その人工島を誰が作ったのか、知る者はいない。
江戸湾に浮かぶ、その人工島のこと自体を知るものすらも多くない。
世界政府の検閲を通過した地図にその姿はなく、その島は存在しないことになっている。
しかし、六波羅探題が警戒するような要管理危険地帯というわけでもない。
世界政府のファイルに「江戸湾ウィルダネス」と記載されているその島は、単に世界政府から見放された無法地帯である。
「ゲヒヒヒヒヒヒィーッ! こんな島まで何しに来たんだ、マッスル先生よォー?」
「言っとくけど“学校”の中で“お利口さん”にしてる連中とは違うゼ!?」
「おとなしく帰りな! 背中から“蜂の巣”にしてやンよ?」
周囲を取り囲む三人の野生化した高校生。
それぞれの手には、江戸湾ウィルダネスを照らす太陽の荒々しい光を浴びて黒く輝く剣呑なガトリング砲。
剃り込みの入った警告色の頭髪に、過適応進化した異常な長さの学生服。
この島固有の危険生物ガトリングヤンキーである!
荒野に風が吹き渡り、丸く固まった草が転がりながら通り過ぎた。
「俺の名は哀爛怒四代目特攻隊長・魔裟悪!」
「特攻隊員・緋露死!」
「同じく特攻隊員・鹸爾!」
「「「ガトリング砲撃!!!」」」
“マッスル先生”の反応を待たずに突然の砲撃が開始された。
テレポートしてるとしか思えないほどに会話が成立しない!
ヤンキーは人型をしているが、基本的に人類とは異なる位相に住む異次元生命体なのだ。
ガガガガガガガ! ガガガガガガガ!
ガガガガガガガ! ガガガガガガガ!
ガガガガガガガ! ガガガガガガガ!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
給弾・装填・発射・排莢・ 給弾・装填・発射・排莢・ 給弾・装填・発射・排莢!!
回転する六つの銃身から毎秒十六発のタカハシ速度で弾丸を射出するガトリング砲が三門!
激しい銃弾の雨が大地を削り、砂塵が巻き起こる。
ああ、恐らく哀れな標的はもう人間の形すら保てて居ないことだろう……。
「ゲヒヒヒャー」
「グフ、グフフフフ」
「ギョヘギョヘ」
およそ一分間の集中砲火の後、ガトリングヤンキー達は唾液を口元から滴らせ、下品な笑い声を上げながら砲撃を停止した。
そして、犠牲者がどのような状態になっているのかを見ようとした。
荒野を渡る風が、砂塵の帳を吹き散らす。
そこには……無傷で直立する身長約二メートルのマッスル先生の巨体が!
「ふぅー、勘弁してくれよな。一張羅が汚れてしまったじゃないか」
マッスル先生の一張羅とは紺色のジャージだ。
果たして、なぜマッスル先生は無傷なのか?
その理由は彼が肩に担いでいる巨大なラジカセである。
マッスル先生が傭兵時代、反政府カルト集団掃討ミッション中に入手した、謎めいた古代技術によって製造された頑丈なラジカセ。
そのラジカセを盾として、銃弾が急所である頭部に命中するのを防いだのだ。
頭部以外については、鋼のように鍛えられた筋肉が銃弾を通さなかった。
「さて、それでは“対話”するとしようか」
マッスル先生は“対話”と言った。
馬鹿な!? ヤンキーと会話が成立するはずなどないのに!?
いや、ヤンキーと人類の間にも意思疎通を図ることのできる言語は存在する。
例えばそれは……音楽!
ヤンキーでも、ロックンロールを彼らなりに理解することはできるのだ。
「ひ、怯むな撃てェーッ!!」
「ゲヒャヒャヒャーッ!!」
ガトリングヤンキー達は再度砲撃を開始しようとした。
だが、それよりもマッスル先生のラジカセから放たれる“共通言語”の方が僅かに早かった。
「ぬうううん!」
丸太のように太く鍛え上げられたマッスル先生の両脚が大地を蹴り、瞬く間にガトリングヤンキーの側まで接近する。
そして、マッスル先生は巨大なラジカセを振り上げ、力強く振り抜いた。
ヤンキーと意思疎通できる共通言語……それは暴力!!
ガトリングヤンキーが砲撃再開するよりも一瞬早く、巨大ラジカセが腹部に命中する。
防御することも叶わず巨大ラジカセの直撃を受けたガトリングヤンキーは、体をくの字に折り曲げて地面と平行に飛び、残り二人のヤンキーを薙ぎ倒した。
ヤンキー達の手からガトリング砲が離れ、地面に落ちる。
地面に落ちたガトリング砲は点滅しながら消えた。
江戸湾ウィルダネスの大地に還ったのだ。
折り重なるように倒れた三人のガトリングヤンキーに、マッスル先生はゆっくりと近づいた。
マッスル先生の巨体が力強く大地を踏みしめる音が近づくにつれ、ヤンキー達の恐怖は増していった。
先ほどの“対話”によってマッスル先生の強さを思い知ったためである。
そして、ヤンキー達が野生化する前に普通の高校生であった時の記憶を思い出したからでもある。
マッスル先生の“生徒指導”がいかなる代物なのか、彼らは知っていた。
「それでは、これより“生徒指導”を開始する」
綺麗に並んだ真っ白な歯を光らせ、マッスル先生が爽やかな笑顔を見せた。
ヤンキー達の表情は対照的に青褪め、凶悪な野生動物の面影はもはや消えうせていた。
ラジカセの再生ボタンがオンにされる。
東京湾ウィルダネスの荒れ果てた大地に、世界政府によって封印された禁断の音楽が鳴り響き……
マッスル先生の“生徒指導”が始まった。
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数日後。
三人の生徒達は江戸本土の自宅へと送り届けられた。
変わり果てた姿となって帰宅した彼らは、家族でも本人であると確認するのは難しい程の状態であった。