六階、ジャンク・ジャンクション・バックボーン

撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破撃破。

網剪、濡女、うわん、貉、以津真天、古山茶の霊、青鷺火、比々、海座頭、目競、毛羽毛現、屛風闚、水虎、逆柱、百々爺、元興寺、おとろし、火間蟲入道、硯の魂、鐙口、倩兮女、野衾、片輪車、火消婆、山精、天井下、ひょうすべ、小雨坊、油赤子、岸涯小僧、提灯火、加牟波理入道、否哉、機尋。

ときに宝具を真正面から打ち破り、ときに出させずして、悪戦苦闘を快勝し、僕達はこの四日間で三十四騎の英霊を撃破した。

三日目、了。
四日目、了。
五日目、了。
六日目、了。

「つまり、敵の作戦は我々の疲弊だ。」
ここまで合計四十九騎を弱体化し、退けてきた鳥山石燕は七日目の朝──とはいってもこれは正確な時間ではなく、僕の休憩した回数と言ったほうがいい。この城に窓はない──作戦会議の場でこの数日間のまとめを出した。
「正確には(マスター)の疲弊だけどね。」
食べ物(ハンバーガー)飲み物(コーラ)があるだけマシだ。とは反論したかったが、しかし事実として、僕は弱りきっている。いや、地の弱さが露呈していると言っていい。
泣き言を口にするほど弱ってはいないが、思いつくほどには摩耗している。
なにせ終りが見えない、こうして休まず上る螺旋階段は区切られているとはいえ、それを幾度も幾度も目にすると。
「使い捨てるかのような幻霊の大量投入、こうも割り切られると弱るね、どうも。ベストは向こうも戦力の消耗を嫌い、慎重に一騎ずつこちらを試し、考えてもらうというのがよかったが。最初の十四騎が失敗したなら時間を問わずの逐次投入。するとこちらは休む暇がない。」
「耐えてね(マスター)、あなたが口もきけなくなると弱る。」
文字通り『語られるライダー』におんぶに抱っこされ、塔を登っているこの状況で、そんな恥ずかしい真似できるわけがない。いや、もう十分に恥ずかしいことはそうなのだが。それを十二分にしてたまるか。

「大丈夫だよ、なんだったらこの快適で柔らかな乗り心地を実況できるほどに余裕はあるからね。」
「うるさい。」

なぜだ。

────

あたり一面のゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ。
たどり着いた次の階層はまったくもって異質、異物、異臭。
「よかったわね(マスター)、代わり映えのない毎日にさよならよ。」
(ひゃな)が曲がりそうだ、霊基に染み付かないだろうなこの臭い。」
学校の校庭なんかよりよほど広いこのスペースを埋め尽くすほどのゴミ。無秩序に、塔のように積み重ねられたそれらを前にして。
「これ、もしかして掻き分けていかないと駄目なのかい?」
「私が切っても、よりここが汚くなるだけだと思うが。」
「……嫌だなぁ。」
泣き言じゃない、これは弱音、ぐうとかぎゃふんとか、そういうやつだ。
ともかく。
「鳥山石燕、このゴミから推測できる妖怪は?」
「そんなの、一体しかいない。」
目に見える範囲にあるのは、生ゴミ、壊れたおもちゃ、お菓子の空き袋、古本。どれもこれもそこかしくも、現代のものに他ならない。
塵塚怪王(ちりづかかいおう)だ。ゴミの王様。塵芥を統べるもの。」
そう言いながら、墨で描いた腕を紙から伸ばし、彼女はぽいぽいゴミを掻き分けていく。
僕の分もやってくれないだろうか。


────

「ちょっと待ってろよ、今イイところなんだ。なかなか面白い、捨て置くには惜しい。」
掻き分け進んだその先、開けた空間の真ん中で、小さい毛布を何枚か重ねた上で寝転がり、そいつはDSを遊んでいた、一番古いのだ。
男──趣味の悪いロングコート──上半身をさらけ出している──似合っているとは言えないダメージジーンズ──背伸びしすぎた革靴。
「ああ、オレは『ゴミ共を導くアーチャー』、『塵塚怪王』だ。つまり、このゲームでいうとこのボスだな。」

 真名判明
ゴミ共を導くアーチャー 真名 塵塚怪王

「ならキミが、この特異点の元凶ってことかい? そこまで力ある妖怪じゃないと、記述しているが。」
「記憶しているじゃなくて、記述しているってか、面白い。が、焦るなよ、鳥山石燕。オレは中ボスさ。火車が殺られて、残ったのはゴミ共と、ほんの一握りのそれ以外。その三騎でゴミを上手く使ってお前らを殺そうとしたのよ。オレともう一騎が四十八騎ずつ。そいつらがどこにいるのかは知らんが、残りの一騎は最上階で待ってるぜ。」
塵塚怪王は、そんな情報はどうでもいいとばかりに、まるでそのゲームの方が僕たちよりもずっと価値があるかのようにプレイしている。
「あ、ミスった。ここだけで五日かかってるぞ、なんか裏技とかあるんじゃねぇのか? 攻略本もあるといいんだが。」
五日、つまり、僕たちを殺すことよりも、優先していたのか。
「適当に殺れば、死ぬって訳でもないらしい。なるほど、カルデアのマスターと同じだ。」
「は、つまり作戦でも何でも無く、ただ本当に使い捨てていただけってこと。」
「そう怒るなよ『語られるライダー』、別に優先順位をつけていただけだ。たとえ何騎殺られようと、オレたちの戦力が徹底的に変わることはない。それだけ弱体化しているゴミはゴミってことだ。究極的に言えばオレさえいれば十分を超えて百分いやさ百二十分なんだよ。ここまでお前らが来なかったらそれで終わり、来ればオレが殺す。結果が変わらないなら、楽な方、楽しい方をとるだろう?」
「うるさい。」
先手必勝、鋏が、塵塚怪王の首を。
「さて、ゴミ共、仕事の時間だ──宝具展開。」

忘却録・廃棄譚(ぼうきゃくろく・はいきたん)

鋏を吹き飛ばし、下からゴミが溢れ出る。ゴミが生きている。ゴミが形作られていく。これは竜だ。

「世界中全ての財宝を手に入れたヤツがどれだけ偉いか、そんなことは分からないが、もしも、何も棄てずに生きたヤツがいるならオレはそいつを尊敬する。マスターと呼んでもいい。なぜならばそんなことは不可能だからだ、生きることは何かを得ることではない、捨てること。覚えることではない、忘れること。生きることではない、死に損ねること。生きれば生きれば生きるほど、そいつは何かを失い続けてきたはずだ。オレの宝具はそいつが棄てたすべてをそいつへ回帰させる。まあ、そんな質量食らったら、一発でお陀仏だろうがね。」
『語られるライダー』の背にしがみつく。あのDS、道理で見覚えがあると思ったら僕のじゃないか!
ドラゴンから逃げれど逃げれど逃げれど周りはゴミ! ゴミ! ゴミ! すべてが竜の牙となり爪となり尾となり、僕へ向かってくる。
「切れども切れども切れどもキリがない。ゴミは切ってもゴミってことね。鳥山石燕!」
「こっちも手一杯! 絵師が紙に殺されるなんて、冗談が過ぎる!」
見ればいつの間にか紙でできた二体目の竜が出現していた。書き損じということか。
おおん、と、雄叫びをあげるゴミの竜。いくつもの音声が重なったようなその聞き取りづらい声は、CDか、それとも容量がないから削除した曲か、あるいはそのどちらともか。棄てたものなら区別なく、あれは内包している。
「ガンドは?」
「やったけど駄目だ、多分あの中のどれか一つは無力化したよ。」
十数年のゴミの中、その塵一つを。
「しかし、二体だけか。『語られるライダー』、お前はなんだ? もしかしてマスターと言うべきなのかな、オレは。」
「だから、うるさい。私に語りかけるな!」
壁を走り、跳ぶ、噴出したゴミを勢いそのまま足場として利用、反転、跳躍、天井に着地。
「全速力よ。」
身の丈以上の鋏を取り出し、そのまま直下の塵塚怪王へ突撃する。
「けどよ、お前の生前、いかに棄てない英霊だったとして。この特異点で、棄てていないってのは嘘だよな。」

轟々業火死屍送々(ゴーゴーごうかししそうそう)

「火車ッ!?」
「お前はそいつを『切り捨てた』。」
ゴミの床から這い出て、こちらに飛びかかる火車、食われたんじゃなかったのかよ。
しかし火車の宝具は『語られるライダー』には効かない。ならば狙いは。
「こっちも本体狙いだ。」
僕へと手を伸ばす前に瞬時に切りつけられる火車。けれどその肉片はゴミにまみれて再生する。ゴミは切ってもゴミ。
そしておそらくまだ多数、これまでに切り捨てた、幻霊百鬼夜行がこのゴミの下で蠢いているのだ。僕を狙って。
「だから同じなんだよ、結局ゴミ共が死のうとも、こうして再利用できるんだ。結果が同じなら、楽な方、楽しい方を選ぶ。じゃあ、オレは今度こそボスをクリアするからよ。リトライできないお前らとは、ここでお別れだ。」
立ちふさがる二体の竜、這い出る幻霊百鬼夜行。行くもゴミ、退くもゴミ。こんな状況じゃ、取捨選択も、ままならない。



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最終更新:2018年03月14日 00:41