その刃、誰がために

 ◇


 例えば―――それは“生きるための戦争”


 ◇


 戦火が上がる。
 轟々と燃え上がった火、
 その火は誰も止めることは出来なかった。


「親父殿ぉぉぉぉッ!!!」 


 大型の槍を持った少女は叫ぶ。
 その赤いアロハシャツのような上着は戦場にはとても似合わない。
 その黒の長髪と褐色の肌はやはり戦場にはとても似合わない。
 だが、その蒼の眼は戦場によく似合っていた。

 その少女の目の前で、この国の祖になるはずだった男が今、赤黒い日本刀を持った武者の鎧を纏った男に討ち取られた。

「貴様、ランサーのサーヴァントか?」
「ああ、そうだッ!」
「そうかい……俺は生憎だが、子供と女は鬼以外に興味はない。
 だが、相手がサーヴァントならば……戦って殺しても構わんな?」
「お前……ッ!」
「おっと、そんな怖い顔で睨みなさんなって……すぐに喰っちまいたくなっちまうじゃねぇかッ!!」

 咆哮にも似た男の声が響く。
 二騎のサーヴァントの開戦の合図はその声で十分だった。 

「行くぞ、魔剣遣いのバーサーカーッ!!」
「……俺はセイバーだ、誰が何と言おうとな」

 風に靡くような緩やかな槍捌き。
 まるで演舞のような華麗な舞のような褐色のランサーの動き。

 一方の武者のセイバーは稲妻のように一直線に日本刀を振るう。
 竹を真っ二つに、いや、まともに受ければ人体すらを真っ二つに出来てしまうくらい苛烈な一撃を放ち続ける。

「面白れぇ動きすんじゃねぇか!! 気に入ったぜ!!」
「黙れッ! この外道ッ!!」
「こちとらそういう風に召喚されてっからな……外道で上等ッ!」
「!?」

 赤黒い日本刀を上に投げて空手になった状態で褐色のランサーをぶん殴った。
 男女平等男尊女卑無しパンチだ。

「さぁ、続けようじゃねぇかッ!!」

 上空から降って来た日本刀の柄をしっかりと掴み、刃をランサーに向ける。
 その時である。

「セイバーの大将撤退だ」
「あァッ!? 何言ってやがる、アーチャー!?」
「私はキャスターですよ? 作戦の大半は終了しました……この島で戦うのは終わりです」

 軍服を着た髭の紳士のようなキャスターが突如現れた。
 そして、セイバーに作戦の成功を伝えて撤退を進言する。

「チッ……分かったぜ……」

 軽く舌打ちした直後に納得した。
 そして、セイバーは日本刀を鞘に納めた。

「ああ、それとな」
「はい……なんでしょ……」

 セイバーの鉄拳がキャスターの顔面目掛けて飛んできたが、キャスターはバックステップで躱した。

「俺を大将なんて二度と呼ぶんじゃねぇ……それとやっぱテメェ、キャスターじゃねぇだろ?」
「いいえ、こう見えてもれっきとしたキャスターです……魔術は使えませんがね」
「まあいいわ、機会があったらまた戦おうじゃねぇか、ランサーの嬢ちゃんよぉ」


「くっ、待てッ! まだ勝負は……」


「終わりましたよ」

 軍服のキャスターは褐色のランサーに向けて、言葉を手向ける。



「……ええ、終わりましたよ。この国の王と共にね」


 ◇


 これはどこにも繋がらない物語。
 南国の小さな島々で起こったどこにも繋がらない『異伝』。

 青の海には赤き血を。
 熱き太陽には冷たい月の光を。

 人も、英雄も、来訪者も、また今日を進んでいく。


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最終更新:2017年05月17日 07:33