0節 山にて

硬い金属のぶつかる音。それは剣戟の音である。
木々に囲まれた山の中、二人の武者が己の武器を合わせている。
それぞれの獲物が月の光を反射する。
片方の男は戦闘に合わないような和服に身を包み、髪を振り乱しながら刀を振るう。
もう一方の男は鎧に身を包み、手にした槍を振るう。
一進一退。しかし表情は正反対。
笑みすら浮かべてい剣を振るう男。歯を食いしばり苦々しい顔で槍を振るう男。
サーヴァント、セイバーとランサーの闘いである。

「はははは!」
「くっ……お、らァッ!」

渾身の力を込めた槍の一撃。
体勢を崩す剣士。
敵の槍を目の前にしても冷や汗一つかかず、笑みを浮かべたまま槍を見る目る。
これで終わりだとばかりに突きにくる槍。
しかしその刃は剣士の喉には届かなかった。
剣士の左手が上がる。それと同時にいくつもの破裂音が山の中にこだまする。
その音が止み、あたりに煙が立ち込めると男は槍を手放してた。
倒れそうになる体を支えたのは体勢を立て直した剣士。
だが、その行為に優しさや情などというものはない。
剣士の持つ刀はしっかりと彼の体を貫いているのだから。

「お、まえ……鉄砲隊……を……」
「はは。貴様らの将が虎狩りに使ったのと似たようなものよ」
「……くそ」
「安心せよ。貴様の霊基……器は残しておいてやる」

にぃと三日月のような形を作った剣士の口元。
同時に刀から炎が上がり、当然貫かれた敵を焼く。
苦しみの叫びをあげながら、槍の使い手はその意識を失っていく。
彼の輪郭のみを残した黒い人型の炭が出来上がる。

「霊基焼却完了―――今度はどうするか……そうだ、奴を呼び出してみようぞ」
「我が敵を生み出そうぞ。我が死の要因を作り出そうぞ」
「さて霊基をくべよう。今度はうまくいくといいがな」

再び火が噴出し炭を赤い火が包む。刃を抜き燃える炭を蹴とばすとそれは地面に倒れ伏した。
炭に灯されていた火が消えると、炭の表面にはひびが入る。
ひびはどんどんと広がっていく。
やがて全身にひびが広がると、ぴしりという音と共にぼろぼろと形が崩れる。
しかしそれは表面だけの話である。
真黒な炭の下から、灰のように白い人型が現れたのだ。
今度は灰の白が色づいていく。
肌の色、髪の色、衣服の色。
一つずつ彩色されていき、気づいたときには先ほどの者とは違う誰かが横たわっていた。

「……違う! これではない! 失敗だ。アーチャー、アーチャーはいるか」
「ここにいるけれど」

木の陰から現れたのは和装の女性だ。
着崩した服から肌が露出している。
動きやすさを優先したような着方。
女性の手には一本の長銃、火縄銃が握られている。
それは彼女がアーチャーであることを示す。

「この女はお前に預ける。好きにせい」
「別に私は構わないけれど、いいのね? 返さないわよ」
「いらぬ。俺が欲しいものではなかったのでな」
「そ。それと、そろそろアレがくるわ」
「そうか。ならば今日の所は戻るとしよう。口惜しいがな」
「化け物退治は契約の外よ」

アーチャーが倒れている女性を担ぎ、二人は山を下りていく。
山から見下ろす町並みは彼らがいた時代のそれとは違う。
会話もなく、山の中から彼らの姿は消え去った。

――――――ずるりと音がした。
山肌を何かがこする。
それはとても大きなものだ。山道を這うように進み、木をなぎ倒す。
何かが這った後の土は煙を上げて黒く焦げ付き
何かがなぎ倒した木はぶつかった場所が炎を上げて焼かれている。
円を描くように何かは動き、やがて辺り一帯の木を倒して、それから止まった。
長い。大きい。人の姿ではない。
なぎ倒した木を抱えるかのようにぐるりぐるりと体を巻き付け。
濡れたような白い鱗は月の光を受けてきらきらと輝いている。
光の具合だろうか白い鱗は翡翠の色にも見えるだろう。
そして頭には大きな白い角。
何かは、蛇のようであった。
自分が倒した木を体で包み、とぐろを巻いている。
重そうな頭を起こせば口を開く。
真っ暗な夜の闇を思わせる口中から吐き出す炎はセイバーのものとは違う、青い炎。
自分が抱いた木々をその炎で焼き払った。
木が炭となった後でもまだ炎を吐き続ける蛇。
その姿はまるで蛇というよりも龍のようでもあった。

始まり
なし 永久統治首都 京都 1節 和洋の複合

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最終更新:2017年05月25日 15:55