第09話:聖剣エクスカリバーの咆哮
「確かに、啓輔君があのカードを召喚すれば、このデュエルは勝負がつく。
悠一郎たちよりも先にあの子のデッキを確認するのは悪い気もするけど、
ここで見ておけばそれなりに対策もできるってもんね。」
『え? 何か言いました、奈央さん?』
「ううん、こっちの話。気にしないで。」
「いくぜ、俺のターン! 俺は手札から魔法カード、選定の剣 カリバーンを発動!」
《魔法カード》
選定の剣 カリバーン
装備魔法
このカードは「未来の王 アルトリア」にしか装備できない。
このカードと、このカードを装備している「未来の王 アルトリア」をリリースして発動する。
自分のデッキ・手札・墓地のいずれかから「聖杯王 アーサー」を特殊召喚する。
啓輔がさっき特殊召喚したアルトリアという名の少女の前に、岩に突き刺さった剣が現れる。
そして、少女は剣に手を伸ばすとそのまま力任せに引き抜こうとする。
「アルトリアが選定の剣を抜いた時、彼女は真の姿を解放する! いくぜ!
俺はアルトリアと選定の剣 カリバーンをリリースし、デッキから聖杯王 アーサーを特殊召喚する!
聖杯王 アーサーよ! 今この時、我が前に姿を現せ!!」
アルトリアが手にしている剣の刀身が、徐々に岩の中から浮かび上がってくる。
同時に辺りには稲妻がほとばしり、剣とアルトリアの力がひとつになろうとしていることを告げる。
そして眩しいほどの光が辺りを包み込んだ時、彼女、いや彼は私たちの前に姿を現した。
「これが俺の切り札だ!! 聖杯王 アーサー、降臨ッ!!」
《
モンスターカード》
聖杯王 アーサー
効果モンスター
☆8 / 地属性 /
戦士族 / 攻 2800 / 守 2300
このカードは戦闘によっては破壊されない。
このカードの攻撃力は、自分フィールド上の「聖杯」と名の付くモンスターの
数×500ポイントアップする。自分フィールド上に「理想郷 アヴァロン」が存在する場合、
相手プレイヤーは罠カードを発動できない。
「さらに俺は手札から魔法カード、聖剣 エクスカリバーを発動!」
《魔法カード》
聖剣 エクスカリバー
装備魔法
このカードは「聖杯」と名の付くモンスターにしか装備できない。
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
このカードを「聖杯王 アーサー」に装備している場合、「聖杯王 アーサー」は
以下の効果を得る。
● 「聖杯王 アーサー」はいかなるモンスターの効果も受けない。
● 1ターンに1度、相手フィールド上の表側表示モンスターすべてを破壊する。
「エクスカリバーにより、アーサーはモンスターを破壊する効果と、モンスターの効果を受けない
能力を得た。俺はモンスター破壊の効果を使うことで、鋼鉄の機械竜を破壊する!」
『そんな!? でも、鋼鉄の機械竜って魔法の効果を受けないのよね? だったら、啓輔が召喚した
あの王様カードじゃ破壊できないんじゃないの?』
「確かに、アーサーはエクスカリバーのカードによってモンスター破壊の効果を得た。でも、ソレは
エクスカリバーのカードが引き金になっただけであって、破壊の効果はあくまでもアーサー自身の
効果として処理されるから、鋼鉄の機械竜は破壊されてしまうわ。」
「ピピッ、効果によって破壊されるため、鋼鉄の機械竜を墓地へ送ります、ピピッ・・・。」
「俺の追撃はまだまだこんなもんじゃないぞ! 理想郷 アヴァロンの効果により、俺はデッキから
聖杯騎士 武勇に長けしガラハッドを特殊召喚する!」
《モンスターカード》
聖杯騎士 武勇に長けしガラハッド
効果モンスター
☆4 / 地属性 / 戦士族 / 攻 1900 / 守 1300
このカードは罠カードの効果を受けない。
このカードを除く、自分フィールド上に「聖杯騎士」と名の付くモンスターが
1体以上存在する場合、相手フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊することができる。
「この瞬間、俺のフィールドには「聖杯」と名のつくモンスターが4体になった!
そして、アーサーの効果とアヴァロンの効果により、アーサーの攻撃力は2800から
2500ポイントアップ、さらにエクスカリバーの効果で800ポイントアップし、一気に
6100ポイントまで攻撃力が上昇するぜ!」
聖杯王 アーサー
攻撃力2800 → 攻撃力6100にアップ(アヴァロン、エクスカリバー、アーサーの相乗効果)
聖杯騎士 裏切りのランスロット
攻撃力2600 → 攻撃力3100にアップ(アヴァロンの効果)
聖杯騎士 忠実なるベディヴィエール
攻撃力1600 → 攻撃力2600にアップ(アヴァロンとベディヴィエールの効果)
聖杯騎士 武勇に長けしガラハッド
攻撃力1900 → 攻撃力2400にアップ(アヴァロンの効果)
これで、啓輔のフィールドにはモンスターが4体、総攻撃力は14200ポイントとなった。
もちろん、啓輔のモンスター効果によってデュエルマシーンのフィールドはガラ空きにされるため、
勝敗がどうなるかなどは目に見えている。
でも、最高レベルに設定済みのデュエルマシーンをここまで完膚なきまでにねじ伏せたんだから、
ひょっとして啓輔のデュエリストレベルって世界チャンピオンの域にまで達してるってこと・・・・?
「世界チャンピオンのレベルに設定されてる割りには、大したことなかったな。」
『啓輔の実力って、やっぱりすごかったんだ・・・・。』
「圧倒的なまでの勝利ね。すごいわ。」
「いくぜ! 俺はガラハッドの効果によってデュエルマシーンのリバースカードを破壊する!
そして、アーサーでトドメをさすぜ! アーサー、その究極の剣を唸らせろ!!!」
アーサーは持っている聖剣 エクスカリバーを天へ向けて掲げるように上段で構える。
眩しいほどの光が一気に刀身に収束し、周りの空気を巻き込むように唸り始める。
これこそがかの伝説の騎士王であり、聖杯を探し求めた末に手に入れた究極の力。
今そのエクスカリバーが極限までに力を解放し、この勝負は終わりへと向かう。
「聖剣 エクスカリバー!!!!」
天を割る勢いでエクスカリバーは振り下ろされ、轟音と共にデュエルマシーンに6100ポイントの
ダメージが与えられた。
立体映像(ソリッドビジョン)とはいえ、あまりにも凄まじい迫力に観戦していたギャラリーも
ついつい息を呑む。
「デュエルマシーン01:マギはオーバーキルにて敗北!
この瞬間、柳木原 啓輔様の勝利が決定致しました!」
『やったー!! 啓輔、すごいよ!!』
啓輔が私たちの所に戻ってくるなり、私は嬉しさのあまり抱きついてしまった。
やっぱり同じデュエリストの仲間がデュエルで勝ったりすると、嬉しいもんである。
私と啓輔のやり取りを見て、奈央さんも微笑んでくれていた。
「おら、離せよ、茜ッ!! 周りに誤解されるだろ!!」
『いいじゃん、別に。私たち、幼馴染みなんだし。』
「あ、ちょっとごめんね。電話かかってきた。」
『はぁ~い。ねぇねぇ啓輔、さっきの王様カード見せてよ♪』
「もしもし?」
かかってきた電話に出る。
「やぁ、エキドナ。様子はどんな感じ?」
かかってきた電話の主、それは私が所属する組織のリーダーだった。
男性独特の声ではあるけれど、私と同い年くらいの雰囲気をも感じさせるその声は少し不気味だった。
「はい、今ターゲット2人と接触しました。向こうは警戒している様子はありません。」
「そうか。なら、そのまま偵察を続けてよ。」
「分かりました。」
「で、奴らの動きはどう?」
「彼らは、こちらの出方を伺っている状態です。本部からの連絡もまだありませんから、我々の動きは
まだ察知されていないものと思われます。」
「そっか。エキドナだけじゃかわいそうだから、オセとリリスを送っておいたよ。
困ったことがあったら2人に相談してくれ。」
リーダーの口から出た意外な人物の名前を聞いて、私は耳を疑った。
どうして、よりよってあの2人を送り込んだわけ・・・?
やっぱり、私だけじゃ信用できないってこと・・・・?
「エキドナ、俺は君を信頼してないわけじゃないんだ。ただ、他の連中の目もあるからね。君だけを
特別視して黙っているわけにはいかないんだよ。その辺り、理解してくれるよね?」
「ロア様のお考えは分かります。ですが、あの2人は・・・・」
「心配には及ばない。2人には下手なことをしないように伝えてある。もし何かあったら、すぐに
執行者を送り込むだけだからね。君を危険な目には晒させないから安心しなよ。」
「分かりました・・・・。」
「エキドナ、君がちゃんと仕事をこなしてくれていることには礼を言う。我々の計画が完全に始動するまでは
もう少し時間が必要なんだ。だから、あとちょっとだけ辛抱してくれ。約束の時は近いんだ。」
「ご心配なく。
アルヴァトロスの名の下に、命令を確実に遂行してみせますので。」
「フフッ、期待しているよ。また何かあったら、こっちから連絡する。」
そう言って、彼は電話を切った。
彼からの電話はいつもこんな感じで、一方的に電話をかけてきては、一方的に電話を切る。
彼の言う「計画」も詳しいとこまでは教えてもらってないし、正直自分の仕事にも疑問はある。
我々のターゲットである小日向 茜と柳木原 啓輔。
まだ他にもターゲットとして挙がっている人物は存在するけど、最優先すべきはこの2人。
オセとリリスが送り込まれたことから考えても、計画始動の時は近いはず。
「探したわよ、エキドナ。」
「あの2人から目を離すなと言われているはずだろ。こんな所で何をしている?」
背後から声をかけられ、聞き覚えのある声だったことに慌てて振り返る。
そこには体格の良い男と、目つきのキツい女が立っていた。
「リリス!? それにオセ!? どうしてここに!?」
「ロア様からの命令だ。お前を監視するようにと言われて来た。」
「オセ、語弊があるわよ。私たちはこの女のサポートをするために送り込まれたんだから、
むやみやたらと敵意を剥き出しにしないでちょうだい。」
「分かってるわ。ロア様はあーゆー風に言ってたけど、実際問題はオセの言うように監視でしょ?」
「んー、まあ外れてもないわね。ロア様はアンタには甘いから、遠回しに言ったんでしょうけど。
でも、アンタも二重スパイみたいなことやってるんだから疑惑は持たれて当然よ?」
「うるさいわね、余計なお世話よ。」
「な、何ですって!? 先輩に対してその口の利き方は何なのよ!?」
私の発言に腹を立て、リリスが私の頬をおもいっきり引っぱたいた。
ソレを見ていたオセが、リリスを止めに入る。
「リリス、よせ。ここでは人目につく。内輪揉めなら後でしろ。」
「エキドナ、アンタね。ちょっとロア様に気に入られてるからって調子に乗ってんじゃないわよ。
次に下手な口の利き方したらその命、仕留めてやるから覚悟してなさい。」
「ごめんなさい・・・・。」
問題を大事にするとオセの言う通り人目についてしまうから、私はそれ以上の反論をやめた。
こんな奴らが私の先輩として組織にいたんだと思うと、非常に気分が悪い。
でも、実際にこの2人が私の先輩ってことだけは決して揺るがない事実だから認めているだけの
ことであって、逆の立場だったらとっくの昔に組織から追放しているところだわ。
「エキドナ、今日はとにかく帰るぞ。」
「分かった・・・・。」
私は返事をすると、何事もなかったかのようにターゲットの所へと戻ることにした。
『あ、奈央さん、やっと戻ってきた! あれ、頬どうかしたの?」
「ううん、ちょっとそこで友達と女同士の喧嘩しちゃってね。大したことないから気にしないで。」
『え、えぇ!? 女同士の喧嘩って、温厚そうな奈央さんでも怒るの!?』
「お前、発言がおかしいだろ・・・。」
「そりゃー、私だって怒る時は怒るわよ。でも、私が悪いだけだと思うから大丈夫よ。」
『う、うん・・・。でも、いくら同性だからとは言え、手を出すなんて嫌な奴だね。』
「他人の友達を悪く言うな、バカ。」
「アハハハ、本当に大丈夫だってば。明日になったら仲直りしてるだろうしね。悪いけど、
ちょっと用事があること忘れててさ。今日は帰るね。」
『あ、奈央さん!』
走り去ろうとする私を、小日向さんが呼び止めた。
何だろうと思って振り向くと、小日向さんは少しだけ悲しそうな顔をしていた。
『あ、あの・・・・・・わ、笑って下さいッ!』
「えっ?」
『奈央さんは綺麗だから、そんな顔してちゃ駄目だと思いますッ! だから、笑って下さいッ!
笑ったら嫌なことも忘れちゃうから、笑うことって大切なんですよ!』
「ぷっ。」
『へっ?』
「アハハハハッ!! 大丈夫だって! 私、そんなに落ち込んだりしてないから!!
あー、おかしい、アハハハッ。ごめんね、心配かけさせちゃって。」
『い、いえ、そんなことは・・・・・。』
「ありがと。じゃあ、今日は笑って帰ることにします。また一緒にデュエルしようね♪」
そう言い残して、私は立ち去った。
この2人は、これから始まろうとしていることを知らない。
2人に待ち受けている運命は、とても残酷なことなんじゃないかと思う。
でも、ソレを乗り越えられることをロア様は望んでいない。
私は、私の任務を最後までちゃんと果たす。
そう心に決めて、私はオセとリリスと共に帰ることにした。
to be continued・・・・・・
最終更新:2008年11月22日 17:17