(前話での最終局面)
● 啓輔:ライフ8000 手札1枚 モンスター1体 リバース3枚
● 亜姫:ライフ1700 手札0枚 モンスター1体 リバース3枚
啓輔が操るモンスター
ダークロード・ビースト ケルベロス  攻撃力3200
亜姫が操るモンスター
トールの聖竜神  攻撃力4000


「さて、もうこの時点であなたが私たちの探し求めてる人物じゃないってことは
 明確なわけだけど、どうしてあげようかしら。」
『クッ・・・勝負はまだ分からないぜ!』
「まだそんな強がりを言ってるの? トールの聖竜神の効果を知ったら、
 そんなこと言ってられないのに。」
『何だと・・・? な、なんだ!?』

啓輔の眼前のトールの体が光り輝き始め、攻撃力の数値がみるみる上昇していく。
しかも上昇する数値は100ポイントや500ポイントどころではない。

『こ、攻撃力10300だと!?』
「トールの攻撃力は、私と柳木沢君のライフの差だけアップする。
 私のライフは今1700、あなたのライフは8000ポイントのまま。
 つまり、ライフの差6300ポイントがトールの攻撃力に加算されるのよ。」

トールの聖竜神
攻撃力4000から攻撃力10300にアップ(トールの聖竜神の効果適用)

「しかも、トールは相手プレイヤーがコントロールするいかなる魔法や罠、
 モンスター効果も受けることはない。つまり、このターンの攻撃であなたの
 ケルベロスを攻撃すれば終わるわけだけど、どうする? もっとあがいてみる?」
『クッ・・・・!!』
「あれ、亜姫ってあんなキャラだったっけかな・・・・?」

フフンと、まさに「勝った」と言わんばかりの表情で啓輔へ問いかける。
だが、啓輔の瞳は負けを認めたデュエリストの目ではなく、まだ何か手を残している。
そんな思いが現れた瞳だった。

『真のデュエリストは、たとえどんな状況でも命乞いなんかしない・・・!!
 来い!! 神だろうが何だろうが、この身でしかと受け止めてやるぜ!』

怒りに満ちた瞳で、啓輔が亜姫を見つめる。
啓輔の言葉が引き金になったのか、亜姫は啓輔に対して手をかざした。

「挑発に乗るつもりはないけど、いいわ。その体で神の攻撃を受けなさいッ!
 トールよ、その聖なる咆哮を放て! 神の稲妻、ミョルニール・ハンマー!!」

トールが雄叫びを上げると体から電撃が走り、その光がトールの頭上で集約する。
光は球体のようになって静止したかと思うと、一瞬にしてケルベロスを襲った。
巨大な雷撃音を立てると同時に、辺り一帯が閃光に包まれる。

「駄目よ、亜姫ッ! 一時の感情に流されないで!!」
『デュエルってのは、常に相手の先を読んで戦うもの。その時の感情に支配されて理性を
 失っちまった時点で、そいつに勝利の女神は微笑まないんだ!!』
「私は理性を失っていないわ。トールが持つ効果を熟知しているからこそ、
 攻撃を仕掛けたのよ。私を、そこらへんのデュエリストと同じにしないことね。」

亜姫がフフンと鼻で笑うと同時に閃光がやみ、徐々に啓輔や友里香の目が慣れてくる。
場にケルベロスの姿はなく、存在しているのは亜姫のトールだけだった。

『クッ・・・ッ!』
「今の攻撃であなたは7100ポイントのダメージを受け、残りライフは900ポイント。
 モンスターも存在せず、その残りわずかなライフでどうやって勝つつもり?
 起死回生の手があるのなら、ぜひ見せてほしいもんだわ。」

● 啓輔:ライフ8000から900にダウン

『確かに、トールの攻撃でケルベロスは破壊された。
 だが、ケルベロスが破壊された瞬間に俺のリバースカードが発動したぜ!
 罠カード、命の綱発動!』

《罠カード》
命の綱
通常罠
自分の場のモンスターが戦闘によって破壊された時に発動可能。
そのモンスターの攻撃力を800ポイントアップし、自分の場に特殊召喚する。
(表示形式は任意とする。)

『このカードによって、ケルベロスは今一度俺のフィールドに蘇る!』

地面の中から獣の腕が現れ、ケルベロスが地中から姿を現す。
ケルベロスが雄叫びを上げると、その体はオーラに包まれ、攻撃力を増していく。

ダークロード・ビースト ケルベロス
攻撃力 3200から攻撃力 4000にアップ

『これで俺のケルベロスの攻撃力は4000。まだ起死回生のチャンスはある!!』
「おかしなことを言うのね。さっきも言ったけど、トールは私のライフとあなたの
 ライフの差だけ攻撃力がアップするのよ。今はあなたの方がライフは下になったけど、
 私たちのライフには800ポイントという差がある。つまり、トールの攻撃力は
 10300ポイントからは下がるものの、本来の攻撃力に800ポイントが上乗せされるわ。」

トールの聖竜神
攻撃力 10300から攻撃力 4800にダウン

(『今、トールとケルベロスの攻撃力の差は800ポイント・・・・。
  勝負は次のあいつのターン。もし、賭けが失敗すれば俺の負けだ。』)

「そうね。私は何もできないから、このままターンを終了するわ。」


● 啓輔:ライフ900 手札1枚 モンスター1体 リバース2枚
● 亜姫:ライフ1700 手札0枚 モンスター1体 リバース3枚


『いくぜ、俺のターン! ドロー!』

起死回生のカードよ、来てくれ・・・!!
そう願いながら、ドローしたカードを確認する。
俺がドローしたカードは、同士討ちの罠カード。
このカードは相手が攻撃宣言をした時に発動できる罠カードで、うまく使えば
あのトールを破壊する事ができる・・・かも知れない。
ただ、俺のターンで何らかの攻撃を仕掛けないと状況的にやばいってのもある。
とはいえ、あの女が伏せてる3枚のリバースカード・・・。
それに、トールが持つ効果も俺はよく知らないし・・・。

(「この状況で、柳木沢君はどういう行動に出るかしら。ただ、彼の手札と
  伏せカードだけでトールを倒す事ができるかってなると、確率は低いわね。」)

『クッ・・・。俺はカードを1枚セットして、ターンを終了だ・・・。』


● 啓輔:ライフ900 手札1枚 モンスター1体 リバース3枚
● 亜姫:ライフ1700 手札0枚 モンスター1体 リバース3枚


「あら、攻撃しないの?」
『アンタの伏せカードに、攻撃モンスター破壊の罠が張ってあったら、
 ケルベロスを失うことになっちまうからな。今の俺には、ケルベロスを
 失うことが負けに繋がるんだ。』
「でも、あなたがこのターンで何もしなかったことで敗北を呼び寄せるとしたら?」
『デュエリストってのは、デッキの枚数分だけ可能性がある。
 俺はデッキが尽きるまで、その可能性に賭けてみるぜ。』
「あなたが選ばれし者なら、その可能性とやらで勝てるかもね。
 私のターン、ドロー。」

(「このターン、あの女はほぼ間違いなくトールで攻撃してくるはず。
  その時こそが、トールの最期だ。」)

「このターン、トールのさらなる効果を見せてあげる。トールはね、
 手札を1枚捨てる事で、捨てたカードの種類によって様々な効果を
 発揮するのよ。たとえば、モンスターカードを手札から捨てた場合は
 捨てたモンスターカードの攻撃力分だけ攻撃力がアップする。さらに
 魔法や罠カードを捨てた場合は捨てた種類と同じカードを相手の手札と
 伏せカードを確認して、すべて破壊する事ができる。」
『何だって!? じゃあ、トールが召喚されたらほとんど何もできないじゃないか!』
「まぁ、ほとんど手は封じられるって言っても過言じゃないわね。
 じゃあ、さっそくその効果を使うわ。私が引いたカードは罠カード。
 このカードを捨てる事で、あなたの伏せカードと手札を確認するわ。
 さぁ、すべてを私の前にさらしなさい!」

この効果の発動を許せば、俺は確実に負ける・・・ッ!

『なら、俺はトールの効果が発動した瞬間にリバースカードを発動!
 魔法カード、聖者の結界!!』

《魔法カード》
聖者の結界
通常魔法
このターンのエンドフェイズ時まで、自分の手札及びフィールド上に
存在する魔法・罠カードは相手のカードの効果を受けない。

『このカードで、俺はトールの効果を阻止するぜ!』
「クッ、聖者の結界はトールを対象として効果を無効化するカードじゃない・・・。
 ならば、トールでケルベロスに攻撃よ!」

トールのミョルニール・ハンマーが、俺のケルベロスを襲う。
だが、俺はこの瞬間を待っていた。

『ヘッ、勝負を急いだな。アンタがトールで攻撃する瞬間を待ってたぜ!
 リバースカード、オープン! 罠カード、同士討ち!!』

《罠カード》
同士討ち
通常罠
相手プレイヤーが攻撃宣言をした時に発動可能。
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択する。
選択したモンスターはエンドフェイズ時まで、相手フィールド上に
表側表示で存在する攻撃力が最も高いモンスターと同じ攻撃力になる。
このターン、すべてのプレイヤーが受ける戦闘ダメージは0となる。

「同士討ちですって!?」
『このカードは、アンタのフィールド上で最も攻撃力が高いモンスターと
 同じ攻撃力を、自分フィールド上のモンスターに与える事ができる。
 今、アンタのフィールド上には攻撃力4800のトールしかいない。よって、
 トールの攻撃力4800ポイントが俺のケルベロスに与えられる!!』
「・・・亜姫のトール、敗れたり。」
「・・・・クッ!!」

トールのミョルニール・ハンマーがケルベロスを襲うと同時に、
ケルベロスがトールへと突進攻撃を仕掛ける。
同士討ちの効果を得て攻撃力がトールと同じになったケルベロスは
ミョルニール・ハンマーを受けながらも突進し、トールの胸を貫いた。

『トールの聖竜神、撃破ッ!!』
「そ、そんな・・・。神のカードのトールが敗れるなんて・・・。」
「トールの聖竜神は、墓地から特殊召喚すれば1ターンのみ、フィールドで
 生きられる。でも、今から特殊召喚したとしても戦闘はもう行えない。
 詰んだわね・・・・。」
『アンタのターンはまだ終わっちゃいないぜ。さぁ、どうする?』

トールを倒したことで、俺には余裕があった。
仮に死者蘇生とかでトールを特殊召喚されたとしても、バトルフェイズは既に
終わってるからこのターンに戦闘はもう行えない。
もしストライク・バックなどの「再度バトルフェイズを行う」みたいなカードを
使われたら俺の負けだけど、相手の顔を見れば戦意があるかどうかは判断できる。




「亜姫、もういいでしょ?」
「・・・えぇ、彼が記憶に選ばれし者だってこと、認めるわ。」


そう言いながら、女はデュエルディスクのスイッチを切った。
そして、もう1人の女と一緒に俺へと近付いてくる。
俺はデュエルディスクのスイッチを切ると同時に、少し後ずさりした。

『お、おい、なんだよ・・・? 負けたからってボコるつもりじゃ・・・。』
「心配しなくても、そんなことしないわ。私たちは、あなたを仲間として
 組織へ導くようにって派遣されただけ。本来だったらデュエルとかはせずに
 いきなり話をしようかとも思ったんだけどね。」
「でも、もしあなたがあちら側の人間だったら大変なことになるからってことで、
 デュエルを挑んだってわけ。」
『ちょ、ちょっと待ってくれ! 組織だとか、あちら側の人間だとか、
 一体アンタらは何を言ってんだ!?』

何の話をされているのか、俺にはサッパリ分からなかった。
昨日からだけど、なんでこうも意味不明なことばっかり起きるんだ・・・?
話を聞いてる限りだと、こいつらは俺を変な事に巻き込もうとしてるし・・・。

「今さらになって、何をバカなこと言ってるのよ。あなたも気付いてるんでしょ?
 自分は何か特別なことに選ばれた人間じゃないか、って事に。」
『は?』
「昨日の事を思い出しても、まだ理解できない?」
『き、昨日の事って・・・どういうことだ?』
「私の口から全部言わないと分からない? 昨日、君を狙った奴がいたでしょ?
 小日向 茜って子の家から帰る途中に、君を襲おうとした奴らの事だけど。」
「なんでアンタがその事を知ってるんだ!?」

昨日の夜、俺は確かに帰る途中に何者かに襲われそうになった。
幸い、その時は「味方だ」って名乗る得体の知れない奴が俺の代わりに
デュエルを受けて、俺としては助かったんだが・・・。

「その時さ、君の代わりに戦った人がいたよね?」
『あぁ、覚えてる限りだと女だったんじゃないかと思うけど・・・。』
「ソレ、私だもん。」
『ハァ!?』

言われてみれば、昨日の女(だと思う)の声が、この女と似ている気がしないでもない。
それに、俺が襲われそうになったことも知ってるみたいだし、ひょっとしたら・・・。
いや、ひょっとしなくてもこの女が昨日の女ってのは間違ってないのかも知れない。

「いやー、昨日はカッコつけて大きな事言っちゃったんだけど、実を言うと
 結構危なかったんだよねー。アイツらが持つ神のカードを出されてたら
 絶対負けてたって言ってもいいくらい手札悪かったし。」
「・・・もし負けてたらシャレにならないわよ、友里香・・・。」
『おいおい、待て待て!! 勝手に話を進めてんじゃねぇよ!
 アンタが昨日の女なら、なんで俺を助けたりしたんだ!? ってか、
 アンタらはなんで俺に関わるんだよ!?』
「だから、さっきも言ったじゃん、君は私たちの仲間だって。
 仲間なんだから、助けるのも当たり前。ドゥーユーアンダースターン?」
『アンダースターン?じゃねぇ!!! 話が無理やりすぎるぞ!
 大体、俺はアンタらの仲間になった覚えなんかないんだ!!』

俺がそう言うと、女2人は急に真剣な顔つきになって、俺の方へと向き直った。


柳木原 啓輔君。君自身は私たちと仲間になった覚えがなくても、これは
 3000年前からファラオによって定められていた事なのよ。」
『さ、3000年前から・・・・?』
「私たちだって、生まれて今まで君に会ったことはなかった。でも、自分の
 頭の奥底にある運命の記憶が私を君たちと繋ぎ合わせたことは分かるの。
 自分が3000年の月日を経て選ばれた、記憶と魂の宿り主だってこともね。」

何を言われているのかチンプンカンプンとは、きっとこういうことを言うのだろう。
3000年前からファラオによって決められていたこと??
頭の奥底にある運命の記憶??
第3者としてこの光景を見れば「妄想癖の激しい奴だなー」と思うだろうが、
この女2人は真顔なだけに、頭が狂って変な事を言っているとも捉え難い。
でも、だからってこの話を信じてくれって言う方が無茶な気がする。

「意味不明な事に巻き込まれて、すぐに理解できないのは分かってるわ。
 でも、私たちに残された時間はとても短くて、悠長なことはしてられない。
 君はまだ記憶が覚醒していないから現状を理解できないだけで、何らかの
 事象がトリガーになって記憶が覚醒すれば、すべては即座に理解できるわ。
 今はとりあえず、アイツらの手から君を守って、覚醒者(セイバー)として
 君が目覚める時を早めるしか、私たちに方法はないの。」
『覚醒者・・・? 記憶が目覚める・・・?』
「覚醒者同士は引き付け合うし、誰が覚醒者なのかも察知できるの。」
「これから先、君や君に関係する人たちには、何らかの危険が及ぶわ。
 その時に冷静な判断を下して行動できるよう訓練するのが、私たちの役目。
 もちろん、今すぐにすべてを理解してくれとは言わない。ただ、今は
 私たちと一緒に来てほしいの。」
『お、おい、俺に関係する人たちに危険が及ぶって、どういうことだよ?』

友里香と呼ばれる女の一言に、俺はなぜか言いようのない気持ちになった。
俺の周りにいる、俺に関係する人の誰かに何らかの危険が及ぶ・・・。
その言葉を聞いて、真っ先に思い浮かんだ人物がアイツだったからだ。

「君の身近にいる人物も、覚醒者としてリストに挙がっている子がいる。
 その子にもアイツらが接触する可能性があるってことよ。
 一応、その子たちには私たちと同じ仲間が付いてるけどね。」
『ま、まさか・・・・・。』
「多分、あなたが考えている事は当たっているわ。」

自分の考えている事、ソレは「アイツ」が関わっているんじゃないかってこと。
俺の一番身近にいる人物として考えられるのは、アイツ以外いないからだ。


次にコイツらから聞く事の内容は、決して良いもんじゃない。


そんな何とも言い難い嫌な予感が、俺の脳裏をよぎる。










「君の幼馴染みである小日向 茜。 彼女も覚醒者の1人よ。」










その言葉は、俺の胸に深く突き刺さった。



to be continued・・・・・・



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最終更新:2009年01月24日 12:14