「ドバイ……?」
「はい、ドバイです」
その国の名前を聞いてもピンとは来なかった。
そこが特異点になっていることを知ったが、なんとも言えなかった。
何しろ、知名度の割に何があるかよく知らないのだから。
なんでそんなところに聖杯があるのかもちょっとよくわからない。
「西アジアでしかも2015年?」
「うん、小さな特異点だけどもサーヴァントの一人くらいいれば聖杯は回収は出来そうだね」
「そんな軽いノリでいいの!?」
「今の君だから言ってるのさ」
「先輩、私がサポートしますので」
何か乗せられている気がする。
だが、そうも言っていられない。
立花は早速連れていくサーヴァントを探しに行った。
「あら、マスター、丁度いい所にいたわね」
⇒「よっ、さっちん!」
「滝夜叉姫さん、どうしたの?」
立花の前にいたのは一人のアサシン。
いや、アサシンクラスと言った方が適切。
佐渡島にいたアサシン・滝夜叉姫である。
「……少し匿ってほしいというかどこか遠くに行きたい」
長い黒髪に赤い着物。
腰には二振りの日本刀。
整った顔立ちと立ち姿から気品を感じる。
……性格以外は完璧な大和撫子である。
そう、性格以外は。
「……まーた何かやらかしたの?」
「やらかしたんじゃなくて、アタシは自分の本能に従って動いてるだけよ。
そこのところは勘違いしないでね、まああのアホをちょっとからかってたくらいよ」
「で、今度はなにしたの?」
「ちょっと奴が食べようとしたおにぎりのなかに大量のスパムを入れただけ。
大体米とスパムの割合が1:10……いや、1:15くらいになる程度混ぜただけよ」
「それほとんどスパムじゃ……」
「で、アイツ、文句言わずに茶で流し込んだと思ったら……
『……この握り飯を作ったのは誰だ?』って感じでいつもの不愛想な面で厨房に来たのよね。
多分だけどすごく怒ってたからアラフィフ髭ダンディのせいにして逃げてきた」
「そのあとどうなったの?」
「今に至る」
これである。
このような地味なドッキリ的な悪戯をひたすらに繰り返す日々。
一線を超えないどころかほんとに地味に嫌なことばかりする。
佐渡島にいた時はえらい違いだ。
カルデアに来た当初からは考えられないくらい丸くはなった。
時折、明らかに何にかを企んでいる顔をするが大体阻止される。
本当、ここまで紆余曲折あった。
そう、あったのだ。
その結果、最初は絆0だったが、今では5くらいになったのだ。
⇒「本当、さっちん性格悪いよねー」
「まあね。
けど、超えちゃいけないところは分かっている。
というか、ノッブちゃんからカルデアでの過ごし方は色々聞いた。
まあ適度に刺激がないと退屈だしね……それよりもどうなの?」
よくわからないところによくわからん奴をぶつけるに限る。
恐らくは女ナポレオンやノーベルさんレベルのわけわからん奴がいそう。
そう、藤丸立花の勘がそう告げていた。
見ろ、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた歴戦のマスターだ。
顔つきが違う。
「とやくかく言ってられないね」
「緊急事態?」
「それなりに」
「それなりかーまあいいわ、急ぐわよ」
そんな緩い感じで彼女たちはドバイにレイシフトしたのであった。
……………………
…………
……
「熱っ! 砂っ! ……何よ、ここ!?」
「ドバイですよ、ドバイ」
「ちょっと何言ってるか分からないわね……」
レイシフト先は砂漠の真っ只中。
太陽のお膝元。
気温は40℃を軽く超す程度の炎天下。
とどのつまり、クソがつくほどに暑い。
「カルデアとの連絡が付かない……またか……」
そいて、案の上だった。
だが、立花は冷静さを失わない。
だって、何度かあったのだから。
しかし、一方の滝夜叉姫は……結構キレていた。
「全然違うじゃん!! 『現代のドバイは観光地だから整ってるからいつもの格好で大丈夫』って!!
この砂漠は何!? アタシが付いて来たからなの!?」
「特異点というのはそれなりに厳しい場所で……当然の結果です」
「もういいよ! アタシ、アサシン辞める!!」
「!?」
すると本当にアサシンではなくなった。
霊基が変化していく。
そのクラスは――――アヴェンジャー。
それに伴い服装が変わった。
「装い的にはこれが最適ね」
「水着サーヴァント的な?」
「ここ暑いからね」
「暑くて霊基変わるってそんなんでいいの!?」
比較的薄着。
動きやすそうというのが藤丸の印象。
「あら、マスターの頭の中はお花畑か何か出来てるのかしらね?」
(うわぁ、いきなり絆0になった!)
まるで召喚した直後の辛辣な反応。
そう思いつつも、とりあえず前に進んでいく。
前に進む、今はそれしか出来ないのだから。
「いや、なんで?」
「『なんで』と言われても?」
「ふーん、前に心を失った者の大群がいても前に進むのね」
「!? うわぁ鎖の群だ!」
「どうするやる? やっちゃっていい?」
二振りに内の一刀を抜く。
「アイツらがいないし、ちょっと退屈かと思ったけども……
……全く退屈しなそうで済みそうだわ!」
滝夜叉姫は口角を吊り上げて笑う。
その眼は闘争心が滾っている。
「アタシの退屈を埋めるのは『刺激』しかないのよね。
例えば『盗みのような盗賊行為』も『人に対しての悪事』も……
『強い奴の戦い』も平和に日々を無駄に過ごすよりも全然マシなのよね」
(…………じ、人格破綻者だ)
「今『壊れてる』とか思ったでしょ?
言っておくけど、アタシは『あの日』からずっと壊れてるのよ。
それはその『英霊』だっけ? そんなのになってもあんまり変わらないわよ。
アタシは壊したいから壊して、奪いたいから奪って、戦いから戦うだけよ。
……けど、アイツとそのお仲間の三人とその上司とあの米俵の奴だけは勘弁ね」
その刀はかつて彼女の『父親』が振るっていたもの。
女性が振るうには少々武骨なシロモノ。
しかし、それを振るう。
迷いなど一切合切ない。
何やら黒い炎のようなオーラが纏ってるように視える。
恐らくは巌窟王が出してるのと同じ原理だと思われる。
華麗にして流麗。
まるで舞踊でもいるかのような。
まるで遊んでいるのかのような。
そんな剣裁きであった。
だが……
「数がちょっと多いわね……」
「厳しいの?」
「生憎、アタシは乱戦よりも一対一の方が好みなのよね。
具体的に乱戦で疲弊した奴を叩きのめすのが好き」
滝夜叉姫の戦い方は確かに綺麗である。
一体ずつを確実に仕留める。
丁寧であるが、乱戦には確かに不向きだ。
「そのもう一本は使わないの?」
「……本気で厳しくなれば使うけど……その域にはまだ達していない。
というか使いたくないってのが本当のところ、アイツの刀だし」
「あの金色のロボは?」
「生憎、今の『霊基じゃ使えない』」
「ああ……」
あの金色のロボで一気に焼き払えばいい。
その方が遙かに楽であろう。
「言っておくけど、アタシは悪人よ。
悪人ってのは自分か自分よりも強い奴にしか従わないの道理。
『宝具を解放しろ』と言うならしてもいいけど……今使うとどうなるかわからないわね。
言っておくけど、これは忠告ではなく警告よ」
立花は直感する。
今、彼女の精神は明らかに不安定だ。
アサシンの方がまだマシなくらいだ。
そして、この戦い何か長引いたら危険な気がする。
これはマスターとしての勘である。
そんな時であった。
「おう、ライダー。アレはお前の国でいう例のサムライってのか!」
「違うな、というよりも俺様の時代には侍も忍者もましてや武士もいねぇよ!」
「マジでか!?」
「誰だ!?」
声の方向には何かいた。
一人は褐色の肌にどっかで見た大型の槍を持った男。
もう一人……もう一匹と言った方が正しい。
馬である。
そう、馬である。
銀や銅の多くの装飾品に7つだけ光る金の装飾品を付けた馬。
その馬は軍馬というには少々貧相。
否、軍馬ではない。
走ることに特化したサラブレット。
「オレも風の向くのまま、気の向くまま、自由に戦うだけさ!
悪人? ハッ、関係ねぇな! 今は一人でも戦力が欲しい!!」
『王』とはどこまでも欲望に忠実なものだ!!
それが『大王』となりゃその欲望はどこまでも突き抜けるってもんだぜ!!」
その馬の手綱を握り、声高々に宣言する男。
「んじゃあ一丁、駆け抜けるやるか?」
「おう、行くぜ、『雷神』!!!!!!」
「さっきからうっせぇ! それと俺様の上でいちいち騒ぐな! オーサマ!!」
「おっ、わりーわりー」
雷光一閃。
大型の槍が纏った雷撃が戦場を駆け抜ける。
人馬一体。
どんどん蹴散らしていく。
一直線に走っている……とは言えない。
その馬、微妙に斜行している。
そして、対軍宝具のように全てを薙ぎ払っていった。
「なんなんだ、この人ら……」
………………………
……………
……
「オレかい? オレはルーラーのキングカメハメハだ」
「カメハメハ? あのちんちくりんの大王の親か何か?」
「いや、多分カメちゃんと同一存在じゃない?」
「オレ以外にハワイのカメハメハ大王がいるってか!!」
確かにカメハメハと同じ巨大な槍を持っている。
しかし、ランサーではなくルーラーを自称している。
雰囲気がどことなく近い。
だが、男だ。
それはまだいい。
問題は……馬の方。
「嬢ちゃんは俺様をご存知ないのか?」
「喋る馬は二匹目ね……で、お名前は?」
「俺様はライダーの『黄金旅程』様だ。とりあえず、人参持ってこい!!」
「!?」
近くで見ても分かる程度には比較的、小柄な馬体。
非常に気性の荒らそうで……妙に偉そう。
しかし、どことなくであるが……
『愛さずにいられない』
そんな雰囲気を持ったお馬さんであった。
最終更新:2019年12月29日 00:41