どうしてなんだよォ、わるいってのかよォ。
み、み、みんないってたじゃないかよォ。私に任せたんじゃないかよォ。
こ、こ、こんなことに、な、な、なるなんてってお前らがいうのかよォ。
私がやりたいとでも思ったのかよォ、やりたいわけがないだろうがよォ。
こんなに死なせてよォ、こんなに殺してよォ、こんなに殺させてよォ。
で、で、でも平和になったじゃないかよォ、このままいけばもう――――
やめろよォ、なんでだよォ、どうしてだよォ。
お前らそんなに、殺すのが好きなのかよォ。血を見るのが好きなのかよォ。死ぬのが好きなのかよォ。
なんだってんだよォ、どうしてなんだよォ。わるいってのかよォ。
――――私が悪かったって、いうのかよォ。
◆ ◆ ◆
酷く気怠い気分で、『私』は目覚めた。
四肢に力が入らない。喉は掠れ、眼は霞み、耳は遠く、鼻は潰れていた。
何かがあったのかが明白だ。だが何があったのかが思い出せない。
分からない、理解しがたい、把握できない。
ただ、酷く腹が減っていた。
体に空洞が出来ている。埋めることの出来ぬ空洞が。
私はそれを埋めなければいけない。埋めなければ私はこの空洞になってしまう。
幸いなことに手段は覚えていた。これだけは決して忘れない。忘れることはない。忘れるものか。
私は牙を伸ばした。噛み砕き、呑みこみ、空洞を埋める。『以前』もやったことだ。
牙を伸ばす、牙を伸ばす、牙を伸ばす、牙を伸ばす、牙を伸ばす、牙を伸ばす。
はて、『私』とはいったい何であったのだろうか?
分からない、理解しがたい、把握できない。
――――ただ、酷く腹が減っていた。
◆ ◆ ◆
女が居たはずだった。
愛していたわけでもない、恋い焦がれたわけでもない、むしろ殺し合うべきだった女が居たはずだった。
女が居たはずだった。
横にいたはずの、傍にいたはずの、背中にいたはずの、女が居たはずだった。
女が居たはずだった。
俺を王にした女が居たはずだった。俺を化物にした女が居たはずだった。俺を殺す女が居たはずだった。
女が居たはずだった。
この玉座の横に。この千の死の傍に。この歌声の先に。
――――女が、居たはずだった。
◆ ◆ ◆
それは理解しない。それは証明しない。それは想像しない。
人間のものを全て置いてきたがゆえに。人間を示す頭は消えて失せたが故に。
それは理解しない。それは証明しない。それは想像しない。
この風が荒ぶ意味を考えない。この屍海が腐る意味を考えない。考える頭は消えて失せているが故に。
それは理解しない。それは証明しない。それは想像しない。
■■に触れることを畏れない。■■を開くことを畏れない。畏れる頭は消えて失せたが故に。
それは理解しない。それは証明しない。それは想像しない。
それは人間のものを全て置いてきた故に、
――――人間を示す頭が、すでに消えて失せているがゆえに。
◆ ◆ ◆
剣を抜いた少女が未来に嘆くとき、契約が成立する。
これはここで閉じる特異点。どこにも行けぬ執着が収着する終着点。
全ては重力に引き寄せられ、ねじ曲がり、引き裂かれ、呑みこまれる。
周囲は断絶され、世界は孤立する。残されしは風の吹かぬ屍海のみ。
これはそんなあわれなさんびきの、ぶざまなおはなし。
ぶざまなしょうじょの、あわれなおはなし。
AD:1281―――国ヲ割ツ剣
最終更新:2018年03月17日 23:56