手近な国へと向かうなら任せて欲しい――そう言って道案内を買って出たセイバー、いやポーラの先導を受けながら、自分たちは一路南へと向かっていた。
道中、何度か兵士や魔物などのエネミーと遭遇する機会があったが、全て自分の指揮を受けたポーラによって撃退することに成功している。
「当然でしょう? この程度の敵に劣るようなスペックはしてないわ」
自信満々な態度に違わず、ポーラの戦闘スペックはかなり高い。
対サーヴァント戦でどうなるかはまだ未知数だが、ワイバーンや賊程度ならば遅れを取ることはないだろう。
「ところで。"七王国"について知ってるかしら?」
森の中。
襲ってきたエネミーを倒してから振り向いたポーラが、こちらに話しかけてくる。
「七王国というのは元々、ブリテン島を分割して統治し、互いに統一王《ブレトワルダ》の座を巡って争っていたアングロサクソン人たちの七つの領地のことを指すの。
今この世界を支配してるのは、ちょうど国が七つでここがブリテンの形をしてるから名を借りたってだけで、別に当時の王がそのまま復活してるわけではないけれど……一人だけ例外がいるわ」
例外。
つまり、かつてブリテンに存在した七王国に関連するサーヴァントがいる、ということか。
「そう、それがこれから行く国を率いているサーヴァントよ。
彼が君臨していた地域はノーサンブリア。けれど元々彼は、ノルウェーのバイキングの王だったの。
ノルウェーで王位を持っていたのは3年……4年? 5年? ぐらいで、王位を追われた後はブリテンのノーサンブリアに流れて領主となった」
──ふむふむ……うん?
似たような経歴のサーヴァントを、知っている……ような。
「彼についてのもっとも有名な逸話は、ノルウェーでの戴冠の際のもの。
彼は王位に就く為に、自らの兄弟親族を皆殺しにし、『血塗れの戴冠式』を行った。
その行為から、彼はこう呼ばれる」
「『血斧王』。
エイリーク・ハラルドソン……あなたには、バーサーカー、エイリーク・ブラッドアクスと言った方がいいのかしら?」
◆
「ヒャッハー! ……へぶっ!」
森は続き、進む内にいつしか山へと入り込んでいた。
途中でまたもや敵らしき兵士と遭遇したが、ポーラに容易く斬り倒されている。
改めて、こうして倒された敵の姿を見るとなるほど確かに兵士というより海賊だ。
バーサーカーに王が務まるのだろうか、とも思ったが海賊たちにとっては王様がちょっとくらい狂化していても大きな問題ではないらしい。
「とはいえ、やっぱりバーサーカーが率いてちゃ栄えるのは到底無理ね。
七王国の中では、エイリークの勢力はもっとも規模が小さいわ。逆に言えば、最初に倒すボスにはもってこいというコト」
できれば戦いで全てを済ませるのはしたくないのだが、バーサーカーを相手に話し合いというのも無理な話ではある。
第三特異点でも黒髭の配下になっていたのを差し引いても会話の余地は無かったし、やはり打ち倒すしかないか。
──終局特異点の時は、割と口調は紳士だったんだけどなあ。
どうも狂乱している様子だし、望みは薄いだろう。
今のところはそう割り切る事にして、道らしい道のない背の高い木が生い茂った山を登る。
──随分と山を登ってるけど、こっちでいいのか?
ふと、頭に湧いた疑問を聞いてみる。
バーサーカー……血斧王エイリークは海賊だ。
拠点があるならば、海の近くにあるのではないかと想像していたのだが。
「……この特異点には、海がないのよ」
──海がない?
「もちろん、陸地に果てはあるわ。けれどその先には、なにも広がっていない。
世界の最果て……虚無へと落ちていくだけよ」
ブリテン島の大地が、ぽっかりと宙に浮かんでいる……ようなものだろうか。
第六特異点でも似たような状況はあった。
あれは聖槍によるモノだったが――この特異点では、一体何が起きているというのだろう?
「そんなコトより。ほら、見えてきたわよ」
話題を切るような、先を行くポーラの言葉。
その視線と伸ばした指先に誘導されて、木々の開けた小高い丘、崖を背に聳えるソレを見た。
城――というよりは、塔、砦にも見える、石造りの建造物。
「あれがバーサーカー、血斧王エイリークの居城よ」
その外観が規模の小ささに由来するのか、あるいはバイキングという出自ゆえのモノなのかは判別し難いが……攻める側であるこちらにとっては、堅牢であるよりはありがたいか。
無論。この戦いでもっとも高い障害は、城壁に防御兵器や兵士などではなくサーヴァントなのだが。
「ここまでは見つからずに来れたけど、流石にこの距離まで近づけば兵士も寄って来るわね。
前座相手に手こずってる暇は無いわ、行くわよマスター!」
「ヒャッハァー!」
「女だァー!」
「金だァー!」
「敵だァー!」
「ああもう、五月蝿いったらありゃしない!
もっとこう、モブにしても華やかさとかないの!?」
城砦から駆け出してくる海賊たちに向けて、ポーラが愚痴を吐きながら剣を構える。
自分もその後ろに立ち、援護と指揮を飛ばすため戦場に意識を集中した。
最終更新:2017年06月11日 11:57