三回戦第一試合その1


■前回までのあらすじ

 ――二回戦を勝ち抜いたカナデとハルト!

 帰路についたハルトを待ち受けていたのは、
 暗黒ガンバトル組織・ブラックデビル団四天王の一人――“レッドファントム”!
 偶然居合わせたカナデはハルトに協力し、四天王との戦いがはじまった!

 レッドファントムの縦横無尽のマジックコンボに苦戦するハルトとカナデ。
 とっさの連携プレーで辛くもレッドファントムを退けた二人であったが、
 しかし、ああ、その代償は……!



■第38話『友との別れ!さらばブレイズマックス!』

 「――――ブレイズマックス~~~~~ッ!」

 溶岩に落ちた相棒に手を伸ばし、ハルトが慟哭する。

 「ダメだハルト!」

 「離せッ!離してくれよカナデッ!」

 カナデに羽交い締めにされ、それでもなお足掻き続けるハルト。
 やむを得ない。相棒のブレイズマックスが、目の前で焼かれているのだ。
 相棒の声が聞こえる。相棒の痛みが伝わってくる。

 ……ブレイズマックス。
 じいちゃん家の土蔵に封印されていた幻のガンバースト。
 古くても、使いづらくても、俺の相棒だった。
 辛い時も、嬉しい時も、ずっと一緒だった。

 ずっと、ずっと、一緒だった――。


 「……ブレ……」


 涙で滲む視界の中、ブレイズマックスがマグマに没した。
 がくりとハルトが膝を折る。

 歌舞伎町での一戦――
 闇条アキラの卑劣な罠でも折れなかったハルトの心は、
 今こそガラスのように砕け散った。

 もはや紅崎ハルトは一人きりだ。
 相棒を失ったガンバトラーは、二度とは――――

 「ハルト。終わりじゃない」

 「……カナデ?」

 「終わりじゃない。
  聞いたことがあるだろ。蝦夷の伝説!」

 「蝦夷…………そうか!」

 ……虚ろだったハルトの目に、再び光が灯った!
 光は燃え盛る火となってハルトの全身を駆け抜け、心臓に至った。
 身体が熱い。希望が戻ってきた。

 「伝説の、ガンバトル仙人!」

 「そうだ! 仙人ならきっとなんとかしてくれるはずだよ!」

 正体不明のガンバトル仙人。
 ただ『蝦夷の山奥に暮らしている』とだけガンバトラー間に伝わる伝説的存在。

 仙人に会うのは容易な事ではないだろう。
 だが、何人かのガンバトラーは蝦夷に行き、仙人に出会い、力を得たという言い伝えがある。
 現在の世界チャンプ――『ガンマスター』獄竜山ヤマトもそのうちの一人だと聞く。

 「カナデ。仙人なら生き返らせてくれるかな、ブレイズマックスを」

 「わかんないよ。ただの無駄足になるかもしれない。
  ――――それでも、ハルト」

 カナデが言葉を切った。力強く笑う。
 ハルトもだ。白い歯を見せて笑った。
 そして、二人同時にまったく同じ言葉を口にした。


 「「――ここで諦めるなんて、ガンバトラーじゃねえ!」」


 ハルトが立ち上がった!
 鍛え上げた己の技はブラックデビル団四天王に通じなかった。
 ブレイズマックスという唯一無二の相棒まで失った。

 ああ、それでもなお、ハルトの魂は燃えている!
 天に向かって吠えている!

 “俺は決して諦めない”――――と!

 “俺はガンマスターになる”――――と!

 偉大なる父。初代ガンマスター、紅崎ジン!
 偉大なる兄。二代目ガンマスター、紅崎カズヤ!
 二人を超えるその日まで……ハルトの心が折れる事はない!

 「よしカナデ!行くぞ、蝦夷!」

 「おっしゃーっ!」

 10歳と17歳。男子小学生と女子高校生。
 こうして、魔人ガンバトラー二人の奇妙な旅路が幕を開けた。



■第40話『試練の幕開け!ぜんぶがガンバトル!』

 「なるほどな。事情はわかった。
  だがワシの試練は厳しいぞ」

 「構わねえ!絶対やりとげてみせる!」

 ボロボロの畳に拳を打ち付け、ハルトは力強く宣言した。
 やっとのことで仙人を見つけたのだ。どんな試練であろうと受けてみせる。

 「そっちの嬢ちゃんもか?」

 「うん!あたしはハルトのライバルだもん。
  ハルトとの決着は、ガンバトルでつける!」

 隣に座るカナデも同じ気持ちだった。
 胸を張って即答する。

 「ブレイズマックスが蘇るなら、あたし、どんな事でもやるよ!」

 「俺もだ!」

 「……ホッホッ、よかろう。ならば決まりじゃ!」



 「おい爺さん!こんなので本当に修行になるのかよ!」

 「やかましい!ぐだぐだ言わずに雑巾がけせい!
  ちっとはカナデを見習わんか!」

 「だってよォ~~!」

 厳しい試練を宣言されてはや三日。ハルトとカナデはボロ屋敷の雑用に明け暮れていた。
 雑巾がけ、草むしり、畑仕事。料理に洗濯、皿洗い。
 ハルトが不満を述べるのも無理はなかった。

 「わかってんのかよ、世界大会がすぐそこに迫ってるんだぜ!
  俺のブレイズマックスを――いッて!」

 仙人の杖がハルトの頭を打った。
 もう何度目だろうか。仙人は静かにハルトを諌める。

 「よいかハルト。これは間違いなくワシの試練だ。
  もしこれが只の雑用に見えるなら――」

 ずいと顔を近づける。

 「世界大会優勝。ガンマスターになるなど、夢のまた夢。
  今すぐガンバトラーをやめて越谷に帰るがいい」

 「……クソッ!わかったよ、やればいいんだろ!」

 どたどたと雑巾がけを再開するハルトを、仙人は満足気に見つめる。

 その背後。
 かがみこんで黙々と草むしりに勤しむ松姫カナデは、

 (……似てる。いや)

 ――ハルトよりも一足先に、真実に到達しつつあった!

 (同じなんだ!草むしりも雑巾がけも、ぜんぶがガンバトル!
  この修業を乗り越えたら、あたしたちは絶対強くなれる。けど……)

 横目でちらりと仙人の方を伺う。

 (いったい何者なんだろう、この人……!)



■第42話『第三試練! コロシアムの死闘!』

 「――でえええええいッ!」

 「おらぁああああ~~~~~ッッッ!」

 ――激突!

 松姫カナデと紅崎ハルト!
 二人は今、ガンバトラーとしてではなく――魔人同士として戦っている!
 理由は言うまでもない。希望崎学園の武闘会、その三回戦目で二人が当たった為である。

 これもまた仙人の予定通りである事を二人は知らぬ。
 仙人はただ「勝敗がつくまで戦え。これも試練の一つだ」としか言わない。

 にも関わらず、ハルトとカナデは仙人の言葉を信じて全力で戦っている。
 何故か! 仙人の修行の成果を実感しはじめているからだ!

 数日前、ハルトとカナデはブラックデビル団四天王の“イビルソード”を破った!
 奴を倒せたという事実そのものが、仙人の修行に確かな効果があったという証明に他ならぬ――!


 「俺は! ガンバトル以外、興味ねえ!」

 「うん!」

 「でもよォ~!」

 ハルトの拳に、炎が宿る。レオパルドのオーラだ!
 そう!今のハルトはブレイズマックスなくともレオパルドのオーラを再現する事ができる。
 仙人の元で行った数々の修行――それがハルトの眠れる才能を開花させたのだ!

 「これまでの俺はブレイズマックスに頼りすぎだった!」

 拳を高々と掲げる。ハルトを中心に巨大な炎の柱が立ち上る。

 「だからレッドナントカにもボコボコにされた……でも、今はそうじゃねえ!
  俺だッ!俺自身がガンバーストになればいい!」

 例えればそれは、全てを薙ぎ払い焼きつくす赤い龍!

 「手加減は、しねェ~ぞッ!カナデエエエエエェッ!」

 赤い龍にカナデが飲み込まれた!
 いくら松姫カナデといえど、ひとたまりもない――

 「……」

 決着か。
 否!

 龍の顎をこじ開け、飛び出てきた小さな暴風がある。

 艶やかな黒髪。豊かな胸。大人の女性――
 《サンドリヨン・ゴーヴァン》を発動した、松姫カナデ!
 ハルトの一撃を真正面から喰らい、耐えぬいた!

 「――なんのッ、これしきいいいいっ!」

 「はははっ!お前も、ガンバーストになれたのか!」

 ハルトが両手を広げた。
 ガンバースト共鳴現象によって増幅されたオーラをフルに展開し、
 こちらも真正面からカナデを受け止める!

 「うおおおおおおおおおおおッ!」

 「うううううううおあああああああああああああッ!!」

 ――カナデの力がほんの僅かに上を行った!

 ハルトは勢い良く弾き飛ばされ、コロッセオの観客席に激突した。
 石造りの床がハルトの形に変形し、めり込んだ!

 「くそう……カナデ、俺はまだ負けてねえ~ッ……!」

 「決着は……絶対、ガンバトルで……」

 宙を掴むように伸ばしたハルトの右腕が、がくんと落ちた。
 完全なる気絶。戦闘不能――決着だ!

 「……ホッホッ、それでいい。それでいいんだ、ハルト」

 観客席で見守っていたガンバトル仙人は、ただ満足気に頷くばかり。



■第43話『ついに見つけた!ガンバトラーの資格』

 ――ガンバトル仙人からの最終試練。
 それはジャングルの奥地、秘密の泉の傍らにひっそりと生える伝説の薬草を持って来いというものだった。

 ハルトとカナデは魔人である。
 楽な課題だ、と油断してしまったのも無理はない。

 だが、ハルトとカナデの二人は知らなかった。
 このジャングルには――女性だけに感染する致死性のウィルスが蔓延している事を……!

 「はあ、はあ……」

 背中のカナデが苦しげに息を吐く。
 顔色は悪い。はやく病院に連れていかねば命に関わるだろう。

 「あたしの事はいいよ。一人で大丈夫……。
  すぐおいつくから、先に行って。ハルト……」

 「バカ野郎~ッ!こんなところに女を置いてけるかよっ!」

 ハルトがカナデを背負い、蝦夷のジャングルを行く。
 出発前にガンバトル仙人が言い残した言葉がリフレインする。


 (よいかハルト。ガンバトラーには非情さが必要だ)

 (ああ?)

 (もしもの時はカナデを見捨てろ!
  力を得たいならば、ガンバトル以外の全てを切り捨てよ!
  それがガンマスターに必要な覚悟だ!
  その非情さなくば……ブレイズマックスはお前の手に戻らぬと知れ!)

 「うるせえ……!うるせえぞジジイ~~ッ……!」

 見捨てる事は容易だ。こいつはあくまで勝手についてきただけ。
 むしろカナデがいなくなればライバルが減り、ガンバトル世界大会が楽になるかもしれない。

 ――などと小賢しい事を、紅崎ハルトは考えない!


 (ブレイズマックスを失った俺を、こいつは励ましてくれた)

 (蝦夷にまで来て、いっしょに仙人を探してくれた)

 (なにより――!)


 そうだ。ハルトも、カナデも、ガンバトラー。
 ガンバトラーにはガンバトラーとしてやらねばならぬ事がある!

 (カナデとの決着はガンバトルでつける!
  こんなところで死なれちゃあ、たまんねーよな……!)


 「……ハルト。なんか言った?」

 おぶさったカナデが弱々しく口を開いた。
 背中からカナデの体温が伝わってくる。その熱こそが、ハルトに無限の力をくれる気がした。

 「なんでもねえ。飛ばすぜカナデ!」



 試練は、終わった。

 結果から述べれば、伝説の薬草はあった。
 ハルトはそれを持ち帰らず、その場でカナデに使った。
 瀕死のカナデはたちまちに元気を取り戻したが、
 己のせいで薬草がフイになった事を聞くと肩を落としていた。

 ――だが、それでよかったのだ!
 屋敷に戻ったハルトとカナデを認めた仙人は、ただ一言“合格だ”と告げた。

 そう。最終試練は心の強さを計るものだった。
 ガンバースト共鳴現象に見られるように、ガンバトラーにとって真に重要なのは技術でも身体能力でもない。

 重要なのは、心!

 苦境においてどれだけ闘志を燃やせるか。
 苦境において友を見捨てず、共に歩む事ができるか。
 絶望に、闇に呑まれず、光の道を選ぶ事ができるか。

 心が足りぬばかりに魔道へ堕ちたガンバトラーを仙人は山程見てきたのだという。
 ゆえにこそ、二人で戻ったハルトとカナデは試験に『合格』したのだ。



 (世界大会は明日。ブレイズマックスが蘇るのも明日の朝、か)

 湯船の中で、紅崎ハルトはグッと拳を握りしめた。
 明日の出発は早いだろう。この風呂からあがったらぐっすり寝て、休息を取らなくては。
 頭では分かっているが、どうしても笑みが止まらなかった。

 「へへっ、ワクワクしてきたぜ~~ッ!」

 並み居るライバルとの戦いを想像し、胸が高鳴る!

 直後。
 その背後でガラガラと音がした。

 「ハルト!今日のお礼に、あたしが背中ながしてあげるよ!」

 「え?」

 振り向くと、そこにはバスタオル姿のカナデが立っていた。

 男子にとって神聖不可侵の領地――お風呂場にカナデが乱入してきたのだ!
 女子高生が!
 バスタオル一枚で!

 「え?」

 「ほら座って座って!おふろ入ってたら背中流せないじゃん!」

 すらりと伸びた太ももが眩しい。
 カナデの腕が伸び、ハルトを強引に湯船から引きずりだした。
 柔らかな感触が伝わってくる。ああ、10歳の少年にはあまりにも刺激が強すぎる!

 「あっ大丈夫だよ!
  あたしときどき弟と入ってるから、背中流したげるのは得意で……」

 「――――出てけェェェ!」



■第44話『新たな力!ブレイズインフィニティ!』

 「これが俺の新しい相棒……!」

 「そうだ」

 「これが……ハルトの……!」

 光の奔流が収まる。
 赤と黄金の輝きに包まれてハルトの手に収まったのは、かつての相棒ブレイズマックス。
 ――いや。ブレイズマックスのフォルムはそのまま、新たな意匠がいくつか加えられている。

 「新しいブレイズマックス。いや」


 「――――“ブレイズインフィニティ”!」


 「ブレイズ、インフィニティ……!」

 ――炎の柱が噴き上がった!
 今ふたたび、紅崎ハルトは相棒を取り戻したのだ!
 相棒を失った戦い。無様極まりなかったレッドファントムとの戦いが脳裏に蘇る……!

 「ごめん、ブレイズマックス……いや」

 「ブレイズインフィニティ。もう大丈夫だ!
  俺は必ず……お前と一緒に……ガンマスターになる!」

 「ハルト……よかったね……!」

 ぐすぐすと涙を流していたカナデが目元を拭った。

 「――さあ行け!既にガンバトル世界大会予選は始まっている!」

 「行こうハルト、会場へ!」

 「ああ!」

 ハルトとカナデがボロ屋敷を飛び出していく。
 足音。沈黙。
 残された仙人が一人ごちた。

 「…………やれやれ」

 ベリベリと顔に手を伸ばし、変装用マスクを剥がす。
 年老いた顔が床に落ちる。
 仙人の素顔があらわになった。

 だが、ああ!その顔は!まさか!
 まさかその顔は!

 1年前、ハルトを守る為にブラックデビル団と戦い、死んだはずのあの男。
 二代目ガンマスターとして世界中を震撼させた、あの男……!

 「我が弟ながら、まったく世話が焼ける」

 ――ハルトの兄、紅崎カズヤ!
 ブラックデビル団の卑劣な計画によって戦う力を失った彼は、
 しかし心底満足そうな笑みを浮かべていた!

 弟、ハルトの成長をこの目で確かめる事ができた。
 弟のよき理解者となってくれる娘……松姫カナデがいる事を知った。

 そうだ。例え自分が戦えずとも、次代を担う若者たちがいる!
 ブラックデビル団の企みは必ず阻止されることだろう。
 ハルトとカナデ、彼らが居るかぎり!

 「信じているぞ、ハルト。カナデちゃん」

 ……ぼろぼろとカズヤの身体が崩れ落ちていく。
 彼は既に死んでいたのだ。ブラックデビル団首領に敗れたあの日に。

 それでも彼は待った。
 ガンバトル仙人を名乗り、信じて待ち続けた。
 成長した弟が――ブラックデビル団と戦う力を求めて、蝦夷にやってくることを。
 そしてハルトは来た。己の力不足を認め、更に強くなる為に。


 「最期に――――君たちと話せて、よかった」

 「頑張れよ。二人とも」


 ――ちりん、と風鈴が鳴った。
 古びた畳の上には白い灰だけが残り、それもじき、風にさらわれていった。



■第49話『最終決戦!負けるなハルト、がんばれカナデ!』

 「ククククク……ハーッハッハッハッ!」

 ――世界大会はブラックデビル団の罠だった!

 いや、思えばすべてが掌の上だったのだ。
 ブラックデビル団首領にして、現ガンマスター……すべて獄竜山ヤマトの策略だった!

 「た……大変な事になってしまいましたッ!」

 阿鼻叫喚の地獄の中、それでも実況者はマイクを離さない!

 「“白騎士”のグレイ選手、“二丁拳銃”大江戸選手、ついにダウン!
  残っているのは松姫カナデ選手……そして、紅崎ハルト選手のみとなりましたァァッ!」

 「ククククク……ハーッハッハッハッ!」

 獄竜山ヤマトは世界中のガンバトラーが日本に集まるこの時を待っていた!
 暗黒のガンバースト共鳴現象によって、すべてのガンバーストオーラを吸い取り……己の物としている!

 首領のもとに、力が集まる!
 生命力が吸われていく!

 「ぐッ……も、申し訳ありません。
  私も、いよいよ実況を続ける事が、難しく……!」

 耳障りな実況が止んだのを見、獄竜山ヤマトは深く笑った。

 「ククク……見たかガキども。見えるか、この力が!
  いまや私は無敵!お前ら雑魚では束になっても敵わぬわ!」

 口先だけではない、凄まじい力!
 暴風のようにオーラが吹き荒れ、傷ついたハルトとカナデを打ち据える……!

 「ハハハハハ!爽快だッ!最高の気分だッ!
  力こそがガンバースト!力こそがガンバトル!」



 「――ちげェ!」

 もはや力尽きる寸前。
 膝を震わせ、必死に歯を食いしばり、それでも立った!紅崎ハルト!

 その横で、もう一人の少女もまた、立ち上がった!

 「あなたは分かってない!
  本当のガンバトルを、ガンバーストを!」

 ――松姫カナデ!
 ハルトとカナデ、二人の目には炎が宿っている。
 尽きせぬ闘志の炎が。不屈の闘志が!

 「なにが分かっていないというのだ!」

 「ライバル達との戦い――」
  培ってきた友情。みんなとの絆!」

 「その一つ一つが、ガンバーストなんだッ!」


 「それを今ッ!」

 「教えて、やる―――――ッ!」


 カナデとハルトが、跳んだ!
 同時に、二人は眩い光に包まれた!

 「ぬうッ!これは……!」

 ――これまで獄竜山が展開していたのは暗黒のガンバースト共鳴現象だ。
 すべての漆黒に閉ざす闇の奥義。あらゆる者の命を吸い取るブラックホール。

 対して二人が起こしたのは、いわば光のガンバースト共鳴現象!
 カナデとハルト、そして会場に倒れたライバル達。みんなの思いが一つになり、光のオーラに!



 (そうだ。行け!俺達の力を持っていけ!)

 (いきなさいカナデちゃん。私の力、全部あげるわ!)

 (行け――――ハルト!俺は、兄は、いつでもお前の傍にいる!)

 (ハルト!)

 (カナデ!)

 (ハルト!)

 (カナデ!)

 (――がんばれ!!)



 「「が」」


 「「ん」」


 「「ばる!!」」



 ハルトとカナデ、二人がしっかりとお互いの手を握りしめた!
 共鳴現象はますます強くなり、獄竜山のオーラを上書きしていく!
 光が――暗黒を駆逐していく!


 「「うおおおおおおおーーッ!」」

 「バカな……バカなァァァーっ!」


 ブラックデビル団首領、獄竜山ヤマトの最期だ!
 光の奔流が獄竜山を飲み込み――そして、無へと帰した。

 ――パチパチパチ。
 観客席から拍手が飛ぶ。
 拍手は次第に大きくなり、カナデとハルトを称える大歓声へと変わった。

 ガンバーストを悪用し、世界を支配する――
 ブラックデビル団の悪しき目論見は、今ここに崩れ去ったのだ!


 「へッ。やったな、カナデ」

 鳴り止まぬ拍手と歓声の中、ハルトは隣に立つカナデに呼びかける。

 カナデは首を横に振った。
 そうだ。まだ大事な事が残っている。

 「ううん、まだだよ。これからだよ、ハルト!」

 「……ああ、そうだな!」



■最終話『俺はガンバトラー、紅崎ハルトだ!』

 「――さァーッ、長きに渡る世界大会もついに決勝戦!」

 「紅崎ハルト選手!松姫カナデ選手!
  勝利の女神は……いったい……どちらに微笑むのか~~~~ッ!」

 盛り上がるアナウンス!
 大歓声の中、対峙するのは二人のガンバトラー!

 紅崎ハルト!

 そして、松姫カナデ!


 「長かったよな。ここまで」

 「うん。いろんな事があった」

 「お前のこと、最初はワケわかんないやつだと思ってたよ」

 「そう? あたしはハルトの事、最初から気に入ってたけど……」

 「~~ッ! そういうところがワケわかんないんだよ!」

 ハルトが顔を真赤にして反論する。
 小学生らしい初心な一面だったが、それも一瞬で元に戻った。
 戦士の顔に。ガンバトラーの顔に!

 「……勝負だぜカナデ。どっちが勝っても恨みっこなしだ!」

 「うん!」

 小さく頷き、お互いに相棒を構える。
 もはやここまで来れば、言葉など無粋。
 語り合うのみだ。ガンバトルで!

 「ガンバトルゥゥゥーーーッ!レディィィィイイッ!」

 試合開始の合図が――――今!

 「ゴーッ!」



 「――いけェェッ!俺のブレイズインフィニティ!」

 「――全力だッ!あたしのサイクロンジェネシスッ!」

 「「ううううおおおおおおおおおおおおおおおおアアアアッッッッ!!」」



 激突!そして、閃光……!



■エピローグ

 「じゃ、そろそろ行くね。ハルト」

 紅崎ハルトは、バス停まで松姫カナデを見送りに来ていた。
 夏の日差しが眩しい。蝉の声だけがBGMだ。

 あのあと、ガンバトルでの決着はつかなかった。
 獄竜山との戦いによってボロボロになった世界大会会場が、
 ハルトとカナデのパワーに耐えられなかったのだ。

 結果は引き分け。一ヶ月後に改めて世界大会が開催される運びとなった。

 「また来月ね!負けないからね!」

 「おう。俺も絶対負けねえぞ!」

 やりとりは短かった。窓越しに握手をかわし、それが最後になった。
 バスが出発する。カナデはいつまでもハルトに手を振っていたが、見えなくなった。

 色々な事があった。
 だが、まだ終わりではない。

 「行こうぜ相棒。世界大会に向けて修行だ」

 元の姿を取り戻したブレイズマックスを懐にしまい、
 紅崎ハルトは夏の青空に向かって吠えた。

 「俺は絶対、ガンマスターになる!」

 「俺は――――紅崎ハルトだ!」









 来週のこの時間は!

 新番組『ガンバトラーハルト・R』!




 「――ハハハハハ!ブザマだな紅崎ハルト!」

 「ぐッ、なんて強さだ! 攻撃がまるで通用しねえ……!」

 「皇帝陛下直属“暗黒五邪将”が一人!
  この“幻惑のカストール”様の手にかかって死ねる事を
  光栄に思いながら死ねェェ~~~ッ!」





 『――最後まで使えない奴だったな、カストール。
  貴様は用済みだ。そこで死ね』

 「カナデッ!カナデなんだろ!?
  俺だよ、ハルトだよ!目をさましてくれ、松姫カナデッ!」

 『違う。私はダークレディだ。
  私は皇帝陛下の剣である。皇帝陛下の盾である』

 「違う!お前は俺のライバルで……親友で……!」

 『――構えろ。ガンバトルだ、紅崎ハルト』

 「仮面の洗脳なんかに負けないでくれッ!カナデ~~~~ッ!」





 「光があれば闇がある。
  彼らは闇の皇帝に支配された、暗黒のガンバトラーだ」

 「闇……暗黒……!」

 「首魁であるダークエンペラーを倒せ!
  カナデちゃんを助けるにはそれしか手はないぞ、ハルト!」

 「……わかった。やってみせるぜ兄ちゃん!」

 「俺は――俺は!
  ガンバトラー! 紅崎ハルトだ!」





 三回戦第三試合:コロッセオ

 ――勝者:松姫カナデ
 《サンドリヨン・ゴーヴァン》による強化パンチにより、紅崎ハルト戦闘不能
最終更新:2016年07月16日 23:32