ぼうっと空を見ていた。
晴天とはいかず、灰色の雲が太陽を隠している。
カルデアの窓から見える景色はいつも変わり映えのしない吹雪だ。
その技術力でどこかの窓をモニターに変えて、四季折々の景色を映してほしいと彼は思っていた。
藤丸立花。多くの英霊と絆を結び、世界を救った人間。
しかし世界を救ったなどという肩書が似合いそうにない雰囲気である。
無防備で、緩やかで、穏やかだ。
藤丸立花は特異点となる時代の地点に舞い降りた。
「えっと、誰と来たっけ」
「わしじゃ!」
藤丸の冗談めかした言葉に答えた最初のサーヴァントは黒い軍服に身を包んだ女性。
第六天魔王、織田信長である。
「うちもおるけど」
「あぁ……うん。そうだね」
それともう一人、白すぎるほどに白い肌と子供のような小さな体、それから立派な二本の角。
大江山の鬼、その頭領酒呑童子。
彼女達は藤丸立花と絆を結んだ英霊だ。
「……足りないよ」
「ん? そうか?」
「だって、三人で来る予定だったんだから」
「うちと織田のお嬢はんと、後は龍のお姫さんのはずやけど」
「うん。だから、その清姫はどこ?」
これまでの事を思い出す。
ダ・ヴィンチちゃんに呼ばれたのはつい先ほどのことだ。
日本の京都、時代にして大正。近代である。
この時代において起こる異常とはなんなのだろうか。
大日本帝国の国際連盟への加入、東洋工業設立、日立製作所設立、第一回箱根駅伝開催、戦後恐慌、新婦人協会設立
東京上野での初のメーデー、戦艦椎名の榴弾破裂事故、日本初の国勢調査実施、日本社会主義同盟結成。
1920年の出来事、しかし本当にこれらに関することなのかも怪しい。
そして場所が京都である。
明治維新の頃ならばまだしも(ぐだぐだとした出来事が思い起こされるが)
とにかもかくにもやらねばならぬは問題解決だ。
日本での亜種特異点。折角だと日本の英霊たちを連れて行こうと思い立つ。
英霊たちのじゃんけん大会の後、藤丸と共に来ることになったのは織田信長と酒呑童子、そして清姫の三名だ。
彼らは今までと同じようにレイシフトの準備を行い、こちらに向かった。
だがなぜだか清姫だけがいない。
『先輩、そちらはどんな感じですか?』
「マシュ。あぁ……えっと、山の中みたいだ……それと、清姫がいない」
『清姫さんが……』
「そっちで何かわかってない?」
『そこに関しては私が説明するよ藤丸君。私たちは君達をそこの特異点に飛ばした。ここはうまくいったさ』
「じゃあどこは上手くいってないの」
『原因はいま解析しているんだけど、清姫ちゃんだけ君達とは違う位置に飛ばされてるみたいなんだ』
「違う位置」
『そう。君達を確実にそこに送り届けた。だけど転送の途中、清姫ちゃんの反応だけがロストした』
清姫だけというのも不思議な話だ。
原因はカルデア側で調べている。調べているという事は分かっていないことだ。
誰も答え合わせは出来ない。
「……とりあえず山を下りよう」
「あの子探さんでええの?」
「清姫のことは心配だけど……でもきっと大丈夫だよ。案外気づいたら後ろにいたとかあるかもしれない」
「へぇ。信頼してはるんやねぇ。妬けてまうわぁ」
「嘘つけ。行こうか」
「そうじゃの。久しぶりの京都じゃ楽しみじゃのう」
「せやねぇ。うちの久しぶりやわ」
三人は言葉を交わしながら下山を開始した。
最終更新:2017年06月07日 16:17