一撃至上主義。

 どこまでも続く高く澄んだ青い空だった。

 雲は風に流れ、鳥は高く飛ぶ。

 平和な時が静かに進む。 

「……いたのか?」
「いいお天気ね」
「……そうだな」

 二人きりの場所の平穏。

 語らうでもない。

 ただ寄り添い合うだけ。 

 馴れ合わない。

 戯れない。

 だが、それだけでいい。

「また行くの?」
「……ああ」
「ちゃんと帰ってこれる……?」
「わからない、と言えばお前は心配するのであろう。
 今回は少しばかり厄介事かもしれない」
「…………」
「だが、約束する。必ずお前のもとに『戻ってくる』」


「そう…………いってらっしゃい、季武」
「ああ…………行ってくる」


 ◆  ◆  ◆


「…………マスターか」
「貴方が食堂にいるなんて珍しいですね」
「…………そうだな」

 大変、珍しい光景だった。
 食堂の片隅でまるで他人との接触を避けるように一人座っている。
 大弓と太刀を傍らに、何かを警戒しているだろうか。
 細々と食事を進めている。 

「………それにしても何故俺のそばに誰も寄ってこないんだ?」
「いや、その……さっきからその殺気がだだ漏れだからでは?」
「…………そうか、なら、仕方ないな」
「はぁ……」
「…………」

 片手で握り飯を食べる男。
 必要最低限な量。
 必要最低限な言葉数。
 たまに鋭い眼差しで睨むようにこちらをちらりと見る。
 ついでに愛想もあまりよろしくない。 

「召喚されてからほとんど姿を見せないから心配してましたよ」
「それは……すまんな。マスターとの縁も大事ではあるが……俺にはすべきことがあるのでな。
 悪いとは思っているが、ここには頼光の大将に綱、それに金時だっている。
 それに加えて俺以上弓の使い手も多くいる……俺一人程度がいなくてもいいだろう?」
「季武さん……それは違う」
「…………そうか、すまんな。
 …………気を悪くしたのならば俺は席を外させてもらうが?」
「待って、ゆっくりしてていいです」
「…………そうか、ならそうさせていただく」

 立ち上がろうとするアーチャー・『卜部季武』を制止させる。

「それにしてもご飯の時間まで削ってすべきことって……もしかしなくてもあの滝夜s……」
「言うな」

 また一段と殺気が濃くなった。
 名前を出そうとしただけでコレなのだから。

「……今は頼光の大将と綱が『奴』を見張っている。
 …………何かあれば俺もすぐに向かう手筈になっている」
「その二人でいるなら多分、大丈夫だと思いますが……」
「…………そうか、それで済むならばいい」

 間違いなくペンデレシア系男子だ。
 バーサーカーでない分、キレてるときにも理性がある。
 力任せではなく搦め手をも混ぜてくる。
 情け容赦なく弱点を狙ってくる。
 そういった感じだ。

「……しかし、この握り飯はいい米を使っている」
「そのお米は藤太さんが出したお米ですから」
「…………あの人が、か……納得した」

 ここの握り飯がよほど気に入ったのだろうか。
 かなり速いペースで食べ進めている。


「くははは、どこかで見た辛気臭い顔と思えば貴様、頼光四天王の一人の………!」
「……貴様、茨木童子か……生憎、貴様の相手は俺ではないであろう」
「今ここに綱がいない以上、吾が怖れるものなど怒った酒呑しかおらん!」
「……そうか、それはよかったな」

 近くに寄ってきた茨木童子。
 それをまるで近所の騒がしい子供を睨むような眼つきで見る。
 ある意味、通常運転だ。

「そ、そういう貴様はここに菓子を食べに来たのであろう?」
「……何故そうなる?」
「くははは! ここに来る理由などそれしかないからだ!」
 尤もこれらは貴様にはやらんがな!!」
「………………別に最初からいらんがな」
「なっ!?」
「? 何をそこまで驚いている? 俺はここで握り飯の一つでも食えれば重畳だ」

 そして、また一口握り飯を齧る。
 まるで茨木童子に一切興味がないようにも見えた。
 綱がいたらいたで面倒だったが、これはこれで何となく寂しい。
 茨木童子を完全に軽くあしらっている。

「……俺は綱ほど鬼に興味や恨みがあるわけではない」
「はぁ……」
「そうはいかぬ!! なんだその汝の冷めた態度は!? 
 生前はもっとガンガン攻めてきたではないか!?」
「そうなの?」
「……そこまで攻めはしない、俺は戦いから逃げていく鬼の背を撃ち抜いていただけだ。
 ……俺に与えられていたただの仕事だ。
 それと、だ。茨木童子、今、ここで問題を起こすな……。
 ……静かに、穏やかに飯くらい食わせてくれ…………わかってほしい」

「「………………」」

(ますたぁ……)
(何? その情けない声は?)
(初めて声を掛けてはみたが、この男がここまで冷めた人間だと思わなかったぞ……)
(初めて!? 嘘でしょ!?)
(だって、綱やら金時と一緒にいるから大体似た感じかと……思わないか?)
(わかる……が、これが季武さんなんだろうね)
(ほうほう、この男、季武というのか……)
(そこまで!?)

「……もういいか、俺は握り飯のおかわりを貰いに行きたいんだが?」
(さっきから食ってばっかだな、この人……)

 そそくさと運ばれてきた新しい握り飯を食べる。
 静かに、自分勝手に、自由に食を進めていく、

「ちょっと、アンタ!」
「……今度はなんだ、茨木童子?」
「ねぇ、誰と間違えてんのよ? それと茨木童子ならどっか行ったわよ?」
「…………すまん、耳は人並み程度に良いつもりがあったが、
 ……この旨い飯に夢中でアンタの姿を見てなかった。
 ………で、アンタは誰で何の用だ?」
「…………鈴鹿御前」

 季武の手がピタッと止まる。
 彼の席の前にはJK風の少女―――鈴鹿御前がいた。
 それも季武に思いっきりガンを飛ばしていた。

「その刀……どうして、それをアンタが持ってるのよ?」
「この太刀か? ……元々、俺の所持物だから持っている、それだけだ」
「元々……? ハァ? アンタ、何言ってんの?」
「……弓兵である俺がこの太刀を持っていることに何か不満でもあるのか、貴様は?」

 何かいつもと違う緊張感が漂う。
 季武がここにいることがまずそうだが。
 鈴鹿がこのような態度をとっていることが。

「ストップストップ!!?」
「……ストップ? 俺は『まだ』何もしてないが?」
「『まだ』……? ふーん、アンタ何かするつもりだったわけ?」
「それは……貴様次第だ」

 そんな時であった。
 管制室から立花に緊急連絡が入った。


 ◆  ◆  ◆


「これは妙な組み合わせだね、藤丸君」
「まぁ、成り行きで……」

 天才ダヴィンチちゃんも驚く組み合わせだった。
 立花と鈴鹿御前、そして、卜部季武。

「すいません、貞光さん……」
「何がだ? 俺はそいつが『その太刀がアンタに相応しいか見たい』と言われたから、証明しに来ただけだ。
 そして、その機会がすぐに来た。寧ろ俺がわがままで来たのだから……マスターであるお前が謝る必要性など何一つないが?」
「あっ、はい……」
「アンタ、性格悪いわね」
「……好きに言ってろ、俺はこういう性格だからな。
 ……ダヴィンチ、それでここに呼び出した理由は聖杯の回収作業であろう?」
「話が早くて助かるよ!」

 そんなわけで『いつものようにレイシフト』した。
 場所は日本。
 時代は平安時代。
 平安時代と言っても、鈴鹿御前の時代の後くらい。
 頼光四天王が活躍した時代の少し前くらいの時だ。

 ……………

 ……

 …


「いやぁ、君らだけじゃ正直、心配だからね」


 !?


⇒「あなたは……!」
「碓井さん!!」


「というわけで、『偶々』管制室にいた僕もついて来たよ」
「マスター、誰この胡散臭いお兄さんは?」
「碓井さんです」
「いや、もっと的確な説明ないわけ?」
「ま、僕の説明はそれで十分だと思うよ」

 柔和な表情と軽やか口調で颯爽と登場した男。
 大鎌と薙刀を背に、妙に消えそうな存在感を放つ男。
 布哇のアサシン・碓井貞光である。

「本来なら頼光さんか綱、もしくは金太郎君辺りが出張るべきだと思うけどね」
「……貞光、お前と会うのも久しいな。
 …………もう二度とないとは思っていたがな」
「まあ、これも何かの縁だよね、うんうん!」
「……そうだな」

 心なしか季武の殺気がないように感じた。
 旧友がいるからか、はたまた天敵がいないからか。
 おそらく両方であろう。

「話は聞いてたし、こんだけ戦力が揃っていて立花ちゃんもいるし大丈夫だと思うよ!」
(良かった……正直、あのままだったらこの場の空気が最悪だったから……)

 立花としてはあのままだったらこの空気を壊せなかった。
 一先ず、気まずい空気のまま進むことはなさそうだ。

 とりあえず、進んでいく。
 道中、軽い会話をしていく。
 ただ、季武は少し離れた前を一人で歩いている。

「碓井さん、季武さんって前から人付き合い悪いの?」
「そうだね、悪くはないけども……季武は昔っから姫松ちゃん一筋だったからね」

「姫松さんって……」
⇒「どんな人なんですか?」

「美人で芯が強くて、そして、何よりも季武がこの世の誰よりも愛してる女性(ヒト)だね」
「うっせーぞ、貞光……」
「おや、聞こえてたかい?
 まあ、人の惚気話だからね、僕から喋っても面白さは半分以下くらいだよね」
「俺の過去話など、あまりにも普通でありきたりの話だ。
 それよりも貞光の金時の母親殺しの話の方が大分……」
「おっと、それは……そのうち……今は僕の話をすべきではないと思うよ。
 そういえば、なんで僕だけ苗字呼びなんだい?」
「呼びやすいからです」
「なるほど」

 傷ついた様子もない。
 いつも通りに振る舞う。

「意外ね、アイツ、他人に何も興味も持たないと思ってた」
「そうかい? 人間、誰しも自分とは違うものや離れたものに少なからず興味が湧くものだよ。
 『英雄、色を好む』と言ったところかな? ま、彼の場合はそれが一人に集中してるんだけどね」
「……止まれ」
「おや、また……ではないな」

 止まった先にいたのは―――一体の鬼。
 それも身の丈10m近くの筋骨隆々とした。

「アイツは悪路の高丸……!」
「ほう、アレが、かの有名な悪路王か……」
「ゲェーッ!? 鈴鹿~~~!? なんでここに!?」
「アンタが聖杯持ってるらしいじゃん? だから回収しに来たのよ。
 つか、なんでアンタが生き返ったのよ!?」
「せ、聖杯で……とりあえず、逃げる」

 地面から小鬼が沸いてきた。
 それも大量に。

 そして、それを盾に悪路の高丸は逃げていく。
 図体のわりにそれなりに早い逃げ足だ。

「逃げる鬼よ、撃たないの?」
「お前は俺の剣の腕をみたいのではなかったのか?
 ならば、弓矢で後ろから射抜くなど無粋だろうさ……それに今、俺は弓矢を一本も持っていない」
「アンタ、アーチャーじゃないの!?」
「……アーチャーだが?」

 ばっさばっさと斬っていく。
 だが、文字通りにキリがない。
 鈴鹿達が99体以上斬ってもまだ湧いてくる。

「マスターを守るのと雑魚散しは僕がやっておくから、君らは君らで決着を付けなさいよ」
「そうか……なら、頼んだ」
「ああ、頼まれたよ」

 季武が口笛を鳴らす。
 すると、空から駆け抜けてくる馬が現れた。
 その馬は美しい栗毛色の馬体。
 そして、走ることに特化した最速の機能美。

「……俺の愛馬だ」
「アンタ、ライダーだっけ?」
「騎乗スキルは持っている……この馬に関しては……俺と共に……」
「駆け抜けたって?」
「いや、一緒に『大逃げ』をぶちかましてやった」
「!?」
「……帰りたい場所があった、それだけだ。
 自分で走るよりも馬に乗って走った方が速いだろ?」
「確かに」

 あまりにも普通の答えに悔しいが納得してしまった。

「……乗れ」
「何?」
「追う、そして、悪路王を確実に仕留め、聖杯を回収する。
 それにお前くらいの斤量を背負ってもこいつには何も問題ない」 
「斤量って何よ?」
「ヒヒ~ン(……いやいや、旦那と51kgの女性は普通にキツイんだけどな)」
「行けるな?」
「ヒヒ~ン(無理無理)」
「……行けるな?」
「ヒヒ~ン(僕は京極の旦那じゃないんだから)」
「……仕方ない、貞光、ちょっと預かっててくれ」

 そういうと季武は背中に背負った大弓を貞光に向かって投げた。
 それを背面ながらも見事にキャッチする貞光、
 二人の間に言葉はいらない。

「…………これで行けるな?」
「ヒヒ~ン(はい)」
「……よし」
「ええーっ……」
「見失いはしないが、さっさと乗れ」

 二人を乗せて駆け出す馬。
 その馬に名前などはない。

 それを見送る立花。

 そして、片手で大鎌と薙刀を連結した武器。反対の手で大弓。
 それらを軽々と振り回して小鬼を倒していく貞光。

「重くないんですか?」
「こう見えて鍛えてるからね、相撲で」
「相撲パワーにはまいりましたわ……。
 そういえば碓井さんの守れる範囲ってどれくらい?」
「大体、僕の手と薙刀が届く範囲だけども……安心していい」

 ゆらりと敵の間をすり抜けるように進み……

「指の一本だろうと、爪の一枚だろうと、ましてや髪の毛の一本だろうとマスターには触れさせないよ」 

 瞬時に凍らせ、粉微塵に粉砕する。

「武士に二言はないよ、僕だって彼だって尽くせる義は尽くすまでさ」

 にっこり笑って、鬼を斬る。
 頼りがいがあると同時に怖い。

「……氷、全滅……うっ、頭が……」
「マスター、顔色が優れていないみたいだけどどうしたんだい?」

 そこから一方的だった。
 数の差など関係ない。
 長尺すぎる武器を使っているにも関わらず一切の隙がない。

 貞光が敵を全滅させるのに三分もいらなかった。

「ところで、季武の眼のことを知っているかい?」
「弱い所が視える眼というのは聞きました……」
「それもあるけどね
 彼、眼に見えるもの全てを無意識に脳内で計算してどこが弱いか分かってしまうんだよ」

⇒「脳内で……?」
「無意識に……?」

「そう、常人だったら脳が一瞬で壊れるだろうね。
 目から得られる情報量ってのは思っている以上に大きいからね」
「…………それって…………」
「季武は頭が良いんだよ。
 それこそカルデアにあるコンピュータだっけ? そんなものみたいに瞬時に計算してしまう。
 ……眼に映るもの全てを、ね……あの殺気みたいなのはその情報処理の余波みたいなものだよ」
「!? マジですか!?」
「まあ、当人は多分気付いていないだろうけどもね。
 やろうと思えば未来予知みたいなこともできるんじゃないかな、彼」
「じゃあ殺気が出ていない時は?」
「何も考えずに集中してる時だろうね、それこそ滝夜叉姫を討つ時くらいには。
 まあ、今はいないし……それに……」
「それに……?」
「おっと、ここでは言わないよ」
「なんで!?」
「んーなんとなくかな」

 かなり曖昧な答え。
 だが、それでもそのうち答えてくれるだろうと思う立花であった。

「まあ、季武は頼光四天王一の頭脳派だよ、ちゃんと考えてるから大丈夫だよ」
「頭脳派ってそうなんですか?」
「うん、戦うこと大好きな戦闘民族の綱や脳みそまで筋肉の金太郎君。
 ……で、ただ聞こえてくる声に従ってるだけの僕……ほらね」
「ただの消去法じゃないですか!?」
「うん、ただの消去法だね」



 ◆  ◆  ◆


 二人を背に乗せて走る。
 風のように。
 はたまた光のように。

 騎乗スキルで並以上の脚力で跳ぶように走る馬。


「最初から言うべきだったが……」
「何よ」
「……悪いが、俺はアンタのこと……どうやら苦手のようだ」
「気が合う、私もアンタのことが苦手、だって、アンタは……」
「……そんなに俺が『坂上田村麻呂』に似ているか?」
「!? なんでわかったの!?」
「お前の態度等を見ていれば瞭然だ。
 食堂で俺に最初に突っかかって名を名乗った時からずっと分かっていた。
 ……なんせ『鈴鹿御前』と言えば『坂上田村麻呂と共に多くの鬼を退治した第四天魔王の愛娘』だからな。
 それくらいは知っている」
「なっ!? 詳しすぎでしょ、アンタ!?」
「……俺の偉大な先祖の名と伝承くらい知っていて当然だ。
 この太刀の最初の持ち主らしいからな。
 ……嫉妬すら追いつかない、憧れすら届かない……遠い存在だ」
「……………」
「だが、一つ言っておく…………」

 彼らの眼前には悪事王がいた。
 追いついた。

「……俺の名は『卜部季武』だ。『坂上田村麻呂』ではない」

 季武は馬から飛び降りる。
 そして己の足で肉体を限界まで加速させる。
 疾風の如き、速度で駆ける。
 世界すら止まっている。

 決して、華やかとは言えない。
 ましてや、人の技には見えない。
 誰よりも早く駆け抜ける。
 その鋭い眼光は、悪路王を常に捉えている。

 間合いを一気に詰める。
 放たれる攻撃を躱す。
 巨大な棍棒を一刀の下で穿つ。

 そして、粉々に砕け散った。

「貴様、今一体何をしたァッ!?」
「俺の剣術など……綱や頼光の大将に比べれば塵芥みたいなものだ。
 …………だがな、貴様を殺すにはその程度あれば十分だ。

 なんせ……『弱点を貫くだけの剣』だからな」

 鮮やかさなどない。
 その剣筋は剣士とは程遠い。

「――――生きている以上は誰にだって弱い所はある。
 人だろうと、鬼だろうと、怪異だろうと……」

 己がギリギリまで出せる速度。
 肉体が研ぎ澄まされた一矢になる。

「俺はそこを見抜き、貫く……それだけだ」 

 一撃。
 その重さは坂田金時や渡辺綱らに比べれば遙かに『軽い』。
 だが、それを補えるだけの『眼』はある。

 『弱点』を突く。
 ただそれだけの行為を防ぐことをさせない。

 無駄を極限まで削ぎ落す。
 だが、決して零に至らない剣。
 ただ、目の前の『モノ』を刈り取る剣。

 『必殺』に至るにはそれで十分だ。


「――――取ったぞ、悪路王……!」



 戦場を一矢が突き抜けた。 



「二射目は――――いらんだろうよ」




 ◆  ◆  ◆



「いやぁ、今回は大活躍だったね。どうだい今日くらいは一杯くらい?」
「…………酒なら呑まないぞ、茶なら別にいいが」
「大丈夫、ちゃんとした茶だよ」

 食堂の奥の席から声がする。
 割と楽しそうな声が一つ。
 そうでもなさそうなのがもう一つ。

「いつからお前は鈴鹿御前と俺の関係に気付いていた?」
「実をいうと最初の方からかな」
「そうか……では、管制室にいたのも……」
「それは本当に『偶々』だよ。
 そういう『声が聞こえた』だけだから、そこに居ただけだよ」
「……そうか」

 片手で握り飯をまた頬張る。
 その傍らにはあの太刀がある。
 そして、彼らは彼らのいつも通りの些細な日常会話を続ける。

「で、前々から聴きそびれててけども、ここ(カルデア)の居心地はどうだい?」
「……悪くはない……『奴』がいること以外はな」
「うん、君ならそう言うと思ったよ。
 けど、『彼女』はそうだな……君がいるからここにいるんだと思うよ?」
「…………そうか」
「おおっと、悪い意味でじゃないよ?」
「…………そうなのか?」
「繋がれた縁ってのはそう易々と簡単には切れないものだよ。
 ……それが例え『因縁』だろうと、ね」
「そうか」

 茶をすする。
 こんな時間を過ごすことももうそんなにはないだろう。
 ただ、友と静かに語らうのも偶には…… 



「うおい、この『うおっか』だったか『ぎむれっと』だったかは中々にいい酒だぞ! ヒック……」
「綱、酒呑み過ぎだ、脚フラフラじゃねぇか!! つか、そんな強い酒ストレートで呑んでじゃねぇ!!」
「酔ってねぇ、酔うんなら俺の強さに心酔しなァ! ヒック……。
 ……からの~~~ドーン!!!」
「ッ、何しやがる!?」
「これでも俺の拳がこの程度の酒に酔った奴の拳だと? ヒック……」
「十分酔ってるじゃねぇか! ……つか、綱、ガチでここで俺とタイマン張ろうってのか?」
「ああァッ? いいぜ、久々にやろうじゃねぇか、金時ィ?」


 何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 拳と拳が飛び交う。
 だが、当事者二人は不思議と楽しそうだ。
 …………だが、周りの被害はそれなりに大きい。
 早く止めない中々に危ない。

「……おい、貞光」
「どうしたんだい?」
「今ここに二人がいるということは……」
「大丈夫、座りなよ」
「だが……!」
「なんだか、鈴鹿ちゃんが此間の借りを返したいんだってさ」
「…………そうか。ならばいい」

 やれやれと二人で溜息を吐く。


「まあ。とりあえず、だ……」
「ああ、せーの…………」



「「喧嘩は外でやれ(やりなさい)!!!!!」」


 二人でその喧嘩に突っ込む。
 彼らの宴はまだまだ終わりそうになさそうだ。


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最終更新:2018年12月16日 03:20