いざ聖地へ(2)

 少女たちはコハラを目指す。
 砂漠や渓谷を通るほどの険しい道が続く。
 だが、夜空を見上げれば星がよく見える。

 その夜空は今まで見てきたものとは大差なく変わらなかった。

「大丈夫かい?」
「あー……実のところ楽勝です」
「それはとても頼もしいね」

 ひょいひょいと道なき道を登っていく。
 今のところ足取りはまだ軽やか。

(身体は訛ってない……自室で籠ってる間も筋トレしといてよかった)

 日々の鍛錬は大事。
 魔術の才能もないならば、足りないところを別のところで補えばいい。 

「そりゃ、大将は人理修復したマスターなんだぜ?」
『本当色々ありましたからね……』
「長い話になるなら、腰を落ち着けてゆっくりと聴いてみたいものだね。
 ……尤も僕にはそんな時間はないようだから、実に…………残念だ」

⇒「そうですね、いつか機会があるならば……」
「詳しくは現在好評配信中の『Fate/Grand Order』をダウンロードすれば一発です!」

「僕をカルデアに召喚するってことかな?」

「カルデアには頼光さんもいますけど大丈夫ですか?」
⇒「カルデアには酒吞童子と茨木童子もいますけど大丈夫ですか?」

「あの酒吞童子と茨木童子が、かい?」
「はい、碓井さんのご存知のあの酒吞童子と茨木童子です」
「それは……うむ……ふむ……なるほどね」

 今までに見たことのない表情。
 懐かしき日々を思い出したかのように。

「大丈夫なのかい。そのカルデアの治安とか色々……?」
『はい、色々ありますが大丈夫です!』
「まあ、サーヴァントも色々いますからね!」
「そうか……なら、いいか。
 ……少し……先行した二人を見に行ってくる……少々騒がしい気もするしね」
「あー……」

 少し先で光が見える。
 藤丸がよく見覚えがある聖剣の光だ。
 それを伝えようとしたがもうすでに貞光は駆け出して行った。

「碓井さんって結構世話焼くタイプ?」
「そうだな、貞光サンは四天王最古參だかんなぁ……頼光の大将やオレをずっと近くで見続けていた、あん時だって……」
「あの時?」
「……いや、なんでもねぇわ、今のは忘れてくれや」
「ゴールデンが話したくないって言うならそうするよ」

 きっと相当のことなんだろう。
 ここまで喋ろうとしないのは何かありそうだ。


 ◇  ◇  ◇


 聖剣の光がドッカンドッカンぶっぱされる。
 その爆心地の中心。

「やぁッ!」
「おいしょーッ!」

 先を突っ走る二人。
 何故か沢山いるエネミーたち(ワイバーン)を蹴散らしていく。

(実践で経験を積めるのはいいのですが……
 あのアサシンが言う通りに確かにカメちゃんの戦い方は見ていて危うい所がありますね)

 百戦錬磨のヒロインXが冷静に見れば分かる。
 無茶苦茶な姿勢からの出鱈目な突撃。
 それを連続でほとんどスキなく繰り返し続けている。
 はたから見れば異常なほどの変則的な動き。
 だが、裏を返せばそれだけである。
 基本的な部分がまだまだ発展途上というより未完成。

(久々ですが……なんだか師匠風を吹かせたくなってきました)

 いつだったかのリリィの時のように。
 どこかだったかの赤い髪の少年の時のように。

 見ていて身体がうずいてきた。 
 戦いの手本になるならばいいが……。

 そう、思いつつも聖剣を握りしめ、先陣を切る。

(なるほど、Xさんのあの機動力は魔力放出して、それを推進力に変えているんだ。
 ……よし、アタシも!)

 槍を構えて、地面を力強く蹴る。
 見様見真似の魔力放出でカメハメハの身体は更に加速する。

「ぐっ……おうりゃぁーッ!!!」

 今まで身体に受けたことのないGが全身に掛かる。
 それを踏ん張って耐え、槍を両手でしっかりと握り、ワイバーンに向かって振るう。
 ワイバーンは両断され、竜の牙をぽとりと落とした。

「……ッ、ゼェッ、ハァッ……ハァハァッ……」

 だが、呼吸が乱れまくる。
 慣れないことをいきなりした。

 アクセルをいきなり全力で踏み込んだようなものだ。
 試運転もなしに、ブレーキも付いているのかも判らない状態で。 

 握力が上手く入らない。
 五体がバラバラになりそうになった。
 五臓六腑の全てが軋むような感覚に陥る。

 それでも心臓は全身に強く血液を巡らす。
 息を大きく吸い、大きく吐き出す。

「カメちゃん、大丈夫ですか?」
「……な、んとか……!」
「あまり無理をしない方がいいですね。
 私の戦い方はどうやらカメちゃんには合わないようですし」
「……………はい、ですが、一つ分かりました。
 今のを、次はもう少し抑えてやれば……やれます!!」

 再びワイバーンの群れに突撃していく。
 アサシンから聞いたこの怪物を放ったのはほぼ間違いなく連合軍のサーヴァント。
 ならば……

「ここはアタシの国だから……」

 ――例え、違う世界のハワイだったとしても……。

 ――ここはハワイ。

 ――だから。

 ――守るんだ。

 ――護るんだ。

 ――あの人の代わりに。

 ――戦って。

 ――闘って。


「国を守るために戦わずして――何が王なんですかッ!」
「…………ッ!」

 あまりにも真っすぐすぎる。
 それはヒロインXが思っている一人の王としては正しい生き方だ。
 だが、人としては…………。

「それを僕らが肯定や否定したところで何も変わりはしないだろうね」
「アサシン……勝手に人の心を読まないでください」
「? 読心などしてないよ、というかできないよ。ただ僕は思ったことを口にしただけさ。
 それとさっさと止めた方がいい、あれじゃ彼女の身体が持たないよ」
「分かってます、カメちゃんストーップ!!」
「はいっ!」


 ◇  ◇  ◇


 その後、しばらく道なき道を進んだ。
 三人がもうすぐコハラはもうすぐのところだった。

 その前に『そいつら』はいた。


「フハハハハハハハッ!!! やはり、あのキャスターの言った通りだったなァッ!!!
 北西の街付近を張っていれば必ずやってくるッ!!
 だが!! セイバーよッ!! キャスターはどこに行ったッ!!!」
「うるせぇなッ!!! ライダー!! 先客の相手が優先だ!! 馬鹿野郎!!!」
「なっ!!! この吾輩が馬鹿野郎だと!!?? 誰に向かってそんな口を聞いているッ!!!
 吾輩はフランスの大皇帝にして大英雄『ナポレオン・ボナパルト』だぞッ!!!!!」
「知るか!!! フランスなんて国!!!」

 両方ともかなり五月蠅い。
 だが、ついに出会ってしまった。

 アサシン・碓井貞光と……

「話を聞いた通りだったが、セイバーは君……『綱』、君だったか……」
「ああ!? なんで……俺の名前を……いや、アンタは碓井さんか!!」

 セイバー・『渡辺綱(わたなべ の つな)』の頼光四天王の二人が。

「なんでこんなところにアンタがいやがる!!」
「アサシンのサーヴァントだからね」
「……ッ、なんでアンタがランサーじゃねぇんだよ!!!」
「ランサーはアタシだろうがッ!!」

 マシンガンの掃射と共に吶喊する。
 だが、尽くを防がれる。

「あれは見たところ完全に暗黒面(ダークサイド)に堕ちてますね、言わばオルタ化……」
「なるほど、渡辺綱[オルタ]ね。
 まあ、ランサーちゃんから話は聞いてたし、大体は察してたが。
 こうなっていることは『山の声』には聞こえなかったけどね」
「……で、アンタも俺の相手になってくれんのか?
 まっ、どちらにしろ、最期の一人になるまで戦うのが、聖杯戦争だろ?」
「いやいや、綱。聖杯戦争だろうとなんだろうと四天王同士の喧嘩はご法度だよ。
 こんなことを頼光様が知ったら、さぞ、悲しm「それがどうかしたか?」」

 完全に間合いを詰められている。
 縮地か何か使ったのか、分からないがとんでもないスピード。

 金属同士が激しくぶつかり合う音が周囲に響いた。

「危ないところでしたね、いや、そんなことよりも私を無視するとはいい度胸ですね」
「テメェ、何者だッ! 一番謎だってんだッ!!!」
「サーヴァント界最強のセイバー、ヒロインX」

 聖剣が日本刀を受け止めていた。

「……私以外のセイバー、滅ぼすべしッ!」
「テメェ、どこのサーヴァントだ?」
「カルデアだッ!」

 聖剣が一閃するものの、素早くバックステップで躱す。
 その地点目掛けていた突撃してきたカメハメハの槍も躱す。

「家族の仇か?」
「そうだ……」
「一対一で正々堂々と死合う気はねぇみてぇだな」
「勝てばいい!!」
「カカッ! やっぱ面白れぇわ、アンタ!!」

 口角を吊り上げて綱は笑う。
 そんな綱に貞光は問いかける。

「『髭切』が赤黒く染まっているが、『血吸』はこっちの刀ではなかったはずだが?」
「俺だってこっちじゃなくてあっちの刀使いたかったが、無いもん強請っても仕方ねぇ。
 そんで何故か札術も使かねぇし、まっ、三対一だろうと構わねぇよ、刀が使えれりゃ!」
「……いや、こっちは『四』だ、いや、僕と彼は手を出さないから、やはり『二』か」
「あァッ!?」

「…………オウラァァァァァッ!!」

 大声と共に男と鉞が上空から降って来た。
 ゴールデンな男が!!

「テメェ、坂田金時かァッ!!」
「おうともッ! さぁ土俵は作ってやったぜッ!!」

 その怪力無双が地面を叩き壊した。
 まるで境界線のようにその空間は切り離された。

「決着をつけましょう、セイバー」
「ああ、いいぜ、狩る順番は変わんねぇ。
 狩るのは俺で、狩られるのはテメェらだ!」
「それはこちらの台詞です」

 交わるは近代大型槍と聖剣と妖刀。

 今が命の張り所。

 ◇  ◇  ◇


『それにしても、キャスターの霊基反応がありませんでしたね』
「ねぇ、マシュ、本当にセイバーとライダーだけだったんだよね?」
『はい……その二騎だけでしたね』

 この場に残るはライダーだけだったはずだった。

 その時だった。

 三発の銃声がその場に響いた。

「ッ!? 今のは……」
『先輩、この反応……サーヴァントです!』
「これは完全に殺気と気配を消していたね」
「アサシンがもう一騎ってことか?」



「彼女――ライダーの宝具は『不可能を可能にする』力そのものでしたからね。
 このような無茶苦茶な舞台も全て彼女が仕組んだのかもしれませんね……まあ、今はそんなことはどうでもいいでしょう。
 彼女には悪いことをしたと思いましたが、この状況を利用しない手はないでしょう」


 藤丸たち三人の前には190㎝ほどの軍服の男。
 その男の行動は大胆不敵言うほかない。

「それに彼女、既に聖杯を持ってましたからね、殺して奪いました」
「マジですか?」
「ええ、マジです」

 その男の手には藤丸も見慣れた金色の杯。

「貴方がキャスターですか?」
『いえ、先輩、この反応は……』
「キャスターと言い続けたのが幸いでしたね、ええ、私は『アサシン』ですよ。
 魔術などマスターとして参加した別世界の亜種聖杯戦争で齧った程度、ええ、その程度ですよ」

 そして、米軍の軍服を脱ぎ捨てた。
 その下には……ナチスドイツの軍服。

⇒「それはナチスドイツの軍服!?」
「ゲェーッ!? オーバーボディ!?」

「ええ。『ヨーロッパで最も危険な男』といえばわかる人には分かるでしょうね」
「そのちょび髭にナチスドイツの軍服……まさか、あのアドルフ・ヒト……」
「――――いえ、『オットー・スコルツェニー』と言えば分かるでしょうね」

 この時、藤丸は思った「誰だ? そいつ……」と。



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いざ聖地へ(1) 自由大国異伝"布哇" BLACK SHOUT

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最終更新:2017年07月17日 01:13