不思議だよねえ、別に血を被ってるとか、血の気がないとかそーゆーのもないの。
足だってちゃんとあるよ! なのに紅子さんを目にした人は彼女がこの世のものではないってわかっちゃうんだってさ。

だって、茜色の夕焼け空でも、深い碧色の夜空でも、なんだったら目を閉じていたって、紅子さんはあなたの視界によく映るの。
人間じゃないって、わかるでしょ?

そしてねそしてね、紅子さんは指さすの。
「首を、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
って言葉を発しながらね。紅子さんはきれいな顔をしてるからね、やっぱりきれいな声らしいよ? あたしは聞いたことないんだけどさー、あははは。

あ、そうそう、指さすのはあなたが巻いている布の位置ね。
あー、怖いと思った? きれ―な声をしてても、この時の紅子さんはすっごい一本調子というか、まるでレコードの針が飛んだみたいなブレッブレなんだってさ。

いくら綺麗でも、ちょっと人間っぽくなさ過ぎて遠慮したいよねえ。
ま、ここまで来ちゃったら引き返せないんだけどね?

紅子さんは止まらないよ。
紅子さんはあなたが巻きつけたスカーフをすごい力で引っ張るの。
その時の紅子さんはね、笑顔なの。きっとね、それは男の子だったら絶対に恋をする、女の子だって抵抗をあきらめるような、だって……だって……この笑顔は首を絞めている時しか見れないんだからもったいないじゃない? って思えちゃうんだって。

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
声は相変わらずブレブレなんだけどね。
それはまるで、首を絞められまいと必死にもがくあなたの声に似ているの。
声は声の上に覆いかぶさって、力はより大きな力にねじ伏せられて抵抗を無意味なものにするの。苦しいでしょ? 怖いでしょ?

でも、ある時、ふっと楽になるの。
それはあなたの願いが叶えられたからなの。
紅子さんが力をゆるめてくれたからなの。

それと同時に紅子さんはブレブレの言葉を閉じたわ。
「ありがとうございます♪」
ってね? 本当に弾むような、嬉しそうな声だった。人間らしい声だった。
へたり込むあなたをよそに、かちゃりと洋裁室の唯一のドアが開く。そちらに目をやっても誰もいないの、洋裁室にはあなた以外誰も最初からいなかったの。


ああそうそう、『洋裁室の紅子さん』はね、あなたがこの世で一番憎いと思っている男の人を殺してくれるの、代わりにあなたの覚悟を見るのね。
本当に人を殺したいのなら、自分が殺されてもいい……きっとそういう理屈なのね。

女の子を締め付ける代わりに男の子を切り落とす、首ならきっと確実ね。
だから、手や指に布を巻き付ける程度じゃどうしても覚悟が足りないんだって。
紅子さんは手や指が腐り落ちるまで締め上げるけど、憎い相手の手や指が落ちたなんて話は聞かないもの。

紅子さんはね、昔この学校で誰かと心中したんだって。理由はわかんない。
死因は洋裁のハサミで首を切ったことによる失血死だった。
たぶん心中の相手は男の子だったんだと思うんだけどね、死んだのは彼女だけだった。

だから、紅子さんは約束破りの男の子が大嫌いなの。
ね、白いスカーフなんて珍しいよね、覚悟のあるお嬢さん?

設定

ねぇねぇ、この学校に伝わる七不思議って知ってる?
えっ、知ってるって? そいつは驚いたー。
……なーんてね、それって『何番目』の七不思議さー?
『四番目』だって!? 姫代学園に七つある『七不思議』の中でも一番危険な奴じゃないか!? うわー、怖い怖い、でもでも、足は付いてるよね?

なら、安心だ―。
じゃ、四番目を知っちゃったあなたにはちょうどいいかもね。
それじゃあ、五番目の七不思議の何人目かは忘れちゃったけど、『洋裁室の紅子さん』の話を教えてあげよう。

五番目の七不思議の一人に選ばれている「紅子さん」は男嫌い。
男の子の前には絶対に姿を現さないし、なら女の子が好きかといえばそうと限らないんだ。紅子さんは約束破りが大嫌いなんだからさ。

だからね……紅子さんは約束を守れる女の子しか相手にしてくれないんだ。
彼女を呼び出す儀式は簡単、放課後にもう使われていない洋裁室に入って、まずは後ろ手に鍵を閉めること。この時、部屋の中にまだ自分以外の誰かが残っていたら失敗ね。

あと、体のどこか見えるところに布を巻きつけておくことを忘れないこと。
ミサンガはもちろん、タオルでも、スカーフでもなんでもいいよ。
ま、後々のことを考えたらゆったりとして息苦しくないものの方がいいと思うよ!

でね、巻きつけるのは赤い布か白い布か、あなたならどっちを選ぶ?
赤い布か―。なるほどなるほど、覚悟がいりますなあお嬢さん、えへへへへ。
赤い布を選んだあなたの前にはきれいな女の子が現れるの。

洋裁室には姿見があってそれをじーっと見つめるの。
穴が開くまで見つめるの。目を逸らしちゃいけないの。瞬きしてもいけないの。
そしたら、いつの間にか紅子さんがあなたの隣に立ってるの。

首筋はほっそりして、白鳥の首先か白磁の美術品のよう。
瞳をたとえるなら黒い宝石、ガラス玉のように意志を宿さないものじゃなくて確かな輝きがそこには宿っているのね。
唇から頬、額まで、つうと滑るように瑞々しい肌は、水を垂らしたとしてもすぐに弾き飛ばしてしまえそうな生命力に満ちていたの。

でもね、不思議と生きている感じがしないの。
ささいな産毛も、肌の下で脈打つ血の流れも、きっと見て取れるのにどこか人形らしさが外せない。だって紅子さんは鏡の中から動けない、あなたみたいに瞬きもしないんだから、それも当然かもしれない。

それでね、あなたは欲しくなったから紅子さんに会いに来るの。
なにが欲しいかって? 例えば首筋、例えば手首。
そうだねえ、そこが切れ目かも。

あなた、鏡の中の紅子さんをじっ……と見つめるでしょ。
するとね、紅子さんはあなたの欲しい体の一部分を差し出してくるの。
ぷつつっ、肌の上に赤い珠が盛り上がっていってね、赤い線が引かれてそこが境の切り取り線みたいにぽとっと落ちる。

で、ふと気づくとあなたのからだの一部は紅子さんになっているのよ。
ま、その赤い布は一生外せないんだけどね。だって、そうでないと繋ぎ止められないんだから。あの世とこの世が交じり合うなんて無茶な話だもんね。

まぁ、頭を入れ替えるなんて無茶な話そうはないのかもしれないけどさ。
でもさ、最近のうちのクラスってなんか変なんだよね。
一斉にみんな整形でも始めたのか知んないけど、なんか妙に顔面偏差値が上がったというか、赤いスカーフが流行っているというか……。

って、なーんてね! スカーフだってうちの学校指定のオプションにあるもんね。
気のせい気のせい! あははは……。


でもさ、蝉、うるさいね。
ね、もう六月だよね、なんでまだ着けてんの?
最終更新:2021年02月21日 21:49