無名の墓標

広葉樹の枝。
太目のものを選び、削って体裁を整えた。
長短二本の木材。
クロスさせ、針金で固定した。
見た目は不器量だが、頑丈な十字架。
こんもりと盛り上がった土に、それをシッカリと突き立てる。
最後に、アルスは一輪の花を死者に捧げ、跪き、黙祷をした。
そこに眠りし者の名は無い。
無名の墓標……。

アルスはゆっくり瞼を上げ、十字架を見上げる。
そうして、数刻前の出来事を振り返る。

殺すつもりは毛頭無かった。
加減を誤り、殺してしまった。
絶命する刹那の男の瞳は、邪悪なモノでは決して無かった。

男が息絶えた時……その時、少し……ホンの少しだけ、アルスの信念が揺らいだ。
しかし、伝説の勇者の精神は、決して折れることは無い。
彼の『勇者』としての精神を砕くよりも、オリハルコンを砕く方が容易であろう。

むしろ、シドの死によって精神的ダメージを大きく受けていたのは、ティーダの方であった。
「やらなきゃ殺られてたッスよ……仕方なかったッス……」
それは無意識の内に口から漏れた言葉……。
アルスに向けて放たれたその言葉は、ティーダの中で、何度も何度も木霊となって響いていた。
小さくならない木霊。
反響する度に、大きくなる木霊。

初めて間近で見る、大量の血。
恐ろしいまでにリアルな、死。

跪くアルスの後ろに立って、十字架を見ているティーダの足が震える。
それまでに見たどんなモンスターよりも、その十字架が恐ろしかった。

「……ティーダ」

突如アルスに声を掛けられ、ハッと我に返る。

「……な、何?」
「彼のような人間をこれ以上増やしてはいけない。何としても、僕達が食い止める……絶対にだ」
「……も、もちろんッス!!」
「……恐れてはいけない。今、僕達が置かれている状況を。恐怖イコール、ゾーマに屈することだ」
「…………わかってる」

アルスが立ち上がり、ティーダの方を振り向いた。

「出発しよう。ここに留まっていても、何も始まりはしない。
 人数を集めよう。首輪の事とか……打開策が見つかるかも知れないからさ。
 それに、きっとゾーマの思惑通り、弱者を虐げている人間が居ると思う。
 そんな奴等を、野放しにしてはおけない……」
「……うん」
「…………とにかく……戦闘があれば、それをやめさせる。危険な人間は倒す」
「倒すって……殺す……ってこと?」
「状況次第だな……」
「…………」
「辛ければ、君は目を背けていて……戦闘は僕が引き受けるから、気にすることは無いよ」
「……うん」

その時、西の空が青く光った。
爆音――そして振動。

「行こう。ナジミの塔の方向だ。
 呼びかけをした女性や、そこに眠る彼のような人を生み出してはいけない……」

アルスとティーダは、アリアハン城地下通路を目指し、暗がりの中歩き出した。

【アルス 所持品:小さなメダル 鋼の剣
 第一行動方針:仲間を集める
 基本行動方針:弱きを守り悪しきを裁く
 最終行動方針:何らかの方法でサバイバルを中止、ゾーマを倒す
【ティーダ(僅かに恐怖)
 所持品:いかずちの杖
 基本行動方針:仲間を集め、何らかの方法でサバイバルを中止する
 最終行動方針:何らかの方法でサバイバルを中止、ゾーマを倒す
【現在位置:アリアハンの自宅→アリアハン城へ】


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最終更新:2011年07月17日 19:08
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