(画面上から下へ、勢いよく水流が流れて埋め尽くす)
(徐々に増す飛沫と流水速度)
(激しい水の音で、BGMもほとんど聞こえない)
???
「ふざ……け……」
???
「ふざけ……ないで……ッ!!」
???
「なんなの……なんなのよ……」
???
「どうしてまた! また、私たちを引き離すの!」
(画面を埋め尽くす水流はうねり、言葉を発する何者かの感情を表すかのように動く)
(BGMは未だ聞こえないが、テレビの砂嵐にも似た水流の嵐音が焦燥感を掻き立てる)
???
「星を編んで、いい子にしてた!! お父様の言うことだってちゃんと聞いた!!」
???
「お祈りだってした! お供えだってして! 願いつづけた、想い続けた! また、会いたいって!! いつまでも一緒にいたいって!」
???
「なのに……なんでまた! あなたはそちら側にいるのよ!!」
???
「どうして、どうして! 天の川は! 私たちを阻むの!?」
(雷の音)
(叫ぶ何者かを阻もうと、水流は速度をさらに上げる)
???
「返せ!」
???
「返しなさい――」
???
「おまえの担いでいるその者は。私の――私の! 私の、愛しき、伴侶なのよ――!」
???
「私に、抱かせろ! 触れさせろ! 縫い留めさせろ! 『七ツの針で星を織る(アステリズム・コーディネイト)』!!」
(瞬間、糸のような鋭いエフェクトが画面を横に両断する)
(水は断たれ、画面は晴れる)
(灰色の豪雨の背景に、強い雨音)
(画面上には叫びの主――越流のランサーと、<竜殺し>の英雄、ジークフリートの姿があった)
ジークフリート
「……」
ジークフリート
「成る程。星を縫うほどの巨大な針。その針そのものが、君の槍ということか」
ジークフリート
「強い想いが篭った一撃だ。間近で受けていれば、俺とて完全には捌き切れないだろう」
越流のランサー
「はぁ……はぁ……ッ……なんで……ッ!」
越流のランサー
「届かなかった……いえ……弾かれた……?」
ジークフリート
「……確かに刺突には悪い覚えがあるが、生憎それは背後からの話だ」
ジークフリート
「こうして川岸を挟んで向かい合っている限り、俺に負ける要素はない。君では、俺には勝てない」
越流のランサー
「……!!」
ジークフリート
「すまない。君の願いを、叶えてやりたいと言う思いが無いわけではないが」
ジークフリート
「どうしても君とこの彼を合わせることは出来ない――そういう、オーダーだ。今回の逢瀬は、諦めてほしい」
(画面に越流のライダーが現れる。気絶している)
越流のライダー
「…………」
越流のランサー
「……あ、あなた……」
越流のライダー
「…………」
越流のランサー
「返事をしてよ……ッ……あなたッ!!」
(にわかに、雨の音が大きくなる)
(背景の雨の線が二重に重なり、三重に重なり、キャラクター絵の前面まで躍り出てくる)
(そしてジークフリートの隣に、雨模様で出来た、竜が生まれる)
ジークフリート
「手荒な真似ばかりして、本当に、すまない。だが――『月の船』は、出してはいけない。それはこの川を越えてしまう」
ジークフリート
「この天の竜の川を、飼い慣らさせないこと」
ジークフリート
「それが、今回のこの地における――俺たちの正義だ」
(GYAAAAAA!)
(竜種の鳴き声が雷まじりに閃く)
(画面いっぱいに水の暴竜――越流のバーサーカーが現れる)
越流のバーサーカー
「――――――――◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」
ジークフリート
「出てきてしまったか……」
ジークフリート
「早く、この場から離れるのをお勧めする。……今、この川は<狂化>されている。全てを押し流し、忘却の彼方へと押しやる暴竜」
ジークフリート
「君がそれに飲み込まれるのは、俺の本意ではない――助けることもできない」
ジークフリート
「水流で出来た竜など、<竜殺し>を以ってしても斬れるかどうか――――」
越流のランサー
「うるさいわよ!」
越流のランサー
「ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃと、何なの!! 叶えたいのはやまやまだとか、本意ではないとか、悲劇のヒーローぶって!」
越流のランサー
「私から望みを奪っておいて、おまえはそれを正義と呼ぶの?」
越流のランサー
「なら――おまえは私の敵だ」
ジークフリート
「……そうか」
ジークフリート
「なら君は。その意思も、この彼への想いも。流れる水の彼方へ忘れ去ることになる」
越流のランサー
「忘れる……?」
越流のランサー
「忘れる……ものか! 私はおまえへの憎悪を、しっかり心に縫い付けたわ。切られないように、星止めで!」
越流のランサー
「この心の臓に刻んだ糸は抜け落ちない! 絶対におまえを恨み続ける! おまえを地の底に縫い付けて、地面の味を教えてやる!」
越流のバーサーカー
「――――――――◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」
(画面が揺れる)
(越流のバーサーカーが再び吠え、画面の前面へと飛び出してくる!)
(一直線に向かってくる流水に襲われし越流のランサーは、目を見開いて絶句した)
(しかしそのあと――不敵に哄笑した)
(自らの運命を、嘲笑うかのように、笑った)
越流のランサー
「あははは!」
越流のランサー
「阻めばいいわ! 好きなだけ阻めばいい! 幾度でも、幾年でも! そんなものには慣れている!」
越流のランサー
「私は退かない。冷めない。諦めない。愛しき想いの炎熱は、障害を薪にして燃え上がるのだから」
越流のランサー
「たとえ相手が災害だろうと、私のやることは変わらない――」
(うっとりとした表情で)
越流のランサー
「全てを殺してでも必ず会いに行くわ、――――」
(濁流の奏でる激音に、最後の言葉は聞き取れなかった)
(再び画面は水流で埋め尽くされた)
(見えない画面の向こうで、糸切るような鋭い音が幾度も、幾度も発生しては)
(徐々にその勢いを弱め、小さくなり、消えていった)
最終更新:2017年07月07日 23:50