零階、ワイルド・ワード・ワールド

言葉とはなんだろう。

不思議なものでそれは言葉を使えば使うほどに分からなくなっていく。
なぜならば、それほどに言葉というものは多岐に多種に多様なのだ。多分。

カルデアでは国籍人種──そして生きていた年代──問わず様々な人材、霊材、素材が集まる。
そこでは当然、様々な言語が飛び交っていて、まあ、僕みたいな何時何時何処何処の何者でもないような一般人からすると、テレビをデタラメにザッピングするかのごとく脳に入らない喧騒が日々繰り広げられている。

勿論優秀な彼あるいは彼女は、僕との会話で不自由を感じさせない程──いやさ、だいたいにおいて僕が不勉強を嘆くほどに──日本語を使える。微妙なニュアンスの違いや、僕渾身の小粋なジョークを(不評のが多いが)受け止め、返してくれる。

レイシフトの際は、少々魔術で身体を弄くられ、コミュニケーションを行う。当たり前のことかもしれないが、例えば日本だって数百年も遡ればもう今の日本語は通じない。いや、そんな極端な事例を出すまでもなく、地域ごとにだって訛りという差異が生まれる。それを地域も時代も何処からともなく飛び交うとなれば。

言葉は変化し続ける。増築され、削減され、反転され、曲解され、異口され、同音され、開拓され、合成され、剥離され、混線され、統一され、吟われ、記され、語られ、紡いで、綴られ、失われる。

言葉の実態なんて、正体なんて、わからず掴み所のない、幽霊のようなものだ。いずれ失われた言葉が英霊として召喚される、なんてこともあるかもしれない。

僕の言葉に対する想いはそんなところだ。

言葉を扱う以上、言葉に縛られなければ、僕たちは行動できない。

それはどんな緊急事態であろうと、僕たちは言葉を用いて対処しないといけない。

「それで、マシュ。もう一度、説明をお願いできる?」

青い顔をしたマシュに──これは色彩表現ではなく比喩表現だ──狼狽える彼女の言葉を僕は聞き逃さないようにする。

『まくいにううことり、るつーるにらさやはやなやのにつけすえすそくうのほにぬか!』

文字通り、言葉を失うとはこういうことなのか。

遠くそびえ立つ塔を見上げながら、僕はカルデアの優秀なスタッフにおけるバックアップが、ほとんど期待できないことを言外に感じ取った。





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最終更新:2017年11月19日 23:26