十四代目武田信玄プロローグ『猿でもわかる!武田信玄!』
登場人物紹介
たかしくん:歴史のことにあんまり詳しくない小学生!たまに知性にぶれが出るのは作劇の都合だよ!
歴史博士:たかしくんの近所に住んでいる歴史に詳しいおじさんだよ!
第一章:歴史博士とたかしくん
たかし「うーん、武田信玄かー。名前はよく聞くけど実際この人ってどんな人なんだろう」
歴史博士「やあ、たかしくん。武田信玄のことが気になるのかな」
たかし「あ、歴史博士!そうなんだ。学校の宿題でこの人について調べなくちゃいけなくなっちゃって」
歴史博士「そういうことか。よし、じゃあここは私がたかしくんに武田信玄について教えてあげるとしよう」
たかし「いいの!?やったー!」
歴史博士「じゃあ、私の家においで」
たかし「うん!」
第二章:武田信玄っていっぱいいるの!?
たかし「ねー、博士」
歴史博士「なんだい、たかしくん」
たかし「武田信玄ってさ。今何歳なの?」
歴史博士「んー、確か当代は今35歳だったかな」
たかし「え!?武田信玄ってもっと年なんじゃないの?戦国時代からずっといて、今でも生きてるんだよね?」
歴史博士「ああ、それは違うよたかしくん。武田信玄っていうのはね。襲名なんだよ。」
たかし「襲名?」
歴史博士「うん。襲名っていうのはね、名前を受け継いでいくことなんだ。」
たかし「名前を受け継ぐってどういうこと?」
歴史博士「んー、そうだね。名前と役割を引き継ぐってことかな。」
たかし「???」
歴史博士「少し乱暴な言い方になるけど。そうだな。武田信玄が世界で一番偉い人だっていうのはわかるよね」
たかし「うん!それはわかるよ!」
歴史博士「だからね。まず武田信玄っていうのは、この世界で一番偉い人っていう役割の名前みたいなものなんだ」
たかし「うんうん」
歴史博士「それでね。君のクラスにも学級委員長はいるだろう?」
たかし「いる!山本くんがやってる!」
歴史博士「じゃあ、例えばその山本くんが、君に学級委員になってくれって言ったら君はどうなる?」
たかし「めんどくさいからいやだっていう!」
歴史博士「ああ、そうかもしれないけど。でも引き受けたら、たかしくんが学級委員になるだろう?」
たかし「……めんどくさいけど、そうだね。」
歴史博士「それが、山本くんから君に学級委員という役割が引き継がれたってことなんだ。つまり」
たかし「そうか!武田信玄っていうのも色んな人がかわりばんこにやってるんだね!」
歴史博士「そういうこと。」
たかし「そっかー。じゃあ僕も武田信玄になれるかな!」
歴史博士「うん、そうだね。たかしくんなら、なれるかもしれないね。でも武田信玄は最強の侍じゃないとなれないんだ。なるにはとっても頑張らないといけないんだよ」
たかし「うへー。そうなんだ!じゃあ僕いっぱい頑張るよ!ちなみに今僕が武田信玄になったら何人目の武田信玄になるのかな?」
歴史博士「そうだね。今すぐってことだったら十三代目かな。」
たかし「っていうことは。今までに十二人の武田信玄がいたのかー。いっぱいだね!ねえ、博士。いろんな武田信玄についてもっと教えてよ!」
歴史博士「うん、いいよ。」
第三章:初代信玄って長生きだから関ヶ原で勝てたの!?
歴史博士「じゃあ、たかしくん。まずどの信玄のことを知りたいんだい。」
たかし「そうだねー。やっぱり初代武田信玄かな!何事も最初から知っておきたいし」
歴史博士「やっぱりそうだよね。よし、じゃあまず最初にクイズを出してもいいかな」
たかし「いいよ!」
歴史博士「初代武田信玄が生まれた年は、次の内のどれでしょう。A.1521年 B.1621年 C.1681年 D.1721年」
たかし「うーん。」
歴史博士「わかるかな?」
たかし「確か関ケ原の戦いが1700年に起こって、1800年に終わってるんだよね。」
歴史博士「その通り」
たかし「だから、1721年だと信玄が関ケ原の時に信玄が生まれてないからダメで。でも1521年でも信玄が長生き過ぎるからダメで。1621年でもちょっと長生きしすぎだと思うから…」
歴史博士「うんうん」
たかし「だから、正解はCの1681年だ!」
歴史博士「んー……」
たかし「あってるよね…!」
歴史博士「残念!」
たかし「え?」
歴史博士「正解はAの1521年でした!」
たかし「えーーー!?じゃあ、ちょっと待って初代信玄って、何才で死んだの!?」
歴史博士「1521年に生まれて、死んだのが1801年だから、279歳だね。」
たかし「長生き過ぎる!!」
歴史博士「確かに当時の大名の平均寿命が150歳前後だから、初代信玄はとっても長生きだね。」
たかし「他の大名の寿命も長いんだ!」
歴史博士「大名だからね。」
たかし「大名ってすごいんだなあ」
歴史博士「だから当時の地方の小豪族たちは大名になろうと頑張っていたんだよ。」
たかし「へー。でも初代信玄は当時の大名に比べても倍近く長生きなんだね。すごいなあ。」
歴史博士「何せ関が原が始まった時点で178歳だからね」
たかし「わあ、それじゃあいつ死んでもおかしくないね。」
歴史博士「そう。きっと信長もそう思ったんだろうね。」
たかし「どういうこと?」
歴史博士「織田信長は1534年生まれで、当時としては既に高齢ではあったんだけど」
たかし「あ、そうか。信長は自分をサイバネ改造してたから不死身だったんだっけ」
歴史博士「その通り。そして関ケ原の戦いっていうのは仕掛けたのは初代信玄なんだ。」
たかし「それは聞いたことある!」
歴史博士「じゃあ、ちょっと質問だけど。余命幾ばくもない相手が、不死身の自分に対して戦を仕掛けてきたとしたら、たかしくんならどうする」
たかし「んー、無理に攻め込もうとしないで、相手が死ぬのを待つかなあ。だって僕は不死身なんだし、2年や3年待つことぐらいどうってことないよね。」
歴史博士「ふむふむ」
たかし「それに、この時期に仕掛けてきたってことは向こうも焦ってるってことだろうから。そんなのにわざわざのっかりはしないかなあ」
歴史博士「なるほど。うん、そうだね。織田信長も実際そういう気持ちだったんだろうね。実際に当時の資料を見て見ると信長にはあまり攻め込む気はなかったみたいなんだ。」
たかし「まあ、そうだよねー。」
歴史博士「でも実際には戦は100年以上続いていく。死にかけのおじいさんを相手取っているはずなのに、一向に死ぬ気配はなく。むしろその指揮ぶりは時を重ねるごとに冴えわたってきているような気さえする。そうなったら、たかしくんはどう思う?」
たかし「う、うーん。それは、怖いかもね。ゲームとかでもそうだけど一発逆転を狙ってボスを狙いに言っちゃうかも」
歴史博士「そう、それが初代信玄の狙いだったんだ。信長を焦らせて、普段ならはまらないような罠にはめるのがね。それでも100年も粘ったのは流石信長と言えるけどね」
たかし「え?それじゃあ初代信玄は自分が300才近くまで生きるのがわかってたの!?」
歴史博士「そう。それが初代信玄の4つの特殊能力『風林火山』。そのうちのひとつ、『徐かなること林の如く』の効果なんだ。」
たかし「おー」
歴史博士「『徐』っていう字にはゆっくりという意味もあってね。これは時間の流れをゆっくりにする能力だったと言われてるよ」
たかし「なるほど、それで初代信玄は自分の肉体の時間の流れをゆっくりにして自分の寿命を引き伸ばしたんだね!」
歴史博士「その通り。そして信玄の思惑通り信長はだんだんと焦っていき、その焦りが、極限にまで達した結果起こってしまったのが関ケ原の戦いの終焉、本能寺の変というわけなんだ。」
たかし「なるほどー」
歴史博士「信長がサイバネ手術を受けて不死身になっていたことを知っていた初代信玄と、初代信玄の能力を知らなかった織田信長。その情報収集能力の差が出た戦いともいえるね。知りがたきこと陰の如くを実践した好例さ」
たかし「へー。初代信玄ってすごいんだね!」
歴史博士「すごいだろう。あ、もうこんな時間か。たかしくん、今日はもう帰りなさい」
たかし「あ、そうだね。ねえ博士」
歴史博士「なんだい」
たかし「明日もまた信玄の話を聞かせてくれる?初代信玄の話も、関ケ原の話も、他の信玄の話ももっと聞きたくなっちゃった!」
歴史博士「ああ、勿論いいよ。じゃあ明日は関ヶ原前の信玄がどんなことをしてたのか話してあげるよ」
たかし「わーい!楽しみ!じゃあまたねー!博士ー!」
歴史博士「うん、また明日」
第3章:史上最も偉大な武田信玄
第4章:史上最も多くの血を流した武田信玄
第5章
第26章:新たな信玄
最終章:たかしくんと歴史博士
雨が降り続けている。
湿った空気が、体にまとわりついてくる。
だが目の前にいる男は、そんなものは意に介せずただじっと座っていた。
出会った頃は、どこにでもいるような少年だった。ただ、明るく、少し間が抜けて、宿題がわからないといって自分に泣きついてくるような、そんな少年だった。
だが今目の前にいる男に、もはやそんな少年の面影はなかった。鍛え抜かれた体も、戦いによりついた傷も、その佇まいも、男を構成する全てが、己が侍であることを主張しているようだった。
男はひたむきに信玄を目指した。信玄となるためにひらすらに己を鍛え、無謀ともいえる戦いに身を投じ続けた。
日ごとに成長していくような彼の姿を見て、感嘆しない日はなかった。だが、同時に、少しずつ増えていく傷を見て、男に自分も信玄になれると教えたことを後悔しない日もなかった。
後悔と期待を同時に味わい続ける日々を過ごし、自分の頭にちらほら白いものが混じり始めた頃、彼は立派な青年になっていた。
いや、最強の座に、信玄の名に相応しい侍となっていた。いつの間にか私の中の後悔はなくなっていた。
彼は、信玄になるべくしてなる男だったのだと思っていた。自分の言葉などなくとも彼は信玄になっていた。むしろ、自分が彼に信玄を目指すきっかけを与えたことを誇らしくすら思えていた。
だが、敗れた。
一瞬だった。
わずか6歳の少年に彼は倒された。
そして、その少年は最強の名を冠し、13代目信玄となった。
私の中で、再び後悔の念が大きくなった。私が彼に信玄の道を示さなければ、彼にはもっと別の道があったかもしれない。
彼ならば、他の道を選んでいても大成できたに違いないのだ。その可能性を、私が潰した。
誰よりも侍で在り続けようとした背中。誰に言われたのでもなく、厳しく己を律し続けた背中。
たかしくん。
私は彼に声をかけようとした。何を言おうとしていたのかはわからない。だが声をかけずにはいられなかった。
それを遮ったのは他ならぬたかしくん自身だった。
「ねえ、博士」
博士。そう呼ばれるのはいつ以来だろう。
「俺は、武田信玄になれるかな」
それを聞かれるのは2回目だ。あの時以来、たかしくんは私に二度とこの質問をしなかった。
なれない。当代信玄の力は、圧倒的だ。既に、歴代の信玄の力を上回っているかもしれない。
それに加え、当代の年齢はまだ6歳。いくらでも、強くなれる。
それに引き換えたかしくんは既に20歳を超えている。成長の余地という面では、比較にすらならない。
時間が経つほどに、二人の差は開いていくばかりだろう。最初の邂逅が当代に勝つ唯一の気だっただろう。
「なれる。たかしくんなら、きっと信玄になれるよ」
それがわかっていても、実際に出てくるのは全く別の言葉だった。
私は信玄になった彼がみたい。彼の努力が、報われる姿を見たい。
「そうか」
不意にたかしくんが笑った。一瞬だけ、あの頃の面影が見えた気がした。
「なら俺は、これより十四代目武田信玄を名乗る」
武田信玄を僭称する。それは武田家を、武家社会全てを敵に回すということだ。
歴史上、信玄の名を語った侍はいくらかいた。そしてその全てが例外なく凄惨な死を遂げていた。
たかしくんは、それを知っている。私がその歴史を教えてきた。それを知ってなお、彼は過酷な道を歩むことを、己に課そうとしている。
「俺が、単なる愚か者としてくたばるか。それとも本物の信玄になれるか。」
そう言ってたかしくんゆっくりとは立ち上がった。
「見届けてくれるか。博士」
いつの間にか、雨は上がっていた。
私はただ頷くことしかできなかった。
窓から入ってくる日差しに照らされた彼の姿を見て、やはり、彼こそ信玄に相応しい侍だと、改めて思った。
最終更新:2016年06月27日 19:18