第7章:史上最も武士を憎んだ武田信玄
歴史博士「さて、今日は四代目武田信玄のお勉強をしていこうか。」
たかし「うん!確か昨日までの話だと……最前線でオーストラリアの敵を食い止め続けた二代目武田信玄も、命と引き換えの技でオーストラリア大陸を消し飛ばした三代目武田信玄も、どっちも死んじゃったんだよね。」
歴史博士「そうだね。孤独に技を鍛え続けた一兵卒に過ぎなかった三代目は、二代目から名前を継いだその10秒の間だけ、間違いなくく、みんなに認められた武田信玄だったんだ。」
たかし「犠牲は大きかったけど、今度こそ日本は平和になったんだよね? 二代目も三代目も、あんなにがんばったんだし……」
歴史博士「ところが、そうはいかなかったんだよ。むしろこの時代は、タケダネット史上最悪の暗黒時代といわれているんだ。」
たかし「え!? オーストラリアの魔界軍もやっつけたのに、どうしてそんなことになっちゃったの?」
歴史博士「魔界の軍勢がおそろしい敵だったからこそ、勝った直後が一番危ない時期なんだよ。たとえば、運動会の綱引きは、みんなで協力しないと勝てないよね?」
たかし「うん。つまり、綱引きがオーストラリアってことだよね?」
歴史博士「その通り。たかしくんは、綱引きの最中にクラスで仲の悪い子と喧嘩したりするかい?」
たかし「ううん。僕のクラスだと、村上くんとは仲は悪いけど、綱引きの途中で喧嘩なんかしたら負けちゃうもん。」
歴史博士「そうだね。けれど、綱引きが終わったからって、村上くんと仲が良くなるわけじゃないだろう?」
たかし「あ、そうか。これまでいやいや協力してた人達が、また戦い始めるんだ!」
歴史博士「諸侯を力でまとめ上げた二代目武田信玄も、彼を支えた有力な家臣たちも、魔界との戦いで大半が死んでしまったからね。しかも、そうした政情の混乱の中で武田信玄の名前を襲名することになってしまったのが、四代目武田信玄だったんだ。」
たかし「ふーん。二代目も三代目も死んじゃって、ラッキーで武田信玄になったのかな。」
歴史博士「それがね、四代目は、本当は武田信玄になりたくなかったと言われてるんだよ。」
たかし「言われてみればそうかも。僕だって、みんなが喧嘩ばかりしてるクラスの委員長になんてなりたくないもんなあ。」
歴史博士「そう思うよね。けれど四代目が武田信玄を嫌がった理由は違うんだ。彼は、武士そのものが嫌いだったんだ。」
たかし「え!? 武田信玄って、最強の侍じゃないとなれないんだよね? なのに、四代目は侍が嫌いだったの?」
歴史博士「その通り。彼は武田信玄でありながら、積極的に反武士勢力の活動を煽るようなことをやっていたんだ。武士だけが強いという神話を、自分の代で終わらせたかったのかもしれないね。」
たかし「そうなんだ……。武田信玄って立派な人ばかりだと思ってたけれど、なんだか、迷惑な人だなあ。」
歴史博士「けれど、皮肉にもその政策こそが武士の最強を証明してしまったんだ。四代目は、人間にはもっと多くの可能性があるのだと書簡に残している。武士の道だけでなく、どんな道を選んでも、最強になれるべきだと思っていたんだね。」
たかし「四代目に助けてもらっても、他の武術の人達は武士に勝てなかったの?」
歴史博士「そう。四代目は、武士として強すぎたんだ。全力で戦う自分が負けてこそ武士の時代を否定してもらえると思っていたのに、その強さが、武士以外の道を否定してしまったんだ。四代目武田信玄は、史上最も哀れな暗君とも呼ばれているんだよ。」
たかし「そんなに強かったのに、どうして武士が嫌いだったのかな?」
歴史博士「自分が武士の才能しか持っていなかったから、そうではない人達に憧れたのかもしれないと言われているね。たとえば、合気道のことは聞いたことあるだろう? ああいうものは、本来、二代目の時代には根絶されていたんだ。」
たかし「へえ、四代目が合気道を復活させたんだ! 他にはどんな武術が四代目と戦ったのかな?」
歴史博士「四代目の文化復興の名残は、今も世界各地に残っているよ。例えば……新潟の生物すら、四代目が武士よりも強い存在を求めて持ち込んだものが少なくないんだ。蝦夷の探索を始めたのも彼だと言われているね。」
たかし「ふんふん。」
歴史博士「他にも、世界各地にいくつも残っているよ。魔人能力。実況拳。アイドル。地下闘技場。バリツ。バレエ。戦闘ドロイド。数学。軍隊格闘術。炮術――」
歴史博士「ガンバースト。」
歴史博士「放射熱線。」
たかし「ふーん。じゃあ、博士。」
たかし「武士以外だと、どれが一番強かったの?」
地平線が燃えている。
赤すぎる光と破壊をともなって、終末が、京子の立つこの地へと押し寄せてくる。
一陣の夏の風に、長い睫毛を開く。無力な女子高生である彼女たちに残されていたのは、もう、この方法しかなかった。
「大丈夫」
崩れかけた壁に力なくもたれる少女の隣へと座る。三つ編みを撫でるように指を沿わせて、その名を静かに呼んだ。
「由美。絶対に、最後まで守るからね。怪獣が相手だって、誰が相手だって――絶対」
「……うん」
朦朧とした、細い声が帰った。死が近い。街を跡形もなく焼き溶かした、炎の悪魔。そして、由美のことを追っていたはずの、もう一体も。
それでも、彼女にだけは、弱音を吐きたくなかった。いつだって、行動力があって、頭が回って、由美を引っ張ってやれる自分でいたいと思えた。
タケダネットに監視される日常で、何者でもない京子に、そういう強さをくれた友達だった。
「きっと、二体ともこの工場の外で潰し合う」
「うん……」
「知ってる? 工場の安全基準は普通の家屋よりも厳しいんだ。耐火壁だから、私も由美も、生き残れる」
「……うん。ありがとう」
「え?」
「ありがとう。いつも、私みたいな……何も……できないのに……何も返せない、ままで」
力なく俯いたままの顔から、ぱたぱたと涙が落ちていた。
ああ。また、私がこの子を泣かせてしまっている。
違う。私が、由美を助けたかったんだよ。救われているんだ。
そう言いたかった。
「大丈夫だよ」
けれど、それだけは口に出してはいけない。彼女を守れる、強い自分でありたい。
「ねえ! 知ってるでしょ。私、剣道やってるんだ。万が一でも、あんなのは私がぶった切るよ」
転がっていた鉄パイプの一本を拾って、素振りの真似事をしてみせる。
面。胴。どこか滑稽な、いつも通りの稽古を。
「……へ、えへへ……」
「由美、ガンバースト得意なんだよね? ずっと……その、言いたかったんだけど」
「……うん……うん、京子……」
「生きて帰ったら、一緒にやろうよ」
「うん……!」
ようやく、笑ってくれた。
私もそれで本当に笑うことができる。たとえ、こんなに絶望的な状況でも。
「ほら見て! 面――」
「シェッィエァァァアアァァァァ―――――――ッ!」
青白い光条が三枚の耐火壁を貫いて奔り、京子は蒸発した。
「京……!」
「ウオオオオオオオオオオオァァ―――――――ッ!!」
由美には絶望する時間すら与えられなかった。
廃工場全体を呑み込んだ炎のレオパルドに、爆ぜて消えた。
「テメェ!! 邪魔しやがってテメェ!! ダークエンペラー裏リーグ日本大会予選が控えてるってのによ~~ッ!!」
(――気勢を乱すな。どれほどの怪物だろうと、そこに意がある限り、機会は必ず訪れる)
『ガンバトラーハルト・R』第6話 クソ野郎は全員ブチ殺せ!!
第四戦:誰であろうと無心で殺せ
「全ての準備は整ったといったところかのう――」
「はい。取るに足らぬ人的資源の介入で、多少予定こそ遅れましたが……本日この場で、タケダネットに対する危険分子を、両者とも撃滅します」
どこか冷さすら漂う、無機質な巨大作戦会議室。壁面に張り巡らされたタケダの電子的ニューロン網が光を流し続ける中……巨大なモニタ前に佇む、謎の人波あり!
見るからに不穏な雰囲気を漂わせる彼らの実態とは……!?
「天海様。兵力の出撃準備も万端です。今すぐにでも……」
「いいや! その必要もあるまい。そもそも奴らには耐火遺伝子も耐衝撃装備も無意味だと実証済みであろう」
白髭を撫ぜながら答える老人は、真田十勇士! 老獪なる南光坊天海!
すなわち、この場こそがタケダネットの中枢部に他ならぬ……!! 彼らがハルトを狙っている!
タケダネット上層部は、やはりダークエンペラーの軍勢に支配されていたのか!?
「しかし、この災厄を用いるしかない“D”も大したものよ。KGB――ケビーシ・ガード・バイノーウェア。
潜在的な反タケダネット人材をいなかったことにするためだけの辺境処分部隊にあって、如何に“反乱分子”を差し向けても生き残り……
希望崎と食い合わせるための任務を与えてなお始末できぬような“もの”は、もはや看過できるリスクではない」
斎藤ディーゼル。かつて戦国の世において敵味方から恐れられた狂将、斎藤道産の末裔であった。
その出自、実力、異様すぎる生態は、最初からタケダネットの秩序にとって危険分子以外の何物でもない……!
「しかし天界様! かたや幾度となくタケダ軍に牙を剥き、単独で潰走せしめた化物、“R”――敵種識別コード、“ガンバトラーハルトR”!」
「そして、同じく……我らの総力を持ってしても滅ぼすこと叶わぬKGBの化物、“D”――斎藤ディーゼル! 連中を、如何にして滅ぼすのですか!?」
「決まっておろう」
「予定通りです。“D”が“R”に接触を果たしました」
老人は口の端を歪ませ、嗤った。時刻は21時。ポイントは廃工場。
「化物には化物をぶつけるのよ」
――恐るべき相手だ。
伝え聞くニュースの被害状況。その映像記録。そして遠くからでも圧として感じる、その危険な存在感。
巨怪なエゾヒグマと化し破壊の限りを尽くしたあの少女よりも。
未熟な自分よりも真っ直ぐに、自らの進む道を貫き通した千勢屋香墨よりも。
タケダ治世を破壊するためだけに製造されたと思しき暴走ドロイドよりも。
斎藤が今、向かい合っている敵は……誰よりも強い。
(全て、斬り捨てる)
そのように、過去の何かと較べようとする自らの心をこそ、斬り捨てる必要があった。
剣道の試合の場において、向かい合う相手は常に一人だ。昔の誰かでも、未来の誰かでもなく、現在の相手を、現在の己を、ありのまま見据える。一期一会。常に、その試合を一生に一度の機会と思って臨め。
足の下で、熱砂と化したコンクリートが乾いた音を立てた。
距離は10m。だが、あくまでも剣と足さばきが許す間合いでしか戦うことのできぬ斎藤とは違い、敵は……紅崎ハルトは、この距離を一瞬で詰めることができる。
「テメェ、このクソ野郎~~ッ!!」
その場に立ちすくんで見下ろしているものが、彼の足を止める唯一の理由だったのだろう。
紅崎ハルトは怒りに拳を震わせながら、声を絞り出す。
「この子はガンバトラーじゃねえか!! テメェ~~!! 罪もねえガンバトラーを焼き殺しやがって~~!!」
少女の焼死体だった。なんて無残な、と、他人事のように斎藤ディーゼルは思った。
ガンバーストの残骸を手にした少女の骸を抱きかかえるように、紅崎は叫んだ。
「俺は……!! 俺はカナデとの修行で、大切なことに気づいたんだ!! 怒りに任せて戦うだけがガンバトラーじゃねえ!! ほんとうに強いのは、優しさと……ガンバトラー同士の、絆の力だッ!! 重要なのは、心!! そんな俺の目の前でテメェ!! こんなふざけたマネをよォ~~ッ!!」
――確かに、自分の戦いが彼女を巻き添えにしてしまったのかもしれない。
先程までただ無心に、紅崎ハルトの放つ爆炎の軌道だけを心に映し、剣と放射熱線で防ぐことで必死だった斎藤には、周囲に気を払う余裕などなかったのかもしれない。
「改めてますます許せねえ――ッ!!」
(俺が、彼女を殺したのか――無力な、少女を)
誰かを守るための戦いで、別の誰かを犠牲にしている。その皮肉な事実にすら心を乱されるわけにはいかない。それはKGBに所属してから常に斎藤に付き纏い続ける、残酷な事実であった。
剣道とは己と向き合う競技だ。試合における死者すらも許容されるというのは、つまりそういうことだ。
後悔とは、まさに後で悔いるためのもの。少女を弔うために今できることは、ただひとつ――
「抵抗を止めろ。今すぐ、貴様を連行する……!」
正眼に構える。これまでは運良く、紅崎の烈火を凌ぎ続けている。それでも、今の怒りで、さらに熱量は膨れ上がったように見える。
こめかみを伝う汗が、すぐさま蒸発するほどの熱。
狙うは、出小手。敵の初動を引き出して打つ。機会は必ず訪れる。
陽炎に間合いが揺らぐ。しかし。
――それを、斎藤は感覚でなく知
「くたばれええええェェ――――ッ!!」
「キョッエアアアアアアアアア―――ッ!?」
速い!!
紅崎ハルトの拳は、反応云々の話ではなく、遥かに速い!
殴り飛ばされた体は煙突をへし折り、炎上! 豪熱を受けた背びれが激しく発光する!
そして……!
こうして紅崎ハルトは、また一人、ガンバトラーを殺す外道クズ野郎を始末した!
ライバルとは、すなわち友と同義! ガンバトラーを虐げる奴らは全員許さない正義の戦士!
これぞR! 松姫カナデから受け継いだ絆の力で、我らが紅崎ハルトはますますパワーアップしたことがお分かりであろう!
新シリーズもよろしくな!
「クソ野郎~~ッ!! なんなんだテメェはよ――ッ!!」
「ハァ……ハァ……! 化物め……」
……バカな!? この息遣いは!? 紅崎ハルトの視線の先には……工場の屋根の上でよろけるように立ち上がる、禍々しい赤い光!
非ガンバトラーのクズは間違いなく即死の一撃だったはず! 斎藤ディーゼルはなぜ生きている……!?
「……足さばきでかわしながら右の握りをゆるめ、鎬で受け流すようにして受けるべし――」
何かをブツブツ呟いている! なぜ生きているんだ……? ブレイズインフィニティを手に入れWGBO世界大会を制した紅崎ハルトの炎は、どう考えても、そういう小手先の技で防御可能な攻撃力ではない……! 生命力が異常だ!
「……。何を言っているのか分からないよな。けれどこれが……人間の技術だ」
禍々しい背びれを煌々と輝かせながら、屋根の上で斎藤ディーゼルはついに立ち上がった。
刀身の半ばから焼失した木刀の代わりに、崩れかけた屋根から一本の鉄骨材を引き抜いて下段に構えた。
「ウオオオオ――ッ!! ゴチャゴチャとよ~~!! 難しいことを言いやがって!! 俺は優しさに目覚めたんだぞ!!」
紅崎ハルトも、目の前の敵の危険度を本能的に悟ったのか……! 低く身構え、まさにレオパルドの如き敏捷性で飛び上がる!
もともとこいつに殴りかかる以外の戦術なし! 一発のガンバトルで殺せぬなら、二度三度と殴りかかればいいだけのこと……!
ガンバトル仙人の教えが生きているぞ! さあ殺せ!
「ッコォアアアアア――――ッ!!!」
「ギャアアアアアアアアアアア――――ッ!?」
……!? 何これ!?
白い熱線が紅崎ハルトに直撃! ジェット噴流の如き勢いで吹き飛ばされ、紅崎ハルトの体が地面を抉りながら地平線まで直線亀裂破壊!!
そして、唐突に不条理なる放射熱線を吐いた斎藤ディーゼルは……
「まだ……まだ、間合いじゃない。機を逃すな――」
面妖! 目を閉じたまま何事かを呟いている……!
そしてすぐさま、二倍三倍に膨れ上がった大火球が地面を抉りながら戻ってくる……!
そう……紅崎ハルトのガンバースト共鳴現象は怒りの炎!
火炎属性の攻撃を受けることでさらにその火力は極大上昇! これでこいつはファイヤーハルト!
そうだハルト……! その形態なら万が一にも負けはない! こんな不気味な男はすぐに殴り殺すべき! マジで何なんだ今の攻撃……!
「ウオオオオオオ――ッ!! ガンバトルしろってんだよォォ――ッ!!」
「キョアアアアアア―――ッ!!!」
「ゴギャアアアアア―――ッ!!?」
光線直撃!! 爆発!! 四度五度と水切りのように大地を跳ね、その度爆ぜる爆炎で周囲の生態系を滅ぼしつつ、新たな炎を物理的に焚べられた紅崎ハルトの怒りはさらなる無限の増幅を見せる!
「許せねえええええ―――ッ!!!」
そして、工場の残骸に立つ斎藤ディーゼル! さらに眩いばかりの白光を背負い、さながら火炎の中に立つ魔王!
自らが放った放射熱線の余波で、自分自身が持っていた鉄骨さえ溶け落ちている……
「くそっ……! なぜ迷う……! 巻き込んだ子供のことは、今は忘れろ……!」
怖……。こいつ絶対おかしい……
「ウオオオオ――ッ!! 優しさと絆ァァ――ッ!!」
「キィィエエエアアアアアアアアア―――ッ!!?」
そして、迷う間もあればこそ、地平の果てから秒速で駆け戻った紅崎ハルトの絆パンチが頭蓋に直撃!
斎藤ディーゼルの眼窩と口から爆炎が噴出! 背びれがさらに激しく発光し、可視光帯域外の危険な光までもを発し始めた!!
「コッアアアアァァアァ――――ッ!!!」
「グギャアアアアアアァ――――ッ!!?」
カウンターの放射熱線がゼロ距離直撃!!
ガンバトラーのオーラ熱量がまたしても限界突破! 天を衝く火柱と化すハルト!!
「ウオオオオオオオオオオ――――ッ!!!」
「ケェェェイイェエエエエ――――ッ!!?」
放射熱線で高まった地獄の業火をそのまま叩き込む! これでこいつはファイヤーディーゼル!
だが止まらぬ! 叩きこまれた熱量が背びれに収束、途轍もないエネルギーと化して再び直線放射! ゼロ距離!
「シャァッアアアアァァアァ――――ッ!!!」
「ゴパアアアアアアアアァ――――ッ!!?」
ハルト! ディーゼル!
「ウオオオオオオオオオオ――――ッ!!!」
「キェエエエィエエエエエ――――ッ!!?」
「ヤッアアィエアアアアア――――ッ!!!」
「ギョボボボボオオオオオ――――ッ!!?」
「ウオオオオオオオオオオ――――ッ!!!」
「キャオオオオォアアアア――――ッ!!?」
「コッオオオオオオオオオ――――ッ!!!」
「グアアアアアアアアアア――――ッ!!?」
ハルト! ディーゼル! ハルト! ディーゼル!
夜の地球に赤黒と青白の閃光が輝くたび、多重キノコ雲めいて粉塵が天へと吹き上がる!
その様は爆闘によって駆動する死のディーゼルエンジンか! ここが地獄の絶滅工場だ!
世界は……滅んでしまうのか!?
紅崎ハルト……! 世界の命運は今、お前の双肩にかかっている――!
「天海様……! 事態は我々の予測よりも遥かに危険なものとなっています!」
「なんじゃと……!」
「切迫した事態です!」
会議室の中、色を失うタケダネット上層部の面々!
化物と化物の戦闘は、もはや地球外の観測衛星からも明瞭に確認できるレベルに達している。
『ウオオオオオオオオオオ――――ッ!!!』
『キェエエエィエエエエエ――――ッ!!?』
「探査衛星からのピンスポット測定で、“D”の心臓部の温度を計測したところ、900度を超えているそうです!」
「なんだって!?」
「どういうことじゃ……!」
「炉心がそれだけの高温ということは、内部から融け出して……」
「“D”はどうなる!?」
「メルトダウン……!!」
おお、これこそが、人類種の傲慢の終着点なのだろうか!
かつてタケダの治世すらをも脅かした、斎藤道産。
その細胞を制御できると考えた者が、かつて、この会議室のどこかに存在したのだろう。タケダネットの秩序を担う武士生命体に代わる、それ以上の生命力とエネルギーを秘める、新たなる、忠実なる、人工生命。
確かに、紅崎ハルトのような規格外のイレギュラーを想定していたとすれば、それはいずれ必要となる存在だった。
――だが、それでも。その細胞が秘めるすさまじき原子力は、やはり人類のテクノロジーで制御してはならないものだったのだ。
斎藤家に引き取られたその新造兵士は、悪意ではなく、力を正しき秩序のもとに振るうためのプロトコルを、剣道を、与えられた。
それでもその存在は多くの人々を殺め続けた。
『ヤッアアィエアアアアア――――ッ!!!』
『ギョボボボボオオオオオ――――ッ!!?』
『ウオオオオオオオオオオ――――ッ!!!』
『キャオオオオォアアアア――――ッ!!?』
『コッオオオオオオオオオ――――ッ!!!』
『グアアアアアアアアアア――――ッ!!?』
「“D”の原子炉である心臓部が融け出し、放射能を撒き散らしながら、周りのものを融かし」
「水素爆発を起こして、地球に穴を開けてしまう……!」
「1200度を超えると、確実にメルトダウンを起こします!」
D細胞。
廃棄街区に送り込まれたその男は、まさにそれ自身が、実験の果てに生み出された廃棄物に他ならない。
愚かな人類が、今まさに、その報いを受けようというのか。
否。
『ガンバトルしろォォ―――ッ!!』
――愚かな人類以上に愚かな男が、まだここに存在する!
紅崎ハルト!
難しいことは何ひとつわからない! とにかく曲がったことが大嫌いな、埼玉県越谷市在住の小学5年生だ!
この怪獣総攻撃こそが、もはや最後のD消滅作戦!
人類の命運をかけたFINAL WARS!
殺せハルト! 殺せェ――ッ!!
「ウオオオオオオオオオ――ッ!!!」
「ギョアオオオオオオ――ンッ!!?」
分かっていたことなのに、少女の死に迷った。一瞬の隙を突かれた自身の不覚だった。
殴られ続ける己の声も歪み、獣めいたものとなっていることを斎藤は自覚している。
――ああ。俺は、剣道家としても中途半端だ。
驚、懼、疑、惑。悉く斬り捨てる。
けれど斎藤は、これまでの戦いで。年端もいかぬ少女たちを相手にして、本当にそれができていたのだろうか。
父の教えのように、ただ無念無想の、剣道のためだけの機械に徹することができただろうか。
「コッオオオオオオオ――――ッ!!!」
「アババアァァァァア――――ッ!!?」
牽制の放射熱線で、僅かに敵を怯ませる。
けれど“一本”は、まだ撃ちこむことができていない。
それは斎藤の心構えが甘いからだ。
ただ刀のみで、銃弾を切り落とすことができる者がいるのだという。空間を引き裂き、時間すら歪める領域に到達できる者がいるのだという。
剣道も、武術も、そしてテクノロジーも……
人の行くありとあらゆる道は、その遠い道程のどこかで、必ず人の領域を踏み外すことになる。
「ウオオオオオオオオオ――ッ!!!」
「ギャオオオオオオオオ――ンッ!!?」
その域には、永劫に到達できないだろう。
斎藤こそが誰よりも、自分が凡夫であることを自覚している。
――それは。
斎藤の心を捉える、驚、懼、疑、惑。
斬り捨てようとしても、斬り捨てられないものであった。
無意識のうちに、道の先に行く自分自身を、驚き、懼れ、疑い、惑う心であった。
(……俺は、留まっていたいのか)
「キャッコアアアアアア――――ッ!!!」
「ゴボッボオバァァァァア――――ッ!!?」
放射熱線。遠くの空が赤く燃えている。
(俺は、人に留まっていたい――)
それはずっと前から分かっていたことだったのかもしれない。
そして、そんな斎藤ディーゼルの心とは無関係に、その時は来る。
「兄貴ッ!! 親父ッ!! ガンバトル仙人ッ!! そして……ウオーッ!!」
今まで以上に、紅崎ハルトのオーラが燃え上がる。
その心象が燃え上がるほどに、無限に熱量を高める、心の力。
絆の力。生まれながらに人ではない、斎藤ディーゼルにはなかった力だった。
そして。
「松姫カナデのために――ッ!!」
――それを、斎藤は感覚でなく知覚する。
絆云々などという雑念を抜かしている紅崎は隙だらけだった。
「面ェェッッィイイイアアアアァアアアアァァァァァァァッッッ!!!!」
一本。
斎藤はその会心の一本を、融けかけた己の骨で打ち込んでいた。
紛れもなく、面あり一本だった。
(……ああ)
(いい一本だ――)
彼は、残心を終え、
「うるせええええええええェェェ――――――ッ!!!」
そして、放射熱線を撃ち込まずに剣道などをしている斎藤は隙だらけだった!
爆発!! メルトダウン発生!! イギリス領壊滅――!!
すべてが終わった……!!
――こうして紅崎ハルトは、本人も知らぬ間に世界の危機を救った!
だが、お前の戦いは終わらない! 邪悪なるダークエンペラーを倒し、松姫カナデを救い出す日まで……!
ダークエンペラー裏リーグ日本大会に向け、戦え、紅崎ハルト!
そして……姿をくらませた卑劣なる安田ケヒャ郎を、今度こそ殺すのだ!
殺せ! 紅崎ハルト! 殺せ! 殺せ!
次回、『ガンバトラーハルト・R』第7話 草の根をわけても裏切り者を惨殺しろ!! ガンバトル――レディ・ファイト!