幕間インタールード②

「止めておいたほうがいい」

――――そう言ってダヴィンチちゃんさんが止めたのは、私が見つけた異常な特異点反応でした。

「魔神柱反応も聖杯の反応もないんだろ?」
「ただただ特異点反応が出ているだけというのならそこは『自然発生した特異点』だ・・・カルデアが手を出すべき案件じゃない」

と、よく分からないことを言います。
特異点反応が出ているのは事実なのですから、これは人理に関わる事なのではないでしょうか・・・?

「あー・・・そう考えるのも仕方がないか」
「いいかいマシュ。時代と場所が分かりやすいから気付いた案件だけど、そもそも『ここ』はアンタッチャブルだ」
「魔神柱だってこんなところに潜みはしないだろうよ、何せ変える意味の一切ない歴史だ」

元寇っていうのはね、といいながら先輩の入れてきたコーヒーを受け取るダヴィンチちゃんさん。
私にもミルクと砂糖をたっぷり入れたコーヒーを渡してくれます。まだ慣れない作業で疲れた頭に甘味がしみわたります――――

「弘安の役――――日本に攻めてきた元軍が神風で壊滅的な被害を受けて撤退し、日本も軍費により疲弊して内乱に向かった戦争」
「つまり『誰も何も得る物がない』戦争だったんだよ。介入してどちらかを優勢にしたところで全て御破算」
「神風の名の示す通り、それは日本の神代を終わらせるワイルドハントでもあったんだろうさ」
「綺麗さっぱりなくなる戦争に勝った負けたもあるもんか、関わったところで損しかないよ」

神風(ワイルドハント)で全てが滅び、死に絶えた戦役。
直そうが直すまいが日本の神代はあそこで終わり、全てが吹き飛び、消えてなくなる。
故にそこには勝利はなく、故にそこには全てがない。敗北しか存在しない場所――――

「そういう『どうにもならない場所』というものは割といくつか存在する」
「そこに向かうという因果を成立させた時点で敗北するという『結果』が決定してしまう場所」
「神荒ぶ屍海――――そんなところにレイシフトしてみろ、魔神柱であろうとカルデアであろうとただじゃあすまないさ」

だから近づくな。とダヴィンチちゃんさんは私と先輩に言い聞かせました。

「■■■――――うぬぼれるなよ?君は確かにスゴい人間だ」
「だが、それでも君は『普通』なんだ」
「魔力も才能も全て平凡、突出した才能など持たない英霊となるには程遠い人間だ」
「君が、カルデアがここまでやってこれたのは世界の後押しがあったからに他ならない」

「――――厳しい言い方ではあるけどね。でも、事実だ」
「君は凡人の域を超えることはない。そもそも私がいる限りその域は超えさせない」
「君が凡人を超えようとする、君が普通の領分を超えるなんて想像もしたくない」
「なぜなら凡人が普通を超えるというのは『人間じゃなくなる』ってことだからだ」

思い出すのはその結末。
それは、女神に立ち向かった銀の腕であったり。
超新星に立ちはだかった円い盾であったりする。

結末は『ただではすまない』の一点で一致している。
奇跡ですら抗えぬ結末こそが、神風(ワイルドハント)に立ち向かう代償だ。
それを超えるというのであれば、それは――――

「神風(ワイルドハント)に挑むのは人外(えいれい)に任せておきな・・・」
「私の眼が蒼い内は、君を普通の域から逸脱させることは決してない」

思い出すのは、一冊の本。英霊につづられただけの只の術式。
抗えぬ結末に抗った、
神風(ワイルドハント)を従えるために、
神風(ワイルドハント)に成り果てた、
一匹の、獣。

「君を、獣なんてさせるものか」
「人理継続保障機関フィニス・カルデアは人理の為の機関だ」
「神風(そんなもの)には絶対に、関わらない――――関わらせない。」

――――英霊になれぬモノが人でなくなるということは。『獣になる』ことに他ならないのだ。

ここに特異点は孤立した。
人理を救う機関より『動くに値せず』と切り捨てられた特異点。
人理を司る抑止力に『動くに値せず』と打ち捨てられた特異点
人は関わらず、人理の及ぶところもなく、顧みられることもない。

そこは敗北者の為の場所。執着するものが収着し、終着する為に争う特異点。
その名は孤立特異点――――八百万神霊戦役、壱岐島。

敗北するためのモノが集い、風により吹きすさぶ異界である――――


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『蛆虫のライダー』 八百万神霊戦役 壱岐島 降臨アナザーゴット

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最終更新:2018年03月22日 18:57