リディアは絶叫していた。
エビルプリーストの腕が咽喉に食い込んで
ろくに声も出せなかったが、目から涙がこぼれ、胸の奥がひゅうひゅうと鳴っている。
悲しいこともある。ただ、それ以上に許せなかった。
剣を捨て、すまなさそうに自分を見る
ピピンの姿が、爆炎に飲み込まれて消えていく姿が瞼に焼き付いて消えない。
ピピンは命をかけて自分たちを救おうとしてくれた。なのに自分はそれに答えられなかった。
だから、自分が許せなかった。
そしてまた、剣を捨てた男性が目の前にいる。自分のせいで、死んでしまう。
そんなことは許せなかった。
もがき、暴れる。だが、エビルプリーストの腕はまったく揺るぐことはない。
自分が身動きするたびに締め付けはきつくなり、意識は遠くなっていくが、
それでもリディアは絶対に諦めるわけには行かなかった。
そんなリディアの精一杯の抵抗も、エビルプリーストは歯牙にとめない。
彼は武よりも文の性質であったが、腐っても魔族である。小娘が暴れたところで動じることなどない。
「さて、先ほどの例をさせてもらおうか。おっと、貴様はマホカンタが効いていたな」
エビルプリーストは邪悪な笑みを浮かべながら、とんぬらが捨てた剣の方へ歩いていく。
ルーキーは悔しげに、とんぬらは静かな怒りを秘めながら、身動きひとつせずそれを見ていた。
そんな二人にエビルプリーストは舌打ちする。剣を拾い上げ、ゆっくりととんぬらに近付いていく。
「その目、気に入らんな。貴様は危険だ」
とんぬらは冷たい目でじっとエビルプリーストを睨みつけていた。
抵抗する様子はない。手をだらりと下げ、無防備な姿で佇んでいる。
一歩、一歩近付くにつれ、リディアの焦燥は積もっていき…
エビルプリーストがとんぬらを切り殺そうと剣を構えた、その時。リディアの中の何かが切れた。
刹那。強烈な力が弾けた。
「うおおッ…!?」
リディアの全身から緑色の光が溢れて視界を塗り潰す。
突然生まれた衝撃にエビルプリーストはリディアを投げ捨てる、だが現象は止まらない。
何らかの力が集まって一つの物体として具現化していく。
「ば、馬鹿な…!?」
それはリディアを包んで巨大化していき、遂には巨大なドラゴンを形どった。
音もなく、雪原に突然現われた白いドラゴンは鎌首を下に…エビルプリーストに向ける。
エビルプリーストはパクパクと口を上下させた。何かを言おうとしたが、声にならない。
ドラゴンは口を開いた。咽喉から白い煙が零れる。
熱も冷気も電撃もない霧のブレス。次の瞬間、彼の全身を激しい痛みが襲った。
本来なら、耐え切れた攻撃かもしれない。だが、
ゾーマの魔力に包まれたこのフィールドでは、
魔法に制限がかかっているように、耐性にも彼が思っている以上に制限がかかっていた。
こんな筈ではなかった。エビルプリーストは、自分がどこで誤ったかを考えた。
あの小娘を人質に取ったとき、逃げることを考えなかったことか。
いや、そもそもあの小娘を人質にしてしまったことか。
それとも…
そんなエビルプリーストの全身を氷柱が貫き、彼の存在はそこで潰えた。
とんぬらは呆然とその一連を見ていた。
とんぬら自身は、エビルプリーストが攻撃を仕掛ける瞬間を狙っていた。
幸いな事に自分にはマホカンタがかかっている、エビルプリーストは直接的に自分に手を下すだろう。
そこに付け入る隙がある。危険だったがそれしかない、と思っていた。
だが、実際はそれを行う前に、少女が少女自身の力で自分を救った。
自分は…自分が人質になったあの時、自分は見ているだけだったのに。
霧のドラゴンは攻撃を終え、存在する所以を失ったそれは静かに消えていく。
現われたとき同様、音もなく消えた後には倒れ伏すリディアの姿があった。
少女の下に駆け寄る。意識を喪失しているようだ、一見して少女の顔色が酷く悪い事が確認できる。
念の為に脈をとってみると、あるにはあるが恐ろしく弱い。
あのドラゴンを呼んだ際に力を使い果たしてしまったのだろう。
このままでは危険かもしれない。
とんぬらはリディアを抱き上げた。少女の軽さに、何ともいえない気分になる。
こんな少女も、この馬鹿げたゲームの
参加者なのだ。それがやりきれなかった。
振り向くと、
アニーがこちらに歩いてくる。何となく、不機嫌そうだった。
実際、アニーは不機嫌だった。
「お父さん、何で剣を捨てたの?」
「アニー?」
「お父さんは、私よりあの子が大事なの?」
とんぬらが不思議そうに自分を見ている。それがまたアニーの癇に障った。
「お父さんは死なないっていったじゃない!なのにあんな子の為に剣を捨てて!」
「アニー…」
今にも泣き出しそうな娘の前で、困惑する父親。
そんな気が重くて窒息しそうな状況で、ルーキーはかなり控えめに口を出した。
「ねぇ…そろそろ中の人たちが出てきそうなんだけど?」
次の瞬間。
離れの扉が蹴破られ、見るも無残な姿に成り果てた扉が雪原に投げ出される。
扉が地面に倒れた勢いで雪が舞い上がった。
ちらつく雪の影に、男が二人現われる。
オルテガと
リバストだった。
【リディア 所持品:なし
第一行動方針:
エーコ、
バッツたちと合流
第二行動方針:仲間(
セシル?)を捜す】
【現在位置:ロンタルギアの祠の外】
※力を使い果たして昏倒しています。そう簡単には回復しません
【とんぬら 所持品:
さざなみの剣
第一行動方針:リディアとオルテガたちとどう接しよう?
第二行動方針:
クーパー、
パパスとの合流
第三行動方針:
アイラの呪いを解ける人を探す】
【ルーキー 所持品:
スナイパーアイ、
ブーメラン
第一行動方針:リディアとオルテガたちとどう接しよう?
第二行動方針:
ライアンとの合流】
【アニー 所持品:
マインゴーシュ
第一行動方針:リディアとオルテガたちとどう接しよう?
第二行動方針:クーパーをみつける】
【現在位置:祠の離れのそば】
【オルテガ 所持品:
水鉄砲 グレートソード 覆面
第一行動方針:とんぬらたちと対応
第二行動方針:
アルスを探す】
【リバスト 所持品:
まどろみの剣
第一行動方針:とんぬらたちと対応】
【現在位置:ロンダルキアの祠の離れ】
【エビルプリースト 死亡】
【残り 52人】
最終更新:2011年07月18日 02:15