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◎平和をつくるための本棚 - (2009/06/01 (月) 01:01:39) のソース

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*同盟の静かなる危機 [著]ケント・E・カルダー/米中激突―戦略的地政学で読み解く21世紀世界情勢 [著]フランソワ・ラファルグ [掲載]2009年2月22日
[評者]天児慧(早稲田大学教授・現代アジア論)
 カルダーによるなら、日米同盟の基礎を築いたのはダレスの時代だった。その特徴は(1)日米の緊密な軍事同盟(2)日本への米国市場の開放(3)中国孤立戦略に要約される。1960年の日米安保条約改定の危機を経て、61~66年ライシャワー大使の時代に、日米同盟は特に文化、社会、経済領域など幅広い関係を強化し発展した。その後、ベトナム戦争時の反米感情、米中接近・頭越し外交、日中国交正常化など関係はぎくしゃくしたが、77~89年のマンスフィールド大使時代に日米同盟は再強化された。しかし今日、日米同盟は危機に陥っている。要因としては、(1)政治対話枠組みや経済相互依存の弱体化、政策ネットワークの先細り(2)グローバリゼーションによる日本優遇の領域の縮小(3)中国、インドなどの台頭で日本を超える「バイパス現象」の発生を指摘している。もっとも軍事力面での日米同盟は強化している。中東石油に依存している日本は米国の太平洋シーレーン戦略を支えざるをえない。カルダーは「同盟の自己資本」を増大させ、かつてマンスフィールドが「例外なく世界で最も重要な関係」と呼んだ日米パートナーシップを強化し、グローバルパートナーにしていくことこそ、世界にとって重要であると言いきる。

 ラファルグの著書は、中国の経済力、軍事力、政治力の急速な増大を分析し、人口と経済成長から見て石油・天然ガスなどのエネルギー資源を求めて、中国がユーラシア大陸、アフリカ、アンデス山脈など世界的に戦略を展開するのは必然だとみる。もちろんエネルギー獲得競争の主役は米国である。米国は冷戦後中央アジアと中東において、軍事的なコミットと同時にグルジア、ウズベキスタンなどのGUUAMグループなどを介して影響力の拡大を図ってきた。これに対して中国も上海協力機構を設置し、05年の同機構サミットで中央アジアに駐留する米国軍の撤退要請声明を出すことに成功した。本書ではエネルギー争奪のアクターとして他にロシア、インドが登場するが、日本はまったく登場しない。
出版社:ウェッジ  価格:¥ 2,520
出版社:作品社  価格:¥ 2,520
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200902240090.html

*歴史和解と泰緬(たいめん)鉄道 [著]ジャック・チョーカー[掲載]2009年3月1日
[評者]多賀幹子(フリージャーナリスト)
 著者はイギリス人画家。第2次世界大戦でアジア戦線に従軍し日本軍の捕虜となり、収容所で3年半を過ごした。彼が命がけで描いた100点超のカラー画と走り書きした手記が本書の中心だ。緻密(ちみつ)で優美な記録画は、芸術性と史料的価値で高く評価されている。なお和解研究などの専門家、小菅信子、朴裕河、根本敬による鼎談(ていだん)も示唆に富む。

 映画「戦場にかける橋」で知られる泰緬鉄道とは、日本軍がタイとビルマ(現ミャンマー)を結ぶために強行敷設した全長415キロの鉄道。熱帯病、栄養不良、過酷な労働、日常的な暴力の中、「枕木ひとつに人ひとり」の命を犠牲にして完成した。

 ただ捕虜たちは監視兵に愉快なあだ名をつけ、赤痢患者の便通回数で賭けを行う。想像を絶する状況下でなお笑いを忘れない強靱(きょうじん)な精神力には圧倒される。まれにいた理知的で親切な日本兵にも触れるなど、フェアな姿勢も健在だ。

 母国に帰還した著者は90歳でなお現役として活躍中。「不愉快な真実を認め受け入れ、そこから学びとる勇気こそ理解し合う上で不可欠」と歴史知識の習得のみを日英和解条件として提示する。被害者側からの呼びかけに私たちはどう応えるか。読後感の重みは本書の持つ迫力ゆえだ。
出版社:朝日新聞出版  価格:¥ 1,575
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200903030071.html

*アメリカ後の世界 [著]ファリード・ザカリア[掲載]2009年3月1日
[評者]久保文明(東京大学教授・アメリカ政治)
 本書のテーマは「アメリカの凋落(ちょうらく)」ではなく、「アメリカ以外のすべての国の台頭」、とりわけ中国・インドの台頭である。「アメリカ後の世界」において、アメリカはまだ頂点に立つが、最大の挑戦も受ける。地球規模の権力シフトが起きているとの認識のもとで、アメリカはどのように対応するのかについて、良質で落ち着いた分析が展開される。

 著者はアメリカの経済より政治に対して批判的である。ブッシュ政権の傲慢(ごうまん)さも問題であるが、民主党の保護主義も嘆かわしく、テロに関しては民主党も共和党も国内向けの発言に終始している。ナノテクノロジーや高等教育でのアメリカの優位は依然圧倒的であるが、著者によれば、今後のアメリカの指導力を考える際に決定的に重要なのは、正当性の有無である。ただ一つ、それだけが近年のアメリカに欠けている。そもそもアメリカは力だけでなく、理念によって世界を変革してきた。再びそれを取り戻すことができるであろうか。

 中国がアメリカにとってもっとも手ごわい挑戦者となるのは、力の誇示をせず、節度ある穏やかな路線に終始した場合であると著者はみる。それに対して、世界最大の民主主義国であるインドは、中央政府が弱体であり、「社会」が「国家」より優位に立つ点でアメリカとよく似る。そしてインドほど親米的な国は他にない。これらは中国に欠けているインドの優位である。

 本書はインド生まれで、18歳でアメリカに留学した著者によるインド論としても、興味深い。著者のような知識人を自国の知的世界に迎え入れたアメリカの姿そのものが、アメリカの大きさを示唆しているのではなかろうか。
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200903030087.html
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