エピローグ「一以貫之」

「貴様があのライダーを倒したのか……?」
「皇帝さんという犠牲を出したけどな~~~~」
「……驚嘆に値する」
「そりゃどうもなんだぜ~~」
「しかし、どうやって……」
「決して消えない炎でバーンして、ドーンと爆発!」
「……そうか」
「そうだぜ~~~」

 フランスパンを齧りながらノーベルは語る。
 季武は殺気(軽め)を出しているにも関わらずその弁はいつも通りの軽さだ。

 あの後、綱の固有結界が無くなったのを確認し、藤丸たちは戻ってきた。
 その場に残っていたのはノーベル一人だけだった。

 状況確認。
 季武が周囲を見渡しても敵一人残っていなかった。

「えっと、あの城を本当に……」
「ああ、俺ちゃんの宝具で爆破したぜ~~~」
「あのキャスターは……?」
「……それは聞くまでもないだろうよ」
「そっちのアーチャーさんは話が早くて助かるんだぜ~~~」
「…………そうか、あの人は何か言ってたか?」
「いや、なんも」
「………そうか」

 いつものように振る舞う。
 あまりにもマイペースすぎて拍子抜けするほどに。

「それにしても、あの燃え盛る城の中でよく引火せずに脱出を出来ましたね」
「その『だいなまいと』に一度火が付けばこの島を吹き飛ばすと言ってましたが……」
「ん~~~ありゃ俺ちゃんのジョーク兼ハッタリだ」
「「!?」」

 ノーベルは腹に巻いていたダイナマイト外して、導火線に火をつけた。
 ポン……と、軽い爆発を起こした。
 それで終わりだ。

「で、脱出路はまあ一応は用意しといた。
 まっ、先入観は時に人を……って奴だな~~~
 俺ちゃんがかの有名人なアルフレッド=ノーベルで、宝具がダイナマイト。
 その威力は計り知れないと、ちょっと思ったんじゃないか?」
「それは確かに……」

 立花は納得してしまった。
 納得したら負けだと思ったが、納得してしまった。
 説得力がとんでもなかった。

 だが、しかし!

「……これは少し説教が必要ですかね?」
「巴ちゃん、まるで東洋の鬼のようだぜ~~~。
 あれだ、『研ぎ澄まされる肉体に鬼が宿る』みたいな~~~」
「鬼が宿るではなく、巴は鬼ですから」
「おや、怖いねぇ~~~」

 真面目な巴。
 適当なノーベル。
 ウマが合わないどころではない。
 一週半回って、とことん合わない。

⇒「ストップストップ!」

 止めに入る立花。
 寸でのところで止めることには成功した。

「サンキューな、危うくノーベ粒子になっちまうところだったぜ~~~」
「ノーベ粒子ってなんですか!?」
『…………全く、本当適当だね。キミは』
「まっ、俺ちゃんバーサーカーだからな。
 それに俺ちゃんとしては少~~~しは頑張ったしな、こんな時くらいは労ってくれねぇかな~~~」

 この態度にはちょっと琴線が触れた。

「マスター、どうします?」


「よしよし(褒める)」
⇒「よし、甘えるな(突き放す)」


「そっか、そりゃあ、ひでぇな~~~。
 まっ、俺ちゃん、別に褒めて伸びるタイプじゃないしな~~~。
 むしろ、逆境で伸びるタイプの天才だからね、別にいいんだけどね!」
「そうですか……では、沖田さん、このバーサーカーに説教をしましょう!」
「……はい?」
「いつまで『ふらんすぱん』を食べてるんですか!」
「おいしいから大丈夫ですよ?」

 かなり怒ってる。
 それはもうかなり怒ってるよ。
 ここまでキレなかったのがおかしいくらいには。

「ならば……ノーベルダッシュ!」
「!?」

「躍り出ろ、俺ちゃんを知らない者達の隙を突いて躍り出ろ!」
「遅い!?」
「そりゃ、俺ちゃんの敏捷Eだからだぜ~~?」

 走るフォームは運動できない人のソレ。
 さらに身体がボロボロなので超遅い。

 そんなんだからすぐに捕まるノーベル。
 ノーベルは二人にそれなりにぼっこぼこにされた。

 が、ノーベルは抵抗などしない。
 する気がないようにも立花にはみえた。
 さらにぼっこぼこにされた。
 その上で地面に埋められた。

 それを少し離れたところで立花と季武は眺めていた。

「あのう、お酒とか飲まないんですか?」
「生憎、俺は下戸だ……酒よりも茶の方がいい。
 それに酒にはあまりいい思い出がないんでな」
「そうですか」

 立花は大分慣れた。
 この男の距離感の掴み方がそれなりに。

「……それにしてもあっちのバーサーカーは掴みどころがないな、まるであの人のようだな……」
「あの人って?」
「……昔の知り合いだ、少しばかり縁が深い、な。
 ただあの人とあのバーサーカーの決定的な違いは……その若干、言いにくいが……その存在感だな……」
「ああ、だから最初に三人って言ったんですか?」
「……いや、俺と金時とあの人で三人だ、中でも金時が一番有名だろうよ」
「あのう、それだと綱さんが入ってないんですけど……」
「それは綱が別格だからだ……頼光の大将と並ぶくらいにはな。
 ……後世で頼光四天王になっているならばそういうことにしておけ……恐らくはかなりややこしい話(※)になっているようだからな」
「はぁ……」

 ※諸説あります。

「だが、なんだ。
 そのカルデアとやらには頼光の大将に金時。
 それに……酒呑童子と茨木童子がいるのに綱とあの人がいないなんてな……」
「まあ、そうですね」
「……頼光の大将と金時の二人はきっと応えてくれる。鬼の二人は……お前の人柄を見ればよくわかる」

 真っすぐに立花を見る。
 その視線は最初にあったときと変わらない。

 その見据える先には―――――。

「俺の眼の話をした時のお前の反応を見てたら大体分かった、それだけだ」
「……一体、どこまで見えるんですか?」
「千里先はよく見える、他人の弱い所もよく見える。
 過去や未来などは見えん。
 だが、俺が見たいものははっきりと見える……それで十分だ」


 心なしか彼が微笑んだようにも見えた。


 ◆  ◆  ◆



「で、マシュ、この辺りなんだよね」
『はい、聖杯の反応はその近くですね』

 さて、ここに彼女たちが戻ってきた理由だが……。
 そう、文字通りの聖杯探索である。

 まっさらな城跡にあるのは先程埋められたノーベルだけ。
 だが、まだここには聖杯がある。

「………聖杯なら、そこに埋まってる奴が持っているだろう?」
「え?」
「は?」
『なんだって?』
『えっと、季武さん、貴方は何を言っているんですか?』
「ん? 気づいていなかったのか?」
「いやぁ……俺ちゃんだって決して何もしてなかったわけではないんだぜ?
 それと自力じゃ出れねぇ……流石の俺ちゃんでも詰みそうだ……
 そうか、この聖杯を使ってここから出ろってことか!」
「やめてください」

 仕方なく、立花たちはノーベルを掘り起こした。

「……貴様、意外に抜け目がないな」
「まっ、『生き馬の目を抜く』って奴だ。
 はいよ、んじゃこれ、俺ちゃんを掘り起こしてくれたお礼の聖杯な」


⇒(もうなんか考えたらダメな気がしてきた)


 こうして、立花たちは無事に聖杯を回収したのであった……。

「終わり良ければ総て良し」
「季武さん、聖杯が欲しくないんですか?」
「……俺には不要だ」
「俺ちゃんもいらねぇわ」

 立花が思い返せば色々あった。
 キャスターが記憶喪失だったり……
 ランサーがアホの子だったり……
 バーサーカーが狂化EXクラスの奴だったり……
 いきなりアサシンに捕まったり……
 アーチャーがいつでも殺気を出してたり……
 ライダーがバスタオル一枚でロバに乗ってたり……
 名前を言っちゃいけない人がロボになって出てきたり……
 城からヒモ無しバンジージャンプをさせられたり……

(アレ、あたし……何かしたかな……?)

 そんなことを考えながらも立花たちはカルデアに帰ったのであった。

「そういえば、マスター」
「なんですか、沖田さん?」
「特異点だとおかしなことも起こるんですかね?」
「いきなり何ですか?」
「さきほど私の宝具を使ったんですが、ほぼ私と無関係な人が出てきましてね……」
「それは所謂「ばぐ」というものではないでしょうか?
 原因は恐らく開発ちーむのでばっく不足……」
「だから、巴さんゲームのやりすぎだって……」

 何の他愛も会話そんな声だけを残して帰った。



―――AD.1589 絶海孤島領土 佐渡島

         定礎復元








 月下。
 まだその二人はその島にいた。

「茶でも一杯」
「いんや、俺ちゃんはコーヒー派」
「そうか」

 季武は矢を射る。
 その先にはダイナマイトが取り付けられている。

 遠くの方で一隻の船が沈んだ。

 「ノブー……」という小さな断末魔が聞こえたような気がした。

「皇帝さんもあのキャスターも必死に戦って散った。
 で、その上で俺ちゃんとアンタが生き残り、藤丸たちは無事に帰った。
 これ以上に何か腑に落ちないことでもあるか?」

「……いやない」

 今、後始末も終わった。
 この島はほぼ全て元に戻った。
 彼ら二人がいることを除いては。

「善人は救われて、悪人は裁かれる……」
「生憎、俺ちゃんはそんなもん関係なくぶっ飛ばしてきたぜ?」
「……時代は進むからな、俺の掲げた理想など些細なものだ。
 俺が視える範囲で叶えばいい。俺が救えないと思えば見捨てる。
 だから、俺の手が届く範囲は全力で救う。それだけだ」
「そいつは大層な志だぜ」
「……俺が出来るのは戦って、全てを射ることだけだからな。
 聖杯なんて持ってしまったら……全てを救いたいと願ってしまいそうだ。
 そんなことは到底無理だからな……諦めた。だから、俺は聖杯はいらない」

「じゃあ、なんでここに召喚された?」

「あのアサシン……滝夜叉姫を止めるためなら、俺はどこにでも行って奴を殺す」

「ほう、訳ありのようだが、深入りはしないぜ~~
 コレ(女)絡み話題は俺ちゃんもノーセンキューだぜ」

「………………そうか」

 それが最後の会話であった。
 闇に沈むように、季武は静かに消えた。
 その行先は、ここから未来か、過去か……それとも……。

 だが、行先など分からなくてもいい。
 自分のすべきことは変わらない。

 『自分を貫き、奴を撃ち抜く』。

 ただ、それだけなのだから…………





「俺ちゃんは今度はどっかの南の島に行って、バカンスしてぇな~~~~」



 そして、ノーベルも消えた。


 こうして、佐渡島はまた日本の戦国の日々の中に戻る。

 この日本の行先は決まるのはあとほんの少しだけの未来の話だ。


 ともあれ、この特異点は修復された。



 なお、ノーベルが言ったその『南の島』……その島の名は。



























 To Be Continued……………?


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最終更新:2018年07月13日 21:06