一回戦第二試合その2
「シァァッ! シァァア――――ッ!」
まるで猫をプレス機で押しつぶしたかのような声が夜空を震わせる。
真っ赤に染まった空と、灼熱の炎。
「シァァッ! シァァア――――ッ!」
この音は斎藤ディーゼルの奇声だった。
もはや彼はヒトという種の規格を超えていた。
真っ白に剥きだした目。
青白く発光する背中。
そして、天を突かんばかりに、ピンっとそそり立つ一物。
その光景は、まるでこの世の終わり。
先手必勝。
戦闘開始と同時に、楠木纏に注がれる青白い炎。
先ほど、無線機にて斎藤巡査と呼ばれた男は、目を血走らせながら、口から灼熱の放射能粒子を放出している。
港に置かれたコンテナは次々と熱によって爆発し、その内容物が飛び散り、楠木纏に襲いかかる。
白濁し汚れた楠木を見て、斎藤は吠える。
「キィェア―――――ッ! エェア―――――ッ!」
逃げ惑う楠木纏。
「シァァッ!? シァァア――――ッ!」
その気配だけをたよりに、周囲を焼きつくしていく斎藤ディーゼル。
「コォォアッァァア――――!」
斎藤はかつて女だった。
そんな彼を駆り立てるのは、女であった過去の自分への憎悪だけ。
女を見ると自分を見失う。
そんな設定はないが、3時間で勝つためには仕方のない、強引なテコいれだった。
皆さんは極限環境微生物について知っているだろうか。
極限環境条件でのみ増殖できる微生物の総称であるが、古細菌もこのカテゴリに含まれることを知っているだろうか。
楠木纏は、忍び寄る。
そして、彼女を触手で絡めとり、あーだこーだしてその唇を奪った。
古細菌と呼ばれるドメインに属する彼女は、放射能には屈しない。
生物は体の中に海を持つ。
それは楠木纏も変わらない。
彼女は内にニイガタを持つ。
極限環境でしか生きられない彼女は、ニイガタという環境を 群体内部に構築している。
皆さん、御存知の通り、ニイガタは生態系はおろか、物理法則すらも他の世界とは異なるとされると極限環境。
放射能熱線など、楠木纏にとっては、毒ではない。
彼女にとって毒とは、ヒトにとって澄んだ空気であり、水であり、土壌である。
斎藤ディーゼルは、快楽の中、失神した。
楠木は心のなかで百回謝罪し、実際に千度、土下座した。
勝つためには仕方がなかった。
最終更新:2016年07月03日 00:14