――――――――男は、剣を抜いたのだ。
黄金に輝く、選定の剣を。
岩に突き刺さった、選定の剣を。
抜いた者は王になるという、選定の剣を。
男はそれを抜き放って、真実の王になったのだ。
異を唱える者は、全て選定の剣にて切り捨てた。
黄金の輝き放つ剣は、竜の息吹にて全てを切り払った。
一度掲げれば、松明百本を束ねたものを超える輝きを放つもの。
一度振えば、千人もの兵士を須らく切り捨ててしまうもの。
それがこの、選定の剣だ。
そうだ。そうなのだ。そうでなくてはならないのだ。
だからこの剣は確かに――――――――――――『選定の剣(エクスカリバー)』に他ならないのだ。
◆ ◆ ◆
――――――――男は、神となったのだ。
山野におわす、偉大な神に。
河川と湖におわします、偉大な神に。
雷神との相撲に敗れてしまった、偉大な神に。
男はその血筋を以て、神の領域へ至ったのだ。
加速度的に擦り切れていく人間性をその代償として。
その姿を恐れて離れていく家臣たちすら代償として。
かつて古来より、山と川との神性を担ったもの。
かつて古来より、そそり立つ柱を象徴とするもの。
それがこの、神たる身だ。
そうだ。そうなのだ。そうでなくてはならないのだ。
だからこの身は確かに――――――――――――『偉大な神(ミジャクジ)』に他ならないのだ。
◆ ◆ ◆
――――――――男は、愛に狂ったのだ。
身を焦がすような、狂気の愛に。
無垢を慈しみ愛し尽くす、狂気の愛に。
あまりに多くの犠牲者を生み出した、狂気の愛に。
男はどうしようもなく、愛に狂ったのだ。
一目見た瞬間から、あまりに度し難い程に。
狂っていたとしても、あまりに度し難い程に。
例えその愛が、数多の犠牲者の上に成り立っていても。
例えその愛が、見返りの無い片道のものであっても。
それがこの、狂おしき愛だ。
そうだ。そうなのだ。そうでなくてはならないのだ。
だからこの愛は確かに――――――――――――『狂おしき愛(エリザベート)』に他ならないのだ。
◆ ◆ ◆
「――――――――かくて、三首竜王は脈動する」
「この事件、概ね必要なピースは見えている。が……」
「……そう、君だミスター・リツカ」
「この事件を解決するために必要な最後のピース……もたもたしていると、この島がウロボロスに呑まれてしまうぞ」
最終更新:2017年10月19日 04:34