少女と出会い

 始めに目に入ったのは青空だった。

 ――はっ!?

 気がつけば、一面の草原に寝転がっていた。
 ひと眠り昼寝をした後のような感覚。
 今までの事態も悪夢を見ていたのではないか……などとも思ってしまうが、明らかにカルデアではない周囲の様子にそれは無いと考え直す。

 ――マーリンは?

 彼と共に彼女の部屋の扉を開いたところまでは覚えている。だが、彼の姿は周囲にはない。
 はぐれたのだろうか。
 ……彼の心配自体はするだけ無駄だとは思うが、問題は今自分を守るサーヴァントが周囲にいないことだ。
 此処が特異点であるならば、敵対的なサーヴァントやモンスターが次の瞬間にも襲いかかってきてもおかしくはない。
 早くマーリンか現地の協力的なサーヴァントと接触しなければ……、──?
 なんだろう。
 見上げた空には、何やら黒い点が、

「……そこ、退いてくれないと怪我しちゃいますよーっ!」

 ――反射的に跳び退がった。
 自分の目がおかしくなければナニカが空から落ちて来ていて、そしてそのナニカは。

「落下系ヒロイン――っ!」

 少女の姿をしていた。


   ◆


「いやあ、危ない危ない。危うく主人公を踏み潰すヒロインになっちゃうところだったわ」

 空から落ちてきた少女は、そう言って笑った。

 可憐な少女だった。
 どこのものとも知れない奇妙な服装、七色に輝く髪といった珍奇な特徴にも関わらず、間違いなく美少女として自分の目には映る。

 むろん、空中から落下してきてほとんど無傷の人間が、ただの少女であるはずもない。
 彼女はサーヴァントだ。おそらくは、この特異点にて召喚されたサーヴァントだろうが……敵意がある危険なサーヴァントには見えない。
 この状況ではじめて出会うサーヴァントとしては、とても幸運だった、と言わざるを得ないだろう。

「そうそう。私はあなたの味方ですよ、カルデアのマスターさん」

 ――カルデアを知っている?

「ええ。人理を修復した人類最後のマスター。あなたを知らないはずがないでしょう?」

 こちらを見透かしたように、くすくすと笑う少女。

 ――キミは、何者なんだ?

「あなたの味方のサーヴァント。それじゃダメかしら?
 ……なんてね。ちょっと、まだ話せない事情があるの。それ以外のコトなら、私の知っている限りは話すから。
 信じてくれる?」

 ……正直なところで言えば、目の前の少女は胡散臭い。
 自分を害するつもりなら、こんなまどろっこしい手段を使う必要はない――というのは確かだが、それを差し引いても少女の目的は掴めないし、そもそも何故空から降ってきたのか、自分を何故知っていて、そして何故都合よく特異点に来たばかりの自分の前に現れたのか、何も答えるつもりはないらしい。

 ……けれど。「信じて」と言った、その言葉だけは切実なものだった気がして。
 自分は、自然と頷いていた。

「ありがとう」

 どこか安堵したように笑う少女に、再度問いかける。

 ――キミはこちらの味方と言ったけど、この特異点の事情を把握しているのか?

「ええ」

 とはいえ話せることは少ないけれど――と少女は前置きして、

「まずはこの特異点の地理から。どうやらこの特異点は、イギリス……もっと正確に言うと、ブリテン島の形をしてるみたいね」

 イギリスのブリテン島……第四特異点は霧に包まれた倫敦だったが、それよりも広い、ということだろうか。
 単純な広さで言うなら第五の特異点はアメリカ全土だったし、他と比較するならばそこまでではないが。

「あくまで形をしてる、ってだけで、大きさも同じとは限らないみたいだけど。
 それと、この世界に倫敦は存在しないわ。年代としては五世紀末くらい、騎士や諸王の城や村がぽつぽつと建っていた時代ね。
 とはいえ、これは"特異点が五世紀末に存在する"という意味ではないわ。
 あくまでここは、"五世紀末のブリテンを模倣した"だけのモノよ」

 ……なるほど。あくまで特異点になっているのはカルデアで、ここはその核、カルデアに寄生した空間ということか。

「そういうこと。
 そして、今この特異点では、七つの勢力……"七王国"って呼ばれる連中が、互いに聖杯を巡って争っているわ」

 ――聖杯を!?

 特異点が作られているならば聖杯が絡んでいる可能性が高い……とは思っていたが、まさかここまで早くその情報を手に入れられるとは。
 そして、『聖杯を巡って争っている』とは……。

「そのままの意味よ。この特異点を作り上げ、維持するだけの力を持った聖杯を、自分の願いのために使おうと戦争を起こしている。
 七つの国それぞれを、一騎のサーヴァントが率いているわ」

 七つの国に、一騎のサーヴァント……つまり、七騎のサーヴァントが争っているということか。
 特別多いというわけではないが、現状を考えると七騎すべてを倒して回るのは戦力的に厳しい。
 どこかの勢力と協力できないだろうか?

「望みは薄いと思うわよ? どのサーヴァントも自分以外のサーヴァントには敵対的。
 特にランサー。あいつは聖杯を守護する自分の役割を最優先に考えてて、それ以外の行動は行わないけど、逆に言えば自分以外のサーヴァントやカルデアから来たマスターとは絶対に相容れないでしょうね」

 ――聖杯を守る?

 これまでの特異点も、聖杯はサーヴァントが所持していた。
 しかし、聖杯によって作られる特異点で何かを行うならばともかく、聖杯を守ること自体を目的としたサーヴァントというのは見たことがなかったように思うのだが……。
 理由がわからない。そもそも、この特異点でなにが起きて"彼女"が消滅したのかもわからない。

 いくら考えても新たな情報が入らない以上それは置いておくにしても、聖杯を所持しているのならばそのランサーが今回の事件の黒幕なのだろうか。

「それはわからないわ。
 ……とはいえ、聖杯を持ってるだけあってこの特異点のサーヴァントの中でも強さは段違いよ。
 戦うのは物語の終盤も終盤、ラスボスと考えた方がいいのは確かね」

 他の国を回ってから挑んだ方がいい、ということか。
 少女の話では協力は望めないらしいが、新たな情報や仲間が見つかる可能性もある。

 ……さて。
 概ねの話は聞いたし、そろそろ出発するべきだろう。
 ランサーの国を最後にするにしても、他にも六つの国がある以上どれから巡るか、というのはあまり考えても仕方ない。
 まずは一番手近な国から接触してみよう。

「オーケー、国に近付いたらまた知ってることを教えるわ。それじゃ移動しましょうか――、と」

 忘れてた、と少女はこちらに向き直り、

「そういえば、クラスを名乗るのがまだだったわね。
 サーヴァント・セイバー。あとは……"ポーラ"と呼んでも構わないわ。よろしくね」

 そう言って、魅力的な笑顔を見せた。




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最終更新:2017年06月11日 11:58