定礎焼滅炉心 冬木 第一節(Ⅰ)

第一節 You are shock!



 ────2017年 人理継続保障機関 カルデア

 その日の目覚めはよかった。
 熟睡していたから目がぱっちりで清々しく起きれた。
 時刻は7時二分前。目覚まし時計が鳴る前に起きれた。
 ぐっと伸びをすると部屋のドアをノックする音がした。
 どうぞと言うとドアが開き、後輩の少女が入室してきた。


「おはよございます先輩。本日は早起きですね」

 グッドモーニング! マシュ!

「ふふ。朝から元気ですね。では早速、朝食を摂りに行きましょう。
 今日はブーディカさんが腕によりをかけているそうです。

 何かあったの?

「どうやら"パッションリップさんに誰が料理を教えるか"ということでエミヤさんとブーディカさん、キャットさんで料理対決するらしく朝食はブーディカさん、昼食はエミヤさん、夕食はキャットさんが担当して競うそうです。

 ぜひご相伴に預かろう

「はい、行きましょう」




「絶品でしたね。エミヤさんが舌を巻いてました」

 やられたって顔してた。

「エミヤさんは先ほど食材を獲りにいくと山を降りていきましたが、一体何を獲るのでしょう?」


 そうしてしばらくの間、「エミヤが何の料理を作るか」を考え合っていた時、館内アナウンスが響いた。

『立香君、マシュ。 ちょっとマズイ自体だ、管制室へ来てくれ!』

 いつもは落ち着いているダ・ヴィンチちゃんの声が焦燥に満ちていた。
 意味するところは緊急事態。つまり───

「……行きましょう、先輩!」

 二人は管制室へ向かった。




 管制室ではカルデアのスタッフとダ・ヴィンチちゃんが大声で報告と命令を出している。
 突如現れた亜種特異点の調査にスタッフたちは慣れた手つきで調査を行っていた。
 新宿の件もあり、この事態を想定していたスタッフは迅速に情報を収集する。しかし、その表情は情報の量に伴って曇っていく。


「特異点の位置、比較解析でました! これは……特異点Fに99.99%相似!」
「またあの場所か」
「シバの観測結果、来ました!
 人理定礎の揺らぎ……これは!」
「どうしたの!?」
「人理定礎の揺らぎ……45%! 7つの特異点を上回る数値です!」
「ええい! 今度は太陽でも吹っ飛ぶのか! 時代はいつごろだい?」
「時代は1930……いえ、1945年です!」
「その時代は確か……終戦の日……広島市に原爆が投下された年じゃないか!?」


 明らかに無関係ではないだろう。
 だが、仮に日本が原爆投下を回避したとしても7つの人理定礎全てに匹敵するとは考えにくい。
 他に何かあるはずだとダ・ヴィンチが思案したところへマシュと藤丸立香が到着する。


 藤丸立香、マシュ・キリエライト。両名到着しました

「これはいったい……」
「亜種特異点だ。それも超がつくほどの」


 亜種特異点。魔神王がもたらした人理焼却による揺らぎから生じた新たなる特異点。
 以前は新宿を始めとした亜種特異点が発生し、これを解決したのだが……


「また発生したんですか?」
「ああ、だが妙なんだ。以前解決したはずの特異点Fが再び亜種特異点として変化した。それも時代は1945年」
「1945年といえば、日本では原子力爆弾が投下されて同年に連合国に降伏。第二次世界大戦の終戦となった年ですね?」
「ああ。だが冬木市は原爆が投下されるどころか重要な拠点もない。せいぜい港で軍艦1,2隻止めるのが関の山さ。大して重要な場所じゃない」


 ならば何故と三人が思ったその時。


『Ah.アー。マイクテスト。マイクテスト。聞こえてますかー? 人理継続機関カルデアのマスターさーん』


 不快。耳障り。聞くに堪えない。
 そうとしか表現できない声がアナウンスの出力装置からカルデア中に響いた。


『冬木……あん? 貴様(キミ)等的には特異点Fっていうの? そこから声をかけてまーす』
「本当かい?」
「逆探知できました! 亜種特異点Fからこちらへ送られてきています」
『だーかーらー。そうだって言っているだろう?』
「なんて出鱈目だ。歴史の1点からこちらを観測して干渉してくるなんて!」
『おいおい。一方的に観測(のぞき)なんてフェアじゃないだろう?
 まァ、礼儀の問題はさておき……ここは今、大変なんだ。
 どうか助けてくれないか?』

「亜種特異点からの君、一体そちらで何が起きているんだい?」
『うーん。言うより見た方が早いかな? ここの一ヶ月後を見てくれる?』


 ダ・ヴィンチちゃんがスタッフに合図するとスタッフはシバを動かす。
 すると次にはスタッフの顔から表情が消えた。


「どうした?」
「無くなっています?」

 何が?

日本列島(・・・・)が無くなっています」
「────────」


 ダ・ヴィンチちゃんまでもが絶句する。
 一体何が、どう起きたらそんなことが起きるのか。
 原爆? いいや、それだけでは日本列島消滅(オーバーキル)は不可能だ。
 そして異常はカルデアにも及ぶ。


『──────理解したね(・・・・・)?』

 え?

「先……輩?」


 マシュの驚く顔を見る。
 その瞳が凝視しているのは自分の腕。一体何がと立香は視線を自分の腕へ向けると……

 腕が……

 令呪が刻まれているはずの腕が……透明になって消えてかけている。
 既に手首の先の感覚がない。
 背筋に上がってくる悪寒。次に来る死の恐怖。血の気が引いていき───

「いけない! 立香君!」

 慌ててダ・ヴィンチちゃんが自分を捕まえて、そのままコフィンへ放りこまれた。
 冷や汗を流しながら自分を片手で軽々と押し込めるダ・ヴィンチちゃん。そこへマシュが驚きの声を上げた。


「ダ・ヴィンチさん!? 何をやっているんですか!」
「考えたまえ、マシュ。1945年で日本が消滅するんだぞ。
 つまり、ここにいる彼はどうなる?」


 マシュは少し考え、そしてはっと気付く。

「彼はこの時代にいなかったことになる。そうすれば連鎖的に人理焼却事件も解決しなかったことになる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
 分かるかい? 今、彼が存在を許されるのは歴史から外れた亜種特異点の中だけだ」
「────!」
「立香君。強引だが今から君を特異点に送る。すまないがサーヴァントは……」

「ここにいるぜ」
「ここにいますよ」
「……」

 管制室に入ってきた三騎のサーヴァント。

 復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァント───真名はアンリ・マユ
 裁定者(ルーラー)のサーヴァント───真名は天草四郎時貞
 暗殺者(アサシン)のサーヴァント───真名はエミヤ

「どうやら緊急事態のようですね」
「ならオレらもいくぜぇ。冬木ってことならアンタも来るよなぁ、抑止力さんよ?」
「御託はいい。非常事態というのならば行こう。
 だが僕の力をアテにすると碌なことにならない。所詮は暗殺者だからな」
「アンタは正面からでも十分強いだろ……」
「あなたたちはどうしてここへ?」
「まー冬木の聖杯戦争にはちょいと訳アリでね」
「まあ冬木の聖杯戦争にはちょっと縁がありましてね」

 マシュの質問に天草とアンリが同時に答えた。
 本人たちにとっても意外だったようでマシュたちから視線を外して互いを見つめある。
 そして二人共片割れを見て何か察したように笑みを浮かべた。
 片や悪の権現。その名を背負わされたただの被害者。
 片や善の求道者。奇跡と悲劇を味わって決意した者。
 全くの対極に位置する二人が口を開こうとしたところでダ・ヴィンチちゃんが横やりを入れた。

「何か意気投合しているところすまない。どうやら立香君が消える前についていけるのは君たちだけのようだ。
 是非、同行してくれ」



 アンサモンプログラム スタート。
 霊子返還を開始 します。

 レイシフト開始まで あと3、2、1……

 全行程 完了(クリア)

 アナライズ・ロスト・オーダー。
 人理補正作業(ベルトリキャスト) 検証を 開始 します。




 四人が冬木へと向かってすぐにダ・ヴィンチ達は次々と己の作業へ戻った。
 まず最優先は戦力の増援。最低でもあと2騎は送りたい。
 だが、そこへ───


『はーい、お疲れ様。じゃあ、貴様(キミ)らは大人しくしていてねー』


 突如として書き換わる情報。
 亜種特異点からの使者によるクラッキング。特異点の先から無数の悪性情報(のろい)をカルデアへと叩き込んでいる。
 無数の機能不全(エラー)が検出される。しかしカルデアとしてもこの程度の呪術には耐えうるように設計されており、自動修復によってそれらは即座に修復されていく。
 だが気付いた時には一部のシステムが使えなくなった。
 それは────マスターやサーヴァントを送り出すためのコフィン。

「コフィンのデータが全て『使用中』に変更されています」
「な、なんだって!」

 コフィンが開けられなければ当然、特異点へサーヴァントを送り込むことができない。
 つまり藤丸立香の戦力は先ほどの三騎以外のサーヴァントしかないということになる。
 ダ・ヴィンチの悔しがる顔を見て満足したというようにそれは歓喜の笑いを響かせた。

『駄目、駄目、駄目だよ。せっかくの聖杯戦争なんだ。サーヴァントとして認めるのはアレだけさ。むしろ三騎は多すぎだよ』
「そんな……助けてくれといっていたじゃありませんか!」
『救ってくれとは言ってないよ。ああ、助けて欲しかったさ。
 この戦場をもっと(おか)しく、もっと(おそろ)しくするには役者が足りない!
 あ、でもエクソシストはお断りね。あいつら面倒だから』
「至急……」

 BBという娘を連れてきてくれとマシュに言おうとしたところで、機先を制した悪魔が宝具を発動した。

『おっと、さすがにチャタル・ヒュルクはルール違反だよ──■■■■■■■■■■■■■■■■■(グランド・リセット)。』

 瞬間、粘りつく気配がカルデアを覆い尽くし、ダ・ヴィンチはド忘れした。
 今、自分はコフィンの異常を解決するために“誰か”に依頼をしようとしたはずだ。
 でも誰だったか。
 どんなスキルを持っているのだったか。
 外見はどんな風だったのか。
 そして気づいた。そのサーヴァントだけではない。私は──────私以外のサーヴァントの情報が一切わからなくなっている!?

『その忘却の呪いは(ボク)がいる限り───つまりはこの特異点が解決するまで』
「騙したのか」
『そこはむしろ感謝すべきだろう? なんてたって人理焼却を免れる可能性を与えてやったんだ。
 まァ、どうなるかは彼次第さ。仮にも特異点7つを修復したのならたかが日本列島程度救ってもらわなきゃあ困るよ。
 じゃあ、こちらも仕込みがあるのでこれにてサヨウナラ!』

 そういうと悪魔は通信を一方的に切断する。

「コフィンの修復は?」
「プログラムのロック何重にもかかってて……しかもウイルスみたいに増殖してます。
 これでは最低でも1日はかかりそうです」

 歯噛みしながらダ・ヴィンチはカルデアスを見た。
 亜種特異点の一点を見つめ、そして祈る。

「頼む……無事でいてくれよ」

 無事を祈っている者の顔すら、今のダ・ヴィンチちゃんにはわからない。



BACK TOP NEXT
定礎焼滅炉心 冬木 プロローグ(Ⅲ) 特異点トップ 次の話

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2017年05月23日 00:16